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外伝 王都の休日
休息の一日
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適当なことを言って、アーサーを宥めたのだが、本当になってしまった。
王都に来て二日目、アーサーは疲れが出たのか、熱が出て、ベッドから起きられなくなった。
「男爵家の使いには、アーサーが病気で行けない、と伝言を頼んだ」
今日も、男爵家から使いが来るとは。アーサーが寝込んだと聞いたら、どうなるのやら。想像が出来ないな。
アーサーは、俺の手を握って、ぐっすりと眠っていた。神殿は妖精憑きだらけだ。俺が何もしなくても、氷嚢が当然のように運び込まれた。食事も、病人食だ。至れり尽くせりで、俺はアーサーの側にずっといた。
「病気なんて、初めて聞いたような気がします」
生まれた頃からアーサーを見ているフーリードにとっては、初めてのことだという。
「いろいろと、抜けたんだな」
きっと、領地で気を張っていたから、王都に来て、気が抜けたのだろう。それで、これまでたまりにたまっていた疲れとかがどっと表に出たのだ。
「薬を持ってきたが、飲めるか?」
王都の教皇ヘクセンが、妖精の万能薬を持ってきてくれた。
「起きたら、飲ませてみるよ」
「こんなのなくても、貴様が魔法で癒してやれば、すぐ治るだろうがな」
「アーサーに聞いてみる」
妖精憑きがたくさんいるが、アーサーは俺のお気に入りだから、皆、遠慮してくれた。
アーサーの同意なしで、病気とか疲れを取り払ってやればいいんだ。だけど、アーサーは良い魔法も悪い魔法も全て弾いてしまう妖精殺しだ。そう簡単な話ではない。
俺は、妖精憑きの本能を言い訳に誤魔化した。こうやって、アーサーを看病することも、俺にとっては喜びなんだ。
「ヘクセン様」
「ああ、今行く」
王都の神殿だから、王都の教皇ヘクセンは忙しい。すぐに呼ばれて、部屋を出て行った。
「キロン、必要なものはありますか? 王都では、だいたいのものは手に入ります」
「必要なものじゃないけど、領主代行から、買い物を頼まれてるんだよな」
王都に行く前、領主代行がこっそりと頼みに来た。領主代行は表向きは、アーサーの父ネロの味方をしている。しかし、裏ではアーサーの味方となって、ネロたちの情報を定期的に報告している。接触するのは、だいたい、俺だ。俺は魔法で人払いや認識阻害が出来るから、こっそりと領主代行に会っていた。
俺が王都に行くと聞いた領主代行は、こっそりと買ってきてほしい、と頼まれたのだ。別に、領地でも行商人に頼めば手に入るものなんだが、誰にも秘密にして手に入れたい、という話だった。
アーサーにも秘密にして、と頼まれていたが、なかなか、アーサーから離れられない俺は、男爵家に頼もうか、と考えていた。
「私が買ってきましょうか」
「うーん、どうしよう」
しかし、頼まれた物が物だけに、フーリードに頼んでいいものか、悩んだ。正直、教皇という聖職者に頼むものではないな。
悩んでいる所に、王都の教皇ヘクセンが戻ってきた。
「男爵家から、見舞いの品が届いた。男爵家の者も来ている。通していいか?」
「えっと、じいさんじゃないよな?」
「若い男だ」
「なら、いい」
アーサーの祖父ウラーノではないと聞いて、俺は笑顔で了承した。ウラーノが来たら、面倒臭いことになるからな。
「お邪魔しまーす」
「アーレイ!!」
見舞いに来たのは、男爵の末の息子アーレイだ。アーサーにとっては、同い年の従兄だな。
アーレイが見舞いに来たので、邪魔となるといけない、とヘクセンとフーリードは部屋を出て行った。
アーレイは、よくある花束を持ってやってきた。
「匂いしないやつにしてくれたんだな」
「アーシャ、苦手だと言ってたからな。お祖父様が行くとごねて、大変だったぞー」
「止めてくれたんだな」
「お祖父様が来たら、治るものも治らなくなるって。これ、我が家に伝わる秘伝の薬。アーシャでも効くやつだ、と言ってた。よくわからないけどな」
いかにも怪しい壺に入った薬をどんと机に置くアーレイ。
「い、いや、妖精の万能薬、貰ったから」
見るからに怪しそうだ。それに、どんな薬も、アーサーには効かない。
妖精殺しというものは、本来、人工的に作られるものだ。妖精殺しという体質を会得するために、特殊なことを日常的に行うという。それで、妖精の魔法を弾く体質が作られるという。しかし、この体質を得たことで、あらゆる薬は効かないという話だ。
毒も、体にいいという薬も、妖精の万能薬でさえ、妖精殺しには効果がないという。
