平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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3巻

2_未来も運命で決まっているので足掻くだけ無意味 ①

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    ――――※ 本話は新山視点でお楽しみください ※――――

 まぶたを開ける。
 身体が暖かいと思ったら窓から光が差して俺の身体を照らしていたと気づく。
 残暑が残る九月。まだまだ日々の気温は高く、汗ばむ陽気だ。
 今日もはじまる、ロクでもない俺のロクでもない学生ライフ。外の気候と打って変わって俺の学生ライフは年中極寒ごっかんだぜ。ほんっとしょうもない。

「よっ。お目覚めだな」
「………………」

 しかし、布団から起き上がった瞬間、いつもと違う事象が発生した。
「おざまっすー、鷹章」
「………………」
「なんか言ってくれよな~」
 眼前には見知らぬ成人男が立っている。年齢は三十代後半くらいか……?

「……いやっ!? だっ、誰ですか!? 不法侵入っ!!」

 謎の男に話しかけられて思わず飛びずさった。
 面識のない大人が俺の部屋にいるんですけど!? 朝チュン……じゃなくて、ええっと――100……!
「おいおい、落ち着きなって。あまり騒いでくれるな」
 慌てふためく俺とは対照的に目の前の変な大人は落ち着ききっている。まるで自分が住んでいる家のように。
 謎の大人は俺からスマホを取って発信を取り消した。
「俺は二十年後のお前、新山鷹章だ」
「二十年後の、俺……?」
 つまり四十歳の未来の俺が現在の俺とコンニチハ――……?
 眼前にいる未来の俺を名乗る男は四十の割に幼い顔立ちをしている。俺はいくつになっても童顔らしい。
「……おやすみ」
 疲れが抜けていないようだ。こんな時は二度寝に限るね。
「おいおい、二度寝なんかしたら遅刻してしまうぞ」
「それはまずいっ!」
 がばっと起き上がり、スマホで現在時刻を確認する。
「……今日、土曜日じゃん」
 俺が通っている県立近代きんだい技術ぎじゅつ短期大学は土日祝日休みだ。どんなに成績不振で課題が終わらずとも土日の登校はない。学生の特権だね。
「はは、おかげで目が冴えたんじゃないか?」
「おかげさまでバッチリだわ……」
 おかげさまというよりもアンタのせいで、と表現した方が適切だけど。
「で、未来の俺をかたるあなたはどちら様?」
 コレが未来の俺……? 確かに顔は似てる気もするけど、単なるそっくりさんの可能性も……。
「歳の差ドッペルゲンガーでもなんでもなく、残念ながらマジで未来のお前なんだよ――ほれ」
「はぁ」
 手渡されたのは社員証だった。氏名、生年月日――俺と同じ。
「同姓同名のそっくりさんって可能性も――」
「お前には平原圭ってソウルメイトがいる」
「……うっわぁ」
 ソウルメイトじゃないけど令和の疫病神こと平原を知ってるということは……。
「マジなのか……」
「これで信じてもらえたかな」
「そう、ですね」
 もはや否定する材料がない。クソ野郎の平原の名を出されて納得する俺もどうかしてるが。
「これは、なんの会社だっけ……?」
 どこかで聞いたことある企業名だ。
「倉庫の会社だ」
「……あーっ! あのグループの会社か!」
 思い出した。大元は東証一部上場企業のグループ会社の一つだ。
「名目上は事務職だけど、事務と現場両方やってるよ」
「よくこんなところに新卒で就職できたな……」
 短大でITを勉強してるのに物流業界にいるのが謎だけど。倉庫でバイトしてたからか? ひとまず無職ではなくてほっとしておりますです、ハイ。
「いんや、転職だぜ。それまで紆余曲折うよきょくせつあるけど全部伝えるのは野暮だ。確定してる未来をひたすら暴露してしまえば人生の楽しみが激減してしまうからな」
「元より人生楽しくないけどね……」
 紆余曲折うよきょくせつって一体何が起こるのだろう。ただでさえしょーもない人生なのにこれ以上不運なイベントが起こるのは勘弁してほしいんだけど。自身の不幸を楽しめるわけがない。
「ところで読者に失礼じゃないか?」
 いや読者って。こんなチープな作品を読んでくれてる猛者もさなんて存在するのかよ。いたとしたらそれは神様仏様読者様だな。
「なにが失礼? あとメタ要素……」
 俺の台詞のどこに失礼なフレーズが?
「どっちの台詞か考えさせるのは読者に負担を強いることになる。もっと分かりやすく会話するべきだ」
「……確かに」
 未来の俺と今の俺、どっちの台詞かイマイチ分かりづらい。至極もっともな指摘だ。
「じゃあ俺はあなたに敬語を使います」
うやまわれてしまうとは照れちゃうなぁ」
うやまってるから使ってるんじゃないわ」
 読者がどっちの台詞か区別をつけやすいようにしたに過ぎないんだわ。
 俺って第三者から見てこんなウザいことばかり言ってるの? ちょっとショック。
「ほら、敬語敬語」
「はいはい。まったく……」
「『はい』は一回でよろしい」
「はーい」
「伸ばすな!」
「……ハイ」
「親の顔が見たいよまったく!」
「あなたの親ですけど??」
 俺は未来の俺に敬語で話すことにした。自分自身とはいえ、一応は人生の先輩だから。
「で、なぜに過去までやってきたんですか?」
「すぐそうやって本題に入ろうとする。まずは何事にも雰囲気作りが大事だぞ」
 男同士の会話に雰囲気を作る必要性がどこにあるんですか?
「この家も懐かしいな……そうだ」
 俺の部屋を見回してからひらめいたとばかりに口を開く。
「せっかくだから他の場所も一緒に練り歩こうか」
「えぇ……」
 今日はひたすらネットサーフィンするつもりなのに面倒な。
「たまには日光浴びようぜ」
「浴びてますよ。外も出てます」
 部屋にいても浴びれるんですよ。この部屋のカーテンには遮光効果がないから。
 こうして俺は未来の自分とともに黒歴史満載の母校巡りをすることに。

