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凶悪な魔法使い
女暗部の末路
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簡単な仕事だと言われた。大魔法使いの側仕えである見習い魔法使いハガルを懐柔するだけだ。
ハガルは見た目が平凡な男だ。戦争に参加したが、大した実力はないという。大魔法使いの側仕えを長年、担っているため、随分と贔屓されている、という話だった。魔法使いとしても大した実力が見られない。
この男は、女遊びが大好きだ。決まった店に行っては、金を落として、女と遊んでいるという。まだ、成人前なので、酒は飲まないが、女に触れたりとか、そういう児戯のような遊び方を楽しんでいるという。
この仕事をご主人様から命じられた時は、喜んだ。ご主人様のために、体も技量も鍛えた。一人前になれば、ご主人様に女の初めてを受け取ってもらえる。それこそが、私にとっての喜びだ。ご主人様に女にしてもらって、もしかしたら、そのまま寵愛されるかもしれない。実際、先輩で、そういう女もいる。
ご主人様を喜ばせるための技術も体に教え込まれた。ご主人様のためだと、男のものを咥えたりもした。将来は、この技量で、ご主人様を喜ばせる、そう信じていたのだ。
ところが、この仕事は、生娘でないといけないという。
「何人か、もぐりこませたが、どうも、引っかからない。あの男は、生娘がいいんだろう」
そうなると、私はご主人様に手をつけてもらえない。
「あの男を懐柔し、大魔法使いの弱味さえ握れば、お前を愛してやろう」
そう囁かれて、私は信じた。
そうして、父親の借金で売られた娘として、あの男が通い詰める店で接客をすることとなった。
店は普通だ。女が客をもてなすだけだ。色ごとをすることもあるにはあるが、金がかかるという。
私が生娘だと知ったママは。
「もう、大事にしなさいよ! お金で簡単に売るものじゃないんだから!!」
と言ってくれた。生娘なので、そういうことが好きそうな客は遠ざけられた。
そして、見習い魔法使いハガルがやってきた。
本当に、見た目は普通の男だ。特に特徴があるわけではない。私よりも若い。
「ハガルちゃーん、よく来てくれたわね。新しい子が入ったわよ」
「えー、また借金苦の子? もう、ママ、俺がそういう子に弱いって知ってるでしょう」
ものすごく困った、という顔をして、ママに案内されるハガル。普通の男だ。危険なんて、これっぽっちも感じない。
私のすぐ隣りにハガルは座る。優しい目で、私を見つめる。
「誰に売られたの?」
「ち、父親に」
間違ってはいない。私は実際、父親に売られた。その背景は確かなので、嘘にはならない。
「そうか。大変だね。俺の父親もさ、妹を売ろうとしたんだよ。すぐに見つけて、こらしめてやったけどね。ほら、好きなもの、頼みなよ。何がいい? 酒でもいいよ。俺が飲めないけど」
「ハガルちゃん、飲まないの!?」
「一度、間違えちゃったから、飲まない」
「飲みましょうよ!!」
「飲まない!」
ママが物凄くお酒を勧めるけど、ハガルは断固拒否する。何かあったのは、見てるだけでわかる。
「果物の盛り合わせでいいかな。俺はいつもの水だけで。いっとくけど、俺に酒出しても、全部、水になるからね」
「ちっ!」
ママは物凄く悔しそうに舌打ちして去っていった。
こんな平凡な見た目の男のどこに、ママが惹かれたのか、その時は、よくわからなかった。ただの、優しい男だ。
話し込んでいると、急に肩を抱きよせてきた。思わず、私は固まった。
「あー、ごめん、初めての接客だってね。ほら、リラックスして。俺はここまでだけど、人によっては、胸触ってくるよ。足とかも撫でてくるし、際どいとこまで手をツッコんでくるのがいるから。それがイヤなら、きちんと流してみな。ほら、練習」
「あ、困ります」
「そうそう、そういうふうに、抵抗するといいよ」
この男にとって、私を相手にするのは、何が楽しいのか、よくわからない。男だったら、女に色々としたいだろう。
なのに、ハガルはそういうことは一切しない。ただ、話して、肩を抱いて、膝枕ねだるくらいだ。それでも、過剰な接触はしない。
「ハガルちゃん、ノインちゃんのこと、お気に入りね」
ハガルは店にくると、私ばかり指名してきた。最初は、警戒したのだけど、そういうものが崩れるほどに、ハガルは安全な男だった。
「今日も当番やらされたんだよ。もう、酷いよな」
「手、とても綺麗ですね」
「俺さ、色々と制限されてるの。俺だけ、剣技が禁止なんだよ。ほら、忙しい身だから、これ以上、課題を増やして、大怪我したら大変なんだって。だから俺、こんなに女みたいに手が綺麗なんだよ。恥ずかしい!」
「やだ、くすぐったいです、ハガル様」
膝の上で頭を動かされると、ついつい、言ってしまう。
「随分と、いい顔で笑うようになったな」
「そうですか?」
「借金で売られたんだ、仕方がない。そうだ、借金って、簡単に返す方法、知ってるか?」
「もっと、働く?」
「身請けだよ。ノイン、俺の妻になる気はないか?」
「え?」
たった一カ月で、ハガルのほうから、私に寄ってきた。
よくわからないが、私はハガルの好みだという。女遊びをするハガルは、決まった感じの女にばかり金を落としていた。私は、ハガルの好みど真ん中だという。
ハガルは私の頬に手を伸ばした。男にしては、綺麗な手だ。逆に、私の手は色々と汚れている。
「ママには話しておいた。もし、俺の妻になるなら、借金全て、払ってやるよ。住む所も、いい感じのトコを見つけてある。あとは、ノインの返事次第だ。ダメかな?」
これは、好奇だ。ハガルに身請けされれば、もっと色々と話してくれるだろう。それに、違う方法もとれる。
私は頑張って笑った。
「ぜひ、ハガル様の妻にしてください」
その答えに、ハガルはとても喜んだ。
展開が早すぎる。返事をしてすぐ、ハガルは借金を返済してしまった。
「ハガルちゃんも、とうとう、女遊びやめちゃうのね!?」
「ママにはお世話になってるから、飲みには来るよ。テーブルには、ママがついてよ」
「喜んで!!」
ママはハガルをぎゅーと抱きしめる。女遊びはやめるけど、ママとの関係はそのまま続けるんだ。
「ノインちゃん、ハガルちゃんのこと、大事にしてあげて。ハガルちゃん、本当に苦労ばっかりしてるんだから」
「ママ、そういうこと言わないの。ノインはそのままでいいんだから。ほら、行こう」
もう、決意とかそういうものもないままに、ハガルは私の手を引っ張っていく。
ハガルは計画的なのか、本当に家まで借りていた。
「思ったよりも、借金の額が多かった。まあ、子どもが出来たら、もうちょっと大きい家に移ればいいか」
「そんな、これで十分です!」
「ノインにこれ以上、苦労はかけたくない」
ぎゅっと抱きしめるハガル。金で買ったんだから、この先は、閨事だ。
ところが、ハガルは口付けだけで、私を解放した。
「今日、返事を貰って、嬉しかった。荷物とかは、明日、運ぼう。今日は、俺、外泊届だしてないから、帰るよ。明日からは、ここから通おう」
そう言って、呆気なく、ハガルは帰っていった。覚悟を決めたというのに、何もしない。
食事は、ママのところで済ませていたので、もう、寝るだけだ。仕方がない。ハガルは見習いとはいえ、魔法使いだ。簡単に外泊など出来る立場ではない。
二人で眠るには、まあまあの広さのベッドで横になる。こんなに簡単に、あの男の懐に入れてしまったので、気が抜けた。
「あ、薬」
もうそろそろ、私の薬がきれる。私は、薬によって、ご主人様に縛られている。薬が切れると、ものすごい苦しみがある。
明日から、ハガルはここで過ごすという。ママの店では、薬を使うわけにはいかなかった。万が一、違う客の所に手料理や飲み物がいってしまったら、後が大変だ。
だけど、ここでふるまう手料理は、全て、ハガルの口に入る。私と同じように薬漬けにしてしまえば、後は、ご主人様がどうにかしてくれる。
薬を飲めば、もう、苦しいもない。私は安心して眠った。
ママの店で働いていたせいか、朝はそれほど早く起きられない。よい匂いで、目を覚ました。
ハガルがいつの間にか来て、朝食をテーブルに並べていた。料理、出来る男なのか!?
