魔法使いの悪友

shishamo346

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妖精の女王

お見舞い

 俺が目覚めたことは、一応、帝国各地の貧民街に報告された。一度は無事を確認しようと、それぞれの支配者とかが、わざわざ海の貧民街に足を運んできた。
「また、綺麗な感じになったな」
「言うな!!」
 身内だからだろう。現在、王都の貧民街の支配者であり、俺の兄ライホーンと、弟ロイドが駆けつけてきた。だけど、開口一番がそれか。もっと他にいうことがあるだろう。
 禁句を言われたので、すぐに不機嫌になる俺。そういうふうだから、女みたい、なんて言われちゃうんだよな。
「何しに来た」
「やはり、王都に戻ろう。そんな姿になるなんて、ここは危険だ」
「断る!!」
「ルキエル兄、一緒に帰ろう。皆、ルキエル兄を待ってるから」
「待ってなくていい。俺は死んだものと思って、先に進め」
 俺を見て、これである。俺の姿は、ライホーンとロイドから見て、あまりにも哀れでならないのだろう。
 ちょっと、目隠し外せなくて、手や足、首と妙な布を巻きつけられているだけだというのに。うん、見た目だけは、やっぱりおかしいね!!
「その目隠しは外せないのか? 見えにくいだろう」
「妖精憑きの力があるから、夜も昼間見たいに見えるぞ。もう、昼なのか夜なのか、わからん」
「そうなのか」
 どさくさにまぎれて、俺の手を握ってくるライホーン。俺は遠慮なく振り払った。
「触るな」
「手が大丈夫なのかどうか、気になるだろう。こんなに、あちこち、包帯みたいに布が巻きつけられてるんだから」
「怪我はない。もういいだろう。さっさと帰れ」
「コクーンからは、一泊していってくれ、と言われているんだが」
「あのクソ爺、余計なことを」
「クソ爺って、軍神コクーンになんていうんだ!?」
「そんなの知るか。俺はコクーン爺さんのこと、いまだにどういう人なのか、知らない」
 ライホーンでも、コクーン爺さんのことは雲の上の人のようだ。コクーン爺さんに一泊を勧められて、嬉しそうだ。
 俺が変わらず拒否しているので、弟ロイドは泣きそうな顔をする。
 兄ライホーンとロイドは、完全に親父似だ。見るからに男らしい。
 そんな中、俺はお袋に似たらしい。体もすっかりお袋寄りだ。そのせいか、ロイドは俺に冷たくされると、ものすごく傷ついた顔を見せる。ロイドにとっても、俺はお袋も身代わりだ。
「ほら、そんな顔をするな。軍神コクーンがこの後、相手してくれるんだろう。しっかり技を見せてもらえ」
 昔の癖で、俺はロイドの頭を撫でてやる。そうすると、ロイドは物凄く喜ぶ。俺も、身内には甘いなー。
 ライホーンは、ちょっと安堵した息を吐く。
「王都のほうは、俺が統治出来ている。親父ほどではないが、俺もそれなりに強いからな」
「親父が強すぎなんだよ。あんなに薬もやっていて、それなりの歳だってのに、あの腕っぷしは才能だな」
「………そういう才能は、本当は、ルキエルが受け継いでたのかもな」
「妖精憑きはあれだ、才能がありすぎるんだ。今ならわかる。妖精を使う才能って、人でいうなら、頭が良い、とか、喧嘩が強い、とかなんだろうな。才能を受け継いだんじゃない。妖精憑きだから、才能があるだけだ。親父からの才能は、もしかすると、ロイドが受け継いでいるかもな」
 まだ、鍛えている最中のロイドは、これから強くなるだろう。
「ちょっと見させてもらおうかな。もうちょっとで、コクーン爺さんの技、体得出来るんだよな」
「やめてやれ」
 さすがに兄ライホーンも、止めてきた。そうだよな、長年、時間をかけて体得した技術を俺は見るだけで体得しちゃうから、見せたくないよな。
 だけど、俺は付いていっちゃう。
「おい、あの豪華な部屋で大人しくしてろ!?」
「もう、飽きた。あれもダメ、これもダメ、なんて言われ続けてるんだぞ。ほら、護衛もついてるから、大丈夫だ」
