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◆Stay with me◆本編「大学生編」
「後悔」
しおりを挟むシャワーを浴びて、そのまま髪を乾かし終えた。戻ってリビングのドアを開けようとした時。父さんの声が漏れてきた。
「――――にか、変わった?」
「……変わらない、かな……」
「そーか」
「……なんかごめんね」
「謝る事じゃないだろ」
「――――まあ、そうなんだけど」
何となく止まってしまったけど。少し聞こえた会話。
――――何だろ。何の話かよく分からない。
「……彰遅いね?」
そんな父さんの声に、あ、と、ドアノブを掴んで、開けた。
「あ、遅かった? ごめんね、髪乾かしてきたから……」
そう言いながら中に進むと、仁がかたん、と立ち上がってキッチンの方に行った。
「父さん、もう入る?」
「んー……そうだな、入ろうかな」
「バスタオル、上の棚に入ってるから」
父さんにそう言っていたら、仁が、氷を浮かべた水を渡してくれた。
「ありがと、仁」
「ん」
渡された水を飲んでると。
並んでるオレと仁を見て、父さんがふ、と笑んだ。
「――――仲良くやってるみたいだね」
「え」
父さんを見返して、何秒か固まって。
「あ、うん……まあ……」
仁は特に何も返事をしないで、席に座った。
こんな言葉にまで、どき、とするって。
――――はー……。
水を飲み終えて、流しにコップを置く。
二人が飲んでた紅茶のカップも運んで洗い出した所で、父さんがバスルームに向かって、消えていった。
「――――彰」
仁が、食器を洗っているオレの隣に立った。
「ん……?」
なるべく普通に。視線は流しのままで、そう返すと。
「父さん、来ちゃったし……また今度話そう」
何を、どう、話すんだろう。
分からなかったけれど それすら、話し出したら、とても父さんがシャワーから出てくる前には終わらなそうで。
「……うん」
仁をまっすぐ見れないまま、でも、頷くと、仁は、ふ、と息をついた。
「……布団、オレの部屋のクローゼットの中のだよね?」
「うん」
「出しておくね」
「うん。ありがと」
そう言って仁が、離れていく。
食器を洗って、布巾でテーブルを拭きながら、少し感情を落ち着けた。
オレが自分の部屋に戻ると、仁がもう、布団を敷き始めてくれていた。
「ごめん、ありがと、仁」
「ん、彰、シーツ、そっち持って?」
「うん」
二人でシーツを開いて、布団に重ねて、角を入れ込む。枕と掛け布団を置いて、もう敷き終わってしまった。
「仁、ありがと」
「ん」
二人きりになってしまった空間が静かで。
一瞬言葉に詰まる。
「……ね、彰」
「うん?」
「――――いっこ、聞いていい?」
「……なに?」
「二年離れてた間は オレの事、忘れてた?」
「――――」
言われた言葉に、息を飲む。
――――忘れてない。
一度も思い出さなかった日なんて、無い。
……夢にまで、見る位で。
――――誰かと寝れば、思い出して。
……仁とのことを思い出すと、切なすぎる気持ちになってばかり、だったけど。
「――――」
声は出さず、仁の瞳を見つめたまま、首を横に振った。
「ん、わかった。ありがと」
仁は何を思ってるか分からないけれど、まっすぐにオレを見つめ返して、それから部屋を出て行った。
今の質問て。
何でするんだろう。
……仁て、オレがこっちに出て来てから、仁の事をきれいさっぱり忘れてると思ってたのかな。――――そう思いながら、実家で過ごしてたのかな。
なんか――――オレ……。
ほんとに、なんであの時――――逃げたんだろう。
ちゃんと、向かい合わずに。
あんなに、まっすぐだった、仁を、置いて。
今更の事だけれど、仁が、どんな想いだったんだろうと、思うと。
切なくて、痛い。
あの頃―――― 仁の事、考えてあげる余裕なんか、無くて。
自分が、仁の事を考えないように、大学と友人や女の子や亮也と塾と。なるべく一人でいないように、過ごしてたっけ。
つか…… ほんと、オレ、最悪。
――――仁は、何も、恨み言も言わずに。やり直したいって、言ってくれたんだ。
仁が、オレを大事にしてくれてるのが……どんな意味だったとしても。
嫌ってほど。 ……分かってきて、しまって。
なんか。
――――胸が、痛い。
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