妖精の支配者

shishamo346

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復讐の連鎖

誰も話を聞いてくれない

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 お茶会当日は、伯爵からお迎えの馬車までやってきた。ほら、皇族様は、保養地に遊びに来ただけだから、移動手段なんてない。移動手段は招待した側が用意するのだ。
 どういうわけか、俺は伯爵から服まで用意された。あれだ、貧民だから持っていないだろう、という心遣いだな。着ないと失礼になるんだけど、俺は丁重にお断りする。
「新作があるから」
 俺の元には、定期的に、次兄から服が送られてくるのだ。ほら、俺は貴族に関わっているから、次兄が気を利かせて、色々と寄越してくれるんだ。いらないのになー。
 だけど、俺は次兄の服を選ぶ。もう、普段着も全て、次兄から送られてきたものだ。
 一応、今回は真面目に身だしなみも整える。保養地の観光中はガラの悪い感じにしていたが、お茶会はさすがにきちんと整える。
「本当に、童顔ね」
「学生といっても違和感がないね」
「普段からそうしていればいいのに」
「貧民だと、舐められちゃうんだよ!!」
 身だしなみを整えると、俺は童顔になっちゃうんだよ。美男子の親父に似てるんだな。鏡見ると、死んだ親父を思い出す。だからイヤなんだよ!! 俺は死んだ親父のことが大嫌いなんだ。
 俺が普通に馬車に乗るのだが、何故か、出発しない。
「どうかしたのか?」
「護衛の方が、まだ」
「俺だ、俺」
「………え、え?」
「きちんとすると、こうなるんだ。さっさと出発しろ」
「は、はいぃ!!」
 心底、驚いて、御者は慌てた。きっと、ガラの悪い護衛がいる、と言われたんだろうな。人数はあっているのに、ガラの悪い護衛がいないから、護衛は頭数に入っていないんだな、と思ったんだろう。
 ちょっと混乱したが、馬車は動き出し、無事、伯爵の屋敷に到着した。
 伯爵家に親しい者を集めただけの茶会だろう。細やかなものだが、頭数を揃えたのは、皇族が出席するからだ。皇族セキラが登場すると、すぐに膝を折って、頭を下げる。
「お忍びで、この地に来た。いつも通りに過ごしなさい」
 皇族からの許しを得て、皆、頭を上げた。
 早速、お茶会の主催者である伯爵ブンガロが、皇族セキラの元に挨拶に来た。
「わざわざ、足を運んでいただき、ありがとうございます」
「とても楽しみにしていました」
「身内ばかりとなりますが」
「良い茶会ですね。いつも通りの姿を見せてください」
「ありがとうございます。ところで、ロイドくんは」
「ここに」
 ずっとセキラの隣りにいるというのに、やっぱり、ブンガロも俺に気づかなかったか。
 ブンガロ、俺を頭からつま先まで見て、呆然となる。
「ろ、ロイド、くん?」
「そうだ。一応、貴族の茶会だから、それに相応しい恰好をしてきた」
「ぜひ、我が家の婿養子に来てください!!」
「わたくしと結婚します!!!」
「ボクの護衛だよ!!!」
 伯爵ブンガロから熱烈に言われて、断りたいが、それよりも先に、お嬢さんサリーと皇族セキラが俺の前に出てきて、勝手に俺の将来を決めようとする。どれもイヤだよ。
 しかし、ブンガロは諦めない。養女エリッサを引っ張ってくる。
「エリッサ、ロイドくんを案内しなさい」
「え、どこですか?」
「ロイドくんだよ!!」
 俺の目の前に押し出されたエリッサ。ブンガロに言われて、記憶の中にいる俺を探すも見つからないので、困っていた。そして、俺を見て、首を傾げる。
「あの、あなたは」
「ロイドだ。今日は真面目な恰好をしてきた」
「え?」
 途端、顔を真っ赤になるエリッサ。そして、俺の手を握った。
「結婚してください!! わたくしが養います!!」
「わたくしが養います!!!」
 そこから、エリッサとサリーが女の戦いを始める。
「ボクが一生養うよ!!」
 そこに皇族セキラまで入ってきた。
「こらこら、落ち着け。まず、俺は誰のものにもならない」
「生活のことは心配いりませんから。わたくし、すでに領主としての仕事もしていますから!!!」