 俺は兄弟が見舞いに来たことを利用して、あの豪華だけど、やることがない部屋を抜け出す。義体に憑いた最高位妖精カーラーンと高位妖精カリンは諦めたように、俺の後ろに従う。
「あの綺麗な奴、何?」
「俺の護衛。強いぞー」
 ロイドには、当たり障りのない答えを返す。さすがに、義体に憑いた妖精です、なんて言えないよ。
 義体に憑いたカーラーンの姿を見たことがあるのは、それほどいない。義体の研究も、秘密裡だったので、コクーン爺さんも察してくれて、二人をどっかから連れてきた俺の護衛、として俺の側に置いてくれたのだ。
 かなり綺麗目なカーラーンとカリンだが、試行錯誤をして、まあまあ綺麗目に見た目を抑えている。そこは、ハガルに習ったんだろうな。ハガルは完璧な平凡な姿に偽装しているが、カーラーンとカリンはちょっと綺麗目なのは、なんとも言えないがな。
 建物の外に出れば、コクーン爺さんが準備万端で待っていた。
「ルキエルは、部屋に戻ろうか」
 俺の姿を見て、素早くワシムがやってくる。
「せっかく兄弟水入らずなんだから、ちょっと、ここで見ててもいいだろう」
「目立つんだよ、お前は」
 そりゃそうだ。俺の外装はとんでもないこととなっている。目隠ししているくせに、普通に歩いているのだ。その上、後ろにはカーラーンとカリンという護衛までつけている。とんでもない重要人物になっちゃってるよね。
「いいじゃん。もう、街とかには行けないんだからさ」
「風紀が乱れる」
「えー、今更じゃん」
 俺の存在自体、風紀乱しまくりだったろうに。
 海の貧民街に来てからずっと、俺は男相手に身売りしていた。短期間ではあるが、男とも付き合っていたこともあるし、コクーン爺さんが育てている騎士に堂々と口説かれていたし、果てには、王都の貧民街の支配者だった男が俺を追いかけてきたり、と風紀乱しまくってたよ。
「お前、知っているか? 男を破滅させる男、と呼ばれているぞ」
「あー、そうなるねー」
 俺と短期間ではあるが、付き合っていた男タリムは、敵勢力に所属して、俺を利用していたことが、表沙汰にされた。タリムは最初、俺を利用しようとしていたが、最後は俺に嵌ってしまい、俺の罠にかかって、コクーン爺さんに売られたのだ。
 俺のことを熱烈に求めた貴族は、俺をどうにか手に入れようと誘拐までした。しかし、その身の程知らずな行為に俺が激怒して、貴族は首だけとなった。
 コクーン爺さんを慕って貧民となった騎士ユーリは、俺のことを人前でも熱烈に口説いてきた。が、裏ではコクーン爺さんとこの情報を侯爵家に流していたのだ。その事実を俺が知り、内戦終了後、俺はユーリをナナキに殺させたのだ。
 思い返せば、俺に嵌った男は、皆、死んでるな。親父だって、結果的には死んだし。
「こんな見た目になった俺を口説こうとする男はいないだろう」
「お前はわかっていないが、その姿でも、十分、人を惑わせるぞ。空気が違う、空気が」
「それは、そいつらの修行が足りないだろう。コクーン爺さんもワシムも、俺には何も感じてないじゃないか。修行だよ、修行」
「修行したって、俺や御屋形様みたいな人間になるわけじゃないんだぞ!?」
「あー、もう、煩いなー。見学だよ、見学。だいたい、道具いじりだって禁止されたら、あの部屋では寝て、食べて、本読むしかないじゃん。体動かしたい!!」
「道具はダメだ」
 俺の道具いじりまで禁止された。何せ、俺が今、こんな妖精封じの布でぐるぐる巻きにされたのは、道具のせいだ。
 妖精に操られた中央の貧民街の支配者ケリンは、俺の元に、壊れた妖精の目を持ち込んだのだ。普通の妖精の目であれば、俺はちょっと才能が開花したな、程度だった。しかし、壊れた妖精の目は、俺の妖精憑きとしての力を暴走させたのだ。結果、受け止めきれない情報が俺の中に入ることとなってしまい、廃人となったのだ。
 俺の後ろ盾である筆頭魔法使いハガルがいなければ、今も、廃人のまま、ベッドで横になっていただろう。
 こういう事実が表沙汰となったため、コクーン爺さんは、危険かもしれない道具いじりを禁じた。本当に、あの妖精の女王、迷惑なクソババアだな!!