「俺もそう言ったんだけど、伯母さんが、アーシャの症状を聞いて、持っていけと押し付けてきたんだ。一族の女の間に伝わる秘薬なんだって」
「わかった、飲ませてみる」
アーレイは言われた通りに伝えただけだ。だけど、それだけで、薬を押し付けてきた女が、アーサーと母マイアと同じ妖精殺しの秘伝を受け継ぐ女だとわかった。
妖精殺しの体質は病気の対処が難しい。そのための薬の作り方も秘伝を伝授する際に受け継いでいるのだろう。
アーサーは生また時から妖精殺しだ。しかし、秘伝を受け継ぐための後継者ではない。だから、アーサーは、秘伝の薬を知らないのだ。
もしかすると、辺境の屋敷のどこかに、マイアが作った秘伝の薬があるのかもしれない。しかし、マイアが亡くなってから一年間、ネロたちとリサ親子が好き勝手したから、そんな薬は、処分されているかもしれない。
もしくは、最初から、秘伝の薬をマイアは作っていないのかも。
一番、最悪なことを考えてしまう。マイア、最後はアーサーのことを捨てたんだ。マイアは言い訳したが、アーサーの手を振り払ったんだ。マイアは気狂いの果てに亡くなった。その気狂いになる直前、アーサーを手放すようなことを口にした。
本当のことはわからない。これ以上、アーサーを傷つけるようなこと、俺は話さないようにしよう。
アーレイは適当な椅子にどっかりと座って、深いため息をついた。
「疲れてるってのに、次から次へと」
「アーレイ、学校は楽しいか?」
「え、学校って、遊ぶ場所なの?」
アーレイは鼻で笑い飛ばした。
「あんなのに通わないと貴族になれないなんて、面倒臭い」
「まさか、学校の友達がいないのか?」
「色々と、忙しいんだよ。アーシャと同じだ。俺も、学校通ってるだけじゃない。入学試験が簡単だから、と調子に乗ったら、首席合格だよ。首席は、強制的に生徒会役員になることになってる。ただでさえ、俺は学校外でも忙しいってのにぃ」
「学校って、大変なんだな。ヘラとリブロ、エリザは楽しい、と話してるけど、そうじゃないんだな」
「楽しいだろうよ。最低限の点数をとれば、卒業出来るからな。遊びに来てる奴が半分だ。真面目に社交の場、として見てる奴は半分。俺は、どっちでもないけどな。さっさと卒業してぇー」
「楽しめばいいだろう」
「アーシャが大変なのに?」
アーレイは、眠っているアーサーを見た。アーサーが男爵家に半月、世話になっている時、アーレイはアーサーのことが好きになった。
たった半月だ。アーサーから言わせれば、ちょっとした火傷だ。すぐに治って、次に行くと思っていた。ところが、アーレイは今も真剣に、アーサーのことを想っている。
俺とは違う、純粋な想いだ。きっと、アーレイこそ、アーサーには相応しい男なんだ。余所見をしない、その身一つでアーサーのために動いている。
俺は、ただ単に、気狂いとなったアーサーの拠り所になっただけだ。アーサーは、俺に捨てられることを恐れているが、逆だ。いつか、アーサーが気狂いを克服した時、俺が捨てられる。
「家の手伝いなんて、すごいな」
「んー、似たようなものかな」
「?」
「キロン、待ってろ。アーシャとヘラの婚約、なくしてやるからな」
「どうせ、アーサーがヘラを捨てるから、心配ない」
「アーシャは、キロン一筋なんだな。けど、どうしても、という時は、俺に言えよ。俺が、アーサーとヘラの婚約をなくしてやるからな」
「無茶するなよ。この婚約、今では、俺みたいな男を牽制するために使われてるだけだからな」
アーサーとヘラの婚約は、当初は、アーサーに妙な婚約をネロに結ばせないための保険であった。それも、今では、アーサーを手に入れたい俺への牽制のための婚約だ。
もう、アーサーとヘラとの婚約は必要ない。男爵家は、子爵位を捨てて、立て替えた子爵家の借金の返済も求めないことにしたのだ。そうすることで、アーサーを自由にしようとした。
しかし、今更、アーサーを可愛がる祖父ウラーノが、アーサーに近づく悪い男を排除するために、ヘラとの婚約をそのまま残したのだ。
別に、婚約解消したっていいのだ。実権を握っている男爵も、ヘラの両親も、婚約解消したいのだ。しかし、ヘラが、罪悪感から、婚約を続けたいと言い出した。そして、アーサーは、復讐心から、ヘラとの婚約を残したのだ。アーサーは、いつか、ヘラを手酷く捨てる気だ。
考えれば考えるほど、ヘラが憐れだ。ヘラはアーサーへの愛情なんてこれっぽっちもない。あるのは、罪悪感だ。その気持ちをアーサーに利用されているのだ。アーサーは、今、ヘラとの婚約解消の一番いい時期を見ているだけだ。
「何か必要なものはあるか? お祖父様が、金を持たせてくれた」
じゃらじゃらととんでもない量が入っているんじゃないか、と思われる金が入った袋を出していうアーレイ。あのじいさん、極端だよな。
