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無意識に

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数日後、屋敷が少し騒がしくなった。ニトアを呼んだんだろう。

俺はロジーにいない方が良いと言われて掃除や洗濯など、屋敷の仕事をこなす。使用人の住まいとは違い、戸惑いも多かったが、一人暮らしに慣れているので直ぐ馴染んだ。

ふと荷物を運んだ部屋の、近くにある扉から声が漏れてきた。
「ねー、リーシュ随分とゲームに慣れてるね~強い!」
「そ、そうですか?」
リーシュとニトアの声だ。トランプや、ボードゲームをしているらしい。今はチェスみたいだ。
俺はそのまま用事を済ませる。こういう時は聴こえていないフリだと固く教わった。廊下で用事を片付ける。

「小さい頃は特に身体が弱くて、お外に出てはいけないと言われていたので、ユージュアルとゲームばかりしていました」
「へー。ユージュアル強いの?」
「はい!ユージュアルはとても頭がいいんです。ゲームをする時にはいつも負けてしまいます。気づいた時には逃げ道を全て塞がれてしまって、私が降参するのをジッと待つんです」
「へー!策士だねー」
「性格わり~」
「ふふっ意地悪さんね」

嫌、ドSだろ
頭でそう思った。ビトリーやエンス先輩までいる。何だか気分が悪い。除け者にされているようで面白くない。用事が終わり、部屋を後にする。

「リーシュ?どうしたの?」
「いえ、今シャズさんの声が聞こえてきたみたいで」
「む、虫の知らせってヤツか!?」
「・・・呆れた。シャズが辛いんじゃないわ。今苦しんでいるのはリーシュじゃないの」
「わ、私ですか?」
「えぇ、声が聞こえてきたみたいと感じただけで泣かれると困るわ」
「泣かれる?あ・・・私、別に苦しいわけじゃ・・・悲しいわけでもない、のに・・・っ!」
どうしよう涙が溢れて止まらない。止まってくれない。どうして?そう思えば思うほどに涙は後から後から溢れてくる。私は一体いつからこんなに泣き虫になってしまったんだろう・・・

「ちょっとトイレ借りるな!!こういう時は女同士がいいだろうし」
「うふ、そうね。お願いね?」
「エンス姉、お願いって?」
「別に・・・」



「シャズ、近くにいるんだろ?」
用事を途中にし、部屋から出るとビトリーが睨んでいた。
「・・・何だよ」
「お前、リーシュを泣かせたいのか?」
「は?意味わかんねーよ」
「じゃあさっきのは無意識か?」
「だから何だよ」
「嫌、ドSだろって言ったろ。ガッツリ聞こえたぞ」
「は、マジか?」
「・・・やっぱり無意識か」
「俺だって別に泣かせたい訳じゃ
「質問を変える。お前にとってリーシュって何だ?」
「・・・・・・。後輩の雇い主だよ。手のかかるペットとか妹みたいなもんだ」
「だいぶ間があったな。それ線引きか?」
「別に。最近よく聞かれるから」
「そうやって言い聞かせてないか?また前みたいに暴走すんなよ?」
「・・・わかってる」
「お前の気持ちもわかるけどな。手に入らないものほど欲しくなる。みんなが光に手を伸ばす。なんでだろうなぁ・・・」
ビトリーはカラカラと笑った。
言ってる意味わからんが、笑い声にはどこか悲しみが含まれている気がした。
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