「王子と恋する物語」-婚約解消されて一夜限りと甘えた彼と、再会しました-✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第4章「先生としてって言ったけど」

12.くすぐったい

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「琴葉、手、貸して?」
「手?」
 言われるまま差し出すと、きゅ、と握手される。なんだろ、と思うと。

「絶対助けるってことで――よろしく」
 そんな風に言って、手を軽く上下に振るので、ふ、と笑ってしまった。

「うん。よろしく」
 その手を、きゅ、と握り締めてから、手をそっと離した。

「とりあえず私は、先生として、琉生先生、サポートするからね」
「うん。まあ当分は、それもお願いします――あ、でも」
「?」
「それ以外も、少しでいいから意識してほしいけど」

 楽しそうに瞳を細める琉生に、なんだか、ドキッと心臓が揺れた。

 ――――なんだか、こんな風にドキドキするのって……今まで、あんまり無かったなぁ。
 ドキドキして狼狽えたり、なんか私結構大人のつもりだったけど……慣れてないみたい。

 春樹と居る時とは違うかも――出会いからドキドキだったからかなぁ。

 楽しいな。……琉生と居ると。なんだか胸が弾む。年甲斐もなくって、こういう時使う言葉かな。

 ――――少しでいいから意識、かぁ。

 サラダを食べ始めて、おいしい、と微笑んだ琉生に頷いて、私も食べ始める。

 意識はすごくしてる。だってそもそも王子さまだと思ったくらいで。あんなことしちゃって。……実家まで来てくれちゃって。もう出逢ってからずっと、好きなとこしか、ないんだもん。……こんなふうにドキドキするのとか、あんまり記憶になくて……。
 でもきっと、この人は、誰にとってもそういう人なんだろうなって。
 さっきの女の子たちの、「誰にでも優しいから勘違い」とかいう言葉が、なんだかひっかかってる。
 誰にでも口説いたりする人だなんて、思ってないけど。

 ……昔の私に助けてもらったから。っていうのが、ほんとにそういう意味の好きになるんだろうか、みたいなのは
思うし。感謝してくれてるのも、そこから頑張ってきてくれたのも、嬉しいなとは思うけど、それって、一応、私先生の立場だったし。
 あまり人と絡まないようにしてきた思春期の男の子が、ちょっと年上の先生に感化されたっていう話しなような……。

「琴葉、ピザ切っていい?」
「あ、うん」
「オレ、このクルクルするの、好きなんだよね」

 そんな風に言いながら楽しそうにピザを切り始める琉生に、ごちゃごちゃした思考は吹っ飛んで、ふふ、と笑ってしまった。

「分かる。楽しいよね」
「あ、分かる? 良かった」

 琉生も楽しそうに微笑む。

 ――なんかこういうのって、私が切って当たり前だと思ってたから……こんな風にしてくれる琉生のことが、なんか。……好き、だなあと。こんな些細なことで、またひとつ、思ってしまった。

「このサラダ、ちょっとのってるポテトサラダがおいしいね」

 琉生が微笑んで言うので、「そうでしょ」と嬉しくなる。

「真似て作ろうと思うんだけど、なんだか少し違うんだよね。何か隠し味みたいな……」

 うーん、と考えていると、琉生がひと口食べて、んー、と考えてる。

「ちょっと甘いよね?」
 私が言うと、あ、と琉生が微笑む。

「はちみつは?」
「あ。はちみつ。――そうかな。もしかして。入れてみるね」

 はちみつかぁ。そうかも!

「琉生、凄いね。私、何回も食べて、作ってみてたのに」

 そう言うと、琉生は嬉しそうに、にっこり。

「先輩のバーはさ、結構ちゃんと作るんだよね、先輩がレトルトとか嫌いで。だから、料理の腕は上がったから、バイトして良かったと思う。おいしかったでしょ?」
「うん。おいしかった。私、今度はちみつ入れて作ってみるね。作れたら嬉しいな」
「うん。出来たら食べたい」
「あ、じゃあ、学校に持ってくから、お昼のおかずに食べてもらおうかなぁ」

 ふふ、と笑ってそう言うと。

「琴葉、料理上手そうだよね」
 にっこり笑って瞳を細めて、すごく楽しそうに言う琉生が何だか、キラキラ眩しく見える。
 また少し、ちょっとドキドキしながら。

「普通だよ。ていうか、琉生の方が上手そうって今思ってるけど」
「職場にお弁当作ってくる人って、絶対上手だと思うんだけどなぁ。実家のお母さんたちの料理も、美味しかったから」
「あ、それは嬉しい。でもどうだろ、普通かなぁ」

 春樹とか、お弁当作ってっても、別にそこまで褒めてくれたこととか無かったし。やっぱり普通だよね。なんて、ちょっと寂しい記憶を思い出してしまっていたら。

「琴葉の手料理、いつか食べれたらいいな」
「手料理……?」
「いつかね。いつか」
 ふ、と悪戯っぽく笑う琉生。あるかな、機会、と思いながら。

「うん……いつか、なら」
「うん。それ、楽しみに生きる」
「楽しみに生きるって……とりあえずポテトサラダ、うまく作れたら。それは琉生のおかげだから。ぜひ味見してほしいかも」
「やった。楽しみ」

 嬉しそうに笑う琉生に、クスクス笑ってしまう。
 可愛い、なんて思ってしまって、そんな自分の感情が不思議でくすぐったかった。




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