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花風

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「あーあーあー!!」
シャズは大きな声で濁点を付け、喚きながらドスドスと歩く
道ゆく人は怪訝そうな目で見てくるが気にする余裕も無い。

「はぁー」
大きなため息をこぼし、近くの公園でどっかりとその辺にあったベンチに腰掛けた。大きく座ったせいか痛みを伴ったが、むしろ全身に冷水を浴びせてほしい。今すぐ雪で埋めてほしい程に凹んでいる。


ニトアには窓開け、先輩には足止め、ビトリーには通路確保。その他作戦や衣装や場所の特定。時間などなど色々協力してもらっていた。


「ったく!あんな頑固者見たことねー!あのヤローとお似合いだ!」
あーやって、生け贄みたいに泣きそうな顔して、ずっと耐えていくのかよ・・・
胸がズキズキしてくる。


最初の印象はまるで無い
保健室で逢った時は住む世界が違う
屋敷で逢った時はペットや妹
自分の嫌いな世界の住人なのに、天然だし、純粋で、常識を知らない彼女に興味があり、知らない間に手を伸ばしていた。

彼女も自分を慕ってくれてるだろうけど、自分と同じ気持ちで求めているわけでは無いと、理由を付けて想いを押し込めた。

釘を刺されてやっぱり、彼女は住む世界が違うと線引きされた事に妙に納得した。彼女に惹かれているからこそ、いい機会だった。距離をおく口実が出来た。

そんな時に彼女の婚約者が現れた。仲良くなれるタイプでは無いけど、だからこそ彼女とはお似合いだった。
しかし、必要以上に離されるのには違和感を感じていた。
婚約者と話してみると、相当自分を意識していた。
自分の過去の傷を触られて、久しぶりに暴走してしまった。

結婚が近づくにつれて彼女がどんどん弱っていくのを感じ、このままではいけない。せめて時間を伸ばす事が出来るのならと思って行動したら、彼女にもう逢いたくない、余計なお世話だと言われてしまった。



やっぱり最初の提案通りに連れ出さなくても、儀式とかいうのをぶち壊しにするだけで良かった。
皆にリーシュを連れ出さないなら協力しないと言われて、じゃあ皆で連れ出そうとしていたのに誰も来なかった。
してやられたって奴だ。今になっても姿を見せない所を見ると、リーシュの近くにいるか、もう解散しているかだ。



「はぁー」
また深いため息が出るこの状況はアレだ。

失恋

ガラにもなく涙腺が緩みそうになって立ち上がる。
「あー!もうやめだ!やめ!!いつもの生活に、戻る、だけだ・・・」
勢いよく立ち上がるが、段々と声のトーンが落ちて、また座ってしまう。
・・・らしくない。帰ろう。

公園のベンチから立ち上がろうとした時

シ・・・・・ーん!!

アイツの声が聞こえてきた気がして振り向く。
・・・って誰もいない。気のせいか?

シ・・ズさーん!

「はぁ、俺もう末期かもな。イヤ、きっと疲れてるだけだ。帰ろう」
立ち上がり、ベンチから離れる。

「シャズさーん!!」
「えっ!!っどわあっ!」
今度は間違いなくはっきりと聞こえたと思うと、いきなり後ろからタックルされて、何とかこらえる。何事だと思っていたら手が首に回ってきた。
「シャズさん!シャズさん!」
「リーシュか!?抱きつくなって!!ってか首!首しまる!!離れろって!」
「嫌です!」
「はぁ⁈・・・お前もう逢いたくないって!余計なお世話だとか言っ!
「嘘です!全部嘘!・・・もう、嘘つきません!離さないです!絶対に離したりしません!だから側にいてください・・・!」
「・・・側にいるだけか?」
「・・・」
「・・・?」
恥ずかしさから、からかったらリーシュは黙ってしまった。まさか、料理人としてユージュアルと私にご飯作って下さい!・・・とかじゃないよな!?だったら親の顔が見てみたい。イヤ、母親は見たか・・・


「嫌なら嫌、欲しいなら欲しいって言えない子は損をするだけだよ?」
ユージュアルの言葉を思い出して!言え!言いなさい!リーシュグリス!

「・・・しいんです」
「・・・何?」
シャズさんの顔が近づいてきています。何だか余計に緊張します!
「欲しいんです!」
「何が?メシ?」
「違います!」
「だから何が?」
「し、シャズさんち、近いです!!」
夕方になっている公園はほとんど誰もいないけど、後退りしてベンチに座りこんでしまった。
ココで気づいた。シャズさんが凄くニヤニヤしている。
また私をからかっている!!

「・・・ひょっとして、私が何が欲しいって言うかわかってません?」
「そんな真っ赤な顔してたらからかうなって方が無理だろ?」
「そ、そんなヒドイ人には伝えません!」
「ははっ!そりゃ残念」

そう、今はまだ言わなくて良い。先延ばしにする事が目的だった。
本当に言ってほしい言葉は俺から伝えたい。
でも、それは今じゃない。俺が、夢で見たあの人みたいになった時だ。

「あ、この手紙、ユージュアルからです」
「は?アイツから?」
手紙を読んでから俺はサッと隠した。

「あれ?シャズさん?何て書いてあったんですか?」
「別に!大した事じゃない」


要約すると、入学式の時の人物は自分だとちゃんと伝えろとか、将来的にちゃんと進学しろ~とかだ。
コレをずっと持っていたのかと思えば健気なところもあるのかもしれない。
最後はリーシュを泣かせたら地獄の果てだろうと殺しに行くからね?なんて物騒な言葉で締め括られていた。

「どうして隠すんです?見せてくださいよ!」
「何でもないっつの!」
「そんな反応されたら気になります!」
「手紙を勝手に読むのはマナー違反だろ!?」
「いつも気にしないシャズさんに言われたくないです!!」
公園で2人はいつまでも騒いでいた。


「はぁー。美味しいね~」
「・・・?嬉しそうですねマラクス様」
「そりゃそうさ。愛する娘の結婚が伸びて、アイツにもまた会えるし!なぁ、ロジー?シャズにこの家任せられると思うか?」
「私にはわかりませんが、見込みはあるかと」
「はははっ!野良猫がどう成長するのか、とても楽しみだよ」

マラクス様はサラサラの髪を靡かせて、頬杖をついて、楽しそうにコーヒーを飲んでいる。
夕方前のテーブルには薄いピンクの花びらが風に乗っていくつか来ている。花を散らすように吹いている花風のせいだろう。春は、すぐそこまで来ているらしい。


THE   END


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