「そうだ、ちょっと買い物を頼まれてほしい。アーサーには内緒にしないといけないんだ」
「アーシャの贈り物か?」
「アーサーは、そういう残る物には興味がない。領地で、頼まれたんだ。どうしても表に出せないから、内密で、と」
「やばいのじゃないよな?」
「領地に来る行商人に頼めばいいものなんだけどな。どうして、わざわざ王都でこっそりと買ってきてほしい、なんて頼むのか、よくわからん」
俺が常識知らずなのもあるから、領主代行に頼まれた買い物が良いのか悪いのかもわからない。
俺は、アーレイの様子を伺いながら、頼まれた物の名を口にする。
「大した物じゃないが、量がすごいな。父上に言えば、すぐだ。後で持ってくる」
「悪いな」
「アーシャの味方なんだろう。だったら、いくらだって融通する。使い道も聞かない」
「なあ、それって、悪い物じゃないんだよな?」
俺は、心配になってきた。領主代行に頼まれた物、実は悪い物では、なんて思ってしまう。
「よく眠れないんだろう。そういう人、それなりにいるぞ。量を間違えると大変だが、これは、一番、安全で副作用のない睡眠薬だ。辺境は体が資本だから、こういうのを使ってでも、体を休めないといけないんだろう。苦労してるんだな」
「そうか、領主代行も、苦労してるからな」
領主代行は、領地民の代表であり、ある意味、領地民の支配者である。領地民、領主代行の指示がないと、実は何も出来ないのだ。だから、何事かあると、領主代行は領地民に相談されるのだ。
「じゃあ、俺は一旦、屋敷に戻るよ。はやく、薬飲ませろよ」
「ああ」
すっかり頼もしくなったアーレイは、用もなくなったので、さっさと男爵の屋敷へと戻っていった。
見舞いで受け取った薬を飲ませてみれば、アーサーの熱はすぐに下がった。
薬が効かない時は、俺の寿命を使って、魔法でアーサーの体を癒そうとは考えていた。ただ、場所が悪い。ここは、妖精憑きがたくさんいる王都の神殿だ。しかも、城にも近いし、魔法使いだってあっちこっちにいる。だから、俺の魔法を使うのは、最終手段だった。寿命を捧げての治療は、感知された場合、あらぬ疑いを持たれるかもしれない。
アーサーが妖精殺しだということは秘密だ。こんなに妖精憑きがたくさんいるというのに、アーサーの秘密に気づく者はいない。だけど、さすがに、俺が寿命を捧げて魔法を行使すれば、アーサーの秘密がバレてしまうかもしれない。
だから、アーレイが持ってきた見舞いの品は助かった。妖精の万能薬でも治らないとなると、神殿側がアーサーのことを疑う危険があった。
「キロン、お腹空いたー」
「ほら、食べて。神殿が用意してくれた」
「急な宿泊で迷惑だったろうに、ここまでしてもらうなんて、申し訳ない」
「フーリードが、アーサーが病気になったのは初めてだ、と言ってたぞ。そうなのか?」
「………そうかもしれませんね。私、病気一つしたことがないですね」
アーサーの記憶の中では、病気で寝込んだ経験が見当たらなかったようだ。
アーサーは俺に甘えて、俺の給仕を受けていた。俺は、ちょうどいい暖かさの食事をアーサーの口に運んでやる。
「キロンが作ったほうが美味しいー。キロンのが食べたいー」
「夜は、俺が作るから」
「今じゃないの?」
「看病は、俺がやりたい。他の奴なんかにやらせて、アーサーを盗られたら大変だ」
「私はキロンのものだよー」
「ここは、妖精憑きがいっぱいだ。俺よりも強い妖精憑きは、力づくで奪えるからな」
「私を欲しがる人なんていないよー。家族に捨てられるような私に、そんな価値はない」
「ネロたち、リサ親子なんて、クズ以下だ。アーサーには、少なくとも、子爵家の借金くらいの価値はあるんだからな。俺には、それ以上の、金なんかでは比べられないほどの価値だけど」
衝動が起こった。相手はまだ本調子じゃないというのに、俺はアーサーを抱き寄せて、深く口づけした。
アーサーは俺の衝動的な行動に、答えてくれた。舌をからめ、呼吸まで俺に染められようと、大きく口を開いて、俺の呼吸を吸い込んだ。
「アーサー、俺のアーサー」
「うん、私は、キロンのだよ」
執着と独占に喜ぶアーサー。さらに欲しいと、アーサーは俺の体にぴったりとくっついてきた。
いくら体を鍛えていても、アーサーは女の子だ。その柔らかさに、俺は強い衝動を動かした。アーサーは、はしたなくも、俺の下半身へと手を伸ばす。
「私、キロンのいい妻になる。いい家族になる。いい母親になる。だから」
「ここは、誤魔化しがきかないから、ダメだ」
「神さまが見ててもいいじゃない。ここは、帝国中で、一番、神聖な場所だ。子作りは、大事だよ。はしたないなんていう奴がおかしい。そういうことして、生まれたんだ。はしたなくないよ」
