8 / 55
第1章 高校編
歌姫1
しおりを挟む
今日は水曜日。バンドのスタジオ練習の日だ。
主に土日にバイトをしているバンドメンバーの予定の合わせやすい日が水曜日だっただけで特別な意味はない。
今日はいつも使っているスタジオが空いていなかったので少し広めのAスタジオに入ることになった。するとその話をどこから嗅ぎ付けたのか部長の如月までついてくることになってしまった。
彼女曰く
「私はこのバンドのプロデューサーだからあなた達の管理をする責任があるのよ」
だそうである。
教えていないのに、なぜか少し広めのAスタに入る時は必ずと言って良いほど如月は現れる。
如月は軽音楽部の部長ではあるがどのバンドにも所属していない。そもそも彼女が軽音楽部に入ったのだって遙加の歌を偶然聞いたからだった。
それは1年生の時のことだった。
首席で入学したことから生徒会に誘われていた如月京香だったが、彼女は自分の大切な時間をそんなことに使いたくなくて丁重に断って鞄を取りに自分の教室へと向かっている時だった。
どこからかアンプに通していないのでシャカシャカ鳴っているギターの音とそれに合わせた歌声が聞こえてきた。軽く歌っているはずのその歌声がなぜか如月の心を捉えられてしまった。
特徴的なその声に如月はすぐに心を奪われてしまったのだ。
音のする方を見ると廊下にはベースを抱えた秋月航平が聞き耳を立てていた。立てなくても聞こえるだろうに。
如月はそっと秋月に近付いて何をしているのか訪ねてみた。
すると彼は声を潜めて話し出した。
「如月さん、あの歌声どう思う?」
「人の心を惹きつける歌声だと思うわ」
「そうでしょ、そうでしょ。だから彼女にうちのバンドのボーカルになって欲しいんだけどうちのギターが『うん』って言わないんだよ。おかしいと思わない?」
「それはいけないわね。あなた達って学祭で演奏していたインストバンドでしょ。あなた達くらいの腕なら彼女が入っても大丈夫そうね」
「えーとそれは一応、俺たちを認めてくれたってことでいいのかな」
「そう思ってもらって結構よ。あれだけの歌声はこんなところで埋もれさせてはいけないわ。一緒に彼女を勧誘しにいくわよ」
「えっと、俺達のバンドの話なんだけど…… まぁいっか」
そして二人はその教室の中へと入っていった。
二人の目の前にあったのは帰宅部が下校した後の放課後の教室で、烏星の作った曲に遙加が適当に歌詞をつけて歌っている姿だった。
「練習している所に突然ごめんなさい。私はA組の如月京香。あなたB組の九条遙加さんよね」
「そうだけど?」
「単刀直入に言うわ。あなた、このバンドのボーカルになりなさい。私がプロデュースするから安心してちょうだい。必ずや音楽で食べていけるようにしてあげるから私に任せなさい」
「九条さん、僕からもお願いしたいんだ。ぜひうちのバンドのボーカルになってほしい」
歌っていた所にいきなり二人にそんな事を言われて遙加は面食らってしまった。
「えっ、いきなり言われても……」
「取り敢えず、このバンドに加入するのよ、いいこと。烏星くんの反対は認めないわ。ドラムの大平くんには私から話しておくから心配しないで」
「いや、心配しかないんだけど……」
ボソッと烏星がつぶやくと、スティックケースを持った大平修平が教室の中へと入ってきた。
「改めて話を聞かなくても話は全部聞こえてたから大丈夫だぜ。お前ら声大きすぎ。俺は賛成ってことでよろしく」
そこで改めてベースの秋月が遙加の意見を聞いてくれた。
「九条さんはどうなの? 歌ってくれると嬉しいんだけど。どうかな」
遙加は余り考えることなく答えた。
「みんなが良いって言ってくれるんだったら、歌いたい」
「遙加本当に良いのか?」
烏星は遙加を心配しているようで本当は違っていた。
彼は遙加と二人きりでいる時間を邪魔されたくないだけだった。
「うん、いいよ。だって楽しそうだもん」
「そうだろ、楽しいぜ。じゃ決まりってことでこれからよろしくな」
「よろしく九条さん」
「私もプロデュースでサポートするのでよろしく!」
「達也、もう観念しろよ」
ドラムの修平にトドメを刺された烏星達也は泣く泣く遙加との二人の時間を諦めることになってしまった。
その後、あっという間に軽音楽部を作り部長になった如月によって学校での練習場所や、仮の部室を手に入れることができたのだった。如月京香恐るべし、である。
そんな経緯もあって軽音楽部部長、如月京香に刃向かえる強者はその後現れていない。いや、今後も現れないだろう、多分。
