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外伝 辺境のど田舎の日常
辺境のど田舎の食事事情
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翌日の朝食の席で、アーサーの父ネロが怒りの形相で待ち構えていた。
「アーサー、お前はリサに向かって、随分な口をきいたというじゃないか。リサは朝まで泣いていたぞ」
「ううう、アーサーがぁ。いくらアタシが平民だからって」
「いただきます」
アーサーはさっさと無視して、食事についた。今日も蛇の肉が出たな。それを見たヘラは、憂鬱な表情となった。
「アーサー!!」
「義兄上の熱は下がったのですか? 私のことをいう前に、義兄上のことでしょう。義母上、腹を痛めて産んだ息子が骨折の熱で苦しんでいるというのに、そんな下らない自尊心を振りかざして、義兄上、可哀想ですね。熱で苦しんでいることを心配してもらえないなんて」
「っ!?」
アーサーは、きちんと義兄リブロの現状を使用人を通して聞いている。昨夜から、発熱は続いているという。一応、アーサーは医者に指示をして、看病は使用人に命じて、としていた。本来、これは、リブロの母リサの役目である。
「朝から、医者に使用人に、と私のほうが迫られましたよ。父上と義母上に指示を仰ごうとしたら、それどころではない、と二人で話も聞かないから困った、と。父上、義兄上のことを可愛い息子だと、いつも私に言ってますよね。骨折は自業自得ですが、可愛い息子だというのなら、義母上の詰まらない自尊心よりも、苦しんでいる義兄上の心配が先でしょう」
「い、いや、死ぬわけでもない、し」
「義母上の詰まらない自尊心なんて、現実的には、痛くも痒くもないですよ。ただ、我慢して、耐えていればいいでしょう。義兄上の痛みと苦しみは、現実的ですし、辛いでしょうね。私も経験したから知っていますよ。義兄上、可哀想」
アーサーは、わざと、エリザに目を向ける。エリザ、我関せずと食事をとっていた。
「エリザは、義兄上のこと、心配じゃないのですね。いつもの通り、食事も平らげて」
「え、そ、その、これから、お兄様のお見舞いに」
「お見舞い? 看病じゃないんだ。私はいいですよ。どうせ、片親は違いますから。看病は人任せです。だけど、エリザは両親が同じでしょう。こういう所で、本性が見えてくるのですよね。エリザ、貴族に嫁ぐ時は、我が家は一切、支援しない。嫁ぎ先でのお前の失敗の尻ぬぐいなんかしない」
「お腹がすくんだから、仕方がないじゃない!!」
「義兄上は、食事も喉が通らないほど苦しんでいましたよ。見に行きましたか?」
「あんただって」
「行ったから知ってるんです。ただ、報告を受けて終わりにするわけがないでしょう。きちんと、現状を確認して、最良の判断をします。どうせ、エリザ、義兄上の様子、見に行ってもいないでしょう」
「さっき知ったばかりよ!!」
「あーんなに大騒ぎしてたのに? 義兄上が悲鳴をあげて、本邸に担ぎ込まれて、使用人たちは大変なことになっていたってのに、さっき知った? 冷たい女だな」
「ひ、ひどいぃ」
「泣けばいいと思ってる。泣いたって、義兄上の熱が下がるわけがないってのにな。いたって、役に立たないから、大人しくしててください。医者と使用人の足を引っ張って、義兄上の病状を悪化させないように」
「あんただって、食べてるじゃない!!」
「これから、視察です。私の行動で、領地の行く末が決まるのだから、義兄上に足を引っ張られるわけにはいきません。また、借金背負うなんて、御免です」
「あんたが実権を握ってるから」