 何を言っても無駄だ、とワシムも悟っているので、俺の側で見張りである。俺はどっか座る所を探していると、出来る高位妖精カリンが椅子を持ってきてくれる。
「ありがとう、カリンちゃん」
「………」
 無言である。やっぱ、ちゃん付けはダメかな? カリンは無言で、俺の後ろに立つ。カーラーンと違って、カリンはあまり話さないんだよね。あれか、格が関係あるのかも。
 すっかり、俺の扱いは、どっかの偉い人である。修練を椅子に座って見学するのだ。もう、誰も俺のこと嘲笑ったり、蔑んだり出来ないな。それはそれで、寂しい。俺、最低、とか、最悪、とか言われるのが大好きだから。
 兄ライホーンを見てきれば、もう子どもみたいに大喜びでコクーン爺さんに相手にしてもらっている。本当に、コクーン爺さんって、すごい人なんだね。知らなかったよー。
 弟ロイドはというと、俺のことが気になるようで、何かと視線があう。お前な、真面目にやれ。それじゃあ、強くなれないぞ。
 しばらく、そうして見学していると、レーリエットまで来た。レーリエットが来ると、護衛としてつけられたナナキも一緒だ。
「ルキエル!!」
 大喜びで、ナナキは俺を後ろから抱きしめてくる。
「お兄ちゃん!!」
 レーリエットは、前からだよ。もう、前も後ろも逃げ道がないね。
 レーリエットは、俺の膝に当然のごとく座る。レーリエット、相変わらず軽いな。ちゃんと食べてるのか? 心配だ。
「やだ、ライホーンとロイドがいる。どうしているのよ」
「コクーン爺さんが、俺のこと、兄貴たちに知らせてくれたんだ。なんだかんだいっても、家族だからな」
「もう、あんな頼りない奴、家族でもなんでもないのに」
「あんまり、言ってやるなよ。俺で散々、言われて、気の毒なんだからな」
「言わなきゃいいだろう」
「家族という理由だけで許されている事実を知ったら、つけあがる」
 ワシムは俺の兄弟に味方するも、俺の内心を知って、黙り込んだ。
 なんだかんだいって、俺は家族に甘い。最低最悪な姉貴リンネットでさえ、ギリギリまで見捨てられなかったのだ。実は、兄弟には、いまだに俺の妖精が守りとして付いている。その事を知っているのは、同じ妖精であるカーラーンとカリン、あと、元妖精のナナキだ。見えるのだから、バレてるんだよな。
「もう、お兄ちゃんは優しすぎるから」
「俺が勝手にやってるだけだから。兄貴たちは知らないままだから、いいんだよ。妖精に頼りすぎることは、後々、大変なことになるから、表向きだけでも、突き放したほうがいいんだ」
「私はお兄ちゃんから離れないからね!」
「はいはい」
 俺はレーリエットをぎゅっと抱きしめる。レーリエットは俺の良心だ。一度は見捨てたけど、結局、俺の元に戻ってきた。レーリエットがいるから、家族を許してしまうだけだ。
 修練は長いが、まあまあ、見ごたえがある。でも、レーリエットなんかは、見ていても楽しくないから、途中で退場した。
 修練が終わる頃、貧民街のほうから賑やかになってきた。誰かがやってきたのだ。騎士や兵士たちが殺気立つ。
 来たのは、中央の貧民街の支配者ケリンだ。手勢を連れて、まっすぐ、俺に向かってくる。そして、俺の前に跪いた。
「すまなかった!!」
「やめてぇえええー-----!!!」
 俺は慌てて椅子から立ち上がり、ケリンを立たせる。
「公衆の面前で、謝罪ダメだめだって。お前、立場的には俺より上なんだから!!」
「しかし、僕が持ち込んだ道具のせいで、君は廃人になったというじゃないか。無事だといっても、まさか、こんな姿になっているなんて」
