「今日でやめます」*ライト文芸大賞奨励賞

星井 悠里

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第27話 現金で可愛い?

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 午前中。久しぶりに、パソコンを開いた。

 ウエブデザインの仕事を仲介するようなサイトを探し始めたのだけれど、結構フリーランスのデザイナーを募集する仕事もあるし、在宅で契約できるところもあるみたいで、しばらくそういうのを検索した。
 自分がどんなサイトを作れるか、実際に作ったサイトとかをまとめたポートフォリオがあった方が絶対に有利ではあるけれど、無くてもできそうでもある。

 ウエブデザインか。仕事を辞めると決めたあの時、もう、この職種とはお別れだと思った。好きとか嫌いとか、そういうのも感じず、ただこなしていた気がしていたけど。

 ……やめてこっちに来てから、好きだったかも、なんて思うなんて。
 分かんねーもんだよな、ほんと。

 芽衣と環が言ってた、こっちの町を集約したみたいなサイト。
 ……色々考え始めたところで、ばあちゃんが料理を始めたので、オレも台所に立った。

 昼。ばあちゃんと作ったおかずとともに、また畑まで歩く。十分とはいえ、暑いし、病気、大丈夫なのかなとも思うけど。楽しそうにしてるし、普通に歩いてるから、行った方が元気になれるのかなと思ったりもする。
 しかも今日は。

「ポメ子ーー」

 慎吾とポメ子も一緒。長すぎるリードで遠くに居るポメ子を、慎吾が呼んでる。
 何でだ? と思いつつも、まあ、ばあちゃん楽しそうだし。ポメ子も楽しそうだし、まあいっかて感じ。

 畑の小屋みたいなところに到着。
 この、半開きの小屋みたいな建物、どうやらちゃんと電気が来てるらしく、今日は扇風機が回ってた。
 おお。ちょっと涼しい。……ていうか、それよりも。

 先生、来てた。
 そして。その隣に。

「あ、和史くん」

 思わずそう声に出ていた。
 昨日初めてちゃんと話したばかりの人とは思えない。会えてこんなに嬉しいとか。不思議すぎる。

 しかも先生の横に居るとか。こんなとこに混ざってるとか。なんだか笑ってしまいそうな気もするのに、なんだか、他人事でなく嬉しいし。

 オレと慎吾は、和史くんを見てから、ふ、と顔を見合わせて、笑ってしまった。
 和史くんも、オレ達を見て、苦笑してる。

 皆にいらっしゃーいと迎え入れられて、なんだかぎゅうぎゅうに座ると、暑いんだけど。でも。なんか暑苦しくてもいいような、不思議な感じ。

 端に座ったオレが、コロコロ引いてきた荷物から食べ物のタッパーを出して、隣のばあちゃんに渡していくと、ばあちゃんが皆の前に、蓋を取って置いていく。
 
「今日はばあちゃん来るか分かんなかったから、少しはおかず作ったの。こっち食べてー」
「ばあちゃんにはかなわないけど」

 なんて、おばちゃんたちが、ばあちゃんに言ってる。
 ばあちゃんの料理は、美味しいって、思われてるんだなーと、また改めて思うと、納得だし、嬉しいし。

 と。

「碧くんの料理もおいしいよね、血ぃ、引いてる感じする」
「小さい頃ばあちゃんの料理食べてたし、味覚が育ったんじゃない?」
「ねー、いいねー」

 なんてこっちにも色々飛んできた。

 ……ばあちゃんの料理を食べてたのは、二年位で、それ以外は、そんなに上手でもない……って、聞かれたら怒られそうだけど……まあ普通に、母さんの料理だったけど。どうだろう、育ったかな?? と首を傾げつつ。

 でも、血を引いてるなら、嬉しいかも。と、つい、ふ、と微笑むと。

 「アン!」と可愛くポメ子が下で鳴いた。

「お。ポメ子、なんか食べたい? ここらへんの鶏肉、水で味おとしてあげようかな。あげて、いい?」

 最後は慎吾を見ながらそう聞いたオレに、ぷ、と笑って慎吾が頷く。「何で笑うんだよ?」と聞くと、「ポメ子って、もうすっかり普通に呼んで可愛がってるから」と返ってきた。

「碧、最初は、ポメ子って安易って言ったじゃん」
「んなこといったって、ポメ子っていう名前つけられてんだからしょうがねえじゃん」
「そうだけど、めっちゃ可愛がってんじゃん」
「つか、可愛いじゃん、綿あめにしか見えない」
「ははっ」

 慎吾の言葉にポンポン言い返してたら、可笑しそうに慎吾が笑って――――ふと気付くと、めっちゃ皆に見られていた。楽しそうに皆が笑う。

「しんちゃんと碧くん、相変わらず仲良いんだねえ」
「久しぶりに会ったんだよね?」

 ……仲良い風に、今、見えたのか? ポンポン言い合ってただけだけど。
 と、言わずに首を傾げていた時。

「――――」

 あ。
 オレは、見逃さなかった。

 先生が。
 ……オレの卵焼きを、食べたところを。

 固まったまま、先生が口を動かしてるのを見てたオレを、ばあちゃんと慎吾が不思議そうにして、そのまま、オレの視線を追ったのも、分かってたけど。動けずにいると。

「先生今、だし巻きたべた?」

 慎吾が、ふ、と笑いながら、普通にそう聞いた。
 あぁ、と先生が答えると。


「碧が作ったやつ。うまいよね。オレ、これ、超好き」

 そんな風に慎吾が言って、笑う。

 昨日、オレの料理食べない、って話してたから、慎吾はもちろん、和史くんも、その意味は、分かってる。

 
 和史くんが帰ってきたその日に、食べてくれるって。
 ぷはは。現金。――――可愛いとこあんじゃん、先生。

 口に出しては言えないけど、ちょっと笑ってしまって、口元を押さえた。
 そうして笑いを少し抑えてから、オレは、鶏肉の味を少し水で落として、手にのせて、ポメ子の前に。

「ほら、ポメ子」

 可愛い顔であむあむ食べてるのを見ながら。
 それでもなんか可笑しくて、ふ、と笑ってしまうのは。

 もう、これ、しょうがなくない? と、慎吾を見ると。

 オレと目があった慎吾も、ふは、と楽しそう。
 で、ばあちゃんも、すごく、楽しそう。




 和史くんと、先生は。
 ……昨日ちゃんと話せたんだなぁ。


 良かった。

 他人事なんだけど。ほんとうに、心から、そう思った。 





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