「王子と恋する物語」-婚約解消されて一夜限りと甘えた彼と、再会しました-✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

文字の大きさ
18 / 112
第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

6.未練と混乱

しおりを挟む

 春樹たちの視界から消えただろう瞬間から、私は益々早歩きになって。
 校舎の裏の、ある場所に向かう。

 すごく大きな樹があって、誰も来ない場所。
 落ち込んだ時に、気持ちを、静めるための場所。
 高校生だった頃から、何回か、この樹の下に、来た。この樹の裏側に入れば、誰にも見つかる事もなかった。

 教育実習の時も、何度かここにお世話になったっけ。
 春樹と一緒にここの先生になってからは、千里も居たし、ここには一度も来てなかったのに。来ずにすんでいたのに。

 久しぶり。この樹。大きな幹に手をついて、はあ、と息をつく。

 ……昨日は、素敵な夜だった。琉生は、春樹より、素敵な人だった。
 声も顔も体も良くて……上手で、ほんとに――素敵だった。
 おかげで、私は、昨日、泣かないで済んで。
 今も、彼の前で、かなり冷静に、平常心を保てた。
 浮気相手のあの人の前でも、笑顔を作れたし、何とか普通にやり過ごした。
 振った翌日に、元恋人の前で、別の女を見て、目くばせみたいなことをする、とか。思ったより普通だな、みたいな顔をする、とか。正直、最低だと思う。もう、今の春樹には、未練は、ない。

 そんな人だったんだ。
 そんな人と、人生、ずっと歩むことにならなくて、良かった。
 そんな風に、今、思ってしまってる。……残念だけど。

「はー……」

 だけど、今まで、もう何年も一緒に居た、思い出の中の春樹には。
 なんだか理性が通じない、どうしてもまだ残ってる感情ががあるみたいで……。

 楽しかった記憶が、まだたくさん、浮かんでくる。

 私を好きだった、春樹の優しい言葉や笑顔が、浮かんで。
 でも、さっきの春樹とは、重ならなくて。混乱する。

 多分、私を一番に好きだった春樹は、もう居ないし。
 私が好きだった春樹も、もう居ないし。

 あそこに居たのは、池田先生を一番に好きな、春樹。

 ……分かってるんだけどなあ。ちゃんと。

 私の目の前で、春樹の側に立って、春樹の隣から、
 私を見た、池田先生。

 悔しいけど――私はあの子に負けたんだなあ。

「……っ」

 泣くな。メイク、崩れる。せっかく綺麗にメイクしたんだし。あと十分位で、朝礼が始まってしまうんだから。またあの二人にも会うんだから。絶対泣くな。
 唇を噛みしめる。
 その時。背後に人の、気配。

 ……まさか、春樹? ついてこられた? 
 とっさに、泣きそうな顔なんて見られたくない、と思った瞬間。

「琴葉?」

 涼しい声で、そう呼ばれて。
 でも、春樹の声じゃない。

 一瞬悲しいのも忘れて、誰?と振り返ったら。

「……大丈夫?」

 ふ、と笑うその人は。

「る、い?」

 驚きすぎて。

 その名を呼ぶ声も、掠れて。
 ただ、呆然と、目の前の顔を、見つめてしまった。



しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

授かり婚〜スパダリ社長が旦那様になりました!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
授かり婚〜スパダリ社長が旦那様になりました!!〜

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

卒業まであと七日。静かな図書室で,触れてはいけない彼の秘密を知ってしまった。

雨宮 あい
恋愛
卒業まであと七日。図書委員の「私」は、廃棄予定の古い資料の中から一冊の薄いノートを見つける。 「勝手に見つけたのは、君の方だろ?」 琥珀色の図書室で、優等生な彼の仮面が剥がれ落ちる。放課後の密室、手のひらに刻まれた秘密の座標、そして制服のプリーツをなぞる熱い指先。日曜日、必死にアイロンを押し当てても消えなかったスカートの皺は、彼に暴かれ、繋がれてしまった心と肉体の綻びそのものだった。 白日の下の教室で牙を隠す彼と、誰にも言えない汚れを身に纏う私。卒業証書を受け取る瞬間さえ、腰元に潜む「昨日の熱」が私を突き動かす。 清潔な制服の下で深まっていく、二人にしか分からない背徳の刻印。カウントダウンの果てに待つのは、残酷な別れか、それとも一生解けない甘い呪縛か――。

メイウッド家の双子の姉妹

柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…? ※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。

処理中です...