「あ、そうそう、ナラータとはどうなった?」
「そ、それは、その、感謝しかない」
 話を別の方向に持っていってやれば、ケリンは顔を真っ赤にして、お礼なんて言ってくる。そうか、うまくいったのか。
 山の貧民街の支配者ナラータは、何故か俺を種馬にしようと申し込んできた。色々とあったんだけど、ナラータに横恋慕していたケリンが、俺に勝負をふっかけてきた。俺はケリンを卑怯な方法で負かしたんだけど、面倒臭くなったので、種馬の権利をケリンに放り投げたのだ。ナラータも、俺と最後まではしていないが、閨事をして、かなりヤバいとわかって、渡りに船とばかりに、種馬をケリンに代えたのだ。
 思い返すと、酷いな。ケリンだけが好意を持っていて、俺とナラータはなんとなくなんだ。ナラータ、ケリンにこれっぽっちも好意を持っているように見えなかったなー。
「ナラータの妊娠は、まだわからないが、体調が悪いということから、今回は、ここには来れなかったんだ」
「それ、出来てるよ。良かったな」
 むちゃくちゃ幸せそうに笑うケリン。
 俺なんか、廃人となって意識ないところに、襲われて、気づいたら、ヘレンお嬢さんが妊娠してました、だよ。騙されたような感じだから、全然、嬉しくない。
「聞いたぞ、軍神コクーンの孫娘が、君の子を妊娠したんだってな」
「どういうこと!!!」
 レーリエット、戻ってきたのかよ!? 知らなかったようで、俺の膝にまた座る。
 レーリエット、大人しいな、と思っていたら、ヘレンお嬢さんの妊娠、知らなかったんだ。そりゃ、公に出来ないよな。だけど、中央の貧民街の支配者ケリンが知っているのはおかしい。
「誰から聞いたんだ?」
「君が目覚めたという手紙に書いてあった」
「何やっちゃってくれるの、あのクソ爺!!」
 コクーン爺さん、俺が逃げられないように、外堀から埋めていってるよ!!
「そうか、だから、ナラータの種馬を断ったんだな。好いた女がいるのなら、そうなるな」
 もう、勝手に妄想が暴走していっている。俺は否定も肯定もしない。迂闊なことを言うと、後々、大変なことになる。
 ケリンが知っているということは、俺の兄弟も知っている、ということだ。後で色々と言われるな。
「お兄ちゃん、いつ、あの女に手を出したの!? まさか、私が王都に行っている時に!!」
「そういうことは聞くな。ヘレンお嬢さんの立場が悪くなるから、言いふらすなよ。ケリンも、言いふらすな。その事を知ってる奴、ここではそういないんだ」
「そうなのか!? 祝い事だと、贈り物も持ってきたんだが」
「まだ、生まれてもいないのに、早すぎだ。無事に生まれるかどうかわからんのにな」
「君の子だ。無事に生まれるに決まっている」
「その根拠は?」
「勘だ!!」
 ケリンは智の武人とも呼ばれているほど、頭もいいし、戦闘も強い。だけど、最後は勘に頼っちゃうのかー。勘、バカにはしないけどな。
 もう怒っているレーリエットは、俺に抱きついて離れない。立ちたくても立てないな。
「お前な、いつまでもルキエル兄にくっつくなよ。甘えすぎだ」
 修練が終わった弟ロイドが、俺からレーリエットを引きはがした。
「もう、触らないでよ!! 汗臭い!!! やだ、男くさくて気持ち悪い」
「お前、僕とルキエル兄で、扱い違いすぎだ!!」
「お兄ちゃんは綺麗だからいいの!! 鍛えても、汗臭くならないし」
「そ、それは、確かに、そうだな」
「お前、どっちの味方なんだよ!?」
 ロイドの奴、レーリエットの言い分に頷いちゃってるよ。男として、傷つくんだよ、それは!!
