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第3章「一人で実家帰りと思ったら」
5.人気出そう。
しおりを挟むていうか、ダメだな、こんな良く分からないフワフワな気持ちでここに居ちゃ。
先生なんだから。
「あの清水先生、そういうの、冗談でも学校では……」
「あ、すみません。冗談、ではないんですけど」
苦笑しながら言う琉生に咄嗟に答えられずに黙ると、更に琉生は苦笑い。
「ここから教師モードで、学校出るまでは頑張ります」
そう琉生が言ったところで、目の前の席に板倉先生が座った。
「おはようございます。どうでしたか? 昨日の授業の練習は」
そう聞かれて、琉生が「ちょっと緊張しました」と笑ってる。そうなんだ?と笑う板倉先生に私は。
「スムーズに終わっちゃってびっくりでした。時間配分とかも良くて」
「あぁ、得意だよね、清水先生は」
「……得意なんですか?」
「生徒会とかもやってたし。人前で話すのも慣れてるだろうし」
「あ、そうなんですね……」
そうなんだ。道理で、と頷くけど。
……生徒会なんてやってたんだ。目立たないようにって言ってたのに。と少し気になる。
「でも、緊張しましたよ」
「ふうん? 珍しいね?」
そんな風に不思議そうに聞かれて、琉生は「僕、結構緊張しますけど……」と答えて笑ってる。
「とりあえず今日、担任のクラスで一度、清水先生に授業をしてもらおうと思ってて」
「良いですね、どんどんしてもらってください」
板倉先生がクスクス笑って「頑張って」と琉生に言ってる。ふと、思いついて。
「あ、そうだ、清水先生。出席取りますか?」
「良いんですか?」
なんだかすごく楽しそうな笑顔を向けられる。
「出席って、先生っぽいですよね。やりたかったんです」
楽しそうに言う琉生に、板倉先生や、ちょうど入ってきた周りの先生たちが、分かる分かると笑ってる。
そうなんだ、やりたかったんだ。
なんだかほんとに嬉しそうで、微笑んでしまう。
「出席簿のここのところ。欠席の子だけ印をつけます。とりあえず朝居ない子は斜線。斜線は遅刻の意味で、帰り迄いなかったら×にします」
「なるほど……分かりました」
「ちなみに名前を覚えたら、一人一人の出欠は取らずに、席が空いてる子のチェックだけするんでけど、それまではフルネームで呼ぶことにしてます」
「了解です。あと何か気を付けることありますか?」
「うーん……フリガナがふってあるんですけど、小さくて読みにくいので、読み間違えないように、ですかね」
「分かりました」
そんな会話をして、予鈴で、教室へ。
私は朝の挨拶だけ済ませると、生徒たちに向けて、「今日の出欠は清水先生がとるので、顔を清水先生に見せてあげてくださいね」と伝えて、チェンジ。
私は教壇を降りて、窓際の机の椅子に腰かけた。
すぐに教壇に立って、出欠を取り始めた琉生は、全然緊張とかは見えない。うろたえることもないし、落ち着いてるし、聞こえやすい声で呼んで、目が合うと、そのたび微笑んでる。
……ほんと、人気出そう。
女の子だけじゃなくて、結構男の子の反応も好意的だもんね。
やっぱり、新任の時の私とは、かなり違う。私は全然落ち着いてなくて、毎日ただ一生懸命すぎたような気がする。毎日時間が経つのが速くて、え、もう放課後?っていつも思ってたっけ……。
琉生を指導するのは、すごく楽させてもらっちゃいそうな気がする。
私を指導した、桜井先生は大変だっただろうなあと、三月いっぱいで実家の方に帰ってしまった指導の先生を思い出す。私立の学校に採用されたって連絡が来てたっけ。お姉さんみたいで優しいし、頼りになるし、優秀な先生だったから、心配はしてなかったけど、ほんと良かったなあ……。
そんなことを考えながら、琉生の出欠確認が終わるのを見届けた。
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