「まだ、普通の生活は馴れないだろう。今日の朝と昼は、俺が作ろう。夜は、楽しみにしている」
「も、申し訳ございません!!」
「馴れてるからいい。何しろ、朝昼晩と、料理やらされてるからな。今日は休みを貰った。明日からは、まあ、夜だけしかいないから、寂しい思いをさせるな」
「そうなのですか」
「こうやって、ノインを養うためにも、働かないとな」
「わ、私も、働きます!」
「もう少し、ゆっくりしてからでいい。今日は、荷物を運ぼう」
「はい!」
見た目はぱっとしないのに、とても優しい男だ。気配りが違う。油断すると、私のほうが絆されてしまいそうだ。
荷物は大した量ではない。そういうものは、ハガルが全て持っていった。見た目は力とかなさそうなのに、ひょいと持ち上げてしまった。
「いいな、こういうのは」
「はい」
手をつないで歩くだけで喜ぶハガル。ちょろいな、この男は。
だけど、あの家に戻れば、きっと、閨事を強要されるだろう。そう覚悟して、家に戻り、荷物を片づけ、夜になる。
「じゃあ、休もう」
夜になると、私を抱きしめて、そのまま、ハガルは就寝する。
「あ、あの、ハガル様」
「何?」
「寝るのですか?」
「寝るだけだけど、どうしたの?」
本当に、手を出す気はない顔だ。眠そうにあくびなんかしている。
ハガルは私よりも年下だ。もしかすると、閨事、知らないとか? いやいや、ママとは何かあったっぽい。知らないはずがない。
そのままでいいじゃないか。だって、薬はたっぷり食べさせた。あとは、そういう生活を続けて、薬漬けになったところで、ご主人様の元に連れていけばいいんだ。
良い方向へと私が考えをかえたところ、ハガルはため息をつく。
「ごめん、我慢したいけど、やっぱり、無理だ。離れよう」
ハガルはベッドから離れた。
「ハガル様、無理しなくても」
「夜ことは、ゆっくりでいい。俺は初めてだから、痛い思いはさせたくない。きっと、下手だ」
「大丈夫です! 私も初めてですから!!」
私はハガルにすり寄った。もう、ハガルに我慢させればいいというのに、何故か、ハガルの優しさが、そうさせない。
「私を身請けするために、ものすごいお金を払ったのです。せめて、私の初めてを貰ってください。そうすれば、やっと、私はあなたの妻になれます」
「………じゃあ、まずは、ノインを気持ちよく出来るか、試してみよう」
突然、ハガルは怪しい笑みを浮かべた。どこか、色気さえ感じる。
私をゆっくりとベッドに押し倒し、上に圧し掛かる。怪しい笑みのまま、私に軽い口づけをする。
最初は、触るように、それがどんどんと長くなってきて、舌をいれられる。その行為には、私は馴れているはずだった。
ハガルの舌使いが絶妙だった。口の中を上手に蹂躙して、私に答える隙を与えない。目を細めて、私の口内を味わい、私が感じて震えるのを見つめる。
長い口づけが終わると、私は脱力した。初めてというには、ハガルは上手すぎる。
「大丈夫か? 少し、ガッツき過ぎたな」
そう言って、ハガルは私の腕を撫でる。それすらも、何故か気持ちよくて、私は「あっ」なんて声をあげてしまう。ただの口付けが気持ち良すぎた。
「もう少し、先をしていいかな」
「は、はい」
体のほうが、先に進むのを望んでいた。ハガルは私の服を上手に脱がす。その脱がす手すら、私には、気持ち良すぎた。鍛えられていない手だからか、肌を滑らせられると、のけ反ってしまう。
「感じやすいようだな。それはいい」
違う。この男の手が、気持ち良すぎるのだ。
そうして、胸を優しく愛撫される。訓練では、乱暴なものでも気持ちよい、と覚えこまされた。むしろ、そういう刺激のほうが良かった。
ところが、ハガルの手は絶妙な力加減で私を愛撫する。それが、波のような刺激となって、もう、気持ちよさが膨れあがってくる。
胸を愛撫しながら、また、口付けして舌をいれてくる。二つの刺激に、私は身もだえた。どんどんと気持ちよい行為が膨れ上がり、私は絶頂しそうになる。
ビクビクと体が痙攣した所で、ハガルは急に体を離した。
「いかんいかん、我慢できない」
ハガルは己の一物が服の中で反り立っているのを撫でる。見た目、大きいように見える。
「ここまでにしよう」
「あ、そんなぁ」
「そういう声を出されると、俺も我慢できなくなるから」
「ハガル様、どうか、情けをください!」
私がお腹をおさえて身もだえる。その姿に、ハガルは何故か、困った、という顔をする。
「いや、本当に初めてだから、痛いことになるぞ」
「かまいません!」
私のほうから口付けする。体の奥でついた悦楽が我慢できなかった。ここまでされて、放置されるなど、耐えられない。
ハガルはため息をついて、私の蜜口に手をいれる。長く太い指を一本だけだ。もっと本数が多くても大丈夫なのに!
