【愛じゃねえの?】~社会人*嫌いだったはずの先輩に恋する理由。攻めの後輩視点

星井 悠里

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◇吹っ切る。

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 コーヒーを買って、テーブルで向かい合う。
 一番端に座ったし、今余り混んでないので、話す事は出来そうだけど。

 ……話せるかな。

 そう思いながら、コーヒーを口にしていると。


「……ごめん」

 と先輩が言った。

 ――――……ごめん?
 何のごめんだろう。

 ――――……やっぱり、オレとは無理とか。
 そういう事かな。

 ……さっきから落ち込んでるっぽい先輩見てて、もしかしたら、そういうことにもなるかなあとも、頭の端っこの方で、考えはしていた。
 でも。言われるまでは、考えるのはやめようと、意識の遠くに押しやっていたのだけれど。

 …………ごめん、とか言われると。そっちの思考がむくむくと、大きくなっていく。


「……ため息ばっか、ついて」
「――――……」


 ああ。そっち……? ため息、ついてたことに?


「――――……ごめん、やだよな」

 もう一度謝られて。
 大丈夫ですよ、と伝える。


「……オレは大丈夫ですけど…… 先輩は、やっぱり、もう嫌になってますか?」
「――――……だってさー。どう言っても、大事な弟に何させてんだって話になっちゃうだろ……」


「――――……ん?」

 今なんかものすごく変なこと言ったなな。

 ――――……大事な弟に何させてんだ……??
 なんか頭がその言葉を受け入れにくくて、固まる。


「……先輩、よく分かんないんですけど」
「ん?」

「今って、何をどう考えてます?」
「ん? どーいう意味?」

「……オレと付き合うとか、やっぱり考えるまでもなくて無しだなーとか。思ってます?」
「……何で?」

「……なんで?」

 逆に聞かれた。
 さらに意味が分からない。

「……それはちゃんと考えるって言ってるじゃん……?」

 ――――……なんか困ったみたいな顔して、聞いてくる。

「――――……志樹に、なんて言おうかなって」
「……何を?」

「色々、させちゃったこととか……」
「――――……させちゃったって、やめてもらえますか……」

 いまいち、何をどう考えてるのかよく分からないが、もはや、苦笑いしか浮かばない。


 なんか――――…… ほんと、可愛いな、この人。



「隠そうとは思ってないんですか?」
「――――……志樹に、隠し通せる気がしない」

 はー、とため息。

「さっき話して、もう、そう思っちゃったんだよなー……そう思わない?」
「――――……」

 無言で、少しだけ、頷いて見せると、先輩はコーヒーを飲んで。


「だから、何て言えば良いんだろうって、ずっと考えるんだけど……」
「――――……」

「……なんか、それ考えてると、オレってば、ほんとにとんでもないこと頼んで、とんでもないこと、させた、なーって……あれをどう説明したらいいか、分かんなくて」

 なんかものすごく恥ずかしそうな顔で、ペットボトルの上に、ずーん、と沈んでいく先輩。

 もう、ほんと可笑しいったらない。


「……あのさ、先輩」
「……うん」


「――――……させたっていうの、やめてください」
「――――……」

「むしろ、されたって方だと思うんですよね」
「――――……」

 オレのセリフを、ぽかんとした表情で聞いて。
 数秒後、カッと、赤くなる。

「別に頼まれた訳じゃないし。オレが勝手にしたんですよ」
「――――……」




「オレが先に兄貴と話しましょうか?」
「――――……」


「オレが迫ってるって話でまとめますけど」
「――――……なんかそれも……ちょっと、夜まで考えさせて……」

「いいですけど……」

 くす、と笑ってしまう。


「何で笑うの?」
「――――……先輩、オレと付き合うこと、考えるのは続けてくれるんだと思って」
「――――……」

「兄貴にバレたくないだろうし、いっそ、なかったことにされるかなって、少し思ったんですけど」
「――――……そんな理由でそんな事しないよ」

「うん。だから、嬉しいなと思って」

 そう言うと、先輩は、はー、と息をついた。


「……そうだよな、取り繕ってもだめだよな…… いい。オレ、ちゃんと自分で話す」
「――――……オレに迫られてるって言ってもいいですよ」
「……ちゃんと、事実、話すよ。掻い摘んでだけど」


 ごくごくごくごく。

 ブラックコーヒー、何やら一気飲みしてるし。


「今日ちょっと飲んじゃおうか、三上」

 なんだかさっきよりだいぶすっきりした顔して笑ってる。


「いいですよ。早めに飲みに行ければ」
「じゃあ仕事頑張ろ」


 吹っ切ったのかな?
 ――――……よく分かんないけど。


 面白いな。
 ――――……かわいーし。




 どう我慢しても、クスクス笑ってしまう。
 
 



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