次元トランジット 〜時空を超えた先にあるもの〜

柿村 呼波

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第3章 ウィルトシャー

猫のミーシャ

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 九条の主な仕事場でもあるディメンションには最近可愛いものが増えた。1つは子猫のミーシャ。もう1つは可愛いアシスタントであり許嫁の九条遙加である。当初アシスタントとして入ったのだがやたらとミーシャが遙加のことを気に入ったのか彼女から離れようとしなかった。仕事をしようとパソコンに向かっているとすぐに膝の上に乗っては眠ってしまうのだ。そんなことが度々続いたことで九条の代わりに遙加がミーシャの面倒をみることになった。面倒を見ると言っても膝の上で寝ているか遊んでやるだけなのだが。ミーシャがもう少し大きくなるまではミーシャに自由にさせようと言うことに落ち着いたのだ。

「薫、ミーシャって人見知りだって聞いてたけど治ったの?」

「いいや、遙加が特別なんだと思うよ。天ヶ瀬のことは気になるみたいだけど遠目に見て様子を窺ってるからね」

「そうなんだ。でも鳥居さんと蒼井さんにも懐いてるよね?」

「鳥居には懐いているけど、蒼井の事は無害だと思ってるんじゃないかな、ミーシャが」

「ふーん、そうなんだ。猫ってすごいのね」

そう言っている側からミーシャは遙加の膝の上に乗って寝てしまった。

「可愛いね、よしよし」

遙加は白い子猫の身体を落ちないように優しく支えていた。
しかし、九条の心はこう告げていた。

『遙加の方が可愛いよ。その猫は本当は……』

 今2人の前にいる子猫の名前はミーシャ。ターキッシュアンゴラという種類でダイクロイックアイという特殊な目を持つ希少価値の高さから、よからぬものに狙われないようにと鳥居と一緒に預けられた猫だ。鳥居が仕事や何か用事のある時に九条が預かっている。さすが雄猫というべきか、女子高生である遙加のことは大のお気に入りである。しかし何も知らない彼女は本気でミーシャの人見知りは治ったと思っている。

そんなミーシャだが実はとんでもない秘密を持つ猫だった。

その猫は昔、鳥居の祖父の使い魔としてこの世に存在していた。見た目からして黒いのでいかにも魔法使いの使い魔ですと言う感じの猫だった。祖父との相性もとてもよく色んな仕事を1人と一匹でこなしてきた。そんなミーシャは祖父と契約出来るくらい優秀な猫だったのだが1つだけどうしても叶えたい願いがあった。

それは『魔力を失ってもいいから大好きな恭介と一緒にいたい』と言うことだった。エリート魔法使いの祖父にはミーシャの考えていることなど筒抜けだった。そのことを知った祖父はミーシャとの使い魔の契約をあっさりと解除することにしたのだ。もちろん両者同意の元でそれは成された。魔力の大半を失った猫のミーシャはその後本来の寿命をとうに過ぎていたこともあり穏やかにこの世を去った。

その去り際に魔法使いとして祖父はミーシャにこう言ったのだ。

「もしもミーシャが本当に恭介と一緒にいたいと願うのなら生まれ変わって恭介の元へときっと導かれるだろう。仮に生まれた場所が遠く離れた場所だとしても恭介へと繋がるチャンスはきっと訪れるはずだから。また会おう、ミーシャ」

祖父のかけた言葉の魔法は猫のミーシャが恭介の記憶を持ったまま生まれ変わることだった。しかしそれはミーシャが本当に願わなければ叶うことはない、そんな魔法だったのだ。

そしてしばらくしてから本当に生まれ変わったミーシャは今度の体の色が真っ白な子猫だった。目の色は両方違う色をしていて、そのうちの片方も2色の違った色を持つ稀少な猫だったのでとても大事に育てられた。見た目だけなら使い魔のミーシャの片鱗は一切なかった。

それから少しするとひょんなことから藤原夫妻の家へ行くことになり名前をつけると言うのでミーシャに近いみいちゃんで妥協することにした。藤原夫妻に対する態度はミーシャが意図してやっていたのだ。藤原夫妻の考えていることが手に取るようにわかるミーシャはどうやら生まれ変わっても魔力を失わなかったようだ。

 その後はミーシャを攫って売り飛ばそうとする妙な人間が沢山いたせいで恭介に辿り着くまで少し時間もかかったけれど、それでもやっと恭介と一緒にいられるようになった。ミーシャが単なる白い稀少な猫だとしか思っていない恭介はまだミーシャが生まれ変わったことに気づいていないようだがそれでもいいのだ。とにかく恭介と一緒にいられるだけでミーシャは幸せなのだから。



 そう、鳥居恭介と一緒にいられることが幸せなはずの猫のミーシャは何故か最近女子高生の遙加のことが大のお気に入りなのである。今日も遙加の膝の上で優雅にお昼寝をしている。昼寝には少し遅い時間なのだがミーシャは少しも気にしていない。

ミーシャは鳥居恭介と契約しているわけではないが、力の強い魔法使いに守られているのでそれなりに加護がついたような状態だった。九条曰く、遙加も霊力が強いらしいのでミーシャはそれに惹かれているのかもしれない。

 居心地のいいこの場所で猫のミーシャはまた1つ、願いができてしまった。それは恭介の使い魔になることだ。なんだか今の姿でもミーシャは恭介の良い使い魔になれる気がするのだ。あの鳥居恭介がミーシャに気付くのはいつになるのだろうか。ミーシャ本人、じゃなくて本猫はもう少しだけ待ってみることにした。これまで十分待ったのだ、これくらいはどうってことないのである。

 イギリスではミーシャの行く末を気にしていた鳥居の祖父は魔力の痕跡を辿りミーシャが生まれ変われたことを知ると、陰ながらミーシャの幸せを願っていた。いつの日か恭介とミーシャが自分の元を訪れる日を信じて。


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