「痛くないか?」
「はい! ハガル様、気持ちよいです」
「そうか」
そう言って、ハガルは私の蜜口に舌をいれてくる。絶妙な力加減で浅いところを刺激され、奥は指一本でついてくる。足りない太さに、身もだえした。もっと太いものがほしいと訴えたいが、我慢して、ハガルの頭をつかんだ。もっと、刺激がほしくて、もっと、とはしない声をあげてしまう。
「思ったよりも、ここは柔らかいか。もしかして、父親に悪戯されたか?」
バレたかと思ったが、そうではなかった。たぶん、ハガルは、そういう背景の女をいっぱい、知っているのだろう。勝手に、そう思い込んでくれた。
「そう、なのです。でも、最後まではっ」
「可哀想に」
哀れに、と心底思っている顔だ。その表情だけでも、胸が高鳴った。なんて愚かな男だろう。こんな嘘に簡単に騙されて、ほとんどお手付きな女を可愛がっているのだ。
「あっ、ハガル様!」
「ハガルでいい。これで、もう、俺のものだ」
蜜口に、ハガルの一物が押し当てられる。指とは違う、明らかな太さと質量のあるものだ。それをゆっくりと押し込んできた。
途中、苦痛があった。痛みに、私はハガルの背中に爪をたてた。ハガルは上だけ服を着たままだが、背中に何か、傷跡があるような感触があった。
私が苦痛に顔を歪めると、ハガルは一度、挿入を止めた。
「血が出てしまったな」
「初めてを貰っていただいて、嬉しいです、ハガル様」
「様はそのうち、外せ」
ぐっと奥へと押し込まれる。固さといい、長さといい、太さといい、とんでもない物を持っていた。しかも、指で一通り、中の良いところを見つけられたのだろう。そこばかりを突いてきた。
初めてのはずだ。なのに、ハガルはうますぎた。あまりの行為に、私ははやくも果ててしまう。
「なるほど、俺はやはり、女好きだな」
得も言えぬ色香を出して笑うハガルに、私は魅入ってしまう。この平凡な顔立ちの男なのに、その身に纏う空気は、とんでもない色香がある。動きや仕草から、それを感じてしまう。
私が絶頂して、しばらく、ハガルは動きを止めた。ハガル自身は全く、なえることはない。怪しい笑みを浮かべて、私を見下ろしてくる。
「もうちょっと、激しくしていいかな?」
「どうぞ」
胸が高鳴る。この男がどれほどの行為をするのか、体のほうが期待していた。
だけど、それほど激しい挿入はない。ゆっくりと、ねっとりとされる挿入に、私は波のような快楽を受けて、それがどんどんと集まり、頭がおかしくなる。
「あ、も、もう」
「すまないな、そこまで激しくは出来ない」
もっと、と訴えても、ハガルはその速度をはやめることはない。ただ、優しく、緩やかに、だけど、的確に良いところを突いてくる。それが、恐ろしいほど気持ちよくて、また、絶頂する。
それを繰り返されると、私はおかしくなってきた。ハガルにしがみつき、口付けを求め、どんどんとハガルに深くつながろうとする。
「そういうことすると、出てしまう」
「はい、どうぞ!」
ぐいっと奥を突かれる。途端、ハガルは中に子種を吐き出した。
長い行為だった。たった一度だというのに、私は力尽きた。
対するハガルは全く疲れた様子がない。
「可愛いな」
私の頭を優しくなでて、軽く口づけまでするほど、余裕だ。
「ノイン、わかっていると思うが、この家に、男をいれるなよ」
「あ、はい」
ハガルが私の背中を撫でる。たったそれだけでも気持ちよい。私はもだえる。
ハガルを見やれば、ハガルの自身は反り立っていた。まだ、私との閨事が出来る。だけど、ハガルは私に背を向けて、横になった。私はハガルの背中に抱きついた。
「ハガル様、その、手で、やりましょうか」
「それは、断る」
機嫌が悪くなったのか、ハガルはベッドから出ていってしまった。
「ハガル様、ごめんなさい!」
「いや、ノインは悪くない。ノインの手をそんなことに使いたくないだけだ。俺は、女を気持ちよくしたい男なんだ。そこのところ、わかってくれ」
そう言って、適当な長椅子で、ハガルは眠ってしまった。
閨事は、それから毎日だ。私を気持ちよくして、ハガルは満足していた。そして、私が作った薬が入った料理は残さず食べてくれる。
もうそろそろ、という頃合いに、薬を持ってくる連絡役がやってきた。
家の外に出て、薬を受け取った。
「もうそろそろ、薬を切らしてみろ」
「はい」
私は連絡役の指示に従い、今日、薬なしの料理をハガルに出すことにした。
ハガルは、いつもよりも早く帰ってきた。
「ハガル様、おかえりなさいませ」
いつもの通りに言って、近寄る。ところが、ハガルは私の腕をつかんだ。
「外で、男に会ったな」
優しさなどかけらほどもない、冷たい声だ。
「あ、あの、少し、外に出て、買い物をしました」
「買い物、必要ないだろう。そういうふうにしている」
家の中には、いつも、十分に物が揃っている。服も、食料も、暇つぶしの本まで置いてあった。家のことを一通り、隙なくこなせば、時間だって十分に潰れる。
ハガルは私が用意した料理を口にいれる。
「今日は、薬なしか」
わかっていて、ハガルは普通に食べていた。
「お前の体から薬を抜いてやったというのに、薬を盛るから、面倒だった。この薬、お前の体を蝕み、寿命を削るというのに。とんだ、ご主人様だな」
振り返るハガルの顔は、私の知っている顔ではない。その姿に、私は目を奪われる。もう、全てがどうでも良くなるほどの、美しい相貌だ。
毎夜、行われる閨事は、訓練とは違った。訓練では、どんなものでも気持ちよい、と作り変えられていた。ハガルとは、優しく、だけど、凶悪な快楽をどんどんと押し付けられたのだ。気持ちよいことばかりを私にするのだ。ハガル自身の快楽はなかった。
そんなハガルの手が私の腕をつかみ、引き寄せるように口付けする。間近で見る、その美しい相貌に、瞬きすら出来ない。
「残念だ。お前は、私の飼い主に差し出さなければならない」
はらはらと泣くハガルの顔は美しかった。ハガルは私に対して情を抱いていた。
「では、どうか、私と一緒に」
「私もまた、あの方には逆らえない。さあ、大人しく来なさい。私にまかせれば、悪いようにはしない」
声もまた頭に響くような美しさと怪しさがある。このまま、言いなりになってしまいたい、それほどの魅力だ。
優しく抱きしめてくるハガル。しかし、私もまた、ご主人様を裏切れない。暗器を出して、ハガルに攻撃する。
かなり接近していたから、避けられるとは思っていなかった。しかし、ハガルは何かの力によって私から離された。それでも、ハガルの頬に傷がついた。
失敗した。私は休むことなく、ハガルに向かっていったはずだった。
見えない力によって、体は床に押し付けられた。何が起こったのか、わからなかった。
「私の顔に傷をつけるとは。叱られてしまうな」
そんなハガルの呟きを最後に、私の意識はなくなった。
気づいたら、拷問でよく使われる椅子に拘束されていた。ハガルの飼い主とやらに引き渡されたのだ。
近くで、誰かが口論していた。
「すぐに処刑だ!!」
「ラインハルト様、まだ、雇い主を吐かせていません」
「お前の顔に傷をつけたんだぞ。処刑だ」
「だから、雇い主を吐かせてから」
「どうせ、また、連絡役が来るだろう。そこを捕らえろ」
「いつ来るかわからない連絡役などよりも、目の前にいる情報です。ほら、顔の傷など、瞬時に治せます」
「治せるなら、どうして見せた!?」
「報告が面倒だから、まずは怪我をしたことを見せただけです。ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません」
「もう、こんな危険なことはするな!」
「仕方がないではありませんか。大魔法使いの側仕えは私だけです。私がエサとなるしかありません。次は、怪我には気を付けますから」
「もう、許さん!!」
「だいたい、剣技の習得を禁止するから、こうなったのではないですか。私の攻撃手段は魔法だけですよ。接近戦では、今回のようなことがあります。せめて、剣技を」
「それも許さん。お前のこの綺麗な手を傷つけるなど、耐えられん!!」
「私は男ですよ。傷の一つや二つ。だいたい、背中に立派な傷があるではありませんか」
「あれは、私はつけたものだ。だから、許される。それ以外は、許さん」
「わかりました。ほら、ノインが目を覚ましましたよ」
あの美しい容貌のハガルは、笑顔で私の側にやってくる。ところが、それを男が止める。
「近づくな! また、顔を傷つけられるだろう!!」
「武器はもうないですよ。全て、調べた後です。もう、私が未熟のために、こんなことが起こってしまいました。次からは、こんなことはありませんよ。私は、二度も同じ過ちはしません」
ハガルは男の腕をどうにかはがして、私の前に立った。
「ノイン、すみませんね。痛い目にあわせたくなかったのですが、顔を傷つけられてしまい、つい、怒ってしまいました。痛いところはありませんか?」
優しく笑いかけて、私の身を案じるハガル。姿形、話し方まで変わってしまったというのに、その優しさは変わらない。
「これから、私は、どうなるのですか?」
「私としては、あなたが素直に雇い主を話してくれれば、痛い目に合わせなくてすみます。お互い、閨事は初めてでしたからね」
「ハガル! まさか、伽程度で、情が湧いたのか!?」
男がハガルの肩をつかんで、また、私から離した。この男は、一体、何者なんだ?