主に土日にバイトをしているバンドメンバーの予定の合わせやすい日が水曜日だっただけで特別な意味はない。
今日はいつも使っているスタジオが空いていなかったので少し広めのAスタジオに入ることになった。するとその話をどこから嗅ぎ付けたのか部長の如月までついてくることになってしまった。
彼女曰く
「私はこのバンドのプロデューサーだからあなた達の管理をする責任があるのよ」
だそうである。
教えていないのに、なぜか少し広めのAスタに入る時は必ずと言って良いほど如月は現れる。
如月は軽音楽部の部長ではあるがどのバンドにも所属していない。そもそも彼女が軽音楽部に入ったのだって遙加の歌を偶然聞いたからだった。
それは1年生の時のことだった。
首席で入学したことから生徒会に誘われていた如月京香だったが、彼女は自分の大切な時間をそんなことに使いたくなくて丁重に断って鞄を取りに自分の教室へと向かっている時だった。
どこからかアンプに通していないのでシャカシャカ鳴っているギターの音とそれに合わせた歌声が聞こえてきた。軽く歌っているはずのその歌声がなぜか如月の心を捉えられてしまった。
特徴的なその声に如月はすぐに心を奪われてしまったのだ。
音のする方を見ると廊下にはベースを抱えた秋月航平が聞き耳を立てていた。立てなくても聞こえるだろうに。
如月はそっと秋月に近付いて何をしているのか訪ねてみた。
すると彼は声を潜めて話し出した。
「如月さん、あの歌声どう思う?」
「人の心を惹きつける歌声だと思うわ」
「そうでしょ、そうでしょ。だから彼女にうちのバンドのボーカルになって欲しいんだけどうちのギターが『うん』って言わないんだよ。おかしいと思わない?」
「それはいけないわね。あなた達って学祭で演奏していたインストバンドでしょ。あなた達くらいの腕なら彼女が入っても大丈夫そうね」
「えーとそれは一応、俺たちを認めてくれたってことでいいのかな」
「そう思ってもらって結構よ。あれだけの歌声はこんなところで埋もれさせてはいけないわ。一緒に彼女を勧誘しにいくわよ」
「えっと、俺達のバンドの話なんだけど…… まぁいっか」
そして二人はその教室の中へと入っていった。
二人の目の前にあったのは帰宅部が下校した後の放課後の教室で、烏星の作った曲に遙加が適当に歌詞をつけて歌っている姿だった。
「練習している所に突然ごめんなさい。私はA組の如月京香。あなたB組の九条遙加さんよね」
「そうだけど?」
「単刀直入に言うわ。あなた、このバンドのボーカルになりなさい。私がプロデュースするから安心してちょうだい。必ずや音楽で食べていけるようにしてあげるから私に任せなさい」
「九条さん、僕からもお願いしたいんだ。ぜひうちのバンドのボーカルになってほしい」
歌っていた所にいきなり二人にそんな事を言われて遙加は面食らってしまった。
「えっ、いきなり言われても……」
「取り敢えず、このバンドに加入するのよ、いいこと。烏星くんの反対は認めないわ。ドラムの大平くんには私から話しておくから心配しないで」
「いや、心配しかないんだけど……」
ボソッと烏星がつぶやくと、スティックケースを持った大平修平が教室の中へと入ってきた。
「改めて話を聞かなくても話は全部聞こえてたから大丈夫だぜ。お前ら声大きすぎ。俺は賛成ってことでよろしく」
そこで改めてベースの秋月が遙加の意見を聞いてくれた。
「九条さんはどうなの? 歌ってくれると嬉しいんだけど。どうかな」
遙加は余り考えることなく答えた。
「みんなが良いって言ってくれるんだったら、歌いたい」
「遙加本当に良いのか?」
烏星は遙加を心配しているようで本当は違っていた。
彼は遙加と二人きりでいる時間を邪魔されたくないだけだった。
「うん、いいよ。だって楽しそうだもん」
「そうだろ、楽しいぜ。じゃ決まりってことでこれからよろしくな」
「よろしく九条さん」
「私もプロデュースでサポートするのでよろしく!」
「達也、もう観念しろよ」
ドラムの修平にトドメを刺された烏星達也は泣く泣く遙加との二人の時間を諦めることになってしまった。
その後、あっという間に軽音楽部を作り部長になった如月によって学校での練習場所や、仮の部室を手に入れることができたのだった。如月京香恐るべし、である。
そんな経緯もあって軽音楽部部長、如月京香に刃向かえる強者はその後現れていない。いや、今後も現れないだろう、多分。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる