【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「過去の自分」




 塾のバイトが終わった後、仁と昼ご飯を外で食べてから家に帰った。買い物もしてきたので、もう十五時を回っていた。

「彰、オレちょっと早めに行って、約束した子と稽古したら帰ってくるね」
「うん。シチュー作っとく」

「ごめん、なんか彰が作る方が多くなってるよね」

 仁が申し訳なさそうに言うので、全然、と首を振る。
 
「別にいいよ。家に居るし。色々作れるようになってきたから、楽しいし」

 そう言ったら、仁は、ふ、と優しく、笑んだ。

「ありがと」

 仁の言葉に、うん、と頷く。
 玄関に向かう仁について、靴を履くのを見守っていると。

「いってくるね」
「ん。がんばって」
「うん。――――彰」
「ん?」

「……あとで、とことん話そ?」
「――――ん……」

 頷いて、出て行く仁を見送って。
 鍵を、閉めた。

「――――」

 とことん、か。

 何だか、気持ちが、ざわざわ、波打つ。
 落ち着かない。全然。

 何となく、リビングのソファに座って、窓から、空を見上げた。

「――――」

 ――――もう二年。あれから。
 一度は完全に、離れて。関係をもう、絶って。

 でも今――――話せるようになって、やっぱり、嬉しい。
 だけど。

 今日話したら……どう、変わってしまうんだろ。
 話した後も、今みたいに―――― 穏やかに会話、できるかな。

 もう、二度と、関係を断つような事には……したくないけど。
 そうするには……どうしたらいいんだろう。

 しばらく考えても、明確な答えは出ない。

「――――シチュー……つくろ」
 呟いて、ソファから立ち上がる。

 何かをしていないと落ち着かないので、料理をする事にした。
 野菜と肉を出して、順番に切っていく。

 全部切り終えて、フライパンを出して、玉ねぎを炒め始める。
 料理をしてると、ちょっと無心になれるような気がする……。

 そんな風に思いながら、柔らかくなっていく玉ねぎを見つめていたら。
 ポケットに入ったままだったスマホが震え出した。

「……もしもし、亮也?」
『彰? 元気?』

 亮也の言葉に苦笑いしながら、玉ねぎを炒め続ける。

「元気だよ。昨日の夜まで一緒だったじゃん。……どうしたの?」
『なあ、彰、キスマークどうだった?』

 その言葉に、昨日訪れたすごい緊張を、一気に思い出した。

「……絶対隠そうと思ったのにバレちゃって、ちょっと大変だったんだからね」
『へえ。そうなの? どう大変だったの?』

 笑いながら興味津々な感じで聞いてくる亮也に、少しムカつくけれど。

「正直に言った。亮也がふざけたんだって」
『えー、つまんねえな?』
「……つまんなくないよ、もう」
『そう言ったら、それ以上は 何もなかったの? もう普通通り?』

「――――なんか……お前がつけた上に…… 上からつけられた」
『え? キスマーク、上書きしてきたの?』
「……うん」

『マジかー……じゃあもう、確定か……』
「確定って?」

『まだお前の事、好きなの、確定だろ?』
「――――やきもち、とは、言ってた……けど……」

 話しながら、玉ねぎはもう大丈夫になったので、肉を入れる。
 じゅう、と音が上がる。

『なんの音?』
「あ、ごめん、今シチュー作ってて」

「……なに、弟の為に?」
「為にって言うか…… オレも食べたいし」
『ふーん。 今は居ないの?』
「うん。剣道しに行ってる」
『そうなんだ』

「な、野菜炒めてるんだけど、うるさい?」
『彰が聞こえるならいいけど』
「うん。オレは、聞こえるよ」
『じゃあ大丈夫』

「あ、最後にちょっと音するから待ってて」
『ん』

 じゃがいもと人参をざっとフライパンに流し入れた。
 派手な音がしばらく鳴って、落ち着いてから。

「ごめん、もう大丈夫」
『……なあ、彰さ』
「うん?」

『オレと寝たのさ、後悔してる?」
「寝たの後悔って――――後悔はしてないよ。亮也と居るの楽しかったし。ずっとオレ、なんか……救われてたし……なんでそんな事聞くの?」

『そっか。なら良かった。もし弟とこれから、どうかなるなら、オレとのこと、後悔されちゃうのかなと思って』

「――――後悔なんて……しないよ」

 だけど。多分、仁との話の結果がどうなるにしても、もう、亮也とは、寝ないと思う。

 そう、言おうとした、瞬間、だった。
 
「――――っ……」

 不意に感じた、気配に、驚いて、振り返った。

 あ、仁か―――― びっ、くりした。

驚きすぎて、咄嗟に火を消して、もう一度振り返る。


 ……って――――あれ……。


「え……何で……?」


 てか――――いつから、ここに……?


「亮也、ごめん、電話、かけなおす……」
『え?どした?』

「ごめん、また……」

 返事も聞かずにスマホを切って、カウンターに置く。

「……わすれもの……?」
「――――約束した子が今日、風邪引いてこれないって連絡があって…… だから、すぐ帰ってきた。話しかけたよ、オレ……彰、気づかなかったみたいだけど……」

「……あ、そ、なんだ……」

 炒めてる音で、玄関が開いたのも、仁が近くに来てたのも――――。
 全然、気づかなかった。

 いつから、居た? ……今、オレ、話してた事――――。


「……――――今の電話、なに」
「――――」


「……寝たって―――― なに?」
「――――」

 何かを抑えているみたいな、仁の、声。

 オレ、今―――― なんて、言ったっけ……。

 寝たの後悔してないって――――言った、よな……。

 どんな誤魔化し方も、できるはずが、ない。


 仁の、まっすぐすぎる、キツイ瞳に。
 手が冷たくなって。―――― ぎゅ、と、握り締めた。


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