【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「愛しい」

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「じゃーね、寛人」
「おう、気を付けて帰れよ。 あ、仁」
「はい?」

「彰、急に寝るから気をつけろよ」
「……ヤバいですね、了解です」

 そんな二人のやり取りに、オレは、首を振る。

「寝ないよ、今日は大丈夫」
「とか言ってしゃがみ出したら、ヤバいから」
「分かりました」

 仁が苦笑い浮かべながら、オレを見つめてくる。

「じゃまた、片桐さん」
「おう。実家行くの頑張れよー」

「まあもう知られてることを話しに行くだけなんで」

 平然と言ってる仁に、オレはまた複雑な顔をしてしまう。それに寛人が気づき、ぷ、と笑う。

「彰、頑張ってこい。そこクリアしたら、大分精神的に楽だろ」
「……そこのクリアが、かなりきついけどね……」

「頑張ろ、彰」

 クスクス笑いながらの仁に、肩を抱かれる。

「頑張るけど」

 急に近くなった仁に戸惑いまくりで頷いてると。
 寛人がクスクス笑って、オレと視線を合わせてくる。


「じゃあまたな」
「うん。またね」

 寛人が改札に消えて行くのを、手を振って見送る。

「――――楽しかった? 仁」
「うん、楽しかった」
「そっか。……楽しそうだったもんね」

 クスクス笑いながら、オレが仁を見上げると。
 仁は、くい、とオレの腕を引いた。

「帰ろ、彰」
「ん」

 ゆっくり、歩き始める。

「寝そうになったらおんぶしてあげるよ」
「今日そんなに飲んでないってば」

「おんぶしたいけどな」
「さすがに重いよ」

「重くても良いし。ていうか、その重さが幸せなんじゃねえの?」
「……意味がわかりません」

 困って返すと、仁は、ぷ、と笑う。

「だって片桐さんには何度もおぶわれてるんだろ?」
「……何それ。ヤキモチ……??」

「そう……なんか、信頼してるっぽくない?」

 仁の言葉に、んー?と、首を傾げてしまう。

「それは……信頼とかじゃなくてさ」
「なくて?」
「……覚えてない位だし。ほんとひどい、ただの酔っ払いだと思うよ?」

 クスクス笑うオレに、仁は、それでもさ、と首を振る。

「それでも、やっぱり、あの人なら連れて帰ってくれるって思うから、そこまで酔っ払えるってことだろ? やっぱりちょっと妬けるかも」
「――――」

 そういうこと、なのかなぁ?
 ……まあそう言われたら、確かに、寛人と話してる時ごくたまに、酔っ払っちゃってたけど。
 寛人以外に仁の話できなかったし、仁の話をしなくても、寛人は知っててくれて、結構飲んでても付き合ってくれて。

 ………まあ、確かに。 信頼してるからこその、酔っ払いではあったけど。

「んー……でも、結局はただの酔っ払いだったから、絶対寛人は迷惑だったと思うし」

 苦笑いのオレに、仁も、少し肩を竦めて見せる。

「まあ今更、片桐さんに嫉妬っていうのもちょっと違うんだけどさ」

 まあ、それはそうだよね。
 だって、もう、オレと寛人に何もないのも分かってるだろうし。
 ヤキモチなんか妬くだけ無駄と言うか。必要ないし。

「多分それでヤキモチとか寛人に言ったら、超迷惑に酔っぱらわれて重いのおぶって帰った上に、仁に妬かれるとか……すごい嫌がると思うけど」

 寛人のものすごく嫌がるのを想像して、クスクス笑ってしまう。

「彰、おんぶさせて?」
「え」

「したい」
「え? だって、オレ今平気……」
「平気とかじゃなくて、したい。はい」

 仁が、目の前にしゃがんでしまうと、オレは、数秒躊躇った後。

「……重かったら下ろしてよ?」
「うん。分かった」

 笑いを含んだ声で仁が頷く。
 そっと、腕を仁の肩に触れさせて、そのまま、前にまわす。

 後ろに仁の手が回ってきて、すぐにそのまま、おんぶされて、仁が立ち上がった。

「――――」
「この時間ならさ、おんぶしてても、酔っ払いだって思ってくれると思うし」

「……重くないの?」
「うん。平気。……つか、嬉しいってだけかも」

 クスクス笑いながら仁が言う。

 ……何だかな。仁。

「――――おっきくなったねー、仁……」
「はは、何、それ」

 仁が、オレを背負って歩きながら、おかしそうに笑う。

「……何で、オレよりおっきくなるかなあ?」
「願ったからじゃねえかな」
「何を?」

「早く彰より大きくなりたいってずっと思ってたし」
「そっかー……」

 ずっと、かー……。

 何だか、ものすごく愛しくなって、オレは、きゅ、と抱き付く。

「……重い?」
「平気。てか、抱き付いてくれるの、すげえ好き」

「……うん」

 ふ、と笑ってしまう。

 オレも。抱きつけるの、嬉しい。

「――――仁……」
「んー?」

「……好きだよ、仁」
「――――」

 仁がぴく、と固まって。
 はー、とため息をついてる。

「仁??」
「……なんかずるくない?」

「え? ずるい?」

 なんで?と思ってると。仁が、もう一度ため息を付きながら。

「そんな背後で言われてもさあ。しかも、外だしさあ。キスしたくてもできねーし。そんなとこじゃなくて、帰ったら言ってよ。……そしたら、めいっぱい、キスするから」

 笑みを含んだ、優しい声に。
 ふ、と笑ってしまう。

「ん。……分かった」


 そう返したら。
 え、と仁が笑う。

「分かったって言った?」
「うん」

「何? 酔ってんの?」

 クスクス笑う仁。

「今、分かったってちゃんと聞いたからね。ちゃんとほんとに言ってよ?」
「……うん。分かった」

 オレ、そんなにいつも言ってないかなあ? と、おかしくなるけど。
 まあ、仁に比べたら、全然言ってないから、そのせいかなあ、なんて思いながら、ふ、とオレは笑む。

「重いでしょ? 降りるよ」
「いいから。このままひっついてて」
「――――」

「ぎゅ、てしててよ」
 

 ああ。もう。
 ――――ほんとに。愛しいなあ。仁。
 

 胸が締め付けられるみたいになりながら。
 回した腕でもう一度、くっついて。抱き付いて。


「大好きだよ、仁……」
「っ……だから。帰ったら言って」

 まったくもう、と呆れたように言われて。
 オレは、また微笑んだ。



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