「アーサーのあんな姿、誰にも見せたくない」
「見せつけてやればいい。キロンのものだって」
「………アーサー」
誘惑に負けそうだ。それをぐっと耐えたのは、仕方のないことだ。俺はアーサーの肩をつかんで離した。
「フーリードたちがこっちに向かっている」
「………馬に蹴られてしまえばいいのに」
相手がフーリードだと、さすがのアーサーも我慢するしかなかった。
いかがわしいことは未遂なんだが、俺は変な空気になっていないか、心配で、魔法で空気を浄化したりした。変な匂いはしてないよな。
ノックして、先に入ってきたのは、王都の教皇ヘクセンだ。俺たちの許可なんか無視だよ。その後に、フーリードは呆れたようにヘクセンを見て部屋に入ってきた。
ヘクセンは適当な椅子にどっかりと座った。
「神殿内で、人払いと防音の魔法なんかするんじゃない。面倒じゃないか」
「辺境での癖だ。あそこは、アーサーに悪さする奴らがいるからな」
半分は本当だ。アーサーの安全のために、人払いをしている。防音は、アーサーと俺がいかがわしいことをしているからだけど。
「いざとなったら、帝国は妖精憑きのお気に入りの味方だ。いくらだって、罪をでっちあげてやるぞ」
うーわー、王都の教皇が、悪い顔で悪い事言ってる。それを聞いて、アーサーは驚いた。まさか、教皇が、そんな悪い事をいうなんて、思ってもいないのだ。ほら、フーリードはアーサーの前では品行方正だ。
だから、フーリードがヘクセンの頭を叩いた。
「アーサーにそんなこというんじゃない。アーサーには、きちんとした道を指示した。あとは、アーサーが使うかどうかだ」
「お前は、本当に頭が硬いな!! 帝国は強者が正義なんだ。法律やら手順なんかに従ってないで、力づくでやってしまえばいいだろう!!!」
「もう、口を開くな」
フーリード、力づくでヘクセンの口を塞いだ。そっかー、ヘクセン、フーリードより弱いんだな。ということは、俺はヘクセンにも勝てるんだ。
フーリードの滅多に見られない怒った顔に、アーサーは、何故か嬉しそうに笑った。
「フーリード様も、そんな顔をするのですね。いつも、落ち着いた顔をしているので、そんな顔は新鮮です」
「大人だというのに、恥ずかしい所を見せてしまいましたね」
「昨日は、お酒を召されたと、キロンから聞きました。本当ですか?」
「付き合いで飲むこともあります。昨日は、ヘクセンとキロン、三人で神殿で飲みました」
「だから、昨日、キロンは酒臭かったのですね」
良かった、俺の疑いは晴れた。フーリードには感謝だ。
アーサー、さりげなく、俺の昨夜の行動に嘘偽りがないか探りを入れた。さりげなさが、フーリードの警戒心を解いている。きっと、アーサーが俺の行動を疑って怒り狂ってるなんて、フーリードは思ってもいないだろうな。
フーリードは、アーサーが元気な様子に、安心したように笑って、アーサーの頭を撫でた。
「男爵家の者が、様子を知りたがっていた。キロンから、伝えてやってくれ」
「アーサーのこと、盗るなよ」
「こんなにべったり匂い付けされてたら、手を出すバカはいない。心配しすぎだ」
「それでも安心出来ないんだよ!!」
「そういうのは、持ったことがないから、わからんなー」
ヘクセンの態度は軽い。心配だが、男爵家の使いがいるというので、俺は、フーリードを信じて、部屋を出た。
男爵家の者と言われたが、アーレイだ。アーレイ、随分な荷物を持って、待っていた。
「そんなにいらないけど」
「腐る物ではないからな。それに、キロンは、魔法の収納庫があると聞いてる」
「まあ、それくらい、大した量じゃないけどな」
荷物に触れれば、一瞬で消える。目の前で起こったことに、アーレイは驚いた。
「すげぇ、魔法、初めて見た」
「王都にいるってのに、魔法、見たことがないのか? 妖精憑きがいっぱいいるだろう」
「生活に、妖精憑きが使う魔法は必要ないからな。魔道具魔法具はある意味、魔法なんだろうけど、誰もが使える物だから、魔法という感じじゃないんだよな」
「ふーん、そうなんだ。金は」
「家にあるものだから、金はいらないって。アーシャはどうなった?」
「薬飲んだら、すぐに熱は下がった。まだ、体はだるい感じだけど、明日には元気になってるよ」
「伯母さんが、治ったかどうか確かめてこい、なんて煩いんだよ」
「舞踏会の後にでも、礼をいいたい」
「あー、無理だろうな。あの人、舞踏会終わったら、すぐに旅に出ちゃうから。行商人として、帝国中を渡り歩いてるんだ。今回は、十年に一度の舞踏会のために、王都に戻ってきたんだよ」
「そうか、じゃあ、仕方がないな」
