霊媒体質 九条遙加の厄難 ー学生時代編ー

柿村 呼波

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第1章 高校編

電車の老婆2

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 4月とはいえまだ日陰に入れば薄らと寒さの残るこの時期、4人は駅までの道を足早に歩いた。
駅に着くと、電光掲示板にはあと2分で電車が来ると表示されていた。

バンドの件で詳しい話をするために如月の家へ向かうことになった4人は、急いで電車に乗り込んだ。平日の昼間ということもあり電車の中にはまばらに客が座っているだけだった。

 異変が起きたのは隣の駅に到着後、電車が発車した直後だった。

4人は吊革につかまる人の姿がなく座席も空いていたこともあり、車内窓側にある長座席に男女に分かれて向かい合って座っていた。するとカートを押した少し腰の曲がった老婆がと軽快な音を立てて車両の後方から進行方向へ向かって進んできた。

音に気づいた4人はそれぞれ話をするのをやめて何かに惹きつけられたようにその姿をじっと見ていた。すると彼らの前を通り過ぎ2m程進んだところでその老婆は突然姿を消したのだ。実際にはただ消えたのではなく、窓から外へと飛ぶように消えていったのだった。

信じられないその光景に声を発したのは霊感のある岩館だった。

「如月、今の老婆がどこに行ったか見えた?」

「……エッえぇ、見えたわよ。あのお婆さん窓から外に出て行ったわよね」

「そうだね。大平と九条は見えた?」

「ああ、俺にも見えた。あれはなんだったんだ?」

「私も見えたよ。あのお婆さん何者なの?」

全員がそれを見たことを確認した岩館が簡単な解説を始めた。

「まずあれは普通の老婆ではなく霊だよ。それと、この辺に墓地があるのはみんなも知ってるだろ? 多分そこに帰っていったんだと思うんだ。少し前にお彼岸だったから長めに生前の家に留まっていたんじゃないかな」

それを聞いた如月が続ける。

「でも私これまでにあんなにはっきりと人間みたいに見える霊を見たことないわよ。岩館君にはその理由はわかるの? それにあんなモノ見て私達みんな大丈夫なの?」

「多分、害はないと思うよ。変な邪気みたいなものは感じなかったし」

「でもどうして、いつもは見えない遙加と大平君まで見えたのかしら」

「それは……俺の憶測だけど……、その前に九条は以前よりも霊感もそうだけど霊を引き寄せる力が強くなってる気がするんだけど、どう?」

「うーん……、自分ではよく分からないけど、そうなの?」

岩館はやっぱりか、という顔をした。

「無自覚か……、でも今回4人全員が同じものを見たのは九条が一緒に居たからだと思う。あの老婆は誰かに自分の存在を知って欲しかったのかもしれないね。だからわざわざ電車に乗って俺達の前に現れたんだと思うんだ」

「それは、遙加が引き寄せたってこと?」

「おそらく、そうだろうね」

今まで黙って聞いていた大平はどこか納得いかないようだった。

「でも俺、霊なんて見えたことも感じたこともないし、あの老婆はちゃんと足あっただろ」

「大平、もしかして霊に足がないとか思ってる?」

「そうじゃないのか?」

岩館はほんの一瞬遠い目をした後、大平に視線を戻した。

「一概には言えないけど、今回の老婆に関してはちゃんと足はある。例えば怪我をして亡くなっても霊体になれば欠損とかはないはずなんだよ、普通は」

「今、普通じゃないもん見たのに普通って言われてもな……」

「まあ、認識を改めてくれた方がいいかな。どんな姿の霊が見えるかはその人の魂の状態にもよるんだけど、今回は元々霊が見える俺と力の強くなった九条がいたからみんなにも霊本来の姿が見えたんだと思うよ。何か悪さをするような霊じゃなかったからよかったけどな。生者の魂のレベルによって見える霊の姿が違うってことは覚えておいてくれ」

「魂のレベルってなんだよ」

「それはまた今回みたいなことがあったら話すよ」

「そうか……分かったよ」

次などないと思っている大平はあっさりと納得した。それを見ていた如月は去年の部活終わりのことを思い出していた。

「そうね、以前の視聴覚室の時みたいに人に憑いたりしないなら特に問題はないわね」

「あの青い光の霊、もしかして九条に憑いたのか?」

岩館の問いかけに遙加は元気に答えた。

「そうなの、でもすぐいなくなったから大丈夫だよ」

岩館は呆れたような諦めたような目で遙加を見た。

「お前、大丈夫なのか? 本当に」

何故かその質問には如月が応えた。

「岩館君、それに関しては大丈夫だから心配しないで。強い味方ができたから。その件に関しても私の家でちゃんと話すから」

「分かった、それならいいけど……」

直後、話の終わりに合わせたようなタイミングで『次は篠山駅、新都高速鉄道に乗り換えのお客様は次の篠山駅でお乗り換えです』とアナウンスが流れた。

4人は顔を見合わせて下車するためドアの前へと移動した。

 その後4人は如月邸の一角にあるスタジオのある建物にいた。4人が3階のミーティングルームで老婆のことではなくバンドの話をしていると如月の元に来客の知らせが入った。

「秋月君と烏星君も到着したようだからみんなで話しましょう」

3人が驚いた顔をしていると如月はすまし顔でこう付け加えた。

「マネージメントする身としては早めに体制が整った方が今後のことも進め易いから、2人を呼ぶことなんて当然のことよ」

如月のその言葉に呆気に取られた顔をした岩館が尋ねた。

「大平、いつもこんな調子なのかこのバンド」

「まあ、そんな感じだな」

こちらは既に諦めがついた顔で答えた。

そんな所に2人が合流し、こちらも驚きを隠せずにいた。

「どうして岩館がいるの?」
「どうして岩館がいるんだ?」

思ったことそのままを言葉にした2人の疑問は、事前に何も知らされていないのだからもっともな質問である。

「実は、岩館にうちのバンドに入ってもらいたいんだけど、2人はどうかな? 達也もツインギターとかカッコいいと思わないか」

すると岩館本人が話しを切り出した。

「できればキーボードメインで参加したいんだけど、どうだろうか」

珍しいことにそれに遙加が援護した。

「私も岩館くんのピアノで歌ってみたいから、ぜひお願いしたいんだ、ね、如月マネージャー」

遙加はお願いするような視線を如月に向けた。

「そういうことなんだけどどうかしら」

不敵な笑みを浮かべて如月はメンバー1人1人に視線を向けた。

「それは面白そうだから僕は賛成!」

「俺もいいと思う」

後から来た2人は戸惑いもなく賛成したのだった。かくして呆気なく岩館の参加は認められこの瞬間からブルーローズのメンバーは5人になった。


 しかし当初ギターリストとして勧誘したつもりの大平だけは、岩館がキーボード担当という事実に納得していなかった。だからなのか岩館は彼のギターを諦め切れない大平の心情を慮ったのか、曲によって必要になった時だけツインギターで演奏すると提案した。それに烏星が快諾したことから大平も渋々ではあるがそれで納得することにした。

「九条さんに岩館君のこと詳しく伝えないとね。デビュー曲書いてもらうんだし……」

ギターだピアノだと盛り上がっていた4人には如月の独り言は聞こえてはいなかった。


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