霊媒体質 九条遙加の厄難 ー学生時代編ー

柿村 呼波

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第2章 大学編

従兄弟

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 霊が視える人間が10人いたとしても皆が同じように視えているわけではない。
例えばこんな感じに。

暗い影のようにぼんやりと見える者。
グロテスクな姿でしか見えない者。
霊が生きている人間と同じように見える者。
霊と生者の違いが視て分かる者。
それから、物の怪が見えるもの。

他にも人の余命が見えたりこれからこの世に生まれ出ようする魂が見えるものもいるが、それは訓練された者たちだ。

見え方の違いはその人間がどこに周波数を合わせているかによって変わる。周波数を変えられる者はぼんやり暗い影もグロテスクな生首も、生者のような姿の霊も見ることができる。

しかし、自分の意思で周波数を合わせられる物は余程の訓練を積んだ人間。
あとは天賦の才がある者だけである。

遙加のように自己防衛本能が働いて、己の強い力を封印している場合もある。

 
 九条彼方は天賦の才を持つ者だった。

それは彼方が6歳の夏の出来事だった。明日、父の兄九条道永一家との食事会の買い出しに駆り出され母と共に買い物に行くことになった。

自宅から駅前のスーパーまで買い物に行く途中に都会のオアシスのような公園がある。
緑の多いその公園は鳥の囀りが聞こえる長閑な雰囲気の場所だ。その頃彼方の母は好んでその道を通っていた。

 しかし、その日は鳥の囀りどころか夏だというのに虫の気配すらなかった。
小学1年生ながらその頃から頭脳明晰だと思わせる片鱗のあった彼方はいつもと違う公園の空気を不思議に思っていた。

すると彼方の視線の先にあるベンチには、疲れ切った様子のサラリーマンが腰掛ける姿が目に入った。
だがよく見るとそのサラリーマンはベンチに座っているはずなのに、ベンチの背もたれや座面が透けて見えた。

何かの間違いではないかと、いつもは冷静なはずの彼方が目をパチクリしてもう一度そのサラリーマンを見た。
するとサラリーマンは徐に立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。

彼方は近づいてくるその姿を見てこの度こそ本当に驚いた。
それは立っているサラリーマンの後ろの景色が透けて見えたからだった。

彼方は思わず隣にいる母の手をギュッと握ってしまった。するとそれを見た母はにっこり笑った。

「どうしたの彼方? 歩くの早かった?」

「ううん、ちょっと転びそうになっただけだよ」

さすが将来の大学准教授。頭の回転が早い。
しかしその時、母の隣を触れるか触れないかギリギリで半透明な姿のサラリーマンが擦れ違ったのに母は何も気にする様子もなかった。

「この辺は少し凹んでいる場所があるから気をつけて歩くのよ」

「はーい」

そんな会話をしながら彼方は小さな決意を固めた。

『これはきっと、普通の人には話してはいけないんだな』と。


 翌日の午後、伯父一家が彼方の家にやって来た。
兄弟仲の良い父たちは月に1度は子供を連れてお互いの家を行き来していた。母同士もウマが合うのか、おしゃべりしながら夕飯の支度を始めた。

 父達が近況報告をしている時は、同い年の薫と彼方も仲良く2人で遊んでいた。彼方は昨日のことが気にはなったが、薫は2人で公園に行くことにした。

「お母さん、虫取りしたいから薫と公園に行ってきてもいい?」

「いいわよ、暗くなる前に帰ってくるのよ」

「「はーい」」

用意してもらった虫かごと網を持って2人は昨日彼方が行った公園へ向かった。

公園の少し高い木にとまる油蝉を見つけた2人。協力して油蝉を捕まえたものの、カゴに入れると鳴き声が思いの外うるさかった。蝉が可哀想というよりもそのうるさい鳴き声に負けてせっかく取ったセミを逃すことにした。

 適当な木を探して歩いていると昨日のベンチの近くに来ていた。

初めそれに気がついたのは薫だった。じーっとベンチの方を見ていた薫を見てからベンチを見た彼方が声を掛けた。

「あれ、薫にも見えるの?」

何が、とは言わないのに薫はわかっているようだった。

「見えるよ。彼方にも見えるのあのおじさん」

「うん、昨日もいたんだ。でもお母さんには見えてなかったみたい」

「あのおじさん、きっと霊だよ。だって透けて見えるでしょ」

「うん、透けて見えるけど、霊って幽霊のこと?」

「まあ、そんなところ。あれは今は悪さはしなと思うけど、今度変なのがいたら相手にしない方がいいよ」

「そうなんだ……わかった」

そして2人は家に帰って夕食の時に親にお願い押した。
夏休みの間1週間ずつ、彼方と薫の家に交代でお泊まりをしたい、と。
いつまでも恋人気分の抜けない親達は2人の時間ができると喜びすぐに快諾した。

 1週間後、まず彼方が薫の家に泊まりに行くことになった。

 そして2人は薫の父九条道永が仕事に行っている間にとある書物を読んでいた。九条家に伝わる陰陽師やその能力に関する書物を読んで身を守るためにその力を身につけて行った。頭と勘の良い2人だから読めたのだ。

 しかもその書物は誰もが読めるシロモノではなかった。一族の中でも力のある者が触れたときにだけ文字が現れる書物だった。それはまるで書物が人を選んでいるようだった。

 薫の父、道永はまさか自分の子供が読めるとは思っていなかったのか、書斎の奥の隠し戸棚にその書物を普通の本と同じように並べてあったのだ。

道永が全てを知るのは2人が力をつけ、遙加が生まれてから彼方のあの光景を見た後だった。




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