「ノイン、紹介が遅れましたね。この方は、皇帝ラインハルト様です。私の飼い主です」
ハガルは優雅に皇帝の横に跪き、忠誠を誓うように靴を舐める。その仕草は見ているだけで、色香がある。
「私の皇帝です。失礼なことはしないように。私はラインハルト様には絶対に逆らえません。ラインハルト様が処刑を命じれば、あなたは処刑です」
「処刑しろ」
「情報を吐かせてからです」
「逆らってるじゃないか!?」
「大丈夫です。情報を吐かせたら、処刑しますから。ほら、逆らっていません」
にっこりと笑っていうハガル。呆れてしまう。処刑を先送りにしているだけだ。皇帝は、今すぐ、処刑したいのだ。
「さて、どうしますか? もう、あなたを首輪は役立たずですよ。あなたの体を蝕んでいた薬は全て、私の魔法で取り除きました」
「あなたも薬の入った食事をとったではないですか!! もう、苦しいはずです!!!」
「私ほどの妖精憑きには、酒も薬も効きません。薬入りの料理は、イマイチでしたね。今日のは、美味しかったですよ。残念です。男と密通とは」
「ハガル、泣くな」
私の浮気の容疑に泣くハガル。はらはらと涙を流す姿は、美しく、罪悪感を持たされる。
「密通なんてしていない!」
「でも、あなたの体は随分と男の手垢がついていた。初めてだけはいただけましたが、それ以外は、随分と訓練されましたね。きっと、私は下手だったんでしょう」
「ハガル様は、お上手です!!」
「………本当ですか? 私はこの通り、体を鍛えていませんから、きっと、満足はさせられなかったと思います」
「そんなことはありません。毎晩、これまで受けたことがないほどの悦楽を与えてもらいました。こんな、汚れた私を愛してくださって、ありがとうございました」
ハガルは嬉しそうに笑った。大輪の華が咲くような笑みに、胸が高鳴る。
「嬉しいことを言ってくれますね。そこまで言われてしまうと、男らしいことをせねばなりませんね」
そう言って、私の首に手をかけるハガル。このまま、殺されるかと思った。
カチンと音をたてて、私の首に首輪がつけられた。
「私を裏切った時、首が締まります。大丈夫、苦しいだけで、死ぬことはありませんよ」
「私を、殺すのでは?」
「ラインハルト様、せっかく、私がいいと言ってくれた女です。助けてください」
「お前、何言ってるんだ!?」
私も驚く。皇帝なんか、激怒だ。
「情報も吐いてない女だぞ!」
「ノイン、教えてくれますよね。だって、あなたは私の初めての女です。お互い、初めて同士です。あなたのことは、全て知りたい。全て、教えてください」
耳元で甘く囁かれる。
「父親に売られたことは事実でしょう。その先をぜひ、教えてください。私はあなたの全てを知りたい。どのように訓練を受けましたか? その相手も教えてください。私のノインに手垢をつけた男は全て、私が殺してあげます」
恐ろしいことを甘い声で囁いてくる。
「あなたに手を出した男がこの世からいなくなれば、あなたに手を出した男は私だけだ」
「はい、話します」
この男の言葉に、姿に、誰が逆らえるというのだろうか? 私に手をつけた男に嫉妬の色を見せるハガルに、女として喜んだ。
首輪をつけたままの私をハガルは連れて行く。その先は、私のご主人様が暮らす邸宅だ。
私は裏口までハガルを導き、私と同じような訓練された暗部たちの元に連れていく。
誰もハガルの前では抵抗も出来ない。動けなくなった暗部たちは、私を裏切者と睨み上げる。全て、薬に体が侵されていて、ご主人様に逆らえなくなっていた。
「私にはもう、ノインがいますから、他はいりませんね。ノイン、お前のご主人様はどこですか?」
「私のご主人様は、ハガル様です」
「おや、嬉しいことを言ってくれる。では、元ご主人様の元に案内してください」
魔法使いだからか、それとも、ハガルだからか、誰も逆らえない。それどころか、苦痛を受けたように悶絶して、のたうち回っていた。
ハガルが歩いた後は、阿鼻叫喚だ。その異様な光景を見ないようにした。ハガルの美しい容貌だけを見つめていたかった。
「一体、何をしている!?」
これだけの騒ぎだ、元ご主人様だって動く。あの男は、全てを暗部にやらせて、安全な所で悪だくみするだけだ。
ハガルの姿に、元ご主人様は目を奪われた。
「これが、ノインの元ご主人様か」
「貴様、誰だ?」
「ノインの新しいご主人様だ。さて、お前だけは生け捕りしろ、と言われている」
「誰か、この男を捕らえろ!!」
声高に命じるが、誰も来ない。無理だ。ハガルが全て、動けなくしたのだ。
「一度、内部の制圧をしてみたかったので、やってみましたが、面白くない。これだったら、ノインと閨事していればよかった」
「はい」
嬉しいことを言われた。私はハガルの腕にすり寄る。
「ノインの処刑命令を回避するためには、お前が必要だ」
恐怖で腰が抜けた元ご主人様は、それでも、ハガルからは目が離せない。
「金を出す! どうだ、私のものになれ!!」
これほどの美しい人だ。元ご主人様も欲しい。手を伸ばせば手が届くところにいるのだ。
だけど、それを私が許さない。ハガルに伸ばされる手を私は暗器で切り裂いた。
「ぎゃあああああーーーーーー!!!」
血しぶきをあげてのたうちまわる元ご主人様を穏やかな笑顔で見下ろすハガル。
「ノイン、私のために手を汚すなんて、嬉しいです。無事、この男をラインハルト様に差し出したら、地下牢を綺麗にしましょう。もう、外には出しませんよ」
「喜んで」
もう、日の目が見れないと説明もされた。私は一生、地下牢でハガルの情けで生きるしかない。それでもいい。
ハガルは私をまっすぐ見つめる。この異様な光景の中で、私を抱きしめ、深く口づけしてくれた。
地下牢に閉じ込められてしばらく、ハガルが私にいわくある首輪をつけて、連れ出した。地下にある地下牢に連れていく。
そこには、元ご主人様がいた。苦しむ姿は、薬がきれた症状だ。
「ノイン、もう、薬なんか、やってはいけないよ。こうなる」
「ハガル様の情けがあれば、十分です」
「そういってくれると、嬉しいな」
この男をどうにか喜ばせて、顔を向けさせたい。その必死な思いは、言葉だけでなく、縋りついてしまう。ハガルはいつも、地下牢に来るわけではない。ハガルにはハガルの立場と役割がある。
「お前には感謝しないといけないな。ノインを最後までは手をつけられていなかった。聞いたぞ。いつも、薬漬けにして、逆らえなくなった女は、お前が手をつけていたそうだな。どうせ、私が手垢まみれの女に食いつかなかったから、ノインを出したんだろう。
感謝しているから、処刑はなくなるように、ラインハルト様にお願いした。人を薬づけをするのが好きだというから、お前を薬漬けにしてやった。もうすぐ、薬が運ばれる。長く、薬を楽しむがいい」
薬がきれても、ハガルの素顔は、苦しさすらどこか忘れてしまうほどの威力があった。鉄枠に手をかけて、ハガルに手を伸ばす男には、私はもう、何も感じなかった。
ハガルは見た目が平凡な男だ。戦争に参加したが、大した実力はないという。大魔法使いの側仕えを長年、担っているため、随分と贔屓されている、という話だった。魔法使いとしても大した実力が見られない。
この男は、女遊びが大好きだ。決まった店に行っては、金を落として、女と遊んでいるという。まだ、成人前なので、酒は飲まないが、女に触れたりとか、そういう児戯のような遊び方を楽しんでいるという。
