【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「キスマーク」




「オレ、そろそろ帰るね」
「ん。あ、片付けいいよ」
「でも少しだけ」

 立ち上がって、テーブルの上のごみや、自分のグラスを持って、キッチンに向かう。

「なあ」
 一緒に立ち上がって、オレの隣に立った亮也を、ん? と見上げる。

「何?」
「何であいつ、あんなにオレの事嫌がったのかな」

「……うーん……亮也がオレに触ってたから……?」
「触ったっけ?」
「顔上げさせる時。ちょうどその後、仁、来たんだよね……」

「――――じゃあやっぱり彰は、オレがお前の事触ったから怒ったって思ってるって事?」
「……だってそこしか、ないんだもん。よく分かんないよ。その前に、男友達が来るって言った時は機嫌良かったのに」

「――――やきもちなのかな?」
「……でも、女の子のキスマークに反応しないのに、男が顔触った位でって……逆におかしくない? だからやっぱりそういうんじゃないのかも……」

「うーん……なあオレと今居るって、知ってんだよな?」
「え? うん、知ってるよ」

「……ちょっとだけ我慢してて」
「え?――――え」

 手首を取られて、開かれて。

「痛……っ」

 きわどい所に吸い付かれて――――キスマーク、付けられたと悟る。

「っ……っ何してんだよっ」
「はは、ごめん、怒んないで。いいじゃん、いまさらオレがつけるキスマーク一個増える位」
「そんな事言ってんじゃなくて、何のつもり――――」

 は、と気付いて、固まる。亮也がニヤ、と笑う。

「弟に見せてみ?」
「……絶対ぇ見せない」
「だってオレと居るの知ってるのに、キスマークつけて帰ってきたらさ。どんな反応するか見たいじゃん?」
「――――ていうか、キスマークは、もう前に……」

「だから、それは女の子だろ? 今日のは、オレかもって、思う訳じゃん?」
「――――なんか、悪趣味……っ」

 睨むと、亮也は、そう?と笑う。

「だってさ、何かきっかけがないと、動かなそうなんだもん。まんまとひっかかってくれたらいいけどなあ?」
「……絶対見せないから」

「ちえ。つまんない」
「つまんないじゃないっつの! ほんとに……」

 そんな攻防を経て、亮也のマンションを後にして。
 途中のお店で、美味しそうなプリンを買った。

 で、今、自分のマンションの、部屋の前。

 ボタンもいっこ上に止めた。ここからなら絶対見えないはず。

 大丈夫。
 酒も、飲みすぎてないし、普通。

「――――」

 うん。普通に過ごす。
 バイト、忙しそうだったな、とか、話して。
 美味しかった、とか、話して。

 プリンも一緒に食べよ。
 それで、シャワー浴びて、今日はもう、酒飲んで眠いからって、布団に入ろう。よし、完璧。

 仁と会った後のシミュレーションを終えて。
 ――――何してんだ、オレ。なんて、そんな風に思いながら、鍵を開けて中に入った。玄関の電気をつけて、靴を脱いでる所に仁が迎えに出てきた。

「彰お帰り」
「ただいま。ご飯は? 食べた?」
「ん。さっき食べ終わったよ。今片付けてたとこ」 
「そっか」

「彰は? どこで食べたの?」
「オレは……友達んちで、軽く食べた」

「飲んでる?」
「うん。少しだけな? ん。これ。プリン」
「……プリン?」
「カフェオレのお礼……オレのもあるけど」

 笑いながら言うと、プリンの入った袋を覗いて、仁も笑う。

「ありがと。 一緒に今食べる?」
「うん。食べる。手、洗ってく」
「ん。何か飲む?」
「オレ、水でいいよ」
「了解」

 仁がリビングに。オレは、洗面所に入る。

 うん。――――普通、だな。
 大丈夫そう。 よかった。

 ――――何だかな。
 ……仁の機嫌とか……態度とか。 

 勝手に、感情揺さぶられて――――。

 普通に過ごせるだけで、ホッとするとか。
 馬鹿だな……オレ。

 仁がオレのことを今でも好きか、聞いちゃえばって。
 ――――亮也てば、簡単に言うけど。

 ……できるわけない。

 キスマーク……見えないよな?

 鏡で首元を写す。
 今見えないけど、どこだっけ……。

 ぷち、とボタンを外して、ああ、ここか。ここならしめとけば絶対見えないや、と思った瞬間、だった。

「彰、オレ、紅茶入れるけど、飲む?」

 急に、仁が顔をのぞかせた。あまりにびっくりして。 
 びくっと大きく震えてしまって。咄嗟に外したボタンを、きゅ、と合わせた。

「――――なに?」

 眉を寄せた怪訝そうな顔。少し首を傾げて。
 何を思ったのか、仁が、オレの手を掴んだ。

「何隠したの?」
「――――何でもない、隠したわけじゃ……」

「見せて」

 ボタンを合わせていた手を外されて、開かれる。

「――――」

 しばらく、無言。

「――――誰の、キスマーク?」

 つかなんか――――もう。
 亮也の、バカ……!! オレもバカ!!! 開けなきゃよかったのに……!


 眩暈が、してきた。
 



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