    ♪

「あの……一応聞いておきますが、恋人の方は?」
 家から保育園までは農道を徒歩で約十五分。
 道中で気になっていたことをたずねてみた。
「あぁ、心配には及ばない」
 未来の俺はニッコリ微笑んだ。
依然いぜんいない歴=年齢の童貞だよ」
 未来の俺はニッと笑って笑えない事実を口にしてきた。
「予想通りで捻りがないですね」
 でしょうね。しかし不思議とヘコまずにいられる自分がいる。……末期だな。
「確定してる未来だ、仕方ないさ。無駄なあがきはオススメしないよ」
 無駄ならあがいてもしょうがないよね。
「一つだけ安堵あんどしてくれ」
「はぁ」
「男とも怪しい関係にはならない」
「マジで安堵あんどしましたよ」
 しょうもないネタを放り込んでくるのかと身構えてたけど本当に安心しましたよ。同性愛を否定はしないけど、俺は女にしか性的興奮を覚えない。これからだってずっとな。
「そうか……こんな感じだったっけ」
 俺たちは母校の保育園に辿り着いた。
 土曜日なので誰もいない。さすがに園内は施錠されていて入れないけど、校庭から見る景色だけでも昔の記憶がよみがえってくる。
「ははっ、保育園時代は友達もいなくていじめられてたなぁ」
「そうですね」
 この頃の俺は同級生と折り合いが悪く、いつも妹とばかり遊んで泣かせていたっけ。妹は俺とは対照的に友達に囲まれていた。
 ある程度眺めたのち、俺たちは小学校へと向かった。

「おーっ、俺の時代とあまり変わってないな」
 小学校の校庭に到着。校庭では地元の少年野球チームが守備練習をしている。
「四十になって小学校に行く機会があるんですか?」
 同窓会かイベントか? ロクに楽しい思い出もなかった小学生時代だったのに。
「一度だけぶらっと行った。用事はなかったけど」
「不審者じゃないですか……」
 未来の俺もプライベートは充実していないようだ。
 あと普通なら過去と比較するところを未来と比較するのは新しいな。
「ははっ、小学生時代は友達もいなくていじめられてたなぁ」
「保育園時代に引き続き、ですね」
 小学校に上がってすぐに学年でも屈指の問題児クソ野郎に目をつけられて毎日泣かされてたっけ。しかも学校側も嫌がらせのつもりかそいつとは六年間ずっと同じクラスだった。
「よし、じゃ次は中学校に行こう」
「別にいいですけど、楽しいことなんか何一つないですよ」
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