この仕事をご主人様から命じられた時は、喜んだ。ご主人様のために、体も技量も鍛えた。一人前になれば、ご主人様に女の初めてを受け取ってもらえる。それこそが、私にとっての喜びだ。ご主人様に女にしてもらって、もしかしたら、そのまま寵愛されるかもしれない。実際、先輩で、そういう女もいる。
ご主人様を喜ばせるための技術も体に教え込まれた。ご主人様のためだと、男のものを咥えたりもした。将来は、この技量で、ご主人様を喜ばせる、そう信じていたのだ。
ところが、この仕事は、生娘でないといけないという。
「何人か、もぐりこませたが、どうも、引っかからない。あの男は、生娘がいいんだろう」
そうなると、私はご主人様に手をつけてもらえない。
「あの男を懐柔し、大魔法使いの弱味さえ握れば、お前を愛してやろう」
そう囁かれて、私は信じた。
そうして、父親の借金で売られた娘として、あの男が通い詰める店で接客をすることとなった。
店は普通だ。女が客をもてなすだけだ。色ごとをすることもあるにはあるが、金がかかるという。
私が生娘だと知ったママは。
「もう、大事にしなさいよ! お金で簡単に売るものじゃないんだから!!」
と言ってくれた。生娘なので、そういうことが好きそうな客は遠ざけられた。
そして、見習い魔法使いハガルがやってきた。
本当に、見た目は普通の男だ。特に特徴があるわけではない。私よりも若い。
「ハガルちゃーん、よく来てくれたわね。新しい子が入ったわよ」
「えー、また借金苦の子? もう、ママ、俺がそういう子に弱いって知ってるでしょう」
ものすごく困った、という顔をして、ママに案内されるハガル。普通の男だ。危険なんて、これっぽっちも感じない。
私のすぐ隣りにハガルは座る。優しい目で、私を見つめる。
「誰に売られたの?」
「ち、父親に」
間違ってはいない。私は実際、父親に売られた。その背景は確かなので、嘘にはならない。
「そうか。大変だね。俺の父親もさ、妹を売ろうとしたんだよ。すぐに見つけて、こらしめてやったけどね。ほら、好きなもの、頼みなよ。何がいい? 酒でもいいよ。俺が飲めないけど」
「ハガルちゃん、飲まないの!?」
「一度、間違えちゃったから、飲まない」
「飲みましょうよ!!」
「飲まない!」
ママが物凄くお酒を勧めるけど、ハガルは断固拒否する。何かあったのは、見てるだけでわかる。
「果物の盛り合わせでいいかな。俺はいつもの水だけで。いっとくけど、俺に酒出しても、全部、水になるからね」
「ちっ!」
ママは物凄く悔しそうに舌打ちして去っていった。
こんな平凡な見た目の男のどこに、ママが惹かれたのか、その時は、よくわからなかった。ただの、優しい男だ。
話し込んでいると、急に肩を抱きよせてきた。思わず、私は固まった。
「あー、ごめん、初めての接客だってね。ほら、リラックスして。俺はここまでだけど、人によっては、胸触ってくるよ。足とかも撫でてくるし、際どいとこまで手をツッコんでくるのがいるから。それがイヤなら、きちんと流してみな。ほら、練習」
「あ、困ります」
「そうそう、そういうふうに、抵抗するといいよ」
この男にとって、私を相手にするのは、何が楽しいのか、よくわからない。男だったら、女に色々としたいだろう。
なのに、ハガルはそういうことは一切しない。ただ、話して、肩を抱いて、膝枕ねだるくらいだ。それでも、過剰な接触はしない。
「ハガルちゃん、ノインちゃんのこと、お気に入りね」
ハガルは店にくると、私ばかり指名してきた。最初は、警戒したのだけど、そういうものが崩れるほどに、ハガルは安全な男だった。
「今日も当番やらされたんだよ。もう、酷いよな」
「手、とても綺麗ですね」
「俺さ、色々と制限されてるの。俺だけ、剣技が禁止なんだよ。ほら、忙しい身だから、これ以上、課題を増やして、大怪我したら大変なんだって。だから俺、こんなに女みたいに手が綺麗なんだよ。恥ずかしい!」
「やだ、くすぐったいです、ハガル様」
膝の上で頭を動かされると、ついつい、言ってしまう。
「随分と、いい顔で笑うようになったな」
「そうですか?」
「借金で売られたんだ、仕方がない。そうだ、借金って、簡単に返す方法、知ってるか?」
「もっと、働く?」
「身請けだよ。ノイン、俺の妻になる気はないか?」
「え?」
たった一カ月で、ハガルのほうから、私に寄ってきた。
よくわからないが、私はハガルの好みだという。女遊びをするハガルは、決まった感じの女にばかり金を落としていた。私は、ハガルの好みど真ん中だという。
ハガルは私の頬に手を伸ばした。男にしては、綺麗な手だ。逆に、私の手は色々と汚れている。
「ママには話しておいた。もし、俺の妻になるなら、借金全て、払ってやるよ。住む所も、いい感じのトコを見つけてある。あとは、ノインの返事次第だ。ダメかな?」
これは、好奇だ。ハガルに身請けされれば、もっと色々と話してくれるだろう。それに、違う方法もとれる。
私は頑張って笑った。
「ぜひ、ハガル様の妻にしてください」
その答えに、ハガルはとても喜んだ。
展開が早すぎる。返事をしてすぐ、ハガルは借金を返済してしまった。
「ハガルちゃんも、とうとう、女遊びやめちゃうのね!?」
「ママにはお世話になってるから、飲みには来るよ。テーブルには、ママがついてよ」
「喜んで!!」
ママはハガルをぎゅーと抱きしめる。女遊びはやめるけど、ママとの関係はそのまま続けるんだ。
「ノインちゃん、ハガルちゃんのこと、大事にしてあげて。ハガルちゃん、本当に苦労ばっかりしてるんだから」
「ママ、そういうこと言わないの。ノインはそのままでいいんだから。ほら、行こう」
もう、決意とかそういうものもないままに、ハガルは私の手を引っ張っていく。
ハガルは計画的なのか、本当に家まで借りていた。
「思ったよりも、借金の額が多かった。まあ、子どもが出来たら、もうちょっと大きい家に移ればいいか」
「そんな、これで十分です!」
「ノインにこれ以上、苦労はかけたくない」
ぎゅっと抱きしめるハガル。金で買ったんだから、この先は、閨事だ。
ところが、ハガルは口付けだけで、私を解放した。
「今日、返事を貰って、嬉しかった。荷物とかは、明日、運ぼう。今日は、俺、外泊届だしてないから、帰るよ。明日からは、ここから通おう」
そう言って、呆気なく、ハガルは帰っていった。覚悟を決めたというのに、何もしない。
食事は、ママのところで済ませていたので、もう、寝るだけだ。仕方がない。ハガルは見習いとはいえ、魔法使いだ。簡単に外泊など出来る立場ではない。
二人で眠るには、まあまあの広さのベッドで横になる。こんなに簡単に、あの男の懐に入れてしまったので、気が抜けた。
「あ、薬」
もうそろそろ、私の薬がきれる。私は、薬によって、ご主人様に縛られている。薬が切れると、ものすごい苦しみがある。
明日から、ハガルはここで過ごすという。ママの店では、薬を使うわけにはいかなかった。万が一、違う客の所に手料理や飲み物がいってしまったら、後が大変だ。
だけど、ここでふるまう手料理は、全て、ハガルの口に入る。私と同じように薬漬けにしてしまえば、後は、ご主人様がどうにかしてくれる。
薬を飲めば、もう、苦しいもない。私は安心して眠った。
ママの店で働いていたせいか、朝はそれほど早く起きられない。よい匂いで、目を覚ました。
ハガルがいつの間にか来て、朝食をテーブルに並べていた。料理、出来る男なのか!?
