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はじめ
しおりを挟む夜の鯉は黒に溶けていく。
怪しげに、水の音を沈めて、ひっそりと。
東京に暮らし始めてまず思ったのは、夜の空が赤いということ。
まるで錆びたような淀んだ色をしていて、月と星たちの会話の邪魔をする。
昔から色に敏感だった私には、東京に散らばっている無駄な色が苦手だった。
新宿のペットサロンでトリマーとして働き始めて二年、ごちゃごちゃした忙しない時間の中で過ごしている。
開けっ放しの窓からは、人を小馬鹿にしたような風が乱暴に髪を撫でていくのが分かる。
先月、モカブラウンに染めてもらったこの髪も、今はもう柔らかさが抜けて唯の茶髪になった。
「葵の髪は、元からこの色なの?」
膝枕をしてあげながら、癖のある髪にそっと触れてみる。
「うん」
綺麗な栗色の髪。日曜日の夕日と同じくらい、優しい色をしている。
「これじゃあ、先生とかに誤解されたりしたでしょ。地毛にはあんまり見えないもんね。私もこんな色にしてみたいな。すぐに、普通の茶色になっちゃうから」
葵は眠そうに身体を丸めた。微かに聞こえてくる寝言のような息が、規則正しく波紋のように部屋の中に広がる。
八月に入って、久しぶりに一日ゆっくりと休みを取ることが出来た。
世間が夏休みという事もあってか、バイトの子は帰省し、店長は新しい店舗に付きっきりとら何かと大変だった。
私は特に夏が苦手だ。
東京の夏は空気が重たくなる。
どしりと肩に乗っては、痛いほどの日差しが思考を焦がし、心に赤を刺す。
窓からは空がオレンジに変わろうと準備をしているのが見えた。
うつろうつろしながら、何となく、一年前の事を思い出してみる。
今、膝の上で気持ち良く寝ている葵が、初めてうちに来た日のこと。
あの日から葵は私の隣に、勝手に居付いた。それからもう一年が経とうとしている。
夜の風が淑やか日で、少しだけ雨の匂いがしていた。そんな日に、葵は私の部屋にやって来た。
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