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君の変化

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その日、夕食を終えたリーシュをロジーは呼び止めた。
「リーシュ様、お喜び下さい!ユージュアル様がコチラにお戻りになるそうです」
「ユージュアルがですか!?お仕事は大丈夫なんです!?」
「はい。お仕事の関係で、当分コチラで過ごす様です」
「そうですか」
リーシュは窓から景色を見た。
シャズが屋敷に来たのは春の終わりかけ、ニトアとビトリーが泊まったの真夏の休日
季節はいつの間にか太陽が落ち着きはじめている。今年は特に色んな事があった。
まだ胸が痛いけど、シャズはまだこの屋敷で働いている。いつか本当の意味で離れなくてはいけないのだろうが、今はまだこの先輩後輩であり、雇い主と従業員でもある不思議な関係を続けたいとリーシュは願った。

以前のようなじゃれ合いこそ無いものの、学校でシャズはリーシュをただの仲の良い後輩として扱っていた。お昼休みどうしようと考えていたリーシュはとても嬉しかったが、以前とは違う見えない壁を感じて切なさで泣きそうになったが、側にいる事を許されているだけマシだった。エンスも加わり仲良く一緒にお昼を過ごしている。
エンスはとてもしっかりしていて、リーシュが言葉に詰まるとフォローしてくれたり、からかわれていると、逆にからかい返したりして、リーシュは間違えてお姉さんと呼んでしまう程仲良く過ごせている。
リーシュはシャズと知り合う以前より、ずっと学校が楽しくなった。



街の木々が紅葉を始めようとしている頃、学校から帰り、家の中に入ったリーシュはいきなり抱きしめられた。一瞬シャズかと思ったが、優しい声と懐かしい匂いがして気づいた。
「リーシュ!久しぶりだね!元気だったかい!?」
「ユージュアル!お久しぶりです!」

そこにタイミングよくシャズが帰ってきた。どうやら知り合いらしい。それも、かなり親しく見えるが、庭のここからだと声は聞こえない。
「リーシュ様の婚約者で、幼馴染のユージュアル様です」
ロジーがいいタイミングで話しかけてきた。
リーシュに婚約者がいる事はもちろん、あんな風に気を許せる相手がいた事に少々驚いた。
「だからか、最近ポークスのおやっさんがスゲ~ソワソワして、張り切ってたのは」
「シャズさん?お顔が怖いです」
「俺は元々目つき悪りぃよ!」
「存じてます。しかし、
「うるさい」
「アイツ、一番嫌いなタイプだ」
「お話をされていないのに決めつけるのはいかがなものかと」
「第一印象だよ」
いやにも爽やかで、キラキラオーラ背負って好青年に見えるけど、全く隙が無い。常に仮面を被ってるような感じだ。
「アイツ、絶対腹黒だぜ。ついでに策士」
「確かに、策を張り巡らす方ですが、はらぐろ?とはどういう意味ですか?」
「ロジーは、本当に世間の言葉に弱いな」
「ち、知識なら負けませんよ!?」
「ハイハイ」
ロジーとのやりとりでイライラはおさまった。
リーシュとユージュアルは和かに話している。俺は純粋に思った。アイツは嫌いなタイプだけど、2人はお似合いだって

「元気そうで驚いたよ!僕のお姫様はもっと儚い雰囲気だったからね」
「ちゃんとご飯食べられるようになったんです!」
「手紙にも書いていたねシャズさんって何処にいるの?」
「まだ会えないと思います。ユージュアルがいけないんですよ!?予定より随分早いじゃないですか!」
リーシュは少し睨む。
「つれないね~、急いで仕事を切り上げて会いに来たのに、僕に早く会うより、シャズ君がバタバタするのが嫌なの?」
「もう!ユージュアルもヒドイです!」
「も、ね」
「?さ、早く中でお話しましょう!」
「・・・・・・」
リーシュは屋敷の中へと誘うが、ユージュアルは動かない。ポカンとしているようだ。
「ユージュアル?」
「嫌、明るくなったなぁ、と噛み締めていたんだよ。君が僕の手を引いて前に立つなんて考えられなかったから」
「そうですか?」
「うん。是非ともシャズさんに会いたくなったよ」
「ハイ!とっても美味しいんですよ!」
リーシュは手を引いて微笑む。
「まるでその言い方だと彼を食べるみたいだね」
「んもう!ユージュアル!」
ユージュアルは口元を隠して、身体を震わせて笑った。リーシュは少し赤くなりながらユージュアルを揺さぶっていた。


「さ、お急ぎください!ポークスがろくろ首になってしまいますよ!」
「はいはい」
珍しくリーシュより早く終わった俺は、真っ直ぐ帰ろうとしたが、ポークスの親父さんに買い出しを頼まれて、帰ってきたところだった。リーシュにあんなに仲が良い奴がいたなんて意外で足が止まってしまっていた。気が進まないけど。
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