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なんとなく捨てないタオル

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僕は間違っていない。正しいのは僕だ。なのに、どうしてこんなにも僕は孤独なんだ?あんな風に助けてくれる友人と呼べる人、僕にはいない
ユージュアルはビトリーの前から去った後、ぼんやりと考えていた。
雪になりきれなかった雨が降り出してきたが、迎えを呼ぶ気にもなれず、壁にもたれて空を見上げて目を閉じ、しばらくそのままでいた。今はなんとなく雨に打たれていたい気分だった。


一度帰って、バイト先へ向かう夕方の道。エンスは傘をさして歩いていた。風が無い日のしとしとと降る冬の雨。
大好きなロングブーツに、こだわって買った傘を早く使いたくて随分と早めに家を出てしまった。
少し浮かれていつもの道を歩く。少し遠回りしようと見上げると、見かけた顔があり驚いた。
傘もささずに、雨に打たれ、目を閉じて上を見上げている姿はそこだけ時が止まっているみたいだった。

「そんなところで何をしてるのかしら?」
「・・・キミは、エンスだったかな?」
「質問しているのは私なんだけど?」
「・・・別に、何もしていない」
「あら、じゃあ修行でもしてるのかしら?」
「・・・何がいいたい」
「この雨の中、傘もささずに打たれているんだもの。あまりにも絵になっているから雑誌や映画の撮影でもしてるのかと思ったわ」
「・・・っ!」
「あら、真っ赤。以外にからかいがいあるのね。かわいい所あるじゃない」
「ほ、ほっといてくれ!」

シャズがユージュアルを腹黒だと言っていたが、仮面を被っているだけかもしれない。いや、被らなければならなかったのだろう。
「・・・」
「な、何だよ!急に黙りこくって!ホントに掴めない女だな!・・・その目はまさか、僕を憐れんでいるのか?」
「えぇ、そうかもしれないわ」
「フン!キミに同情されるなんて驚きだ」
「ふふ。ソレが貴女の本当の顔なのね」
「いったい何だ!さっきから!はっきりと言え!」
「貴方、さっきまで辛かった時のシャズ君と同じ目をしてたわ」
「僕とアイツが同じ?変なこと言うな!」
「・・・愛を知らないで、愛に飢えている目よ。貴方も孤独に育ってきたんじゃないかしら?」
「し、知った口を聞くな!」
こんな女に僕の何がわかるって言うんだ!強がりだと自分では理解しているが、知られたくない。
知られてはいけないと言われてきた。

「あら、見に覚えはない?」
「お、お前には関係ないだろ!?」
「ええ、そうね。私はシャズ君の幼馴染で、リーシュちゃんとはお友達なだけで、貴方には関係無いわね」
「じゃあ口を挟むなよ!」
イライラさせてくるのを必死におさえる。
「でも、今の貴方は子供みたい。爽やかに振る舞っているけれど、本当はとてもワガママで、何もかも自分の思い通りになると思っているんじゃないかしら?」
「・・・!」
図星だった。
暇つぶしのゲームさえこの女には見抜かれてしまいそうだ。
「予想と全く同じでお話が進むと思っていると、いつか予想と違う事が起きた時、辛いのはアナタよ?」
「う、うるさい!」
そう。今が辛い。自分でも酷い事をしたとわかっている。辛い自分を励ます為にしていた節も否めない。
それでここから動きたくないのかもしれない。

「ふふっ」
「な、何なんだよお前!お前みたいな奴は初めてだ!こ、混乱してきた・・・」
「あら、そう?私は安心したわ。アナタが普通の男の子で」
「ぼ、僕の方が年上だ!子供扱いするな!!」
「うふふふふふっ。あら、そろそろ行かなくちゃ。ごめんなさいね長々と話しこんで。コレあげる。風邪ひいちゃイヤよ?」
エンスはそう言って、カバンからタオルを渡して去って行った。青いチェック柄のタオルは自分が持っていても違和感が無さそうだった。

ユージュアルはしばらく固まり、我に返ってタオルを捨てようとしたが、なんとなくやめた。
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