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第2章 大学編
ささやかなパーティー
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5月のよく晴れた休日。レストラン・ブルーローズの入り口には『本日貸切』の札のかかっていた。
ギリギリ開始時間に間に合った男は慌てていたせいで少し乱暴に入り口のドアを開いてしまった。すると店内の視線全てが彼に集中した。
「彼方こっちこっち、早く席に着いて。もう始まるわよ」
母が小声で手招きした。同じテーブルに座っている父は何やらニヤニヤしている。
「今日は、間に合ってよかったな、彼方」
「はいはい、間に合ったからいいだろ。それより今日の主役は?」
「これから入場するところよ。だから間に合ったって言ってるでしょ」
店に入った途端、店内の全ての視線を集めたこの人物。それは遙加の兄、九条彼方だった。
「これより新郎新婦の入場です。皆様盛大な拍手でお迎えください」
ピアノの演奏も始まり司会台からの声を聞き、皆心からの拍手を送った。
するとバーカウンターの奥から本日の主役が歩いてきた。シルバーのフロックスーツを着た新郎の薫にエスコートされる新婦遙加は幸せオーラに満ち溢れていた。
背の高い薫に少しでも近づきたい遙加が選んだのはスレンダーラインの大人っぽい白いドレスだった。12cmヒールを履いた今日の遙加は見た目だけは大人の女性に見える。
今日のパーティーは遙加と薫の家族とブルーローズのメンバーや薫の友人だけが集められた極々ささやかなパーティーだった。
遙加が18歳という若さで薫と結婚したのには、とある理由があった。
薫の父と遙加の父は九条家の分家筋である。しかし陰陽道を代々継承しているのは本家のみであるため分家といっても昔ほど本家と関わりはない、はずだった。
九条家で代々陰陽道を継ぐのは本家だけとされていた。しかし分家にとって不穏な話が降って沸いてしまった。それは先々代の当主が妙な遺言を残したことが発端だった。
「今後九条家の中で必ず強い霊能力を持った子供が生まれる。もし本家以外に生まれたのなら養子縁組してでも本家の子として迎えるように。その力を決して九条家以外に渡してなならない」
そんな事を言い残してあの世へと旅立ったのだというのだ。
しかし、そんな遺言めいた言葉をその時の当主は守るつもりは全くなかった。
だがそれは本家全員の前での出来事だったため、それを無視する事はできなかった。
分家には通達という形で遺言の内容は知らされたが、現当主の言葉として次のように書いてあった。
『もしそのような子供が生まれたとしても私の代で本家に迎え入れることは無い。今後もその方針を取らせるつもりである」
そう当主の直筆でサインまでしてあった。
それを見た分家の者たちは皆胸を撫でおろしたという。
しかし少し前に、遙加の父は兄から妙な話を聞いた。
「どうやら次の当主は先々代の遺言を実行しようとしているようだから気をつけるように」
そんな話が兄の元に舞い込んできたというのだ。俄には信じがたいが方々手を尽くして調べた結果どうやら次期当主は本気らしいということが分かったのだった。
遙の父は息子の彼方と娘の遙加にそこまで強い力があるとは思っていなかった。
しかし兄と一緒に来た薫の言葉で考え方を改めたのだった。
「遙加は霊媒体質なだけでなく霊能力を秘めている」
薫のこの言葉には続きがあった。
「遙加と同じくらいの潜在能力が彼方にもある」
その場に彼方はいなかったはずなのに薫はそんな事を言ったのだった。
2人は同い年で小さい頃から仲が良いのでお互い親には隠していることまでよく分かりあっていたのだ。
父は彼方と遙加を守るためそのことは本家はもちろん、兄以外の親族には秘匿している。
父たちは遙加だけではなく薫のことも本家から守るために早くから許嫁とした。
そんな訳で法的にも本家が手を出せぬように遙加が成人する18歳になったら薫と結婚させることにしたのである。初めは九条本家のしがらみから守るための結婚だったが今となってはそんなことは関係ないようだった。それは遙加にとって好きな人と幸せになるための結婚に他ならないからから。もちろん薫にとっても。
