「今日でやめます」*ライト文芸大賞奨励賞

星井 悠里

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第24話 そういうこと。

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「……でも今更何て言って戻ったらいいのか。あの人、大体、オレの話なんて聞かないし」

 というセリフに食いついたオレ。

「分かる!」
「え、分かる?」

「うちの父さんも、同じ感じ。あー今思ったけど、似てるかも、先生とオレの父さん」
「碧の父親もそんな感じ?」
「オレの話聞かないし、思い込み強いし。うちの親、外交官なんですけど……自分の仕事に誇りを持ってて、それが幸せだと思ってて、オレにもそれをすすめてきて、まあオレはその仕事はしたくなくて。オレがやりたかったことは却下されて、まあもう早々に諦めて……で、別の仕事してたけど賛成はしてくれてなかったし、まあ、疎遠ですよね……海外にいるっていうのもあるけど、日本に居ても、疎遠だったと思うし……」
「――――ああ。似てるね。……父親って、どこも、そんなもんなのかなー」
「人によるだろうけど」

 そう言えば慎吾の親は? と隣の慎吾を見ると。そういえば、慎吾、あの家に一人暮らしだな。おじさんとおばさんは……? あれ?

「言ってなかったけど。両親は亡くなってて。んーと……母さんが中学ん時。父さんも大学ん時」
「そう、なんだ。……なんか、ごめん」
「別にもう結構前だし大丈夫。こればっかりは仕方ないし。……で、陶芸の先生が、ほんとのじいちゃんみたいな人だったんだけど……まあその人も、習ってる間に亡くなった」
「そうなんだ……」
「まあでも。隣にばあちゃんが居たから、助かったな。父さんだけじゃカバーできないとこ、ばあちゃんがいっつも来てくれたし」
「――――」

 そうなんだ。と小さく頷いてると。

「ほんとにさ。……オレにとっては、ほんとのばあちゃんみたいな人だから」
「――――」

 そっか。そうなんだ。……ばあちゃんにとっても、ほんとの孫みたいなもの、なんだろうな。
 ……慎吾が隣に居てくれてよかったな。芽衣も、環も。

「まあ、人の死は、あんま見たくねえよな。……じゃあ、ここで。オレからの教訓を、二人に伝えてやろう」

 慎吾を見た、オレと和史くんを、じっと一人ずつ、見つめながら。

「その時が最後だと思って、大事にすること、だな」

 慎吾の言葉に、オレも和史くんも、言葉は返せず、考えてしまう。


「話したいことがあるなら、会いたいなら、先延ばしにしていいことは無いよ」

 続けて言われた慎吾の言葉に、オレはマジマジと慎吾を見てしまった。

「なんだよ」

 ふ、と苦笑する慎吾に、「……すごく、納得してるだけ」と、うんうん頷いた。
 和史くんも頷いて、けれどまた、ため息をついた。

「オレ、向こうには何でもあると思ってたんだよな……でも、なんか、違った。違ったというか……求めてるものが違った、ていうのかも」
「まあ、先生に全部話すしかないんじゃない? 最初は聞かないだろうけど」

 はは、と慎吾が笑う。

「でも戻ったら、嬉しいだろうし」
「――――そうするかぁ……まあ、温泉に泊まってても、意味ねーなーと思ってたとこだった」

 和史くんの言葉に苦笑しつつ、オレも息をついた。

「オレも同じかも。……諦めてから、もうなんでもいいやって感じで、向こうで生きてたかも」

 そう言ったら、慎吾は、そうか? と笑いながら聞いてくる。

「何? そうかって??」
「オレ、お前がメインで担当して作ったっていう会社のホームページ、いくつか見たんだよな」
「え。何で?」

 びっくりして、慎吾を見つめると。

「ばあちゃんが、見たいけど、携帯だと小さすぎて見えないって言うから、オレのタブレット持ってって、見せてあげたの。そん時、オレも一緒に見てたから」
「――――」

 そういえば、見たいからって言われて、アドレスいくつか送った。けど、ばあちゃん、見れるのか? とか思ってたっけ。すごいね、とは返って来たけど、なんとなく見て、良く分かんなかったんだろうなーとか、思ってた。……あれ、一緒に見てたのか。

「そうそう、そん時、芽衣と環も居たから、あいつらも見てるよ。だから、お前にホームページ作成、頼んでるんだと思うけど」

 ……そうなのか。

「一人でやったんじゃねえんだろうし、会社の要望とかで作ってるんだろうけど、デザインとか、必要なことが見やすい感じとか、いいなと思った」

 ――――思いもかけないところで、褒められてると。なんだかくすぐったい。

「デザインすんの好きって言ってたし。あの仕事も、好きだったんじゃねえの?」
「――――」

 そう言われて、好き……と考える。
 好き、か。

 ……なんとなく受けてなんとなく受かって、まあ給料悪くないし、社員寮あるし、みたいな感じで入ったけど……。
 確かに、最後やめる時、作ってたのが終わったところで、良かった、って思ったな。……喜んでくれた顔。見れた後で、良かったって……そういえば、頭の片隅で、思った気がする。


「はー……何でオレが好きとも思ってなかったことを、慎吾がそんな風に言うのかなぁ……」
「んー? ……つか、でも好きだろ?」
「……うん。まあ。人間関係は好きじゃなかったけど……そういえば、作るのは、好きだったかも」

 そう言うと、慎吾は、ふ、と笑って、だよなーと頷いてる。


 ふと、和史くんが顔をあげた。
 ……なんだか少し、決意したような顔、してる気がする。

「今日、向こう帰る?」

 和史くんの言葉に、慎吾がまた、ふ、と笑いながら頷いた。
 
「帰るよ。タクシー拾うことにしてる」
「オレも一緒に帰っていい?」

 その言葉に、オレと慎吾は、笑ってしまいながら、頷いた。

「旅館から荷物引き上げてくる。戻ってくるから待ってて」
「待っててっていうか、オレらまだまだ居るから、ごゆっくりー」

 慎吾の言葉に頷いて、和史くんは、店を出て行った。


「あ、そういえば、碧」
「ん?」

 慎吾は、元居た席に戻って、オレの前に座りながら。

「連絡先。繋げようぜ」
「……ああ、繋げてなかったか」
「隣だからあんま必要ないけど。まあ一応」

 ん、と。
 繋げてすぐ。環と芽衣の居るトークルームに招待された。

「入っといて」
「ん」

 何の迷いもなく、招待を受けて入ると、瞬間に既読がついて、「あっ碧くんだ!」と芽衣。「ほんとだー」と環。
 早や、と苦笑すると、慎吾も、ほんと、と笑った。

 その画面を見つめながら、オレは、ふ、と息をついた。

「……オレ、グループって嫌いでさ」
「ん?」
「トークグループ。招待されると、入んなきゃいけないのかって、まず考えてた」
「へえ?」

 面白そうに笑う慎吾。

「今考えた?」
「……考えなかった」

「……まあ、そういうことなんじゃね?」

 考えなくて良かった、とか言って、慎吾は面白そうに笑う。




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