「まだ、普通の生活は馴れないだろう。今日の朝と昼は、俺が作ろう。夜は、楽しみにしている」
「も、申し訳ございません!!」
「馴れてるからいい。何しろ、朝昼晩と、料理やらされてるからな。今日は休みを貰った。明日からは、まあ、夜だけしかいないから、寂しい思いをさせるな」
「そうなのですか」
「こうやって、ノインを養うためにも、働かないとな」
「わ、私も、働きます!」
「もう少し、ゆっくりしてからでいい。今日は、荷物を運ぼう」
「はい!」
見た目はぱっとしないのに、とても優しい男だ。気配りが違う。油断すると、私のほうが絆されてしまいそうだ。
荷物は大した量ではない。そういうものは、ハガルが全て持っていった。見た目は力とかなさそうなのに、ひょいと持ち上げてしまった。
「いいな、こういうのは」
「はい」
手をつないで歩くだけで喜ぶハガル。ちょろいな、この男は。
だけど、あの家に戻れば、きっと、閨事を強要されるだろう。そう覚悟して、家に戻り、荷物を片づけ、夜になる。
「じゃあ、休もう」
夜になると、私を抱きしめて、そのまま、ハガルは就寝する。
「あ、あの、ハガル様」
「何?」
「寝るのですか?」
「寝るだけだけど、どうしたの?」
本当に、手を出す気はない顔だ。眠そうにあくびなんかしている。
ハガルは私よりも年下だ。もしかすると、閨事、知らないとか? いやいや、ママとは何かあったっぽい。知らないはずがない。
そのままでいいじゃないか。だって、薬はたっぷり食べさせた。あとは、そういう生活を続けて、薬漬けになったところで、ご主人様の元に連れていけばいいんだ。
良い方向へと私が考えをかえたところ、ハガルはため息をつく。
「ごめん、我慢したいけど、やっぱり、無理だ。離れよう」
ハガルはベッドから離れた。
「ハガル様、無理しなくても」
「夜ことは、ゆっくりでいい。俺は初めてだから、痛い思いはさせたくない。きっと、下手だ」
「大丈夫です! 私も初めてですから!!」
私はハガルにすり寄った。もう、ハガルに我慢させればいいというのに、何故か、ハガルの優しさが、そうさせない。
「私を身請けするために、ものすごいお金を払ったのです。せめて、私の初めてを貰ってください。そうすれば、やっと、私はあなたの妻になれます」
「………じゃあ、まずは、ノインを気持ちよく出来るか、試してみよう」
突然、ハガルは怪しい笑みを浮かべた。どこか、色気さえ感じる。
私をゆっくりとベッドに押し倒し、上に圧し掛かる。怪しい笑みのまま、私に軽い口づけをする。
最初は、触るように、それがどんどんと長くなってきて、舌をいれられる。その行為には、私は馴れているはずだった。
ハガルの舌使いが絶妙だった。口の中を上手に蹂躙して、私に答える隙を与えない。目を細めて、私の口内を味わい、私が感じて震えるのを見つめる。
長い口づけが終わると、私は脱力した。初めてというには、ハガルは上手すぎる。
「大丈夫か? 少し、ガッツき過ぎたな」
そう言って、ハガルは私の腕を撫でる。それすらも、何故か気持ちよくて、私は「あっ」なんて声をあげてしまう。ただの口付けが気持ち良すぎた。
「もう少し、先をしていいかな」
「は、はい」
体のほうが、先に進むのを望んでいた。ハガルは私の服を上手に脱がす。その脱がす手すら、私には、気持ち良すぎた。鍛えられていない手だからか、肌を滑らせられると、のけ反ってしまう。
「感じやすいようだな。それはいい」
違う。この男の手が、気持ち良すぎるのだ。
そうして、胸を優しく愛撫される。訓練では、乱暴なものでも気持ちよい、と覚えこまされた。むしろ、そういう刺激のほうが良かった。
ところが、ハガルの手は絶妙な力加減で私を愛撫する。それが、波のような刺激となって、もう、気持ちよさが膨れあがってくる。
胸を愛撫しながら、また、口付けして舌をいれてくる。二つの刺激に、私は身もだえた。どんどんと気持ちよい行為が膨れ上がり、私は絶頂しそうになる。
ビクビクと体が痙攣した所で、ハガルは急に体を離した。
「いかんいかん、我慢できない」
ハガルは己の一物が服の中で反り立っているのを撫でる。見た目、大きいように見える。
「ここまでにしよう」
「あ、そんなぁ」
「そういう声を出されると、俺も我慢できなくなるから」
「ハガル様、どうか、情けをください!」
私がお腹をおさえて身もだえる。その姿に、ハガルは何故か、困った、という顔をする。
「いや、本当に初めてだから、痛いことになるぞ」
「かまいません!」
私のほうから口付けする。体の奥でついた悦楽が我慢できなかった。ここまでされて、放置されるなど、耐えられない。
ハガルはため息をついて、私の蜜口に手をいれる。長く太い指を一本だけだ。もっと本数が多くても大丈夫なのに!