マイアと同じ、妖精殺しの御業を受け継いでいる女は、皆、帝国中を渡り歩くものなんだろう。アーサーの母マイアは、子爵家の借金を返済出来れば、旅に出ると話していた。
王都に来て二日目、アーサーは疲れが出たのか、熱が出て、ベッドから起きられなくなった。
「男爵家の使いには、アーサーが病気で行けない、と伝言を頼んだ」
今日も、男爵家から使いが来るとは。アーサーが寝込んだと聞いたら、どうなるのやら。想像が出来ないな。
アーサーは、俺の手を握って、ぐっすりと眠っていた。神殿は妖精憑きだらけだ。俺が何もしなくても、氷嚢が当然のように運び込まれた。食事も、病人食だ。至れり尽くせりで、俺はアーサーの側にずっといた。
「病気なんて、初めて聞いたような気がします」
生まれた頃からアーサーを見ているフーリードにとっては、初めてのことだという。
「いろいろと、抜けたんだな」
きっと、領地で気を張っていたから、王都に来て、気が抜けたのだろう。それで、これまでたまりにたまっていた疲れとかがどっと表に出たのだ。
「薬を持ってきたが、飲めるか?」
王都の教皇ヘクセンが、妖精の万能薬を持ってきてくれた。
「起きたら、飲ませてみるよ」
「こんなのなくても、貴様が魔法で癒してやれば、すぐ治るだろうがな」
「アーサーに聞いてみる」
妖精憑きがたくさんいるが、アーサーは俺のお気に入りだから、皆、遠慮してくれた。
アーサーの同意なしで、病気とか疲れを取り払ってやればいいんだ。だけど、アーサーは良い魔法も悪い魔法も全て弾いてしまう妖精殺しだ。そう簡単な話ではない。
俺は、妖精憑きの本能を言い訳に誤魔化した。こうやって、アーサーを看病することも、俺にとっては喜びなんだ。
「ヘクセン様」
「ああ、今行く」
王都の神殿だから、王都の教皇ヘクセンは忙しい。すぐに呼ばれて、部屋を出て行った。
「キロン、必要なものはありますか? 王都では、だいたいのものは手に入ります」
「必要なものじゃないけど、領主代行から、買い物を頼まれてるんだよな」
王都に行く前、領主代行がこっそりと頼みに来た。領主代行は表向きは、アーサーの父ネロの味方をしている。しかし、裏ではアーサーの味方となって、ネロたちの情報を定期的に報告している。接触するのは、だいたい、俺だ。俺は魔法で人払いや認識阻害が出来るから、こっそりと領主代行に会っていた。
俺が王都に行くと聞いた領主代行は、こっそりと買ってきてほしい、と頼まれたのだ。別に、領地でも行商人に頼めば手に入るものなんだが、誰にも秘密にして手に入れたい、という話だった。
アーサーにも秘密にして、と頼まれていたが、なかなか、アーサーから離れられない俺は、男爵家に頼もうか、と考えていた。
「私が買ってきましょうか」
「うーん、どうしよう」
しかし、頼まれた物が物だけに、フーリードに頼んでいいものか、悩んだ。正直、教皇という聖職者に頼むものではないな。
悩んでいる所に、王都の教皇ヘクセンが戻ってきた。
「男爵家から、見舞いの品が届いた。男爵家の者も来ている。通していいか?」
「えっと、じいさんじゃないよな?」
「若い男だ」
「なら、いい」
アーサーの祖父ウラーノではないと聞いて、俺は笑顔で了承した。ウラーノが来たら、面倒臭いことになるからな。
「お邪魔しまーす」
「アーレイ!!」
見舞いに来たのは、男爵の末の息子アーレイだ。アーサーにとっては、同い年の従兄だな。
アーレイが見舞いに来たので、邪魔となるといけない、とヘクセンとフーリードは部屋を出て行った。
アーレイは、よくある花束を持ってやってきた。
「匂いしないやつにしてくれたんだな」
「アーシャ、苦手だと言ってたからな。お祖父様が行くとごねて、大変だったぞー」
「止めてくれたんだな」
「お祖父様が来たら、治るものも治らなくなるって。これ、我が家に伝わる秘伝の薬。アーシャでも効くやつだ、と言ってた。よくわからないけどな」
いかにも怪しい壺に入った薬をどんと机に置くアーレイ。
「い、いや、妖精の万能薬、貰ったから」
見るからに怪しそうだ。それに、どんな薬も、アーサーには効かない。
妖精殺しというものは、本来、人工的に作られるものだ。妖精殺しという体質を会得するために、特殊なことを日常的に行うという。それで、妖精の魔法を弾く体質が作られるという。しかし、この体質を得たことで、あらゆる薬は効かないという話だ。
毒も、体にいいという薬も、妖精の万能薬でさえ、妖精殺しには効果がないという。
「俺もそう言ったんだけど、伯母さんが、アーシャの症状を聞いて、持っていけと押し付けてきたんだ。一族の女の間に伝わる秘薬なんだって」
「わかった、飲ませてみる」
アーレイは言われた通りに伝えただけだ。だけど、それだけで、薬を押し付けてきた女が、アーサーと母マイアと同じ妖精殺しの秘伝を受け継ぐ女だとわかった。
