魔法使いの悪友

shishamo346

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破滅-一人目

離れられない執着

 調査はたった三日で終了である。移動に二日、調査に一日だ。まさか、こんなに早く海の貧民街に戻るなんて、俺は思ってもいなかった。
 娼館に行けば、ルキエルが客待ちをしている。そこに、俺が入ってきたので、ルキエルは嬉しそうに笑顔を浮かべて俺の元にやってきた。
「タリム、早かったな!! よし、今日は仕事しない。帰る」
 俺が来たことで、ルキエルはあっけなく仕事から離れた。店主を見れば、苦笑するだけである。ルキエルが仕事をしないことを気にしていない。
 つい昨日、死ぬ思いまでした。ルキエルから離れよう、とまで考えたのだ。だから、別れを告げるつもりで来たというのに、ルキエルが恋人のように腕を組んでくると、そんなこと言えなくなった。
「一週間かかるって言ってたのに、早かったな」
「思ったよりも、早く終わった」
 終わった、というより、終了したのだ。もう、ルキエルの秘密を調べる事が出来なくなった。
 俺の腕に寄りかかって、甘えて歩くルキエル。人畜無害な顔をしているが、実際は、とんでもない存在だった。



 馬車で送られる中、俺はルキエルのことを伯爵オクトから聞いた。
「ルキエルは、僕の義父マクルスの娼夫でもあった。だが、実際は、義父がルキエルの情夫だ。義父は、ルキエルの願いを全て叶え、命まで差し出したんだ。それほど、義父はルキエルに傾倒していた」
「俺とルキエルは、そこまでの関係じゃ」
「そうだろうな。ただ、そのことを頭の隅にでも覚えていてほしい。ルキエルは、ただの貧民でも、娼夫でもない。ルキエルには、我が家門も恩がある。義父が大切にしていたから、という理由だけで、ルキエルを探しているわけではない」
「………」
「君が、ルキエルのことを愛している、というのなら、それなりの覚悟を持ったほうがいい。ルキエルは、激しい情念の持ち主だ。義父だって、最初は遊びだったんだ。それが、本気になった」
 伯爵オクトは、俺だけ別の馬車に乗せて、話してくれた。俺のことを思って、というよりも、ルキエルのためだろう。
「ルキエルは、妙な所で女だ。嫉妬深いし、すぐに拗ねるし、疑う」
「とても、詳しいですね。あなたも、ルキエルと」
「言っておくが、僕とルキエルは友達だ。お互い、仲がいいんだ。今度、僕も娼館に行くから、その時、見てみればいい。僕とルキエルは、永遠に友達だ。それ以上でも、それ以下でもない。残念だけど」
 伯爵オクトは、遠いどこかを見ていう。
 てっきり、伯爵オクトもルキエルを俺と同じように見ているかと思っていた。だけど、オクトの表情はそうではない。否定するが、恥ずかしがってではない。苦笑して、軽くいうのだ。
「俺は、これから、どうすれば」
 伯爵オクトは、立場からも、身分からも、相談相手にはならない。だけど、つい、口から出てしまう。
「付き合いたいと言ったんだろう」
「勢いでだ」
「ルキエルは、ともかく人を惹き付けるんだ。よく、膝に乗ったりするだろう」
「やっぱり、あんたも」
「義父から聞いたんだ。そうやって、甘えるのが、大好きなんだ。手から食事を給仕されたり、と子どもみたいに甘える」
「そう、です」
「だったら、気をつけなさい。ルキエルは、無力なように見えるが、実際は、とんでもない力を隠し持っている。さて、いつまで、君はルキエルの隣りにいられるかな? 義父でさえ、十年もいられなかった」
「………」
 もう、俺はルキエルと別れるつもりでいた。
 こんな恐ろしい伯爵と友達だというルキエル。それに対して、俺は下っ端のさらに下っ端だ。とても、ルキエルは俺の手に負えない存在だ。





