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揺れる

「声が」*奏斗

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 ――――……クラブに、来てしまった。

 変な飲み物は飲まない。
 リクさんの側に居る。トイレも一人で行かない。

 それだけ決めて、中に入った。

 ――――……いつもみたいに、すごく相手が欲しいとかじゃなかったけど。

 ……なんか。良い人がいるなら、それもいいかなと、思って来たような気がする。
 なんか……。
 ……めちゃくちゃ抱いてくれる人がいるなら、それでもいいかなと。

 ――――……でも実際ここに居ると。
 四ノ宮が浮かんで、危ない人についてったら、心配するかなと思うと。
 ……うーん……。なんか。
 前みたいに、良い男をゲット……みたいな気分になれない。

 ――――……体だけで良かったのに。
 一時、気持ちよければ。
 一時、忘れられれば、すぐ日常に戻れた、のに。

 どうしようもなく寂しい気分の時、オレに熱くなって、抱いてくれる人がいれば、少し救われた。

 ……それで、良かったのに。


「今日はどうしたの、ユキくん」
「……どうしたって何ですか?」

「誰ともしゃべらずここに居るから」
「――――……なんか色々もやもやしすぎて……来たんですけど」
「うん」
「……いざ来たら、なんか――――……気分乗らなくて」
「そっか。……そういう時は、やめといた方がいいかもよ?」
「そう、ですか?」
「うん。経験上」
「……リクさん、こんな感じ、経験ありますか?」

 クス、と笑ってリクさんに聞くと。

「色んな人を見てきた、経験上、ね?」
「あ、なるほど……」

 それなら納得。
 一人頷いていると、お酒を作りながら、リクさんがオレを見つめた。

「……今日、彼は?」

 一瞬考えるけど、リクさんとの間で使われる「彼」は、一人しか居ない。

「……四ノ宮ですか?」
「うん」
「……ここに来るって伝えてないです」
「まあ、そうだろうね、伝えたら、ユキくんがここに居るわけないし」

 クスクス笑われて、オレは俯いた。

「……別に四ノ宮は、恋人とかじゃないんで」
「うん。まあ、そうなんだろうけど」
「――――……オレのこういうの、全部言う必要はないし」
「……うん。まあ、そうだね」

 言いながらも、リクさんが少し首をかしげて苦笑いを浮かべる。

「四ノ宮くんは、全部言ってほしそうだけど」
「――――……」

「ここに居るのバレたら、どうなると思う?」
「……怒るかもだけど……言わないですし」

「そういうのユキくんが隠せると全然思えないんだけどね」

 クスクス笑われて、返答が浮かばない。

「だから、誰のところにも行かないの?」
「……別に、だからってわけじゃ、ないんですけど……」

 リクさんは、ふ、と周囲に視線を走らせてから、オレを見つめ直す。

「ユキくんを見てる人は居るから、その気なら相手はすぐ居そうだけどね」
「――――……」

 ……まあ。
 …………オレ、そういうのは、モテるから。
 ……相手、見つからなかったこと、無いし……。

 でも、気を付けて、て。二回も言われた。
 ……もしかして、分かってんのかなと。
 思ってしまった。

 ――――……あの声が、なんか、残ってる。





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