妖精殺しの体質は病気の対処が難しい。そのための薬の作り方も秘伝を伝授する際に受け継いでいるのだろう。
アーサーは生また時から妖精殺しだ。しかし、秘伝を受け継ぐための後継者ではない。だから、アーサーは、秘伝の薬を知らないのだ。
もしかすると、辺境の屋敷のどこかに、マイアが作った秘伝の薬があるのかもしれない。しかし、マイアが亡くなってから一年間、ネロたちとリサ親子が好き勝手したから、そんな薬は、処分されているかもしれない。
もしくは、最初から、秘伝の薬をマイアは作っていないのかも。
一番、最悪なことを考えてしまう。マイア、最後はアーサーのことを捨てたんだ。マイアは言い訳したが、アーサーの手を振り払ったんだ。マイアは気狂いの果てに亡くなった。その気狂いになる直前、アーサーを手放すようなことを口にした。
本当のことはわからない。これ以上、アーサーを傷つけるようなこと、俺は話さないようにしよう。
アーレイは適当な椅子にどっかりと座って、深いため息をついた。
「疲れてるってのに、次から次へと」
「アーレイ、学校は楽しいか?」
「え、学校って、遊ぶ場所なの?」
アーレイは鼻で笑い飛ばした。
「あんなのに通わないと貴族になれないなんて、面倒臭い」
「まさか、学校の友達がいないのか?」
「色々と、忙しいんだよ。アーシャと同じだ。俺も、学校通ってるだけじゃない。入学試験が簡単だから、と調子に乗ったら、首席合格だよ。首席は、強制的に生徒会役員になることになってる。ただでさえ、俺は学校外でも忙しいってのにぃ」
「学校って、大変なんだな。ヘラとリブロ、エリザは楽しい、と話してるけど、そうじゃないんだな」
「楽しいだろうよ。最低限の点数をとれば、卒業出来るからな。遊びに来てる奴が半分だ。真面目に社交の場、として見てる奴は半分。俺は、どっちでもないけどな。さっさと卒業してぇー」
「楽しめばいいだろう」
「アーシャが大変なのに?」
アーレイは、眠っているアーサーを見た。アーサーが男爵家に半月、世話になっている時、アーレイはアーサーのことが好きになった。
たった半月だ。アーサーから言わせれば、ちょっとした火傷だ。すぐに治って、次に行くと思っていた。ところが、アーレイは今も真剣に、アーサーのことを想っている。
俺とは違う、純粋な想いだ。きっと、アーレイこそ、アーサーには相応しい男なんだ。余所見をしない、その身一つでアーサーのために動いている。
俺は、ただ単に、気狂いとなったアーサーの拠り所になっただけだ。アーサーは、俺に捨てられることを恐れているが、逆だ。いつか、アーサーが気狂いを克服した時、俺が捨てられる。
「家の手伝いなんて、すごいな」
「んー、似たようなものかな」
「?」
「キロン、待ってろ。アーシャとヘラの婚約、なくしてやるからな」
「どうせ、アーサーがヘラを捨てるから、心配ない」
「アーシャは、キロン一筋なんだな。けど、どうしても、という時は、俺に言えよ。俺が、アーサーとヘラの婚約をなくしてやるからな」
「無茶するなよ。この婚約、今では、俺みたいな男を牽制するために使われてるだけだからな」
アーサーとヘラの婚約は、当初は、アーサーに妙な婚約をネロに結ばせないための保険であった。それも、今では、アーサーを手に入れたい俺への牽制のための婚約だ。
もう、アーサーとヘラとの婚約は必要ない。男爵家は、子爵位を捨てて、立て替えた子爵家の借金の返済も求めないことにしたのだ。そうすることで、アーサーを自由にしようとした。
しかし、今更、アーサーを可愛がる祖父ウラーノが、アーサーに近づく悪い男を排除するために、ヘラとの婚約をそのまま残したのだ。
別に、婚約解消したっていいのだ。実権を握っている男爵も、ヘラの両親も、婚約解消したいのだ。しかし、ヘラが、罪悪感から、婚約を続けたいと言い出した。そして、アーサーは、復讐心から、ヘラとの婚約を残したのだ。アーサーは、いつか、ヘラを手酷く捨てる気だ。
考えれば考えるほど、ヘラが憐れだ。ヘラはアーサーへの愛情なんてこれっぽっちもない。あるのは、罪悪感だ。その気持ちをアーサーに利用されているのだ。アーサーは、今、ヘラとの婚約解消の一番いい時期を見ているだけだ。
「何か必要なものはあるか? お祖父様が、金を持たせてくれた」
じゃらじゃらととんでもない量が入っているんじゃないか、と思われる金が入った袋を出していうアーレイ。あのじいさん、極端だよな。
「そうだ、ちょっと買い物を頼まれてほしい。アーサーには内緒にしないといけないんだ」
「アーシャの贈り物か?」
「アーサーは、そういう残る物には興味がない。領地で、頼まれたんだ。どうしても表に出せないから、内密で、と」