 だというのに、俺は部屋にルキエルと戻っていた。ルキエルは俺に抱きついて、軽く口づけし、俺の胸に顔を埋める。
「今日は、する?」
「今日はなしだ。そんなつもりで、行ったわけじゃない。ただ、帰ったから」
 俺はルキエルを離した。ルキエルは寂しそうな顔をして、俺の後をついてくる。
「やっぱり、新しい女がいるのか。だったら、ここでお別れだな」
 俺の態度が冷たいから、ルキエルはそう思ったのだ。そう思い違いをさせればいい、と俺は都合よく思っていた。
「じゃあ、最後の思い出作りに、やろう」
 だが、ルキエルは容赦ない。服を脱いで、俺に抱きついてきたのだ。
「ルキエル?」
「やっぱ、女がいいんだろう。だけど、俺はタリムの体がいい。最後でいいから、抱いてくれ」
 ルキエルは俺に抱きつき、口づけし、俺の剛直を服の上から触れて、笑う。本当に、ルキエルは俺の体だけが目当てだ。
 言ってやりたい。ルキエルが貴族の後ろ盾があることを知った事実を。別に口止めされているわけではない。言ってしまってもいいんだ。だけど、言いたくなかった。
 最後だと思って、俺はルキエルを抱き上げ、ベッドに優しくおろし、ルキエルの上に圧し掛かった。
「タリム、服、脱いでくれ。肌を感じたい」
「わかった」
 俺は言われるままに、服を脱いだ。ルキエルは俺の肌を感じるように、体全体で俺を下から抱きしめる。
「どこの女の匂いをつけてきたんだか」
「匂い?」
「こう、甘くて、ちょっとクラクラする匂いだ」
 俺は腕に鼻を寄せてみるが、匂いなんてわからない。ルキエルは匂いに敏感なんだろう。伯爵オクトの馬車で、何か移ったのかもしれない。
 女がいる、と思い込んでもらったほうが、俺には都合がいい。だから、俺は、わからない匂いをつけた体で、ルキエルの上に乗った。
 いざ、女の気配を感じると、ルキエルは嫉妬の顔を見せる。それを見て、俺は内心、喜んだ。口ではなんだかんだ言ってもルキエルも俺のことを愛してるんだ。
 ルキエルに教えられた前戯をする。ルキエルは俺の剛直を口で咥えたがるが、今日はそれをさせない。最後だというのだから、ルキエルの最奥で、全て吐き出したかった。
 普段はしない準備を俺はした。ルキエルの蕾に指を二本、挿入させる。入る時、緩いというのに、奥に入ると、俺の指をしめてくる。その感触に、俺は興奮した。
「ここが、いいんだよな」
「やあっ!!」
 ルキエルを初めて抱いた時に見つけた、ルキエルが喜ぶそこを指でついてやる。撫でて、突いて、とやると、ルキエルははーはーと獣の呼吸を吐き出して、俺の下で身もだえ、暴れた。
「もう、中に、タリムのこれをぉ」
 ルキエルはガチガチとなった俺の剛直をつかむ。
 一瞬だが、ルキエルは、表情を消した。あれほど、陶酔した顔を見せていたというのに、俺の剛直が反り立っていることに、どこか、残念そうに見ている。
 それも、俺が指の本数を増やして、蕾の奥をぐちゅぐちゅとかき混ぜてやると、すぐに表情を歪めた。
「あ、そこぉ、もう、だめぇ」
 軽く絶頂し、ルキエルは白濁を放った。それを俺の剛直に擦りつけて、ルキエルの腰を持ち上げる。
 ルキエルはまた、俺の行為に、衝動をなくさせる何かを感じたのだろう。表情がなくなる。それでも、俺は構わず、ルキエルの蕾に俺の剛直を挿入した。
 一気に、最奥を抉るように挿入してやれば、ルキエルはまた、喜んだ。
「奥ぅ、いいぃ!!」
 大喜びのルキエルに、俺の腰はとまらない。ガツガツと抉っていき、ルキエルの中を味わう。もう、恐怖とか、そういうものがなくなった。
「一緒に暮らそう、ルキエル」
 ずっと言いたかったことをこんな時だというのに、言ってしまった。
 別れるつもりだった。伯爵オクトは別れろなんて言っていない。ただ、俺は恐ろしくなって別れたかった。
 だけど、こうやって、ルキエルを抱いて、俺は全てを手に入れたくなった。
 俺の告白に、ルキエルは硬直する。それでも、俺の剛直をしっかりと小刻みに震えて締めてくる。だから、俺は容赦なく抉ってやる。
「女なんていない!!」
「け、けど、匂いぃ」
「どっかで移ったんだろう。一緒に暮らしたい」
「だ、だめぇ、もう、い、いっちゃうぅ」
 誤魔化された。ルキエルは、俺の受ける悦楽に集中して、俺の話を無視したのだ。
 俺はそれに怒りを覚えた。だから、手加減なく、最奥のさらに奥に、俺の剛直を一気に挿入させる。
 これまではゆっくりとしてやった。だけど、こんなふうに誤魔化されてしまったら、俺も怒る。俺は本気だ。
 あまりの衝撃に、ルキエルは声もなく、はくはくと口を開いて、全身を痙攣させて、意識を飛ばした。