「一年間、父上たちが実権を握って、散々、無駄つかいして、あげく、借金まみれにしておいてですか。エリザ、随分な無駄遣いしてくれた証拠は残っていますよ。お前は金を使っただけで、生み出しもしない。そのだらしない体もどうにかしろ!! 義兄上と同じ、胸だけでなく、腹まで出て!!」
「っ!?」
確かにそうなんだが、胸は言わなくていいだろう。俺だけでなく、きっと、ヘラも思ったはずだ。アーサー、憎悪を込めて、エリザの胸を睨んでいる。アーサー、同い年の義妹エリザの胸が膨らんでいるのが、妬ましいのだ。
昨夜のことで、超不機嫌なアーサーに、アーサーの父、義母、義妹は、こてんぱんに言い負かされた。こんな時に、アーサーに喧嘩を売るなんてなー。あ、エリザは、アーサーから喧嘩売ったんだな。飛び火だ、飛び火。
食事を終わらせて、さっさと準備を終わらせたアーサーとヘラは、屋敷を出た。
「アーサー様、リブロ様の容体ですが」
屋敷を出たところで、使用人につかまるアーサー。アーサー、さっきの不機嫌は隠して、使用人と笑顔で話していた。
それを離れたところで俺とヘラは、馬を宥めながら見ていた。
「お前なぁ、アーサーに胸のことはいうな」
「知らなかったのよ」
「ものすごく気にしてるからな。今日は、別の部屋を準備したから、そこで休め」
「え、もしかして、わたくし一人?」
「アーサーと一緒だと、また、何か言われるだろう。アーサーも不機嫌だしな」
昨夜、俺と気持ち良いこと、思う存分したかったというのに、中途半端な所でやめたから、アーサーは物足りないのだ。
俺はアーサー抱きしめて、いつものように、匂い付けして、アーサーの臓腑まで俺の寿命で満たせば、十分、幸せだから。
「お待たせしました。行きましょう」
使用人と話して落ち着いたようで、アーサーは笑顔で戻ってきた。
「リブロ、熱が続きそうだな」
「最近、領地民にも手を出している、という噂があるので、丁度いいですよ。長期休暇中は、大人しくなります」
「………」
ヘラ、目の前にいないリブロがいかに最低か知って、嫌悪で顔を歪めた。あいつ、本当に最低だから。
「今日も蛇かなー。別のがいいなー」
「ちょ、ちょっと、アーサー、何の話!?」
「キロン、馬に乗せてー」
「はいはい」
「アーサー!! キロン!!!」
こんなど田舎の楽しみなんて限られている。アーサーは食の楽しみのために、ヘラの犠牲を狙っていた。
「ううううう、なんて酷い目にぃ」
「この芋は、高級食材ですよ」
「まさか、土の中にハチの巣が作られているとは」
「見つかって良かったです。キロンのお陰で、無傷ですよ!!」
「わたくしの心配してぇ!!」
「ありがとうございます」
「おいしくいただきます」
「酒に漬けよう」
「私はハチミツ漬けがいいなー」
「うええええーーーーーーん」
可哀想に、ヘラの犠牲により、高級食材が手に入って、アーサーたちは大喜びである。ヘラなんか、落とし穴に数度、落ちるやら、蜂に追われるやら、大変な目にあっていた。昨日の蛇の上に落ちるなんて、可愛いと思っただろう。
「アーサー様ー!!」
そこに、屋敷の使用人が馬に乗ってやってきた。
「どうかしましたか?」
「リブロ様の発熱がすごすぎて、その、治療を」
使用人は俺をちらっと見た。あれだ、俺にリブロの骨折治せ、とアーサーに言わせたいんだ。
使用人が言葉を濁しても、アーサーは気づく。アーサーは、きちんと人の機微に気づく子だ。
「キロン、氷、出して」
「アーサー様、そうでなくて」
「義兄上のは自業自得です。苦しんで、反省させるしかありません。だいたい、私の婚約者の寝室に勝手に侵入した義兄上は、言い訳ばかりで、謝罪すら口にしない。女の敵です」
「なんですと!!」
まだ、知らなかったのだろう。リブロの祖父である領主代行が激昂した。