「やばいのじゃないよな?」
「領地に来る行商人に頼めばいいものなんだけどな。どうして、わざわざ王都でこっそりと買ってきてほしい、なんて頼むのか、よくわからん」
俺が常識知らずなのもあるから、領主代行に頼まれた買い物が良いのか悪いのかもわからない。
俺は、アーレイの様子を伺いながら、頼まれた物の名を口にする。
「大した物じゃないが、量がすごいな。父上に言えば、すぐだ。後で持ってくる」
「悪いな」
「アーシャの味方なんだろう。だったら、いくらだって融通する。使い道も聞かない」
「なあ、それって、悪い物じゃないんだよな?」
俺は、心配になってきた。領主代行に頼まれた物、実は悪い物では、なんて思ってしまう。
「よく眠れないんだろう。そういう人、それなりにいるぞ。量を間違えると大変だが、これは、一番、安全で副作用のない睡眠薬だ。辺境は体が資本だから、こういうのを使ってでも、体を休めないといけないんだろう。苦労してるんだな」
「そうか、領主代行も、苦労してるからな」
領主代行は、領地民の代表であり、ある意味、領地民の支配者である。領地民、領主代行の指示がないと、実は何も出来ないのだ。だから、何事かあると、領主代行は領地民に相談されるのだ。
「じゃあ、俺は一旦、屋敷に戻るよ。はやく、薬飲ませろよ」
「ああ」
すっかり頼もしくなったアーレイは、用もなくなったので、さっさと男爵の屋敷へと戻っていった。
見舞いで受け取った薬を飲ませてみれば、アーサーの熱はすぐに下がった。
薬が効かない時は、俺の寿命を使って、魔法でアーサーの体を癒そうとは考えていた。ただ、場所が悪い。ここは、妖精憑きがたくさんいる王都の神殿だ。しかも、城にも近いし、魔法使いだってあっちこっちにいる。だから、俺の魔法を使うのは、最終手段だった。寿命を捧げての治療は、感知された場合、あらぬ疑いを持たれるかもしれない。
アーサーが妖精殺しだということは秘密だ。こんなに妖精憑きがたくさんいるというのに、アーサーの秘密に気づく者はいない。だけど、さすがに、俺が寿命を捧げて魔法を行使すれば、アーサーの秘密がバレてしまうかもしれない。
だから、アーレイが持ってきた見舞いの品は助かった。妖精の万能薬でも治らないとなると、神殿側がアーサーのことを疑う危険があった。
「キロン、お腹空いたー」
「ほら、食べて。神殿が用意してくれた」
「急な宿泊で迷惑だったろうに、ここまでしてもらうなんて、申し訳ない」
「フーリードが、アーサーが病気になったのは初めてだ、と言ってたぞ。そうなのか?」
「………そうかもしれませんね。私、病気一つしたことがないですね」
アーサーの記憶の中では、病気で寝込んだ経験が見当たらなかったようだ。
アーサーは俺に甘えて、俺の給仕を受けていた。俺は、ちょうどいい暖かさの食事をアーサーの口に運んでやる。
「キロンが作ったほうが美味しいー。キロンのが食べたいー」
「夜は、俺が作るから」
「今じゃないの?」
「看病は、俺がやりたい。他の奴なんかにやらせて、アーサーを盗られたら大変だ」
「私はキロンのものだよー」
「ここは、妖精憑きがいっぱいだ。俺よりも強い妖精憑きは、力づくで奪えるからな」
「私を欲しがる人なんていないよー。家族に捨てられるような私に、そんな価値はない」
「ネロたち、リサ親子なんて、クズ以下だ。アーサーには、少なくとも、子爵家の借金くらいの価値はあるんだからな。俺には、それ以上の、金なんかでは比べられないほどの価値だけど」
衝動が起こった。相手はまだ本調子じゃないというのに、俺はアーサーを抱き寄せて、深く口づけした。
アーサーは俺の衝動的な行動に、答えてくれた。舌をからめ、呼吸まで俺に染められようと、大きく口を開いて、俺の呼吸を吸い込んだ。
「アーサー、俺のアーサー」
「うん、私は、キロンのだよ」
執着と独占に喜ぶアーサー。さらに欲しいと、アーサーは俺の体にぴったりとくっついてきた。
いくら体を鍛えていても、アーサーは女の子だ。その柔らかさに、俺は強い衝動を動かした。アーサーは、はしたなくも、俺の下半身へと手を伸ばす。
「私、キロンのいい妻になる。いい家族になる。いい母親になる。だから」
「ここは、誤魔化しがきかないから、ダメだ」
「神さまが見ててもいいじゃない。ここは、帝国中で、一番、神聖な場所だ。子作りは、大事だよ。はしたないなんていう奴がおかしい。そういうことして、生まれたんだ。はしたなくないよ」
「アーサーのあんな姿、誰にも見せたくない」
「見せつけてやればいい。キロンのものだって」
「………アーサー」
誘惑に負けそうだ。それをぐっと耐えたのは、仕方のないことだ。俺はアーサーの肩をつかんで離した。