「痛くないか?」
「はい! ハガル様、気持ちよいです」
「そうか」
そう言って、ハガルは私の蜜口に舌をいれてくる。絶妙な力加減で浅いところを刺激され、奥は指一本でついてくる。足りない太さに、身もだえした。もっと太いものがほしいと訴えたいが、我慢して、ハガルの頭をつかんだ。もっと、刺激がほしくて、もっと、とはしない声をあげてしまう。
「思ったよりも、ここは柔らかいか。もしかして、父親に悪戯されたか?」
バレたかと思ったが、そうではなかった。たぶん、ハガルは、そういう背景の女をいっぱい、知っているのだろう。勝手に、そう思い込んでくれた。
「そう、なのです。でも、最後まではっ」
「可哀想に」
哀れに、と心底思っている顔だ。その表情だけでも、胸が高鳴った。なんて愚かな男だろう。こんな嘘に簡単に騙されて、ほとんどお手付きな女を可愛がっているのだ。
「あっ、ハガル様!」
「ハガルでいい。これで、もう、俺のものだ」
蜜口に、ハガルの一物が押し当てられる。指とは違う、明らかな太さと質量のあるものだ。それをゆっくりと押し込んできた。
途中、苦痛があった。痛みに、私はハガルの背中に爪をたてた。ハガルは上だけ服を着たままだが、背中に何か、傷跡があるような感触があった。
私が苦痛に顔を歪めると、ハガルは一度、挿入を止めた。
「血が出てしまったな」
「初めてを貰っていただいて、嬉しいです、ハガル様」
「様はそのうち、外せ」
ぐっと奥へと押し込まれる。固さといい、長さといい、太さといい、とんでもない物を持っていた。しかも、指で一通り、中の良いところを見つけられたのだろう。そこばかりを突いてきた。
初めてのはずだ。なのに、ハガルはうますぎた。あまりの行為に、私ははやくも果ててしまう。
「なるほど、俺はやはり、女好きだな」
得も言えぬ色香を出して笑うハガルに、私は魅入ってしまう。この平凡な顔立ちの男なのに、その身に纏う空気は、とんでもない色香がある。動きや仕草から、それを感じてしまう。
私が絶頂して、しばらく、ハガルは動きを止めた。ハガル自身は全く、なえることはない。怪しい笑みを浮かべて、私を見下ろしてくる。
「もうちょっと、激しくしていいかな?」
「どうぞ」
胸が高鳴る。この男がどれほどの行為をするのか、体のほうが期待していた。
だけど、それほど激しい挿入はない。ゆっくりと、ねっとりとされる挿入に、私は波のような快楽を受けて、それがどんどんと集まり、頭がおかしくなる。
「あ、も、もう」
「すまないな、そこまで激しくは出来ない」
もっと、と訴えても、ハガルはその速度をはやめることはない。ただ、優しく、緩やかに、だけど、的確に良いところを突いてくる。それが、恐ろしいほど気持ちよくて、また、絶頂する。
それを繰り返されると、私はおかしくなってきた。ハガルにしがみつき、口付けを求め、どんどんとハガルに深くつながろうとする。
「そういうことすると、出てしまう」
「はい、どうぞ!」
ぐいっと奥を突かれる。途端、ハガルは中に子種を吐き出した。
長い行為だった。たった一度だというのに、私は力尽きた。
対するハガルは全く疲れた様子がない。
「可愛いな」
私の頭を優しくなでて、軽く口づけまでするほど、余裕だ。
「ノイン、わかっていると思うが、この家に、男をいれるなよ」
「あ、はい」
ハガルが私の背中を撫でる。たったそれだけでも気持ちよい。私はもだえる。
ハガルを見やれば、ハガルの自身は反り立っていた。まだ、私との閨事が出来る。だけど、ハガルは私に背を向けて、横になった。私はハガルの背中に抱きついた。
「ハガル様、その、手で、やりましょうか」
「それは、断る」
機嫌が悪くなったのか、ハガルはベッドから出ていってしまった。
「ハガル様、ごめんなさい!」
「いや、ノインは悪くない。ノインの手をそんなことに使いたくないだけだ。俺は、女を気持ちよくしたい男なんだ。そこのところ、わかってくれ」
そう言って、適当な長椅子で、ハガルは眠ってしまった。
閨事は、それから毎日だ。私を気持ちよくして、ハガルは満足していた。そして、私が作った薬が入った料理は残さず食べてくれる。
もうそろそろ、という頃合いに、薬を持ってくる連絡役がやってきた。
家の外に出て、薬を受け取った。
「もうそろそろ、薬を切らしてみろ」
「はい」
私は連絡役の指示に従い、今日、薬なしの料理をハガルに出すことにした。
ハガルは、いつもよりも早く帰ってきた。
「ハガル様、おかえりなさいませ」
いつもの通りに言って、近寄る。ところが、ハガルは私の腕をつかんだ。
「外で、男に会ったな」
優しさなどかけらほどもない、冷たい声だ。
「あ、あの、少し、外に出て、買い物をしました」
「買い物、必要ないだろう。そういうふうにしている」
家の中には、いつも、十分に物が揃っている。服も、食料も、暇つぶしの本まで置いてあった。家のことを一通り、隙なくこなせば、時間だって十分に潰れる。
ハガルは私が用意した料理を口にいれる。
「今日は、薬なしか」
わかっていて、ハガルは普通に食べていた。
「お前の体から薬を抜いてやったというのに、薬を盛るから、面倒だった。この薬、お前の体を蝕み、寿命を削るというのに。とんだ、ご主人様だな」
振り返るハガルの顔は、私の知っている顔ではない。その姿に、私は目を奪われる。もう、全てがどうでも良くなるほどの、美しい相貌だ。
毎夜、行われる閨事は、訓練とは違った。訓練では、どんなものでも気持ちよい、と作り変えられていた。ハガルとは、優しく、だけど、凶悪な快楽をどんどんと押し付けられたのだ。気持ちよいことばかりを私にするのだ。ハガル自身の快楽はなかった。
そんなハガルの手が私の腕をつかみ、引き寄せるように口付けする。間近で見る、その美しい相貌に、瞬きすら出来ない。
「残念だ。お前は、私の飼い主に差し出さなければならない」
はらはらと泣くハガルの顔は美しかった。ハガルは私に対して情を抱いていた。
「では、どうか、私と一緒に」
「私もまた、あの方には逆らえない。さあ、大人しく来なさい。私にまかせれば、悪いようにはしない」
声もまた頭に響くような美しさと怪しさがある。このまま、言いなりになってしまいたい、それほどの魅力だ。
優しく抱きしめてくるハガル。しかし、私もまた、ご主人様を裏切れない。暗器を出して、ハガルに攻撃する。
かなり接近していたから、避けられるとは思っていなかった。しかし、ハガルは何かの力によって私から離された。それでも、ハガルの頬に傷がついた。
失敗した。私は休むことなく、ハガルに向かっていったはずだった。
見えない力によって、体は床に押し付けられた。何が起こったのか、わからなかった。
「私の顔に傷をつけるとは。叱られてしまうな」
そんなハガルの呟きを最後に、私の意識はなくなった。
気づいたら、拷問でよく使われる椅子に拘束されていた。ハガルの飼い主とやらに引き渡されたのだ。
近くで、誰かが口論していた。
「すぐに処刑だ!!」
「ラインハルト様、まだ、雇い主を吐かせていません」
「お前の顔に傷をつけたんだぞ。処刑だ」
「だから、雇い主を吐かせてから」
「どうせ、また、連絡役が来るだろう。そこを捕らえろ」
「いつ来るかわからない連絡役などよりも、目の前にいる情報です。ほら、顔の傷など、瞬時に治せます」
「治せるなら、どうして見せた!?」
「報告が面倒だから、まずは怪我をしたことを見せただけです。ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません」
「もう、こんな危険なことはするな!」
「仕方がないではありませんか。大魔法使いの側仕えは私だけです。私がエサとなるしかありません。次は、怪我には気を付けますから」
「もう、許さん!!」
「だいたい、剣技の習得を禁止するから、こうなったのではないですか。私の攻撃手段は魔法だけですよ。接近戦では、今回のようなことがあります。せめて、剣技を」