 そうかー、エリッサちゃん、学校通う前から、苦労してるんだね。
「わたくしは、ロイド様のお仕事をお手伝いしています!!!」
 サリーには、いっぱい、手伝ってもらってるよ。情報収拾には、サリーに勝てる奴はいないね。
「ぼ、ボクだって、ロイドが困っていたら、皇権でどうにかしてあげるよ!!」
「それはやめろ」
 セキラ、最強最悪の手段を出そうとする。それは絶対にやっちゃダメなやつだ。
「手ごわいな」
 悔しそうに呟く伯爵ブンガロ。止めようよ。もう、お茶会が滅茶苦茶な空気になってるよ。
「サリー、頑張ってください。応援してます」
 他人事である侯爵令嬢クララは、せっせと婚約者ナッシュの口に食べ物を放り込みながら、気持ちのこもらない声で応援してくれる。ねえ、止めてー。
 同じく招待客として来たはずの生徒会役員二年のリコットとナバンはさっさと逃げて、壁の花に徹していた。俺もそっちに行きたい。
「まあ、待て。俺の立場はまず、筆頭魔法使いハガル様の管理下だ。貴族の学校に通う際、俺の後見人となったのもハガル様だ。まず、お前たちはハガル様を説得しろ」
 こういう時は帝国で二番目の権力者に丸投げである。
「わたくしは、ハガル様に婚約者と認めてもらいました!!」
「ガキの戯言だと思ってるよ!!」
 十年に一度の舞踏会で、ハガルに言われたことを出すサリー。俺は一応、この場では否定したが、あの舞踏会の場では否定していないから、そこがまだ、駆け引きに使われるんだよなー。あの時は発言のー、なんて誤魔化さずに、しっかりと否定しておけばよかった。失敗した!!
「おい、筆頭魔法使いハガル様に手紙だ。きちんと文章で申し込みをしよう」
 伯爵ブンガロはお茶会そっちのけで、手紙を書きに退場してしまう。こっちはきちんと順序を守って、俺の婚約を分捕ろうとしている。やーめーてー。
「ロイド、ボクはどっちと結婚したっていいから、ずっと護衛してよ!!」
 結婚という手段が取れない皇族セキラは、ともかく護衛を要求してくる。
「わたくしも構いませんよ。ぜひ、護衛を続けてください」
「わたくしもです!!」
 早速、令嬢二人は皇族セキラの懐柔に入る。まずは、敵を一人減らすことから始めたよ。ほら、護衛と結婚は同時に可能である。
「お前ら、セキラ様の素顔はこうだぞ!!」
「やめてっ!!」
 俺はこの場で前髪に隠された皇族セキラ様の素顔をさらしてやる。この女の子も顔負けの可愛さは、将来、魔性の男になるんだよ!! 皇族サイも最初は可愛かったという話だ。
「所詮は男です」
「でも、ロイド様の初恋は綺麗な男だという話です」
「そうなんですか!?」
 俺の醜聞が広がっていく。貴族の学校でも知られていない醜聞だよ。何やってくれてんだ、サリー!!
「まあ、セキラ様ならありですね」
 他人事だから、侯爵令嬢クララ、場を乱してくれる。お前、どっちの味方だよ!?
「一応言っておくが、俺は男が好きなわけじゃない!!」
「でも、忘れられないって」
「俺は普通に娼館にだって行ける!!」
 きちんと閨事だって出来るんだ。とんでもない言い訳を叫んだら、サリーとエリッサは互いの体を見合った。
「きっと、将来は成長します」
「ま、まだ、成長段階です」
 そういう張り合いはやめてー!! 若いって、色々と捨ててるな。俺は耳を塞ぎたくなってきた。絶対に後で、外野から色々と責められるな。
 もう、俺では収拾のつかない、無茶苦茶なお茶会で終わった。とても、他の招待客は、俺たちの中に入れないため、皇族の顔見知りになるのを諦め、茶番を見守ったのだ。






 どうしても決着がつかなくて、その日は、伯爵家でお泊りとなった。いや、帰っていいんだよ。俺は、さっさと王都に戻って、筆頭魔法使いハガルに「たすけてー」と泣きつくから。もっと滅茶苦茶にされそうだけど、いっそのこと、ハガルが間に入って、爆発させたほうが、後腐れなくなるよ。
 夕食も色々と口説かれて、と大変だったが、周囲が勝手に騒いでいるだけなので、俺は平和である。口出ししても無駄なのを悟った。互いに牽制しあってもらったほうが、俺は平和だということに気づいた。
