霊媒体質 九条遙加の厄難 ー学生時代編ー

柿村 呼波

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第1章 高校編

歌姫1

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 今日は水曜日。バンドのスタジオ練習の日だ。
主に土日にバイトをしているバンドメンバーの予定の合わせやすい日が水曜日だっただけで特別な意味はない。

今日はいつも使っているスタジオが空いていなかったので少し広めのAスタジオに入ることになった。するとその話をどこから嗅ぎ付けたのか部長の如月までついてくることになってしまった。

彼女曰く
「私はこのバンドのプロデューサーだからあなた達の管理をする責任があるのよ」
だそうである。
教えていないのに、なぜか少し広めのAスタに入る時は必ずと言って良いほど如月は現れる。

如月は軽音楽部の部長ではあるがどのバンドにも所属していない。そもそも彼女が軽音楽部に入ったのだって遙加の歌を偶然聞いたからだった。

 それは1年生の時のことだった。
首席で入学したことから生徒会に誘われていた如月京香だったが、彼女は自分の大切な時間をそんなことに使いたくなくて丁重に断って鞄を取りに自分の教室へと向かっている時だった。

どこからかアンプに通していないのでシャカシャカ鳴っているギターの音とそれに合わせた歌声が聞こえてきた。軽く歌っているはずのその歌声がなぜか如月の心を捉えられてしまった。
特徴的なその声に如月はすぐに心を奪われてしまったのだ。

音のする方を見ると廊下にはベースを抱えた秋月航平が聞き耳を立てていた。立てなくても聞こえるだろうに。
如月はそっと秋月に近付いて何をしているのか訪ねてみた。

すると彼は声を潜めて話し出した。

「如月さん、あの歌声どう思う?」

「人の心を惹きつける歌声だと思うわ」

「そうでしょ、そうでしょ。だから彼女にうちのバンドのボーカルになって欲しいんだけどうちのギターが『うん』って言わないんだよ。おかしいと思わない?」

「それはいけないわね。あなた達って学祭で演奏していたインストバンドでしょ。あなた達くらいの腕なら彼女が入っても大丈夫そうね」

「えーとそれは一応、俺たちを認めてくれたってことでいいのかな」

「そう思ってもらって結構よ。あれだけの歌声はこんなところで埋もれさせてはいけないわ。一緒に彼女を勧誘しにいくわよ」

「えっと、俺達のバンドの話なんだけど…… まぁいっか」

そして二人はその教室の中へと入っていった。
二人の目の前にあったのは帰宅部が下校した後の放課後の教室で、烏星の作った曲に遙加が適当に歌詞をつけて歌っている姿だった。

「練習している所に突然ごめんなさい。私はA組の如月京香。あなたB組の九条遙加さんよね」

「そうだけど?」

「単刀直入に言うわ。あなた、このバンドのボーカルになりなさい。私がプロデュースするから安心してちょうだい。必ずや音楽で食べていけるようにしてあげるから私に任せなさい」

「九条さん、僕からもお願いしたいんだ。ぜひうちのバンドのボーカルになってほしい」

歌っていた所にいきなり二人にそんな事を言われて遙加は面食らってしまった。

「えっ、いきなり言われても……」

「取り敢えず、このバンドに加入するのよ、いいこと。烏星くんの反対は認めないわ。ドラムの大平くんには私から話しておくから心配しないで」

「いや、心配しかないんだけど……」

ボソッと烏星がつぶやくと、スティックケースを持った大平修平が教室の中へと入ってきた。

「改めて話を聞かなくても話は全部聞こえてたから大丈夫だぜ。お前ら声大きすぎ。俺は賛成ってことでよろしく」

そこで改めてベースの秋月が遙加の意見を聞いてくれた。

「九条さんはどうなの? 歌ってくれると嬉しいんだけど。どうかな」

遙加は余り考えることなく答えた。

「みんなが良いって言ってくれるんだったら、歌いたい」

「遙加本当に良いのか?」

烏星は遙加を心配しているようで本当は違っていた。
彼は遙加と二人きりでいる時間を邪魔されたくないだけだった。

「うん、いいよ。だって楽しそうだもん」

「そうだろ、楽しいぜ。じゃ決まりってことでこれからよろしくな」

「よろしく九条さん」

「私もプロデュースでサポートするのでよろしく!」

「達也、もう観念しろよ」

ドラムの修平にトドメを刺された烏星達也は泣く泣く遙加との二人の時間を諦めることになってしまった。


その後、あっという間に軽音楽部を作り部長になった如月によって学校での練習場所や、仮の部室を手に入れることができたのだった。如月京香恐るべし、である。



 そんな経緯もあって軽音楽部部長、如月京香に刃向かえる強者はその後現れていない。いや、今後も現れないだろう、多分。

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