「リブロが、まさか、ヘラ様を眠っているところを襲ったのですか!?」
「そして、義兄上は、ヘラに木剣で滅多打ちにされ、足を骨折したんです」
「………アーサー様ではなく?」
「ヘラです。ヘラの生家は、騎士で身を立てる貴族家です。男でも女でも、鍛えるんです」
「リブロめ、なんて不名誉なこと。だったら、苦しんで、普通に治療でいいでしょう」
「ですが、あまり高熱が続くと、その、頭が」
「おかしくなったら、もう、長男がどうのこうの、と言わなくなるので、静かになりますね」
アーサー、笑顔でえげつないことをいう。怒ってるんだな、昨夜のこと。
「アーサー様、その時は、我が家で責任もって、面倒をみます」
色々と覚悟を決める領主代行。まだ、リブロは無事なんだけど、無事じゃない前提で、話が進んでいる。
そんな覚悟を聞いて、アーサーは笑顔を消した。
「いいですね、そう言ってくれる身内がいて。義兄上は幸せ者です」
「アーサー様………」
「心配いりません。領主代行にご迷惑にならないように、神殿送りにします。そのために、いっぱい寄付してますから」
「………」
やっぱり、まだ、アーサー怒ってるよー。物悲しい顔なんだけど、言ってることはえげつないよ。
そして、こんなこと聞いたら、神殿のみんな、泣いちゃうよ!! 神殿のみんな、アーサーのこと、いい子と思ってるから。内心がこんなどす黒いなんて知ったら、寝込む人も出てきそうだ。
そんなアーサーのえげつない判断を横で聞いていたヘラは、泣き止んだ。ほら、いつまでも泣いてたら、アーサーも、いい加減、ヘラを捨てるよ。そこのところ、容赦ないからな。
「あ、あの、アーサー様、それで」
「キロンが氷を出してくれるので、それで冷やしてください。義兄上の回復は、神と妖精、聖域の判断に任せましょう」
「は、はいぃー!!」
これ以上、アーサーを怒らせてはいけないと察した使用人は、バケツいっぱいの氷を持って、馬で駆け戻っていった。
「アーサーは魔法で回復したってのに、リブロには自然に回復って、なんて冷たくて意地悪なんだよ」
アーサーの義兄リブロの熱が下がれば、また、色々と言ってくる義母リサ。もう、やめればいいのにぃー。
アーサーは、素揚げされた蜂の子を大きな口で食べるところだった。普通に、えぐい光景だな。美味しいんだけど。
「いい機会ですから、体術と剣術をしっかりと身に着けてください。か弱い女性に滅多打ちされるなんて、恥ずかしいですよ。たしか、貴族の学校の男児側は、体術と剣術は必須ですね。この話が広がったら、単位貰えないかもしれないですね」
「リブロは頭がいいから、いんだよ!!」
「成績、見せてください」
「あんたが見てわかるのかい?」
「わかりますよ。帝国に提出する書類よりは、優しいでしょうね」
「見て、驚くんじゃないよ」
そして見せられる、リブロの成績表。
「下から数えたほうが早い順位というのはどうかと」
「ばっかだねー、これは、数字が多いほうがいいんだよ!!」
「数字が大きいほど、成績が落ちるのよ。この成績表は、帝国共通だから、辺境だけ違う、ということはないわ」
「そんなことないよ!! り、リブロが」
アーサーでは信じられないが、実際に学校に通っているヘラが成績表の見方を説明すると、リサは真っ青になった。リブロ、成績が悪いのを隠してたんだな。
「で、でも、旦那様だって」
「父上の貴族の学校の成績が悪いことは、母上から聞いています。下位クラスのさらに下のほうの順位だったんです。そりゃ、父上だって、同じように誤魔化したのでしょう。きっと、子爵家の伝統です」
「あんたはアーサーの婚約者なんだから、信じないよ!!」
結局、ヘラも敵視するリサ。こうして、リブロの成績は誤魔化されているのだろう。それは、子爵家の伝統として、連綿と続いていくのだ。
