霊媒体質 九条遙加の厄難 ー学生時代編ー

柿村 呼波

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第2章 大学編

兄、彼方

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 九条彼方くじょうかなた。職業大学准教授。化学の中でも特に分子科学の研究者。年齢30歳。歳の離れた妹遙加の夫、九条薫とは同い年である。

 彼方と薫は父親同士が仲の良い兄弟だったこともあり子供の頃は家族ぐるみで会うことが多い間柄だった。2人は所謂従兄弟である。

2人は九条家の分家であるが本家の者と同じくらい九条の血を強く受け継いでいた。変わった力を持つことや霊感が強いこともその一つだった。

そしてその事を本当の意味で理解しているのは、薫の父である九条道永くじょうみちながのみであった。

 彼方と遙加の父である弟の九条誠一にはそれほど強い能力はない。故に彼自身、身に危険が及ぶような事でない限り不穏な気配を感じ取ることは出来ないのだ。そんな弟一家をを心配していた兄道永は、彼方が成長するに従って彼の能力に気づくようになった。

 それは遙加が生まれてすぐのことだった。出産祝いの品を届けに向かった道永は驚く光景を目の当たりにした。

生まれたばかりの遙加に近づこうとする邪気を意志を持って祓っている者がいたのだ。道永はそれがまだ12歳の彼方だったことに驚きを隠せなかった。

彼方は何故か自分の両親には気付かれないようにそれを行なっていた。不思議に思った道永は邪気を祓い終わった彼方に近づいた。

「彼方君、今何してたのかおじさんに教えてくれないかな」

彼方はジーと道永を見てから諦めたように息を吐いた。

「いいよ。でもお父さんたちには言わないでね。いくらおじさんでも約束してくれないなら話さないよ」

いつも平和を絵に描いたような誠一一家。しかし息子は親に内緒で陰の存在と戦っていた。
どうしたらあの親からこんな子が生まれるのだろうか、と道永は思った。

「分かった、約束するよ」

その言葉を聞いた彼方はうっすらと笑って遙加のそばを離れて自分の部屋へと歩いて行った。
道永も不自然にならないように部屋を出て彼方の後に続いた。

彼方の部屋に入った道永は彼に勧められて椅子に座った。彼方はベッドに腰掛け早速話を始めた。

「おじさんには何が見えるの?」

「遙加ちゃんの部屋で見えたものでいいのかな」

「取り敢えずはそうだね」

「邪気が見えたよ」

「おじさんにも見えるんだね。じゃあ僕が何してたかわかるでしょ」

どうやら彼方は道永を試しているようだ。

「分かるよ。遙加ちゃんを狙ってる邪気を祓ってたんだよね」

「そう。遙加はまだ覚醒するのに時間がかかるから僕が守ってあげないといけないんだ。父さんや母さんは視えないから僕が祓っている姿を見ても理解できなくて、逆に僕がおかしな子供だと思われちゃうから2人には言えないんだ。おじさんなら分かるよね」

「そうか、でも彼方君は少しもおかしくないよ。それは九条家の血が強く出ただけだから。このことは他に誰か知ってる人はいるの?」

「いるよ」

そう言って彼方はにっこりと微笑んだ。

「誰だか教えて貰えるかな」

「おじさんのよく知ってる人だよ、当ててみて」

道永は考えた。いくら九条家と言えど、本家ですら強い力を持つものは昔ほど生まれてきていない。ましてや分家に強い力を持つものが生まれたことなど歴史的にもほとんどないことなのだ。

しかし彼方と共通の知り合いでありそんなことが分かる人間として頭に浮かぶのは自分の息子の薫だけだった。薫は異端であり異能の持ち主だがもちろん本家に本当のことは伝えていない。

「まさか、薫じゃないよね……」

彼方は満面の笑みを浮かべた。

「おじさん、そのまさかだよ! 薫も了解してるから大丈夫だよ。それにもしおじさんが気が付いたら教えていいって言われてるから安心して」

道永は絶句した。安心するも何もこの2人は一体何をどこまでできるのだろうかと。もしかすると、いやおそらくではなく確実にこの2人は本家の欲しがる能力を使いこなしている。それもこんな年齢で。これは本気で本家対策に取り組まなければならなくなった。

 道永は従兄弟同士の2人の事を他の子供に比べてやけに大人びているとは思っていた。しかしよもやこれ程までに完成された力を持っているとは思っていなかったのだ。

 その後このことは道永と彼方、そして薫の3人だけの秘密となったのだった。

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