「フーリードたちがこっちに向かっている」
「………馬に蹴られてしまえばいいのに」
相手がフーリードだと、さすがのアーサーも我慢するしかなかった。
いかがわしいことは未遂なんだが、俺は変な空気になっていないか、心配で、魔法で空気を浄化したりした。変な匂いはしてないよな。
ノックして、先に入ってきたのは、王都の教皇ヘクセンだ。俺たちの許可なんか無視だよ。その後に、フーリードは呆れたようにヘクセンを見て部屋に入ってきた。
ヘクセンは適当な椅子にどっかりと座った。
「神殿内で、人払いと防音の魔法なんかするんじゃない。面倒じゃないか」
「辺境での癖だ。あそこは、アーサーに悪さする奴らがいるからな」
半分は本当だ。アーサーの安全のために、人払いをしている。防音は、アーサーと俺がいかがわしいことをしているからだけど。
「いざとなったら、帝国は妖精憑きのお気に入りの味方だ。いくらだって、罪をでっちあげてやるぞ」
うーわー、王都の教皇が、悪い顔で悪い事言ってる。それを聞いて、アーサーは驚いた。まさか、教皇が、そんな悪い事をいうなんて、思ってもいないのだ。ほら、フーリードはアーサーの前では品行方正だ。
だから、フーリードがヘクセンの頭を叩いた。
「アーサーにそんなこというんじゃない。アーサーには、きちんとした道を指示した。あとは、アーサーが使うかどうかだ」
「お前は、本当に頭が硬いな!! 帝国は強者が正義なんだ。法律やら手順なんかに従ってないで、力づくでやってしまえばいいだろう!!!」
「もう、口を開くな」
フーリード、力づくでヘクセンの口を塞いだ。そっかー、ヘクセン、フーリードより弱いんだな。ということは、俺はヘクセンにも勝てるんだ。
フーリードの滅多に見られない怒った顔に、アーサーは、何故か嬉しそうに笑った。
「フーリード様も、そんな顔をするのですね。いつも、落ち着いた顔をしているので、そんな顔は新鮮です」
「大人だというのに、恥ずかしい所を見せてしまいましたね」
「昨日は、お酒を召されたと、キロンから聞きました。本当ですか?」
「付き合いで飲むこともあります。昨日は、ヘクセンとキロン、三人で神殿で飲みました」
「だから、昨日、キロンは酒臭かったのですね」
良かった、俺の疑いは晴れた。フーリードには感謝だ。
アーサー、さりげなく、俺の昨夜の行動に嘘偽りがないか探りを入れた。さりげなさが、フーリードの警戒心を解いている。きっと、アーサーが俺の行動を疑って怒り狂ってるなんて、フーリードは思ってもいないだろうな。
フーリードは、アーサーが元気な様子に、安心したように笑って、アーサーの頭を撫でた。
「男爵家の者が、様子を知りたがっていた。キロンから、伝えてやってくれ」
「アーサーのこと、盗るなよ」
「こんなにべったり匂い付けされてたら、手を出すバカはいない。心配しすぎだ」
「それでも安心出来ないんだよ!!」
「そういうのは、持ったことがないから、わからんなー」
ヘクセンの態度は軽い。心配だが、男爵家の使いがいるというので、俺は、フーリードを信じて、部屋を出た。
男爵家の者と言われたが、アーレイだ。アーレイ、随分な荷物を持って、待っていた。
「そんなにいらないけど」
「腐る物ではないからな。それに、キロンは、魔法の収納庫があると聞いてる」
「まあ、それくらい、大した量じゃないけどな」
荷物に触れれば、一瞬で消える。目の前で起こったことに、アーレイは驚いた。
「すげぇ、魔法、初めて見た」
「王都にいるってのに、魔法、見たことがないのか? 妖精憑きがいっぱいいるだろう」
「生活に、妖精憑きが使う魔法は必要ないからな。魔道具魔法具はある意味、魔法なんだろうけど、誰もが使える物だから、魔法という感じじゃないんだよな」
「ふーん、そうなんだ。金は」
「家にあるものだから、金はいらないって。アーシャはどうなった?」
「薬飲んだら、すぐに熱は下がった。まだ、体はだるい感じだけど、明日には元気になってるよ」
「伯母さんが、治ったかどうか確かめてこい、なんて煩いんだよ」
「舞踏会の後にでも、礼をいいたい」
「あー、無理だろうな。あの人、舞踏会終わったら、すぐに旅に出ちゃうから。行商人として、帝国中を渡り歩いてるんだ。今回は、十年に一度の舞踏会のために、王都に戻ってきたんだよ」
「そうか、じゃあ、仕方がないな」
マイアと同じ、妖精殺しの御業を受け継いでいる女は、皆、帝国中を渡り歩くものなんだろう。アーサーの母マイアは、子爵家の借金を返済出来れば、旅に出ると話していた。
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