次元トランジット 〜時空を超えた先にあるもの〜

柿村 呼波

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第2章 迷子の仔猫

来客

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 鳥居に抱かれたまま寝てしまった猫を見て九条は話しを続けた。

「まずその猫のことから話そうか。その猫の目がダイクロイックアイと言って千匹に一匹産まれるか生まれないかと言われるほど珍しいものなんだ。ましてやオッドアイだしその手のマニアだったら喉から手が出るほど欲しいものなんだそうだ。猫にしてみたら迷惑この上ない話なんだけどね。

それで、今回何故こんなことになったかというと、どこかの馬鹿な金持ちがこの猫を手に入れて飽きたら剥製にするって言い出したんだよ。『一番美しい時を残しておきたい』とかほざいていたらしいんだ。全く命をなんだと思っているんだか。

一般人のお宅で飼われている些か変わった猫ってだけで、それ以外は全く他と同じようにただのペットなんだ。藤原ご夫妻も商売をやっているからってどんな情報網を持っているのかどこかから情報が入ったらしくてね。すぐにシークレットエージェントの元締めのところに相談したそうなんだ。
ご夫妻と元締めは学生時代の友人でお互い今でも連絡を取り合っているんだって。世の中狭いよね」

「あの元締めにも友達がいたんですねー」
『いつも怖い顔してるけど、本当は優しいところもあるからなー』

蒼井は鳥居から聞こえてくる声や態度から、どうしてシークレットエージェントなんかにいたのかと不思議に思っていた気持ちが益々強くなっていった。

「そこで、元締めと藤原さんは今回その馬鹿な金持ちが動く前に先手を打って猫が行方不明になったことにしたんだ。動物看護師として病院に潜り込んだ向井有紗、通称シェリーと呼ばれる女と門脇探偵事務所は勿論このことは知らないよ。

シェリーが猫欲しさに陰から手を回していたことに関しては裏も取れている。彼女はだよね。他にも余罪がありそうだし今頃どうしてるんだろうね」

意見を求められたところで二人には向井有紗がどうなったかなんて分からないし、ある意味どうでもよかった。

「それでこれからのことなんだけど、鳥居君とその猫はブルーローズのあるこのビルの上の居住スペースに入ってもらおうと思うんだ。このビル、上はマンションみたいになっているけど関係者しかいないから安心して。ところで鳥居君は高いところ大丈夫?」

「はい、大丈夫でーす。仕事も紹介してもらって部屋まで用意してもらっちゃっていいんですかー。あっ、この猫はどうすればいいですかー」

「取り敢えず一緒に住んでくれると助かるんだけど、大丈夫かな。その猫今まで20畳くらいある部屋にいたんだっけ。この上のマンションは一人でワンフロアー使う仕様になってるんだ。

先に猫用に少し模様替えをするからそれまではゲストルームを使ってくれるかな。猫の餌とか必要なものはこちらで揃えるから安心して。それと君が厨房で仕事している時は私がその猫と一緒にいるつもりだから。猫にもここに慣れてもらわないとね」


「ありがとうございまーす。猫も喜ぶと思いますー」

蒼井は目の前で勝手に進んでいく話を聞いて、大事なことを思い出した。

「九条さんその猫、藤原ご夫妻の飼い猫ですよね。ご夫妻に返さなくていいんですか」

「それなんだけど、さっき馬鹿な金持ちが居るって話ししたこと覚えてる? そいつら猫が行方不明になったのを知って今、血眼になって探しているらしいんだ。

そいつらから守れたとしても、これから先同じような輩が出てこないとも限らない。だから藤原夫妻と話し合ってうちでその猫を預かることにしたんだ。幸い鳥居君とは相性もいいみたいだから藤原夫妻も安心しているしね。

初めは週末だけ藤原家に返すことも考えたんだ。だけど今回の件も含めて短期間に何度も環境が変化するのは猫にとっても負担になってあまり良くないってことで、ご夫妻がブルーローズに遊びに来ることになったんだ」

「門脇には何て伝えればいいのか…… 」

蒼井は本格的に頭を抱えだした。

「馬鹿な金持ちの話は門脇君も知っているでしょ。そいつらのせいにしてうちで預かることになったって話を藤原夫妻も交えて話せばいいんじゃない。それに鳥居君の髪の色この前と違うでしょ? もしあの時の魔法使いに似てるとかなんとか言っても別人だって言い切っちゃえばいいんだし」

「なんだか門脇を騙すようで嫌なんですけど…… 」

「蒼井君、初めに言った約束覚えてる? あれ、冗談じゃないからね。おしゃべりさんは本当に命の保証はできないよ」

九条の口調はいつもと変わらないのだが、目が少しも笑っていなかった。

「そうでした、門脇を巻き込まないよう気をつけます」

「そうだね、その方がいい」

少しの沈黙の後、蒼井は疑問に思っていることを鳥居に聞いてみた。

「あのー、君の髪色ってどっちが本当の色なの?」

「今の金髪が本当の色だよー。シークレットエージェントにいる時はちょっと魔法で変えてたんだー。あの強欲女とか、割とうるさいんだー」

「君、本当に魔法使いなの?」

「そうだよー、魔法使いに会ったことない?」

「初めてだからいまだに信じられないよ」

すると九条が怖いほどの笑顔を二人に向けて話し出した。

「蒼井君は少し前からだけど、これからは二人とも次元監視者としても働いてもらうから。まだ見習いだから天ヶ瀬から必要なことを教わって早く一人前になれるように頑張ってね。一緒にいればそのうち魔法に驚かなくなるから大丈夫さ」

「えーーー見てれば慣れるんですか魔法って。僕、魔法使えるわけじゃないし……」

「蒼井君だって特殊能力みたいなのあるでしょ、蒼井君だけ隠しているのはフェアじゃないから後で鳥居君には話した方がいいと思うよ」

「分かりました。九条さんがいない所で話します」

「そうなんだー、ちょっと楽しみー。そう言えばなんで俺が黒髪だったって知ってるのー?」

蒼井は九条の方を見て少しバツが悪そうにしていた。

「九条さん、話しても大丈夫ですか?」

「問題ないよ」

九条は間髪入れず何故か嬉しそうに答えた。

「信じてもらえるかどうか分からないけど、実は藤原邸から鳥居君が魔法陣を描いて猫を連れて逃げたところを異次元から見ていたんだ」

「それが、次元監視者の仕事なのー?」

「厳密には少し違うんだけど、だいたいそんな感じかな」

「そうなんだー、全然見られてた感じしなかったけど…… 」

「それが分かったら、別の仕事ができると思うよ。普通は分からないはずだから」

「魔法を使えば何か分かったのかなー、でもいつ見られてるかなんて分かんないし…… 」

そんな二人の会話を聞いていた九条が優しい眼差しで見守っていたことを二人は知らない。

そして人見知りをするはずの猫は鳥居の腕の中が気持ちいいのか九条と蒼井に対しても警戒心を見せる素振りはなかった。

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