「それも許さん。お前のこの綺麗な手を傷つけるなど、耐えられん!!」
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「わかりました。ほら、ノインが目を覚ましましたよ」
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「近づくな! また、顔を傷つけられるだろう!!」
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ハガルは優雅に皇帝の横に跪き、忠誠を誓うように靴を舐める。その仕草は見ているだけで、色香がある。
「私の皇帝です。失礼なことはしないように。私はラインハルト様には絶対に逆らえません。ラインハルト様が処刑を命じれば、あなたは処刑です」
「処刑しろ」
「情報を吐かせてからです」
「逆らってるじゃないか!?」
「大丈夫です。情報を吐かせたら、処刑しますから。ほら、逆らっていません」
にっこりと笑っていうハガル。呆れてしまう。処刑を先送りにしているだけだ。皇帝は、今すぐ、処刑したいのだ。
「さて、どうしますか? もう、あなたを首輪は役立たずですよ。あなたの体を蝕んでいた薬は全て、私の魔法で取り除きました」
「あなたも薬の入った食事をとったではないですか!! もう、苦しいはずです!!!」
「私ほどの妖精憑きには、酒も薬も効きません。薬入りの料理は、イマイチでしたね。今日のは、美味しかったですよ。残念です。男と密通とは」
「ハガル、泣くな」
私の浮気の容疑に泣くハガル。はらはらと涙を流す姿は、美しく、罪悪感を持たされる。
「密通なんてしていない!」
「でも、あなたの体は随分と男の手垢がついていた。初めてだけはいただけましたが、それ以外は、随分と訓練されましたね。きっと、私は下手だったんでしょう」
「ハガル様は、お上手です!!」
「………本当ですか? 私はこの通り、体を鍛えていませんから、きっと、満足はさせられなかったと思います」
「そんなことはありません。毎晩、これまで受けたことがないほどの悦楽を与えてもらいました。こんな、汚れた私を愛してくださって、ありがとうございました」
ハガルは嬉しそうに笑った。大輪の華が咲くような笑みに、胸が高鳴る。
「嬉しいことを言ってくれますね。そこまで言われてしまうと、男らしいことをせねばなりませんね」
そう言って、私の首に手をかけるハガル。このまま、殺されるかと思った。
カチンと音をたてて、私の首に首輪がつけられた。
「私を裏切った時、首が締まります。大丈夫、苦しいだけで、死ぬことはありませんよ」
「私を、殺すのでは?」
「ラインハルト様、せっかく、私がいいと言ってくれた女です。助けてください」
「お前、何言ってるんだ!?」
私も驚く。皇帝なんか、激怒だ。
「情報も吐いてない女だぞ!」
「ノイン、教えてくれますよね。だって、あなたは私の初めての女です。お互い、初めて同士です。あなたのことは、全て知りたい。全て、教えてください」
耳元で甘く囁かれる。
「父親に売られたことは事実でしょう。その先をぜひ、教えてください。私はあなたの全てを知りたい。どのように訓練を受けましたか? その相手も教えてください。私のノインに手垢をつけた男は全て、私が殺してあげます」
恐ろしいことを甘い声で囁いてくる。
「あなたに手を出した男がこの世からいなくなれば、あなたに手を出した男は私だけだ」
「はい、話します」
この男の言葉に、姿に、誰が逆らえるというのだろうか? 私に手をつけた男に嫉妬の色を見せるハガルに、女として喜んだ。
首輪をつけたままの私をハガルは連れて行く。その先は、私のご主人様が暮らす邸宅だ。
私は裏口までハガルを導き、私と同じような訓練された暗部たちの元に連れていく。
誰もハガルの前では抵抗も出来ない。動けなくなった暗部たちは、私を裏切者と睨み上げる。全て、薬に体が侵されていて、ご主人様に逆らえなくなっていた。
「私にはもう、ノインがいますから、他はいりませんね。ノイン、お前のご主人様はどこですか?」
「私のご主人様は、ハガル様です」
「おや、嬉しいことを言ってくれる。では、元ご主人様の元に案内してください」
魔法使いだからか、それとも、ハガルだからか、誰も逆らえない。それどころか、苦痛を受けたように悶絶して、のたうち回っていた。
ハガルが歩いた後は、阿鼻叫喚だ。その異様な光景を見ないようにした。ハガルの美しい容貌だけを見つめていたかった。
「一体、何をしている!?」
これだけの騒ぎだ、元ご主人様だって動く。あの男は、全てを暗部にやらせて、安全な所で悪だくみするだけだ。
ハガルの姿に、元ご主人様は目を奪われた。
「これが、ノインの元ご主人様か」
「貴様、誰だ?」
「ノインの新しいご主人様だ。さて、お前だけは生け捕りしろ、と言われている」
「誰か、この男を捕らえろ!!」
声高に命じるが、誰も来ない。無理だ。ハガルが全て、動けなくしたのだ。
「一度、内部の制圧をしてみたかったので、やってみましたが、面白くない。これだったら、ノインと閨事していればよかった」
「はい」
嬉しいことを言われた。私はハガルの腕にすり寄る。
「ノインの処刑命令を回避するためには、お前が必要だ」
恐怖で腰が抜けた元ご主人様は、それでも、ハガルからは目が離せない。
「金を出す! どうだ、私のものになれ!!」
これほどの美しい人だ。元ご主人様も欲しい。手を伸ばせば手が届くところにいるのだ。
だけど、それを私が許さない。ハガルに伸ばされる手を私は暗器で切り裂いた。
「ぎゃあああああーーーーーー!!!」
血しぶきをあげてのたうちまわる元ご主人様を穏やかな笑顔で見下ろすハガル。
「ノイン、私のために手を汚すなんて、嬉しいです。無事、この男をラインハルト様に差し出したら、地下牢を綺麗にしましょう。もう、外には出しませんよ」
「喜んで」
もう、日の目が見れないと説明もされた。私は一生、地下牢でハガルの情けで生きるしかない。それでもいい。
ハガルは私をまっすぐ見つめる。この異様な光景の中で、私を抱きしめ、深く口づけしてくれた。
地下牢に閉じ込められてしばらく、ハガルが私にいわくある首輪をつけて、連れ出した。地下にある地下牢に連れていく。
そこには、元ご主人様がいた。苦しむ姿は、薬がきれた症状だ。
「ノイン、もう、薬なんか、やってはいけないよ。こうなる」
「ハガル様の情けがあれば、十分です」
「そういってくれると、嬉しいな」
この男をどうにか喜ばせて、顔を向けさせたい。その必死な思いは、言葉だけでなく、縋りついてしまう。ハガルはいつも、地下牢に来るわけではない。ハガルにはハガルの立場と役割がある。
「お前には感謝しないといけないな。ノインを最後までは手をつけられていなかった。聞いたぞ。いつも、薬漬けにして、逆らえなくなった女は、お前が手をつけていたそうだな。どうせ、私が手垢まみれの女に食いつかなかったから、ノインを出したんだろう。
感謝しているから、処刑はなくなるように、ラインハルト様にお願いした。人を薬づけをするのが好きだというから、お前を薬漬けにしてやった。もうすぐ、薬が運ばれる。長く、薬を楽しむがいい」
薬がきれても、ハガルの素顔は、苦しさすらどこか忘れてしまうほどの威力があった。鉄枠に手をかけて、ハガルに手を伸ばす男には、私はもう、何も感じなかった。
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その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
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