アーサーは、改めて、リブロの成績に目を通した。
「こんなので卒業できるというのなら、手を抜いても、大丈夫だな」
「手を抜くって、貴族の学校の授業、かなり難しいわよ」
「教科書は全部、読破したし、覚えています。貴族となるためには、卒業しないといけないから、と学校に通うのが面倒なんですよね。忙しいのだから、手抜き出来るところは手抜きします。キロン、この成績表を我が家が雇っている教師に見せてください。どうせ、寝たきりなんだから、頭を鍛えてもらいましょう」
「わかった」
長期休暇中、ただ、リブロを寝たきりにさせないアーサー。ここぞとばかりに、リサがいう通り、リブロの頭を鍛えるつもりだ。無理だけど。
「ねえ、アーサー、大丈夫? わたくし、やり過ぎてしまったけど」
「天罰ですよ。偽物の胸に騙されて、ふらふらといくから」
「………」
まだ、胸のことを根に持っているアーサー。ヘラは、これ以上、この事を口にしてはいけない、と悟った。俺も、黙っていよう。
「あー、お腹空いたー」
リブロの熱が下がったということで、堂々と食べられると安心したエリザが席についた。そして、机の上に並べられるゲテモノに、エリザ、うんざりした顔となる。
「アーサーお義兄様、こういうものは、貴族には相応しくないわ!! 家畜があんなにいるんだから、そういうものを食べましょうよ!!!」
「あと一週間で、熊が食べごろです。それまで待ちなさい」
「だから、牛とか、ブタとか」
「味がイマイチで」
「どうして、お祖父様の所では普通に出てくる、牛やブタが、ここでは出てこないのですか!?」
だったら、子爵家から出ていけ。俺も、きっと、ヘラだって思った。口には出さないけど。
アーサーは、何故かじっとエリザの胸を見た。エリザとアーサーは同い年である。本当は、エリザのほうが先に生まれる予定だったのだが、アーサーが早産で先に生まれてしまったという話である。兄、妹、と言っているが、わずか数日の差だ。
「そうか、そこの差が、ここに出てるのかも。わかりました、今日はブタにしましょう。キロン、料理人に頼んできてください」
「これは、どうするんだ?」
「食べます」
食べるんだ。アーサーはどうしても、このゲテモノが大好きだ。アーサーだけが、もりもりと食べていた。
そして、出てきた肉料理を、辛そうに食べるアーサー。実は、アーサー、あまり肉が好きじゃない。というか、美味しいと感じないのだ。
「アーサー、無理して食べなくても」
「今から頑張らないと」
アーサーは、エリザの胸を睨むようにして見た。エリザは気づいていない。久しぶりのまともな肉料理に喜んでいる。
「偽物には負けない」
とばっちりを受けるヘラ。ヘラ、きっと、この作り物の胸をつけたこと、今は後悔しているだろうなー。
そこに、同じように安心したのか、アーサーの父と義母がやってきた。
「おー、肉だ!!」
「やっと、貴族らしい食事だね!!」
それを聞いて、アーサーはナイフとフォークを音をたてて置いた。
「アーサー、音をたてるなんて」
「父上と義母上には、いつもの料理を出してください」
「な、何を!?」
「アタシの肉ー!!」
ネロとリサの前から、普通の料理が消えた。
「アーサー、なんてことするんだい!!」
「普段から、皇帝だって喜んで食べる料理ですよ。王都では、高級食材として高値で取引されている物ばかりを普通に食べているというのに、気づいてもらえないなんて」
「こんなゲテモノが!!」
「高級食材です。ゲテモノなんて口にしたら、とんでもない恥をかきますよ」
「アタシは、普通の、普通の、肉料理がいいんだよ!!」
「そうだそうだ!!」