「もう、ルキエルから手を退け」
「俺たちの手に余る存在だ」
「ちょっと、楽にやりたいだけだぞ」
 仲間たちに言われたが、俺はルキエルと別れなかった。それどころか、ルキエルの側にいるようにした。
 ルキエルは俺と過ごす以外は、娼館で仕事している。俺は、ルキエルを盗られないようにするために、娼館に居座った。
 もう、海の貧民街では、俺とルキエルが付き合っているのは公然となった。ルキエルはともかく目立つ男だから、すぐに噂は流れたのだ。そこに、俺がどうどうとルキエルの側にいるのだ。噂が本当になったことで、色々と見られた。
「ルキエル、やっぱり男がいいんだ!!」
「女の経験がないから、男に走ったのよ!!」
「やっぱり、ルキエルに手を出しておけばよかった!!!」
 娼館で働く娼婦たちは泣いた。中には、ルキエルのことを本気で好いていた娼婦もいたのだろう。俺のことを敵意を持って睨んできた。
 娼館で娼婦の恋人を待つ男は普通にいる。商売の邪魔とかではない。貧民の男にとって、娼婦は金づるなのだ。逃げられないように、こうやって、娼館の待合室で居座ることは珍しくないのだ。
 そういう男たちに混ざって、俺もルキエルの仕事が終わるのを待っていたのだが、その日は、生きた心地がしなかった。
 なんと、伯爵オクトがやってきたのだ。ルキエル、伯爵オクトと普通に話していたのだ。そして、伯爵オクトに身売りするかに見えて、オクトの側近と閨事である。
 オクトは、ルキエルを見送ってから、俺の元にやってきた。
「おや、まだ、ルキエルの側にいましたか」
「別れろとは、言われていない」
「普通なら、別れるものだよ」
 嘲笑う伯爵オクト。俺がルキエルに縋りついているとわかっているのだ。
「ルキエルからは、情を傾けてもらえていますか?」
「今、一緒に暮らす準備をしている」
「へえ、そうなんだ」
 伯爵オクト一人だ。俺は強気に出た。
 実際は、まだ、ルキエルから了承もとれていない。俺だけが、一人、準備しているだけだ。部屋がどんどんと二人暮らしするように物が揃っていくのをルキエルは無表情で眺めていた。
 俺は、力づくで、ルキエルを部屋に迎えるつもりだった。そのために、どうにか、海の貧民街の支配者の交代をさせなければならない。
 伯爵オクトは、娼館の店主から飲み物二つを受け取り、一つを俺の前に置く。
「ここに戻ってから、ルキエルは嫉妬したでしょう」
「っ!?」
「ルキエルは鼻がきく。ちょっとした匂いで、ルキエルは女の影を疑うんだ」
 ルキエルが俺に女を疑ったのは、伯爵オクトのせいだった。オクトはわざと、俺に匂いをつけて、解放したのだ。
「ルキエルは妙に女だ。ともかく疑う、信じない、嫉妬する。義父上も、そこのところで、随分と振り回された。僕は、友達だったから、そういうことはなかったけどね。大変だよ」
「そうやって、俺とルキエルの仲を壊すのか」
「どうせ、別れるつもりだったんだろう」
「っ!?」
「普通はそうだ。僕のような後ろ盾がいると知れれば、貧民だったら、ルキエルから離れる。だけど、ルキエルにすっかり魅了されたお前は、ルキエルから離れられなくなった。義父上と同じだ」
 図星だったから、否定できない。伯爵オクトは、俺が一度は思ったことを読んでいた。そして、俺の気持ちを理解していた。
「こちらも、君たちのことを調べたよ。どうするつもりでも、ルキエルだけが無事ならば、我が家は何もしない」
「密告しないのか?」
 伯爵オクトは、俺が海の貧民街の支配者の敵となる組織に所属していることを知っている。なのに、どちらの味方にもならないようなことをいう。
「義父上の遺言を守るためではない。ルキエルのために、僕たちは手を出さない。ルキエルが王都の貧民街でもなく、我が伯爵家でもなく、海の貧民街に来たんだ。その気持ちを僕たちは尊重するよ」
「俺は、ルキエルを手に入れる」
「忠告しておく。過去のことは、一生、ルキエルに嫉妬され、疑われる。それを君はどこまで許せるかな? 義父上でさえ、死ぬまで、ルキエルに嫉妬され、疑われ、信じてもらえなかった。あれほどの献身を見せたというのに、ルキエルは義父上を信じなかった。君も、そうなる」
「俺なら、絶対にルキエルに信じてもらえる。もう、俺は女を買っていない。ルキエルだけだ」
「余所見したら、ルキエルは、簡単に捨てるから、気を付けてね」
 伯爵オクトは俺の肩を軽く叩いて離れた。それと入れ替わりに、ルキエルは部屋から出てきたのだ。
 俺はルキエルの元に行った。ルキエルはいつも、このまま帰るのだ。その帰り道の途中まで、俺はルキエルを送っていくつもりだった。
「悪い、今日は、オクトと一晩、話してるよ」
 だけど、ルキエルは伯爵オクトと一晩、話すという。
 ルキエルとオクトの間には何もないのか、疑った。だけど、ルキエルとオクトは、普通に友達の顔で談笑を始めたのだ。本当に、ルキエルとオクトは友達関係だった。
 仕方なく、俺は娼館の外で待つために、一度、出た。そして、俺はぞっとした。
 娼館の周囲を伯爵オクトの手勢がちらほらと囲んでいたのだ。その中には、見目麗しい男女も混じっていた。見覚えのある顔があった。
「オクト様とルキエル様は、久しぶりの歓談です。邪魔しないでいただきたい」
 俺の側に、見たことがある男がやってくる。伯爵オクトの側に立っていた家臣だ。あの時は、大して恐怖を感じなかった。
 だけど、オクトとルキエルがいない所では、家臣は殺気をこめて、俺を睨んでいた。
「本来であれば、貴様を殺してやりたいが、ルキエル様の情夫であるから、仕方なく、見逃してやるんだ。別れるのなら、さっさと別れろ」
 俺は逃げた。その場にいたら、恐怖で動けなくなるだろう。
 部屋に戻って、ベッドにもぐりこんで震えた。
「別れるものか!!」
 ガタガタと震えながら、俺は決意する。絶対にルキエルとは別れるものか。





