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ずっとそばに
「出られた記念」*大翔
しおりを挟む出口のドアが開いた瞬間。
眩しさに目を細める。
最後の最後まで固まってしがみついていた奏斗が、やっとオレから剥がれた。
「……やったー!! 出口から出られたー」
わーい、とばかりに喜んでいる。
「うん。良かったね」
「……」
ここで笑っちゃいけないだろうと我慢して、そう伝えると、奏斗は、じっとオレを見つめた。
「お前、実は良い奴なんだな……」
……実は?
…………今までどう思ってた訳? とツッコミ入れたくてしょうがないが。
「ほんとに置いて行かなかったし、迎えに来てくれた時はもう……」
そこで、ふと奏斗が黙った。
「ん?」
「……あ、別に。なんでもない。とにかく、ありがと!!」
奏斗に手を握られて、ブンブン上下に振られる。
……まあ、喜んでて何よりだけど。
「なんか、明るいって、いいよなー」
「足、もう震えてない?」
「……足なんか震えてないし」
……震えてた気がするけど。全身。
「そうだった? まあ手は大分血が通ってきたけど……てか、ほんとに苦手だったんだね。でも、もう大丈夫だよね?」
「うん。大丈夫! だって立って歩いて、出られたし」
すっかりご機嫌。
「良かったね」
笑いながらそう言うと、奏斗はふっとオレを見上げた。
「……ごめん、オレ、すっごいぎゅー--って掴んでたよね」
「いいけど……」
思い出すと吹き出してしまいそうだけど、オレはなるべく普通にそう言った。
「痛くなかった?」
「まあ……ちょっとだけ、痛かったかな」
「ごめん」
結局クスクス笑ってしまうと、奏斗も苦笑い。
「でも、ありがと。……一人じゃ無理だったけど、歩いて出口から出られたってだけで嬉しい」
「……それは、良かった」
いっこでも、余計なトラウマなくなって、ほんと良かった。
「じゃあ今日は、お化け屋敷出られた記念日ってことで」
「え、何それ」
「あとでお祝いしよ。夕飯どうする? ここでいい?」
「んー。夕飯はここがいいなあ。だって、夜の観覧車、乗りたいから」
「いいよ。レストランあるからそこで食べてお祝いしよ」
「なんのお祝い……」
「奏斗がお化け屋敷出られた記念。毎年、お祝いね?」
「ほんと、何それ」
クスクス笑いながら、奏斗はオレを見上げてくる。
でも嬉しそうなのは、分かる。
「何年か後には、奏斗が一人で出口まで来れたらいいね」
クスクス笑いながら言うと。
「それは、何十年後かもしんないけど……」
ぼそ、とそんなことを言うから、可笑しくてならない。
「どこのレストランで食べる? ファーストフードとかじゃないちゃんとしたとこ行こうよ。パンフ貸して?」
「ん」
鞄からパンフを出して、オレの前で開く。
「いくつかレストランあるよね。こことかは? 行ったことある?」
「前、中高校生だから。ファーストフードとかしか行ったこと無いよ」
「どこがいいかな?」
そう言って、メニューを見ながら考えていると。
「ほんとに、そんな記念日お祝いする気でいんの?」
「そうだけど?」
当然、と返すと、奏斗はめちゃくちゃ苦笑い。
「変なやつ……」
言いながらも。ふ、と笑って、オレを見上げる。
「……まいっか。嬉しいから」
「――――ん。そだね」
嬉しそうに微笑んでるのを見るとね。
どうしても。
抱き締めたくなって、ほんと、困る。
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