「これで、父上が作った借金を完済したというのに、わかってもらえないなんて、悲しい」
「………」
ネロとリサは、黙って食べるしかなかった。
「アーサー、お前はリサに向かって、随分な口をきいたというじゃないか。リサは朝まで泣いていたぞ」
「ううう、アーサーがぁ。いくらアタシが平民だからって」
「いただきます」
アーサーはさっさと無視して、食事についた。今日も蛇の肉が出たな。それを見たヘラは、憂鬱な表情となった。
「アーサー!!」
「義兄上の熱は下がったのですか? 私のことをいう前に、義兄上のことでしょう。義母上、腹を痛めて産んだ息子が骨折の熱で苦しんでいるというのに、そんな下らない自尊心を振りかざして、義兄上、可哀想ですね。熱で苦しんでいることを心配してもらえないなんて」
「っ!?」
アーサーは、きちんと義兄リブロの現状を使用人を通して聞いている。昨夜から、発熱は続いているという。一応、アーサーは医者に指示をして、看病は使用人に命じて、としていた。本来、これは、リブロの母リサの役目である。
「朝から、医者に使用人に、と私のほうが迫られましたよ。父上と義母上に指示を仰ごうとしたら、それどころではない、と二人で話も聞かないから困った、と。父上、義兄上のことを可愛い息子だと、いつも私に言ってますよね。骨折は自業自得ですが、可愛い息子だというのなら、義母上の詰まらない自尊心よりも、苦しんでいる義兄上の心配が先でしょう」
「い、いや、死ぬわけでもない、し」
「義母上の詰まらない自尊心なんて、現実的には、痛くも痒くもないですよ。ただ、我慢して、耐えていればいいでしょう。義兄上の痛みと苦しみは、現実的ですし、辛いでしょうね。私も経験したから知っていますよ。義兄上、可哀想」
アーサーは、わざと、エリザに目を向ける。エリザ、我関せずと食事をとっていた。
「エリザは、義兄上のこと、心配じゃないのですね。いつもの通り、食事も平らげて」
「え、そ、その、これから、お兄様のお見舞いに」
「お見舞い? 看病じゃないんだ。私はいいですよ。どうせ、片親は違いますから。看病は人任せです。だけど、エリザは両親が同じでしょう。こういう所で、本性が見えてくるのですよね。エリザ、貴族に嫁ぐ時は、我が家は一切、支援しない。嫁ぎ先でのお前の失敗の尻ぬぐいなんかしない」
「お腹がすくんだから、仕方がないじゃない!!」
「義兄上は、食事も喉が通らないほど苦しんでいましたよ。見に行きましたか?」
「あんただって」
「行ったから知ってるんです。ただ、報告を受けて終わりにするわけがないでしょう。きちんと、現状を確認して、最良の判断をします。どうせ、エリザ、義兄上の様子、見に行ってもいないでしょう」
「さっき知ったばかりよ!!」
「あーんなに大騒ぎしてたのに? 義兄上が悲鳴をあげて、本邸に担ぎ込まれて、使用人たちは大変なことになっていたってのに、さっき知った? 冷たい女だな」
「ひ、ひどいぃ」
「泣けばいいと思ってる。泣いたって、義兄上の熱が下がるわけがないってのにな。いたって、役に立たないから、大人しくしててください。医者と使用人の足を引っ張って、義兄上の病状を悪化させないように」
「あんただって、食べてるじゃない!!」
「これから、視察です。私の行動で、領地の行く末が決まるのだから、義兄上に足を引っ張られるわけにはいきません。また、借金背負うなんて、御免です」
「あんたが実権を握ってるから」
「一年間、父上たちが実権を握って、散々、無駄つかいして、あげく、借金まみれにしておいてですか。エリザ、随分な無駄遣いしてくれた証拠は残っていますよ。お前は金を使っただけで、生み出しもしない。そのだらしない体もどうにかしろ!! 義兄上と同じ、胸だけでなく、腹まで出て!!」
