【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「覚悟も無いのに」





「お待たせしました」 

 亮也の料理と飲み物を持ってきたのは、優奈ちゃんだった。
 オレのカフェオレも、一緒に持ってきて、置いていった。


「お、すげ。うまそう」

 亮也が、いただきます、と言って、頬張る。


「美味しいよね」
「ん」

 ――――カフェオレ、仁、持ってくるって言ってたのに。
 ……何に怒ってるんだろ。 ……亮也に? ……オレに?


「……なあ、彰」
「ん?」

「お前の弟さ」
「うん」

「オレに対しての態度と、他の客へのと全然違うんだけど」
「――――」

 仁を目に映してるらしい、亮也のしかめ面に、思わず苦笑い。

「うーん……なんか……よくわかんない」

 分からない。
 仁が何思ってるのかも。……オレの気持ちも。

「なあ、彰」
「……ん?」

「この後、オレんち行かない?」
「――――だから、しないって……」

「しなくていいからさ。 家飲みしようぜ」
「――――」

 んー、と考える。

「オレが無理矢理そんな事する奴じゃないのは知ってるでしょ」
「――――それは知ってる」

「てか、オレ、昨日も今朝もしてきたかんね。たまってないし」
「そういうの、言うなよ。……声でかいし」

 つーか、こんなオシャレな店の、オシャレな空間でする話じゃない。
 苦笑いしか浮かんでこない。

 あーでも……モテまくりの楽しそうな仁を見て、そのままひとりで帰るのも。
 ……なんか、沈みそう。

 ………ってなんで沈むんだ。バカ。オレ。

 でも 沈む。
 ……もう、なんか、分かってる。

 オレの意思とは関係なく、勝手に心が沈むんだから、もう、どうしようもない。

「――――飲みだけなら行こうかな……」
「ん、オッケイ。 つまみ買っていこ」
「ん。……そうしよ」

 頷いて。
 カフェオレを飲むと。

 すごく美味しい。

 あんなに嬉しそうに笑って、カフェオレ、持ってくるって、言ってたのに。
 ……何で自分で持って来ないんだ。

 仁の態度が―――― 意味が分からないし。
 ……それがこんなに気になる自分が、また、意味が分からない。

 弟がちょっと意味不明に機嫌悪い。そんなの、ほっとけば、いいのに。
 ほっとけないって…… ほんと――――意味がわからない。

「うまかった。ごちそうさまー」

 亮也ののんきな声に、ふ、と笑うと。

「あ、でもコーヒーは彰の淹れる方が好きかも」

 こそこそ、と囁く亮也に。

「え、そう?」
「うん」
「ここのコーヒーすごく美味しいけど」
「んー、まあそうだけど……」

「失礼します。お皿下げます」

 優奈ちゃんがにっこり笑いながら、亮也の皿に手を伸ばした。立ち去る後ろ姿を見送り、亮也がテーブルに肘をつきながら。

「でも、オレ、彰の方が好きだな」
「それは……嬉しいかも。 お世辞でも、ありがと」
「お世辞じゃないし」

 ふ、と笑いあう。
 亮也が「コーヒー飲んだら、買い物いこ?」と言った。

「ん、いいよ。つまみって何買うの?」
「焼き鳥とかー。餃子とかー? から揚げとか?」
「あ、駅の地下にさ、チーズの専門店みたいの出来たんだ。寄ってこ?」
「おーいいね。ワインも買ってく?」
「あ。ワインは……やめとく。こないだ、すごく酔っぱらったんだよね……」

 そう言うと、亮也は、あれそーなの?と笑った。

「酔ってどーなったの?」
「一緒に行った友達におんぶされて帰って、そのままベッド」
「へえ。 ワイン買ってこー」
「……聞いてた? 話」
「うん」

 クスクス笑う亮也。

「あ、オレちょっとトイレ行ってくる」
「うん」

 亮也が席を外した時。ちょうど、接客を終えた仁が、近くの通路を通った。

「あ、仁」
「――――」

 足を止めた仁に、見下ろされる。

「……カフェオレありがと」
「ん。……美味しかったでしょ?」
「うん」

 ――――なんでそんな機嫌悪いのか。
 普通なら、聞けるんだろうけど……。

「……オレ、もう少ししたら帰るね」
「――――今日オレ、十八時までだから」
「……あ。オレ、夕飯食べて帰るから……」

 うう。なんかすごく、言いにくいし。

「……ごめんな、今日は好きに食べといて?」
「……今の奴と行くの?」

「――――うん」
「――――」

 ……なんでそんなに、亮也の事、やなんだろ。
 そうとしか思えない感じで、仁が息をつく。

「……彰」

 まっすぐ仁に見つめられて。

「早く、帰ってきて」
 
 ――――まっすぐな、瞳。

 なんだか。
 咄嗟に。

 ――――昔を、思い出す、ような。
 
「じん……?」

 見つめあったその時。
 亮也が帰ってきた。

 ふ、と視線を逸らして、目の前に座った亮也に視線を移した。亮也は伝票をすっと手に取る。

「―――― そろそろ行く?」
「……あ、うん。行く」

「じゃ先レジしとく」
「あとで払う」
「ん」

 先に行った亮也を見送ってから。
 仁に視線を移した。

「帰るね?」
「……うん」

 仁が頷いたので、会計をしてる亮也のところに、歩き出そうとしたら。
 急に、腕を掴まれた。

「え……」

 至近距離で、仁を見上げる。

「早く帰ってきてよ……夕飯はちゃんと食べとくから」

 仁の指が、そっと離れる。

 離されても。
 跳ねた心臓が、収まらない。

「彰?」

 亮也が、振り返ってくる。

「――――うん、行く」

 仁に背を向けて、歩き出す。


 なんか。
 すごく―――― 切ない。

 仁から離れるのが。


 なんかオレ、本当に、
 ……バカだよな。


 二年前。
 
 ちゃんと考える事からも逃げて、頑なに、受け入れなかったくせに。
 ただ、逃げたくせに。

 きっと、苦しんで、でも吹っ切って。
 関係、修復しにきてくれた弟に、今更、色々思い出して――――。

 ほんと、今更。

 しかも。
 今も、なんの覚悟も、ないくせに。




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