 可愛い妹からも、可愛くない弟からも、俺は男らしくないと言われて、落ち込んだ。
「仕方がない。力ある妖精憑きは、そういうふうになるんだ」
 最高位妖精カーラーンから、慰められちゃう。そうだよね、ハガルなんか、美人通り越して、もう人狂いをさせちゃう美貌だもんね。
 そういえば、俺は目覚めてから、俺の顔見てないな。今、どうなっているのか、気になるけど、見たくない。目隠ししているから、素顔半分隠れちゃって、見る方向によっては、怪しい人だけどな。
 修練が終わったので、俺は椅子から立つ。そんな俺の横を修練が終わった騎士や兵士たちが通り過ぎていく。皆さん、俺をじろじろと見てくるが、もう話しかけてこない。
「あれだな、ルキエルは、動作一つ一つに、綺麗さとか、色香を感じるな」
 そんな男どもの感想をケリンが代表で言ってくれた。聞きたくなかった。




 結局、俺はあの豪華な部屋に戻った。客人であるケリンは、コクーン爺さんとこに行った。もう、俺と話すこともないだろう。無事も確認したんだし、さっさと帰りたいよね。もしかしたら、山の貧民街の支配者ナラータが妊娠しているかもしれないから、気になって仕方がないよね。
 ケリンはいい奴だ。暇で暇で仕方がない俺のために、貴重な資料とか本とか持ってきてくれた。ひょっほーい、暇つぶしがでーきーたー。
 汚れとかは魔法で吹き飛ばし、ついでに、破れたとことかも復元である。妖精憑きとしての格が上がって、最高位妖精カーラーンのお陰で、出来ることが増えたね。見た目が酷くなったけど。
「そういえば、ハガルには俺が目覚めたって、報告した?」
 今更ながら、気になった。そういえば、手紙の返事も貰ってないぞ。ちょっとイラっとなるな。
「報告はした」
「手紙の返事は?」
「妖精封じの布は、なかなか面倒な作業なんだ。我慢してやれ」
「片手間だろ、片手間!!」
「返事どころではなかったからな。それと、力の暴走が酷いということから、生活が大変かと心配して、金が送られてきた」
「いらないから!! もう、あいつ、それ、病気だよ。一度は直接、言ってやらないと、本当にまずいことにぞ!!!」
「手遅れだ。受け取ってやってくれ」
 この豪勢な部屋に、高額な金が入った袋がぽんと置かれる。やーめーてー!!
「俺が前、使っていた部屋に置いてってくれ。あの部屋、もう、あのまま、誰も使えないようにされただろう。ナナキがあの部屋を封鎖したから、盗まれることもない」
 ナナキは、一年間、俺が使った部屋を誰にも使われないように、魔法で、見えなくしていた。俺や妖精であるカーラーンは普通に見えるし、入れるが、ただの人には、もう、認識も出来ないようになっている。
 俺がお願いすれば、カーラーンは金の入った袋を支配している妖精に運ばせる。誰にも見られずに出来るから、便利だよな、これ。
「カーラーンは、いつまで義体に入ってるんだ? 実体でいるのは、不便だろう」
「お前はまだ、全快じゃないんだ。人に襲われでもしたら、無事ではないだろう」
「そうだな」
 妖精を通して受け取る情報が膨大で、実は、うまく体が動かない。本来なら、少しずつ、馴らしていくのだろう。
「ハガルはさ、どうだったの? ほら、妖精封じもされていなかったというから、大変だったんだろうな」
「城には、様々な魔法が施されているから、随分と抑えらてはいた。が、常に魔法を使っている状態だったから、幼い頃は、随分と頭痛に苦しんでいた」
「それ、そういう時はどうしてたんだ?」
「皇帝と寝ていたな」
「………」
 そうか、幼い頃から、ハガルは皇帝ラインハルトと同衾していたのか。たぶん、普通に寝てたんだよね。ほら、幼いハガルにとって、ラインハルトって、父親みたいなもんじゃん。そう思いたい!!
 今のところ、受け取る情報は全て流すことにしている。俺の頭では処理なんて不可能だよ。だいたい、この情報、普通に生活する上ではいらないだろう。
 俺はちょっと好奇心から、目隠しに手をかける。いまだに、素顔がどうなっているのか、俺は知らない。
「やめておけ、廃人になるぞ」
「俺の顔、見たいんだよ。ほら、どうにかならない?」
「そんな、ちょっと変わったくらいだろう。誤差みたいなものだ」
「誤差ねー」
「ほら、私の手をとれ。少し、手助けしてやる」
「もしかして、カーラーンと手を繋げば、俺、こんな恰好しなくてすむ?」
「私が妖精に戻って、四六時中、抱きしめてやればな。やってやろうか?」
「ごめんなさい」
 体の密着具合で変わるのか。カーラーンが妖精に戻ってやってくれても、俺だけでなく、ナナキも見えるからな。後から大変だ。
 カーラーンに手を繋いでもらうだけで、あの耳障りな音とか、視覚的な情報、肌で感じる何かが遮断される。これはまた、すごいな。やっぱり、お願いしたくなるよ。
 俺は鏡の前で、目隠しを外した。
「えー、これは誤差じゃないって」
 やばい、かなり綺麗系に素顔も変わってきている。常にハガルを見ているカーラーンにとっては、誤差かもしれないが、俺にはとんでもない変化である。泣きたい。

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