「っ!?」
確かにそうなんだが、胸は言わなくていいだろう。俺だけでなく、きっと、ヘラも思ったはずだ。アーサー、憎悪を込めて、エリザの胸を睨んでいる。アーサー、同い年の義妹エリザの胸が膨らんでいるのが、妬ましいのだ。
昨夜のことで、超不機嫌なアーサーに、アーサーの父、義母、義妹は、こてんぱんに言い負かされた。こんな時に、アーサーに喧嘩を売るなんてなー。あ、エリザは、アーサーから喧嘩売ったんだな。飛び火だ、飛び火。
食事を終わらせて、さっさと準備を終わらせたアーサーとヘラは、屋敷を出た。
「アーサー様、リブロ様の容体ですが」
屋敷を出たところで、使用人につかまるアーサー。アーサー、さっきの不機嫌は隠して、使用人と笑顔で話していた。
それを離れたところで俺とヘラは、馬を宥めながら見ていた。
「お前なぁ、アーサーに胸のことはいうな」
「知らなかったのよ」
「ものすごく気にしてるからな。今日は、別の部屋を準備したから、そこで休め」
「え、もしかして、わたくし一人?」
「アーサーと一緒だと、また、何か言われるだろう。アーサーも不機嫌だしな」
昨夜、俺と気持ち良いこと、思う存分したかったというのに、中途半端な所でやめたから、アーサーは物足りないのだ。
俺はアーサー抱きしめて、いつものように、匂い付けして、アーサーの臓腑まで俺の寿命で満たせば、十分、幸せだから。
「お待たせしました。行きましょう」
使用人と話して落ち着いたようで、アーサーは笑顔で戻ってきた。
「リブロ、熱が続きそうだな」
「最近、領地民にも手を出している、という噂があるので、丁度いいですよ。長期休暇中は、大人しくなります」
「………」
ヘラ、目の前にいないリブロがいかに最低か知って、嫌悪で顔を歪めた。あいつ、本当に最低だから。
「今日も蛇かなー。別のがいいなー」
「ちょ、ちょっと、アーサー、何の話!?」
「キロン、馬に乗せてー」
「はいはい」
「アーサー!! キロン!!!」
こんなど田舎の楽しみなんて限られている。アーサーは食の楽しみのために、ヘラの犠牲を狙っていた。
「ううううう、なんて酷い目にぃ」
「この芋は、高級食材ですよ」
「まさか、土の中にハチの巣が作られているとは」
「見つかって良かったです。キロンのお陰で、無傷ですよ!!」
「わたくしの心配してぇ!!」
「ありがとうございます」
「おいしくいただきます」
「酒に漬けよう」
「私はハチミツ漬けがいいなー」
「うええええーーーーーーん」
可哀想に、ヘラの犠牲により、高級食材が手に入って、アーサーたちは大喜びである。ヘラなんか、落とし穴に数度、落ちるやら、蜂に追われるやら、大変な目にあっていた。昨日の蛇の上に落ちるなんて、可愛いと思っただろう。
「アーサー様ー!!」
そこに、屋敷の使用人が馬に乗ってやってきた。
「どうかしましたか?」
「リブロ様の発熱がすごすぎて、その、治療を」
使用人は俺をちらっと見た。あれだ、俺にリブロの骨折治せ、とアーサーに言わせたいんだ。
使用人が言葉を濁しても、アーサーは気づく。アーサーは、きちんと人の機微に気づく子だ。
「キロン、氷、出して」
「アーサー様、そうでなくて」
「義兄上のは自業自得です。苦しんで、反省させるしかありません。だいたい、私の婚約者の寝室に勝手に侵入した義兄上は、言い訳ばかりで、謝罪すら口にしない。女の敵です」
「なんですと!!」
まだ、知らなかったのだろう。リブロの祖父である領主代行が激昂した。
「リブロが、まさか、ヘラ様を眠っているところを襲ったのですか!?」
「そして、義兄上は、ヘラに木剣で滅多打ちにされ、足を骨折したんです」
「………アーサー様ではなく?」
「ヘラです。ヘラの生家は、騎士で身を立てる貴族家です。男でも女でも、鍛えるんです」