 俺は一応、皇族の護衛だから、皇族セキラと同室である。セキラは俺と同じ部屋だと大喜びだ。
「よし、勝った」
「違うよ。お前に何かあったら、大変なことになるから、優先しただけだよ」
 もう、敬意とか、そういうのを分投げた。だけど、皇族セキラは優しいので、気にしない。
「しかし、伯爵は思ったよりもいい人ですね」
 セキラ、これまでの伯爵ブンガロを見て、そう評した。
 今回の目的は、伯爵ブンガロをどうにかすることである。そのために、お嬢さんサリーを連れ出したのだ。きっと、サリーが持つ、悪運が、ブンガロを破滅してくれるだろう、と筆頭魔法使いハガルは思ったのである。あんなに頭がいいのに、最後は神がかりみたいな奴なのが笑える。
 ここ数日、伯爵ブンガロとその養女エリッサと接しているが、何か起こるわけではない。一応、ブンガロは帝国への訴えを下げてくれた。筆頭魔法使いハガルの憂いはなくなったわけである。
「素直に、言葉通りに見ちゃいけないよ。ハガル、言わないだけで、妙なこと隠してるからなー」
 俺は、ハガルが隠しているだろう事実を危ぶんだ。伯爵ブンガロは養子である。そこが引っかかった。
「ハガルはさ、ブンガロのことを侯爵家の血筋と言ったんだ。だが、ブンガロは先代伯爵の隠し子だ。ブンガロを産んだという女は、そこら辺の娼婦だ。ブンガロは生まれてすぐに伯爵に引き取られ、母親である娼婦の消息は不明ときてる。さらに、娼婦が働いていた娼館はもうない」
 それなりに調べたのだが、ブンガロという男の血筋が不明なのだ。成り立ちはよくかる話なんだが、証言がないのだ。
 全て、先代伯爵が言っているだけである。肝心の証言を探したが、古すぎるのもあって、綺麗さっぱりである。サリーの情報網を使ったが、古すぎたんだな。
「あとは、マイツナイトの情報網頼りだな」
 男爵マイツナイトは、別の情報網を持っている。そちらは、紙に落として、という面倒臭いのだ。だけど、帝国中の古い情報まで残っている。その内容をマイツナイトはだいたい、覚えている。あとは真偽確認のために、サリーの情報網と人を使っている。
「ロイドって、体動かすだけかと思っていたけど、頭も使うんだね」
「貧民同士なら、殴ればいいんだよ。貴族相手はそういうわけにはいかない。それが許されるのは、筆頭魔法使いだけだ」
 俺が腕っぷしで暴れたら、筆頭魔法使いハガルが、喜んで、俺を地下牢に閉じ込める。俺はまだまだ自由を諦めていない。だから、頭を使う。
「権力者ほど、順序を守らないといけないんだ。ま、最後は力づくだけどな」
「一体、どうなってるの?」
「ハガルは嘘をついていない。ブンガロは、侯爵家の血筋なんだ」
「だけど、伯爵家を継いでる」
「伯爵の血筋なのは確かなんだろう」
「ということは、父親か母親に、侯爵家の血が流れているということ?」
「この伯爵家は、クララのトコの侯爵家とは血筋的の繋がりはない。千年前ならばともかく、ここ十数代前まで遡っても、繋がりがない」
 クララの侯爵家と伯爵ブンガロは血族的繋がりがなかった。ハガルがいうから、てっきり伯爵家はクララの侯爵家の分家筋かと思われた。ところが、これっぽっちも繋がりのない別家系だったのだ。
 色々と使って調べたのだ。だが、情報の上で、侯爵家と伯爵家は全く別だった。なのに、ハガルはブンガロのことを侯爵家の血筋だと言った。ハガルは妖精視点で言ったのだ。
 ということは、別の視点から見るしかないのだ。俺は妖精の目を発動させる。光るから目立つんだよなー。途端、野良の妖精たちがぽんと顕現する。
『大変よ、ロイド!!』
『サリーが危ない!!!』
 ところが、先に野良の妖精たちが、サリーの危険を知らせた。
「何があったんだ」
『早く』
『大変なの!!』
 何が大変なのかわからないが、俺は引っ張られるままに、部屋を出るしかなかった。
 もう就寝の時間である。通路は真っ暗で、お行儀のいい学生は就寝している。この時間帯で通路に出て遊んでいるのは、大人だな。
 皇族セキラもついてきた。セキラは、俺の護衛対象ではあるが、逆に俺を監視する立場でもあるのだ。俺が逃げたりした時、セキラが筆頭魔法使いハガルに道具を使って報告である。そして、俺は帝国に追われる立場になるのだ。セキラの心象は、気を付けないといけない。