そしてそんな遙加を霊的に守っていたのは両親ではなく、実は兄の彼方だったことを知っているのは薫だけなのだった。
ギリギリ開始時間に間に合った男は慌てていたせいで少し乱暴に入り口のドアを開いてしまった。すると店内の視線全てが彼に集中した。
「彼方こっちこっち、早く席に着いて。もう始まるわよ」
母が小声で手招きした。同じテーブルに座っている父は何やらニヤニヤしている。
「今日は、間に合ってよかったな、彼方」
「はいはい、間に合ったからいいだろ。それより今日の主役は?」
「これから入場するところよ。だから間に合ったって言ってるでしょ」
店に入った途端、店内の全ての視線を集めたこの人物。それは遙加の兄、九条彼方だった。
「これより新郎新婦の入場です。皆様盛大な拍手でお迎えください」
ピアノの演奏も始まり司会台からの声を聞き、皆心からの拍手を送った。
するとバーカウンターの奥から本日の主役が歩いてきた。シルバーのフロックスーツを着た新郎の薫にエスコートされる新婦遙加は幸せオーラに満ち溢れていた。
背の高い薫に少しでも近づきたい遙加が選んだのはスレンダーラインの大人っぽい白いドレスだった。12cmヒールを履いた今日の遙加は見た目だけは大人の女性に見える。
今日のパーティーは遙加と薫の家族とブルーローズのメンバーや薫の友人だけが集められた極々ささやかなパーティーだった。
遙加が18歳という若さで薫と結婚したのには、とある理由があった。
薫の父と遙加の父は九条家の分家筋である。しかし陰陽道を代々継承しているのは本家のみであるため分家といっても昔ほど本家と関わりはない、はずだった。
九条家で代々陰陽道を継ぐのは本家だけとされていた。しかし分家にとって不穏な話が降って沸いてしまった。それは先々代の当主が妙な遺言を残したことが発端だった。
「今後九条家の中で必ず強い霊能力を持った子供が生まれる。もし本家以外に生まれたのなら養子縁組してでも本家の子として迎えるように。その力を決して九条家以外に渡してなならない」
そんな事を言い残してあの世へと旅立ったのだというのだ。
しかし、そんな遺言めいた言葉をその時の当主は守るつもりは全くなかった。
だがそれは本家全員の前での出来事だったため、それを無視する事はできなかった。
分家には通達という形で遺言の内容は知らされたが、現当主の言葉として次のように書いてあった。
『もしそのような子供が生まれたとしても私の代で本家に迎え入れることは無い。今後もその方針を取らせるつもりである」
そう当主の直筆でサインまでしてあった。
それを見た分家の者たちは皆胸を撫でおろしたという。
しかし少し前に、遙加の父は兄から妙な話を聞いた。
「どうやら次の当主は先々代の遺言を実行しようとしているようだから気をつけるように」
そんな話が兄の元に舞い込んできたというのだ。俄には信じがたいが方々手を尽くして調べた結果どうやら次期当主は本気らしいということが分かったのだった。
遙の父は息子の彼方と娘の遙加にそこまで強い力があるとは思っていなかった。
しかし兄と一緒に来た薫の言葉で考え方を改めたのだった。
「遙加は霊媒体質なだけでなく霊能力を秘めている」
薫のこの言葉には続きがあった。
「遙加と同じくらいの潜在能力が彼方にもある」
その場に彼方はいなかったはずなのに薫はそんな事を言ったのだった。
2人は同い年で小さい頃から仲が良いのでお互い親には隠していることまでよく分かりあっていたのだ。
父は彼方と遙加を守るためそのことは本家はもちろん、兄以外の親族には秘匿している。
父たちは遙加だけではなく薫のことも本家から守るために早くから許嫁とした。
そんな訳で法的にも本家が手を出せぬように遙加が成人する18歳になったら薫と結婚させることにしたのである。初めは九条本家のしがらみから守るための結婚だったが今となってはそんなことは関係ないようだった。それは遙加にとって好きな人と幸せになるための結婚に他ならないからから。もちろん薫にとっても。
そしてそんな遙加を霊的に守っていたのは両親ではなく、実は兄の彼方だったことを知っているのは薫だけなのだった。
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