「リブロめ、なんて不名誉なこと。だったら、苦しんで、普通に治療でいいでしょう」
「ですが、あまり高熱が続くと、その、頭が」
「おかしくなったら、もう、長男がどうのこうの、と言わなくなるので、静かになりますね」
アーサー、笑顔でえげつないことをいう。怒ってるんだな、昨夜のこと。
「アーサー様、その時は、我が家で責任もって、面倒をみます」
色々と覚悟を決める領主代行。まだ、リブロは無事なんだけど、無事じゃない前提で、話が進んでいる。
そんな覚悟を聞いて、アーサーは笑顔を消した。
「いいですね、そう言ってくれる身内がいて。義兄上は幸せ者です」
「アーサー様………」
「心配いりません。領主代行にご迷惑にならないように、神殿送りにします。そのために、いっぱい寄付してますから」
「………」
やっぱり、まだ、アーサー怒ってるよー。物悲しい顔なんだけど、言ってることはえげつないよ。
そして、こんなこと聞いたら、神殿のみんな、泣いちゃうよ!! 神殿のみんな、アーサーのこと、いい子と思ってるから。内心がこんなどす黒いなんて知ったら、寝込む人も出てきそうだ。
そんなアーサーのえげつない判断を横で聞いていたヘラは、泣き止んだ。ほら、いつまでも泣いてたら、アーサーも、いい加減、ヘラを捨てるよ。そこのところ、容赦ないからな。
「あ、あの、アーサー様、それで」
「キロンが氷を出してくれるので、それで冷やしてください。義兄上の回復は、神と妖精、聖域の判断に任せましょう」
「は、はいぃー!!」
これ以上、アーサーを怒らせてはいけないと察した使用人は、バケツいっぱいの氷を持って、馬で駆け戻っていった。
「アーサーは魔法で回復したってのに、リブロには自然に回復って、なんて冷たくて意地悪なんだよ」
アーサーの義兄リブロの熱が下がれば、また、色々と言ってくる義母リサ。もう、やめればいいのにぃー。
アーサーは、素揚げされた蜂の子を大きな口で食べるところだった。普通に、えぐい光景だな。美味しいんだけど。
「いい機会ですから、体術と剣術をしっかりと身に着けてください。か弱い女性に滅多打ちされるなんて、恥ずかしいですよ。たしか、貴族の学校の男児側は、体術と剣術は必須ですね。この話が広がったら、単位貰えないかもしれないですね」
「リブロは頭がいいから、いんだよ!!」
「成績、見せてください」
「あんたが見てわかるのかい?」
「わかりますよ。帝国に提出する書類よりは、優しいでしょうね」
「見て、驚くんじゃないよ」
そして見せられる、リブロの成績表。
「下から数えたほうが早い順位というのはどうかと」
「ばっかだねー、これは、数字が多いほうがいいんだよ!!」
「数字が大きいほど、成績が落ちるのよ。この成績表は、帝国共通だから、辺境だけ違う、ということはないわ」
「そんなことないよ!! り、リブロが」
アーサーでは信じられないが、実際に学校に通っているヘラが成績表の見方を説明すると、リサは真っ青になった。リブロ、成績が悪いのを隠してたんだな。
「で、でも、旦那様だって」
「父上の貴族の学校の成績が悪いことは、母上から聞いています。下位クラスのさらに下のほうの順位だったんです。そりゃ、父上だって、同じように誤魔化したのでしょう。きっと、子爵家の伝統です」
「あんたはアーサーの婚約者なんだから、信じないよ!!」
結局、ヘラも敵視するリサ。こうして、リブロの成績は誤魔化されているのだろう。それは、子爵家の伝統として、連綿と続いていくのだ。
アーサーは、改めて、リブロの成績に目を通した。
「こんなので卒業できるというのなら、手を抜いても、大丈夫だな」
「手を抜くって、貴族の学校の授業、かなり難しいわよ」