 その日は、俺とルキエルが過ごす日だった。何もしない日があってもいいだろう、なんてルキエルから言い出した。体目当てと言っているくせに、妙なことを言ってくれる。
 そんなことを言われると、逆に手を出したくなるものだ。
 一応、外では恋人らしく手を繋いで、買い物だ。貧民街で、俺とルキエルの仲を知らぬ者はもういない。呆れられたり、微笑ましいと見られたり、敵意を向けられたり、様々な視線を洗礼のごとく受け止めた。
 ルキエルは俺だけを見つめていた。周囲の視線など、気づいていないようだ。俺がちょっと目を反らそうものなら、ルキエルは途端、不機嫌になるので、注意した。
 そうして、俺は外でもルキエルに集中した。買い物も終わらせ、俺の部屋に入れば、ルキエルは無表情で、俺の部屋の状態を見回す。
 いつでもルキエルを迎え入れるために、あらゆる物を揃えた。もう、ルキエルは身一つで来るだけだ。それを言葉でも、行動でも、さらに部屋を見せて、ルキエルに訴える。
 ルキエルは、貧民でも、やっと手に入れられたソファに座る。見た目もそうだが、座り心地だって、伯爵が持つ馬車よりも悪い。そんなものに座って、ルキエルは笑顔である。
「あんまり、無茶するなよ。俺たち貧民は、いつ死んだっておかしくないんだからな」
「無茶も無理もしていない。使う金を全て、ルキエルにしただけだ」
「お前は、女好きだって言ってたのにな」
 俺はルキエルをソファに押し倒した。ルキエルは苦笑して、俺の口づけを受け入れた。
「今日は、泊まって行ってくれ」
 今日だけは、ルキエルを帰すわけにはいかなかった。
 今日は、海の貧民街の支配者がいる本拠地を襲撃することとなっていた。俺は、ルキエルの足止め役だ。
 俺が所属する組織は、ルキエルを軽く見ていた。仕方なく、俺は、ルキエルと妖精殺しの伯爵が懇意であることを暴露した。
 妖精殺しの伯爵は、帝国中の貧民街で恐れられている。妖精憑きを支配し、妖精憑きを殺せる伯爵には、誰も敵わないのだ。実際、逆らって、妖精憑きを盗られただけでなく、とんでもない惨殺死体となった者だっているのだ。
 そんな恐れられている伯爵とルキエルが友達関係だと知って、組織は、ルキエルをどうにか引き離す役割を俺に託したのだ。
 どうやってでも、俺はルキエルを帰すわけにはいかない。俺はその日、ルキエルが望まないというのに、閨事を無理矢理した。
 俺とルキエルは、そう年頃は変わらない。それなのに、ルキエルは仕方がない、みたいに俺を受け入れてくれた。
 だけど、結局、ルキエルは帰った。俺では、ルキエルを止められなかった。

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