98 / 130
◆Stay with me◆本編「大学生編」
「何を伝えたいか」
しおりを挟む「――――おかえり」
チャイムを鳴らすのもどうかと思われたので、自分で鍵を開けてドアを開いたら。
最大限にむすっとした仁に、玄関で迎えられた。
「……ここで待ってたの?」
「――――片桐さんからもうすぐつくと思うって入ったから、待ってた。おっそい、彰」
「……」
「早く入って」
頷いて家に入り、自分の部屋に鞄を置いてから、洗面所に向かう。
はー。
……すごいムスッとしてるし。
――――でもなんか。逸らす事なく、まっすぐに、見つめてくる。
――――あんなに、ずっと、避けてたのに。
顔も見れなかったのに。なんでか、すごく普通に話しかけてくる。
「彰」
「え?」
手を洗っていたら、仁が顔をのぞかせた。
「コーヒー、淹れて?」
「――――」
「……淹れてくれる?」
「――――うん」
「待ってるね」
そう言って、仁は戻って行った。
ずっと、飲まなかったのに。
――――淹れたら、飲んでくれるって、事だよね。
――――なんか。
そんな事が、こんなに嬉しいとか。
……ヤバいな。……オレ。
ちょっと――――泣きそうかも。
泣くな泣くな、こんな事で。
ふー、と息をつく。
……ていうか。オレ、ほんとにヤバいな。
仁の顔、普通に見れるだけで。
――――それだけで、もう、ちょっと泣きそうなんだけど。
……こんなんで、話、ちゃんと出来るかな。
何とか、気持ちを落ち着かせてから、リビングに戻る。
とりあえず、コーヒーを淹れる事ができるのは嬉しい。
何にもする事ないと、仁の前に、いきなり座らなきゃいけないし。
なるべくゆっくり、コーヒーを淹れる。
座って、スマホを触ってた仁は、テーブルにそれを置いて立ち上がった。
「――――」
隣に立たれて。
すごい、ドキドキする。
……何なんだこれ。もう。
「ごめんね、毎日淹れてくれてたのに、飲めなくて」
「――――いいよ、別に」
「……なんか、彰のコーヒー飲んだら…… 顔見るの、我慢できなくなりそうでさ……」
「……っ」
何、言ってんだろ、仁……。
そんな事言いながら、こんな近くで、見つめんの、勘弁してほしい。
「コーヒー持ってくから……座ってていいよ?」
手が震えそうで、そう言うと。
「――――」
少し無言の後。
ん、と頷いて、仁が戻る。
ゆっくり、コーヒーを淹れて。
それでも……淹れ終わってしまって。
仁の前に、コーヒーを置いた。
向かい側に、座って。
緊張して、コーヒーを口にする。
「彰、ほんとに痩せたかも」
「……少し食べるの減ってただけだから。大丈夫」
じっと、痛いくらいに、見つめてくる。
しばし、無言の後。
「こないだ、ほんとにごめん」
「……」
急に核心に触れられて、コーヒーを持っていた手が、咄嗟にびくと震えた。
「……もう絶対あんな事しないから、そんなビクビクしないで」
そう言われて見上げると、仁が苦笑いを浮かべていた。
「完全に嫉妬。他の奴が触ったとこ、全部オレが触るって、思っちゃって……ごめん」
「――――」
「……オレ、もう彰の事、諦めようと思ってたから……顔見るのも、辛かったからさ……ずっと避けてたのも、ごめん」
――――諦める、か。
……そう、だよね。
――――うん。
思わず俯いた時。
寛人の言葉が浮かぶ。
仁がどう言うかは、関係なく、
オレが、何て言いたいか。
……。
オレは……。
仁に何を伝えたいんだろ。
仁がオレを諦めるって決めたなら、それはそれでもうしょうがないと、思うんだけど。
……何も伝えないで、それを受け入れて、後悔しないか。
でも……諦めるって決めた仁を、惑わすような事言うのも……。
何が仁にとって良いのか、わからない。
コーヒーのマグカップを、ぎゅ、と握る。
72
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談?本気?二人の結末は?
美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる