阿佐ヶ谷パレット

mr.love&pop

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つづき

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やって来たというよりも、仕事から帰宅すると「おかえり」と言って、鼻歌を口ずさみながら膝を抱えて小さく座っていた。

まるで葵に迎え入れられたように、自然で、あまり驚きはしなかった。
「あぁ、なんか来たんだ」そんなことしか思わなかった。

追い出すという考えもなく、一昨年に借りた阿佐ヶ谷のアパートの風に、もうすでに彼は溶け込んでいたように見えた。

初めて言葉を交わした時の事は、良く覚えている。
「葵って言います。ふらふらしてたら、何だかここにたどり着きました。綾女って素敵な名前だね。綾女ちゃんって、呼んでもいい?」
 
そうやって私たちの生活は始まった。
葵が何故、私のところを選んだのかは分からなかったけれど、ふらふらして私のところにたどり着いたのなら、そういう事なのだと思った。

「何、考えてるの」
 眠気が交じった甘ったるい声で私に顔を向ける。
「葵が来た日のこと。雨が降りそうだなって思ってたら、雨じゃなくて葵が来たんだよね。しかもいきなり住んじゃうんだもん。変な話だなって」

ふぅんっと言って、また睡魔と格闘しているようだ。
窓越しに外を見ると、近所の菊池さんが目付きの悪いパグを連れて、ゆっくりと散歩をしているのが見えた。

夜になってもう少し涼しくなったら、一緒に散歩に行こう。昼間とは違って、もう夜の公園はすっかり落ち着いた静寂を保ってくれている。

「綾女ちゃん、お腹すいたよ」
ようやくちゃんと目が覚めたのか、葵はゆっくりと起き上った。
横目で時計を見ると、六時を過ぎた辺りを針は指している。

少し時間が早い気もするけれど、夕食の支度をするために台所へと身体を向ける。
ずっと膝枕をしていてあげていたせいで、足が痺れて畳の跡が赤くくっきりと着いていた。
「葵、何食べたい?」
「ん、何でも」
 大きいあくびをしながら、猫背の背中を無理やり伸ばす。
「また何でもいいの?」
返事の代わりに首をこくんと上下させている。
ほぼ毎日、食事の準備の時に葵はこんな感じに何でもと言う。
「でた。いつもの何でも」
言ってしまえば彼はうちの居候だ。
何でもいいが一番困るのだけれど、私は形だけのため息を付き、頭の中で葵が喜びそうな献立を考えた。
台所の食器はいつの間にか、葵専用のものが出来ていた。

ジャガイモが大量にあるし、冷凍庫に作り置きのハンバーグも丁度二つ眠っている。
今日はレモン仕立てのポテトサラダと、ハンバーグを焼こう。
それにトマトの和風ソースを作れば完璧。後、葵に内緒に昨晩作って置いたプリンもある。
私は葵に弱いのだ。
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