【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

文字の大きさ
78 / 130
◆Stay with me◆本編「大学生編」

「上書きって」

しおりを挟む


 嫌っていうほど……――――静かな空間。
 どう、しよう。

 なんか、仁――――静かだけど、少し、怖い。

「彰、今日あいつとしか会ってないんだよね」
「うん……」

「……あいつが、つけたの?」
「――――」

「彰、あいつと……なんなの?」

 なんかもう――――今はどんな嘘言っても、だめな気がする。
 もう……これについては、正直に言おう。 
 じゃないと、どんな誤解されるか……。

「……オレ、ほんとの事だけ、言うから。信じろ、よ?」
「――――うん」

「……亮也が、ふざけた、んだよ」
「――――ふざけた?」

 仁の視線が余計きつくなる。

「ふざけてキスマークなんて……」

「だから…… 仁が、亮也に態度悪かった、から」
「――――」

 自覚はあるのか、仁が、少し静かになる。

「……キスマークつけて帰ったら、どんな反応するだろ、とか言い出して……」
「――――何それ、 オレがどんな反応すると、思ってたの」

「だから……分かんないから、試そうみたいな…… オレ、賛成してないからな。……見せる気、無かったし」

 そこまで話したら。
 仁はやっと、手首を離してくれた。ホッとした瞬間。

「……彰、あいつと、キス、した事ある?」
「え?――――何それ?」

 とんでもない質問に、ぽかん、と口を開けてしまう。

 バレるような事、してない。
 ……バレるはず、ない。落ち着け、オレ。

「こないだ彰が酔って帰った時……水飲ませたら少し零れて……だから拭ったら――――彰、多分、キスされたと思ったみたいで……」

「――――?」

「そん時、亮也て……言った」

 仁の言葉に、動けなくなる。

 ――――何それ。
 全然何も覚えてない。でもそんな覚えてもいないことで、この関係を壊すわけには、いかない。そう思って、口を開いた。

「オレ覚えてないけど…… 亮也、仲良いから……なんか夢に出てきただけだと思うけど…… オレ、寝てたんだろ? キスしたと思ったかどうかなんて、分かんないじゃん……」

 ――――それで、あの後……怒ってたの?
 「亮也」が来たから、店でも怒ったの?

 ……ていうか―――― それで怒るって……。


「キスマークは、ほんとにそういうこと?」
「……うん。ほんと」

 ――――信じて、くれたかな?
 ……大丈夫かな……??

 ……って、大丈夫って。
 オレは、なんで、こんなことばかり――――気にして……。

「――――彰」
「?」

 一度離された手を、再度、掴まれた。

「……仁?」

「――――キスマーク……ふざけて、とか……意味分かんないんだけど」
「あー……うん、オレも、分かんない」

 ほんとに。……亮也のバカ。


「あのさ。じっとしてて」
「え――――なに……?」

 掴まれた手首を開かれて。
 仁の頭が顔の下に急に来て。

「なに……っあ……!」

 びくん。と、体が震えた。

「……っ……な、にして……」

 動揺と、ジンジンした痛みと熱さを残して、仁が、離れた。

「ふざけてつけたんだろ、それ」
「――――」

「だからオレも、ふざけて上書き。……いいよね?」

 ……っ……良くない、っつの……。
 
 仁が、吸い付いたとこから、熱が、広がってく。

 ぎゅ、とそこを押さえてると。

「……なあ、彰」
「――――」

「……ふざけてでも、もうそんなの、つけさせないで」
「――――」

 全然ふざけてない、まっすぐな瞳で見つめられて。
 有無を言わせない、口調で、そう言われて。

「……ん……」

 頷いた。けど。

 ……もう――――仁。
 ほんとに…… 意味が分かんないよ……。

 なんかもう―――― 不安定すぎて、泣きそうな、気分。


「……仁……あのさ……」
「――――うん?」

「―――― オレへのこと…… 勘違いだったって……言った……よな?」

 すぐ、そうだよって、言って欲しかった。
 勘違いだったって。言ってもらって、全部ここで、断ち切りたくなって。

 絶対聞けないと思っていたことを、いきなり聞いた。
 自分でも、少し驚いた。

 その質問に、仁は、一瞬驚いた顔を見せたけど――――。
 じっと、見つめ返してきて。

「――――そう聞いて、彰は、嬉しかったんでしょ?」

 低い声で、そう言った。

「――――え?」

 ――――何、その答え……。

「……ほっとしたんでしょ? ……だから一緒に暮らしてくれたんだろ?」
「――――」

 ――――そりゃ……。
 二年ぶりに会ったあの時に、前と同じように迫られたら……。

 絶対、一緒になんて、暮らしてない、けど。

「オレは、彰と、やり直したかったんだよ……」

 仁は、まっすぐに、オレを見つめてきて。そう言った。
 何も言えず、ただ見つめあう。

 しばらく見つめあっていると。
 仁は、ふ、と息をついた。

「彰、もう、手、洗ったの?」
「え? あ……うん、洗った」

「紅茶は? 飲む?」
「え……うん……」

「用意しとく」

 言って、仁が、消えていった。

 ――――どういう意味だよ。

 今、勘違いだったって、言ってくれたっけ……?
 ……嬉しかったか聞かれて…… やり直したかったって……。

 どういう意味か、よく分からない。

 さっき、触れられてたとこ。

 掴まれてた手や。キスマークをつけ直されたとこ。
 ――――やたら、熱い。



しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

片思いしてた先輩が産業スパイだったので襲ってみた

雲丹はち
BL
ワンコ系後輩、大上くんはずっと尊敬していた先輩が実は産業スパイと分かって、オフィスで襲ってしまう。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...