 野良の妖精が導かれる先は、客間である。そこに行けば、お嬢さんサリーだけでなく、侯爵令嬢クララまでいた。普通に座っている二人の向かいには、伯爵ブンガロと養女エリッサが暗い顔をして座っていた。
「ロイド様も呼ばれたのですか?」
「サリー、わざとか」
 クララは何もわかっていない様子だ。サリーは笑っている。サリーの危険を読む能力が発揮されているのだろう。サリーは笑って、伯爵ブンガロを見ている。
「呼んでいませんよ、婿殿」
「まだ、決まっていないだろう」
「決まりです。邪魔者はこれで消えます」
「な、何を」
 伯爵ブンガロの持つ空気がおかしい。
『ロイド、あの男、妖精と契約している!!』
『妖精憑きよ!!』
「なんだと!?」
 ハガル、そういう大事なこと、ちゃんと言えよ!! 後でこの事で、責めてやる。
 俺はサリーとクララを立たせ、ブンガロから距離をとらせた。しかし、相手は妖精憑きだ。こういう距離は無意味だ。
「ロイドくんも、妖精憑きなんだね」
 俺の周囲を飛び交う野良の妖精を見ていうブンガロ。
「似たようなものだな。あんたも、妖精憑きだなんて、気づかなかったよ」
 だが、今更、野良の妖精が訴えてきたのには引っかかった。野良の妖精はおしゃべりだ。伯爵ブンガロが妖精憑きならば、俺に教えてくれたはずだ。
 野良の妖精たちは、何故か伯爵ブンガロに怯えたような表情を見せた。何か、ブンガロにはあるのだろう。
「お義父様、やはり、やめましょう」
 エリッサが、ブンガロを止めようと声をかける。しかし、ブンガロは狂った笑みを浮かべる。
「この機会を逃すものか。あの、忌まわしい所業をした侯爵家の者が、二つも揃ったんだ。悪い血筋は、この場で耐えさせるべきだ」
「でも、彼女たちは、何も悪くはありません」
「血が悪いんだよ。この呪われた血が!!」
 ブンガロは憎悪をこめて、サリーとクララを見た。
「母上は言った。私の半分の血が悪い、と」
「あんたの母親は、娼婦だからな」
「違う!! 私は両親ともに貴族だ!!!」
 娼婦と聞いて、ブンガロは怒りを俺に向ける。
「別に、娼婦が悪いとは言わない。俺だって貧民だ」
「あなたは、確かに、伯爵令嬢サツキを追いかけた、貧民出の騎士の血筋だ!!!」
「いやー、まさかー」
「肖像画が残っているのだよ」
「っ!?」
 その場を誤魔化せなくなった。親父の肖像画があるなんて、知らなかった。
 きっと、生家を追い出されたお袋を追いかける以前に、親父の肖像画が制作されていたのだろう。俺は見る人皆、親父にそっくりだという。
 ブンガロは、俺の親父そっくりな顔を見て、予感を持ったのだ。もしかしたら、亡くなったと言われた不幸な伯爵令嬢サツキは生きていて、貧民出の騎士と夫婦になったのではないか、と。
「ロイド、バレちゃったね」
「言わないでぇ!!!」
「隠してもバレるものだよ。諦めよう」
 俺がどうにか否定しようと考えていても、皇族セキラが認めちゃったよ。ちっくしょー、こうやって、セキラ、俺を逃げられないようにしてるんだ。暗く笑っているセキラ。わざとだよ!!!
 セキラが認めたから、伯爵ブンガロは嬉しそうに笑う。
「やっと、償いが出来る。私が命をかけて、この穢れた血を滅ぼしてみせます!!!」
「妖精の呪いはやめろ!!!」
 妖精憑きであるブンガロが企んでいるのは、妖精の呪いの刑だ。
 本来、筆頭魔法使いハガルのみ可能と言われる妖精の呪いの刑。実は、妖精憑きの格を落とすため、妖精は絶対に拒否するのだ。そのため、普通の妖精憑きは、命をかけて行うしかない。
 そんなことをすれば、サリーとクララを含む一族が滅び去ることとなる。
「だいたい、呪えるのは一つの一族だ。妖精憑きはあんた一人、無駄死にだ」
 一応、俺は無駄だと訴えた。サリーとクララは別の一族だ。二つの一族を同時に滅ぼすようなことは出来ない。
「そのために、妖精の契約を結んだんだ」
 伯爵ブンガロがそう叫んだ途端、彼の胸が黒く渦巻いた。そこから、人の大きさの女の妖精が出現した。
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