【チェンジ!】本編完結 -双子の弟の体で、幼馴染に抱かれるとか意味分かんない-

星井 悠里

文字の大きさ
2 / 8

第2話

しおりを挟む


「んなこと言っても、約束してんのに行かなかったら……」

 そこまで言って、翼はふと口をつぐんで、少しの間、黙った。

「……あー……ちょっと待って。つか。これ面白いかも……」
「え? 何?」

 何が面白いんだよ。
 もうほんと。双子って言ったって、性格は全然違う。

 翼は、いつも自由だ。
 ほんの少ししか生まれ時間が違わないのに、なんとなく兄として生きてきたオレは、大分まじめで、翼みたいに自由には居られない。

 こんな時に、面白いとか言えてしまう、心の余裕みたいなのが、ほんと羨ましい。

「……ワクワクしてきた。どーにか動くかも……なあ、翔?」
「なに?」

 翼の言うこと、意味が分からない。ワクワクって……。

「なあ、翔。オレの顔で涼真んとこ行ってよ」
「……お前、涼真と何の約束なの? こんな時に行かなきゃいけないような用事なの?」
「行けば分かる」
「ゲームするとかなら、もう、また別の日にしてもらえよ、頭痛いとか、言えばいいじゃん」
「無理。大事な用事なの」

 言い切られて、一旦口ごもり、オレは首を傾げる。
 
「……でも、オレ、しばらく涼真と会ってねえもん。分かんない話されても、無理だよ。大事な用なら、なおさら、違う日にした方がいいよ」
「話するっつーか……大丈夫。行って、全部涼真に任せればいいから」
「任せる?」
「そう。涼真の言う通りにしてればいいから」
「何を?」
「だから、行けば分かるから。お願い、行ってきてよ、兄貴」

 ……兄貴。
 いつもは翔って呼ぶくせに、こんな時に限って、そんな風に呼んでくる。
 ずるいなー、もう。
 そして、オレは、ずるいの分かってるのに、翼を、無下に出来ない。

「つかもう……どうなっても知らないからな」
「んー。うん。まあ。多分平気」

 もーなにが平気なんだよ。さっぱり分かんない。

「……とりあえず行って、話してくればいい? 分かんない話になったら、頭痛いって言って、戻っていい?」
「ん。まあ。任せる」
「じゃあいいよ。一回行ってくる。そのかわり、翼、この事態がどうにかなるまでは、家にいてよ?」
「ん。分かったって」

 頷いてる翼に、ため息をつきながら、オレは玄関に向かう。靴を履いてるオレに、翼が、やけに静かな声で「翔」と呼んだ。

「ん?」
 靴を履き終えて振り返ると、じっと見つめられる。

「オレと涼真の関係、絶対壊さないでよ?」
「……??」

「分かった?」
「……どういう意味?」

「涼真の言う事聞いてれば、楽しく用事も終わるから」
「……全然分かんないんだけど」

 ――――昔は、オレと涼真の方が仲良しだったのに。

 中学の途中から、涼真がオレから距離を置くようになった。そして、高校が離れて、全然遊ばなくなった。
 オレは、彼女が出来て、そっちと会うのに忙しくなった。

 そしたら、ここ二カ月位からかな。
 ふと気付いたら翼が、涼真の所に通うようになっていた。急に仲良くなったみたいで。なんか疎外感。

 涼真と昔はよく一緒に居たのになと、切ない気もするけれど。
 成長って、そういうことだと納得するしかなかった。
 いつまでも隣同士だからって、仲良く居られるとは限らないし。そもそも、涼真が、オレと距離を置いたんだし。

「なあ、翔、聞いてる?」
「……あ、うん。聞いてるよ」

「今、翔が入ってるのはオレの体だから! そこ忘れんなよ? オレに何があっても、翔には関係ないんだからさ」
「……全然、意味わかんない」

 ほんと意味が分からない。
 分からないオレがいけないのか?

「まあまあ、いいから。翔、行ってきて」
「もう、ほんとに話あわなくてバレそうだったら、帰ってくるからな」
「だから。オレと涼真の、築いてきた関係、壊さないでよ。いい?」
「…………」

 何だよそれ。

 築いてきた関係って。

 ……お前ばっかり、涼真と仲良しみたいな。
 …………なんかムカつくけど。

「あ、翔、スマホ貸して」
「ん」
「暗証番号は? 前のまま?」
「うん」

 翼は何を考えてるのか、オレのスマホから、自分のスマホに電話をかけた。自分で電話を受けて、その繋がった状態で、玄関の棚に置いてあった小さな鞄にオレのスマホをしまった。

「なに、このままつなげとくの?」
「そう。入ったら、涼真の机にこの鞄、置いて」

「盗聴みたいで、いやなんだけど」
「――――オレが本来する会話を、オレが聞くだけじゃん。それに今度涼真と会う時、話が合わないと、嫌だし」
「ああ……そういうことか……」
「だから、盗聴ではないでしょ?」
「……まあ、そうか。……非常事態だもんね。分かった。じゃあこのまま繋いどく」

「ん。翔」
「うん?」

「何があっても、オレは、全部納得済み」
「……は?」

「オレ涼真、大好きだからな。絶対、大事にしてきて」
「――――」

 何それ。大好きって。
 ――――大事にって。

 ……オレの方が。仲良かったのに。
 ――――いつから、そんなに、仲良くなった訳。


 ああ、なんか
 むかつくな。

 翼に対して、こんな事思うの、珍しい。


 ――――オレはため息をこらえながら、翼と繋がったままのスマホが入った鞄を手に、隣の涼真の家に向かった。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。 そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。 はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。 優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。 「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

処理中です...