「教科書は全部、読破したし、覚えています。貴族となるためには、卒業しないといけないから、と学校に通うのが面倒なんですよね。忙しいのだから、手抜き出来るところは手抜きします。キロン、この成績表を我が家が雇っている教師に見せてください。どうせ、寝たきりなんだから、頭を鍛えてもらいましょう」
「わかった」
長期休暇中、ただ、リブロを寝たきりにさせないアーサー。ここぞとばかりに、リサがいう通り、リブロの頭を鍛えるつもりだ。無理だけど。
「ねえ、アーサー、大丈夫? わたくし、やり過ぎてしまったけど」
「天罰ですよ。偽物の胸に騙されて、ふらふらといくから」
「………」
まだ、胸のことを根に持っているアーサー。ヘラは、これ以上、この事を口にしてはいけない、と悟った。俺も、黙っていよう。
「あー、お腹空いたー」
リブロの熱が下がったということで、堂々と食べられると安心したエリザが席についた。そして、机の上に並べられるゲテモノに、エリザ、うんざりした顔となる。
「アーサーお義兄様、こういうものは、貴族には相応しくないわ!! 家畜があんなにいるんだから、そういうものを食べましょうよ!!!」
「あと一週間で、熊が食べごろです。それまで待ちなさい」
「だから、牛とか、ブタとか」
「味がイマイチで」
「どうして、お祖父様の所では普通に出てくる、牛やブタが、ここでは出てこないのですか!?」
だったら、子爵家から出ていけ。俺も、きっと、ヘラだって思った。口には出さないけど。
アーサーは、何故かじっとエリザの胸を見た。エリザとアーサーは同い年である。本当は、エリザのほうが先に生まれる予定だったのだが、アーサーが早産で先に生まれてしまったという話である。兄、妹、と言っているが、わずか数日の差だ。
「そうか、そこの差が、ここに出てるのかも。わかりました、今日はブタにしましょう。キロン、料理人に頼んできてください」
「これは、どうするんだ?」
「食べます」
食べるんだ。アーサーはどうしても、このゲテモノが大好きだ。アーサーだけが、もりもりと食べていた。
そして、出てきた肉料理を、辛そうに食べるアーサー。実は、アーサー、あまり肉が好きじゃない。というか、美味しいと感じないのだ。
「アーサー、無理して食べなくても」
「今から頑張らないと」
アーサーは、エリザの胸を睨むようにして見た。エリザは気づいていない。久しぶりのまともな肉料理に喜んでいる。
「偽物には負けない」
とばっちりを受けるヘラ。ヘラ、きっと、この作り物の胸をつけたこと、今は後悔しているだろうなー。
そこに、同じように安心したのか、アーサーの父と義母がやってきた。
「おー、肉だ!!」
「やっと、貴族らしい食事だね!!」
それを聞いて、アーサーはナイフとフォークを音をたてて置いた。
「アーサー、音をたてるなんて」
「父上と義母上には、いつもの料理を出してください」
「な、何を!?」
「アタシの肉ー!!」
ネロとリサの前から、普通の料理が消えた。
「アーサー、なんてことするんだい!!」
「普段から、皇帝だって喜んで食べる料理ですよ。王都では、高級食材として高値で取引されている物ばかりを普通に食べているというのに、気づいてもらえないなんて」
「こんなゲテモノが!!」
「高級食材です。ゲテモノなんて口にしたら、とんでもない恥をかきますよ」
「アタシは、普通の、普通の、肉料理がいいんだよ!!」
「そうだそうだ!!」
「これで、父上が作った借金を完済したというのに、わかってもらえないなんて、悲しい」
「………」
ネロとリサは、黙って食べるしかなかった。
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