【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

文字の大きさ
95 / 130
◆Stay with me◆本編「大学生編」

「熱い」

しおりを挟む
    

  
「――――彰……」

 絞り出すみたいな、声。
 仁の手が、オレの手首に触れて。ぐ、と握られた。

「――――っ……?」

「……ごめん、彰」
「――――」

 仁から漏れた言葉に、一瞬で色々浮かぶ。

 ……なにが、ごめん……?
 何を謝っているのか、色々考えて、でもよく分からない。

「今、時間無くて、行かなきゃいけないから……――――あとで話そう」
「――――」

「……終わったら、すぐ帰ってくるから」

 そう言って。手を離すと。
 仁は、出て行った。


「――――」


 あの日以来。

 初めて、顔、見た。 触れた。
 声、聞いた。

 スーツ。似合ってたなー……。
 ――――すごい、カッコいいし。

 ……モテるだろうなー。ほんと。

 こないだ父さんが話してた、仁のお父さんの話。
 スーツ姿が、男でも見惚れる位カッコよくて、とか。言ってたなあ。

 ……うん。なんか今、すごく納得した……。

 なんて、ぼんやりと。
 とりとめのなさすぎる事を、ぼーー、と考えながら。


 仁に掴まれた手首を、何となく、自分で掴んだ。

 仁に触れられてた場所が。
 何だか、熱いような気がして。

 そんな訳ないのに。でも、ここだけ、何でなのか、すごく、熱い。
 

 ――――なんかもう。
 どうしたらいいか、分からない。


 何が、ごめん、なんだろう。
 ――――仁が何を、謝る事があるんだろ。


 立ち上がって、自分の部屋に戻ると、スマホを手に取った。


「――――」


 ごめん、いつも。どうしようもなくなると、話したくなる。
 先に心の中で謝って置いて、そうしながら、発信ボタンを押した。


『……もしもし彰?』

 いつも通りの声に、安心してしまう。

「寛人、おはよ……ごめんね、寝てた?」
『ん、はよ。平気。――――朝からどーした?』

「……今日暇?」
『明日から学校だから、何となく今日は暇な日にしたけど……』

「……寛人んち行っていい?」

 一瞬寛人が黙って。

『いーけど…… オレがそっち行こうか?』
「いい。オレ、ここから離れたい……」

『……は? ――――ああ、もう、いいよ。こっち来い。あ、昼飯なんでも良いから買ってきて?』
「うん、買ってく。すぐ行って良い?」
『いーよ、待ってる』

 待ってる、と言ってくれたので。
 すぐに準備をして、家を出た。


◇ ◇ ◇ ◇


 寛人の家についてチャイムを鳴らした。
 ドアが開いて、オレの顔を見た瞬間、寛人は眉を寄せた。

「……なんか、ちょっと痩せたか?」
「――――んー……あんま食べてないから……そーかも」
「お前なー……」
「だって食欲あんまり無くて……」

 寛人が、はあ、とため息。

「何買ってきた?」
「色々。お弁当とかおにぎりとかサンドイッチとか唐揚げとか、サラダと、春雨スープとか、なんか色々買った……残ったら夕飯に食べて?」
「いくら?」
「要らない。話し聞いてもらうから」

「……お前、後で昼、ちゃんと食うって約束しろ」
「……うん、食べる」

「あと、今日からちゃんと飯食え。約束しねえなら話聞かねえぞ」
「……うん。分かった、食べる」

 心配されてるのが分かるので、素直に頷くと。
 寛人は、ふ、と苦笑い。

「ん、よし。――――座んな?」
「うん」

 中に入って、テーブルに買ってきたものを置いて、椅子に腰かけた。


「……で? どーした? やっと仁と話したか?」

 ううん、と首を振る。あれ?という顔の寛人。

「話したから来たんじゃねえの?」
「……朝、会っちゃって――――そしたら、何か…… ごめんって言われて。今日入学式だから……帰ったら、話そうって」

 ふうん、と、寛人が首を傾げる。

「……話してから、ここに来れば?」
「……話す前に、寛人と話したくて」

「――――はいはい。どうぞ。何を話したい?」

 寛人が、片肘をついて、顎に手を置いて。
 じっとオレが話し出すのを待ってる。

「……オレさ」
「うん?」

 話し出したけれど。
 ――――何を話していいのか、よく分からない。

 もう何だか、仁と話すのが怖くて。
 寛人の顔見たかっただけな気がしてきた。

 仁と話す前に寛人と会って、なんか、落ち着きたかった。


「……オレってさ、今日、仁と、何、話すんだと思う……?」
「――――」

 寛人が目の前で、がく、と崩れた。


「お前――――あれ、オレの親友、いつからこんなにバカだっけ……?」

 深い深いため息を、つかれてしまう。


 うう。寛人、ごめん。
 ――――でもほんと、何話すのか分かんなくて。

 
 どうしようもなく怖くなって。
 あそこに居たくなくて、逃げてきちゃったから……。



『ごめん、彰』

 そう言って、掴んできた、手の感触。
 まだ、残ってる。


 結構な日数離れて。少し薄れて来てた色んな感情が。
 一瞬で、戻ってきて。

 ――――心ん中、全部、揺さぶられる。
 

 もうほんとに。そういうの全部が ……怖い。



しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

片思いしてた先輩が産業スパイだったので襲ってみた

雲丹はち
BL
ワンコ系後輩、大上くんはずっと尊敬していた先輩が実は産業スパイと分かって、オフィスで襲ってしまう。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

処理中です...