111 / 152
嫉妬と衝動
時間がかかるけど、簡単な仕事
しおりを挟む
徹夜で移動はなかなか堪えた。だが、馬車だと遅いので、馬だ、馬。
前線に立つのは私だが、今後のために連れてきたオクトは、側近セコンと並んでついてきている。皆、いい馬だから、早い早い。
現地集合ではあるが、子飼いの妖精憑きどもは、前日から荷馬車で移動させられていた。数時間で移動して到着してみれば、子飼いの妖精憑きどもは好き勝手していた。
それも、私が到着すれば、それなりにきちんと姿勢よくするのだ。
ところが、今日はそうではない。何故か、馬から降りる私をじろじろと見ている。そして、私から距離をとろうとする。
「いくら私が怖いからと、そんなに離れるんじゃない」
いつもの通りに話せば、すぐに姿勢よくする子飼いの妖精憑き。だが、私が近づくと、後ろにゆっくりと下がるのだ。
「貴様ら、逃げるつもりか!?」
「ち、違います!!」
「これ以上、側に寄らないで!!」
「無理無理無理!!」
半泣きして、私から距離をとる子飼いの妖精憑きども。
「一体、どうしたんだ、お前たち」
オクトは普通に近づいても妖精憑きどもは逃げない。だけど、私に対して、何か感じている。
オクトは妖精憑きたちから事情を聞いて、苦笑して、戻ってきた。
「ルキエルのせいですよ」
「………ああ、そういうことか」
昨夜から早朝にかけて、私は随分とルキエルを可愛がった。そこで、私はルキエルに匂い付けされたのだろう。
いつもだったら、香を吸引してから行動するのだが、今日は寝てないし、馬での移動だから、危ないので、香を吸引しなかったのだ。お陰で、随分と体調がいい。
しかし、そのため、昨夜、ルキエルによって散々された匂い付けがそのまま残ったわけである。
「ルキエル、そこまですごい妖精憑きではないと思うんだが」
「そういうのは、妖精憑き同士でしかわからないことでしょう。それ以前に、義父上と僕には、魔法が届きませんからね」
「そうだな」
私とオクトは、妖精憑きの天敵だ。何せ、妖精の魔法が届かないのだ。結果、私とオクトは、そこら辺の妖精憑きは怖くないのだ。
ただ、腑に落ちない部分をルキエルには感じる。魔法が届かない、ということは、私への癒しの魔法は効果がないはずなのだ。
妖精の万能薬でさえ、私のダメになった臓器を癒すことが出来なかった。それほど、妖精の力を阻害するものを私は体内に入れているのだ。それなのに、ルキエルのよくわからない魔法は届いて、私の体内に残る毒や痛みを取り除いているのだ。
そして、今、子飼いの妖精憑きどもを恐れさせている。
「ルキエルのことは、一度、きちんとした魔法使いに見てもらったほうがいいかもしれないな」
「それは、ちょっと、やめたほうが。もし、力のある妖精憑きだと知れたら、帝国に囲われることとなってしまう」
「………そうだな」
内心では、ルキエルを帝国に囲わせるということはいい事だと思っていた。しかし、本能の部分で、私はルキエルを取られたくなかったため、オクトの意見を受け入れた。
「お前たち、私から距離をとるのはいいが、逃げるな。わかったか」
『はい!!』
逃げなければいいんだ。子飼いの妖精憑きに逃げられた時、捕縛が面倒臭い。
私が動くと、子飼いの妖精憑きどもは一定の距離を保って動いた。
家臣たちが集まる場所に行けば、妖精を狂わせる香が山盛りだ。
「これで、古い香は全てか?」
「ありますが、それなりに備蓄は必要ですから」
「せっかく帝国から大金が出るんだ。もっと出せ。香の材料は、いくらだって手に入る。帝国は、広すぎて、人が多すぎるから、いなくなっても困らない人はいっぱいだ」
思ったことをそのまま言っただけなのに、家臣たちは私を恐怖の目で見てくる。やっぱり、ルキエルを連れて来なくて正解だな。絶対にルキエルに怯えられる。
妖精を狂わせる香は古くても効果はある。古いから、と廃棄するには物騒であるため、ここで思い切って使うことにした。
家臣たちに指示して、逃亡した妖精憑きが潜伏している山に入って、香を焚かせた。ともかく、たくさんあるのだ。豪勢に使い切ってしまおう。
聖域は山の中腹辺りにあった。
「さすが、聖域だな」
聖域周辺だけ、香が及ばないように、見えない壁があった。ついでに、私とオクトも拒絶されている。
「マクルス様、どうかしましたか?」
「私は中に入れない。一番力の強い妖精憑きを連れて来い。聖域の中を探索させる」
家臣に命じれば、すぐに、右も左もわからなくなった妖精憑き数人が連れて来られた。ここまで濃霧のように香を焚かれたら、妖精憑きもおかしくなるな。
家臣たちと一緒に聖域の勢力内に入れば、妖精憑きはすぐに回復した。家臣たちと聖域の奥へと探索に行った。
「いるんですか?」
疑うように様子を伺うオクト。妖精憑きだからといって、聖域に逃げ込むとは思えなかったのだろう。
「ルキエルが一か月程いなくなった時、聖域で飲まず食わずで過ごしていたそうだ。ただの人では、よくわからない縁があるのかもしれないな」
それなりに体を重ね、仲良くなれば、ルキエルは話してくれた。聖域と妖精憑きは、縁が深いのだ。
しばらくして、家臣たちと妖精憑きたちが戻ってくる。妖精憑きたちは、聖域の勢力圏からは出ない。そこから出れば、妖精憑きたちにとっては拷問だからだ。
家臣たちは普通に出てきた。
「いました。ですが、力が強すぎて、妖精を半数、盗られてしまいました」
「わかった。香の影響がなくなり次第、聖域を妖精憑きで囲ませろ。力が強いといっても、筆頭魔法使いになるほどの実力ではないだろう。物量で押そう。一度、退避しろ。妖精憑きどもも出てこい」
「い、いやです!!」
「ここで、見張りをします!!」
「何をバカなことを言ってる。見張りなんて必要ない。香がここまで焚き込まれているんだ。並の妖精憑きは、まず、ここから出られない。だいたい、妖精を盗られたお前たちは役立たずだ。ここを出て、待機だ、待てだ」
「そ、そんなぁ」
半泣きの子飼いの妖精憑きどもは、私が入れないと思って、距離をとって、聖域の勢力圏に留まろうとする。
「クソガキが」
私は聖域に逆らうようにして、勢力圏に入り、子飼いの妖精憑きどもを殴った。
「後でおしおきだ」
「ごめんなさいいいいー---!!!」
「もうしませんん-------!!!」
「煩い。さっさと出ろ!!」
「はいいいいいー-----!!!」
妙な威圧感を聖域から受けながらも、私は子飼いの妖精憑きどもを聖域から離した。
香の中に行けば、子飼いの妖精憑きは途端、役立たずだ。家臣たちに担がれ、山を下ろされることとなった。
「義父上は休んでください。ここの見張りは、僕がします」
「いや、今回は私が先鋒だから、見張りも私がしよう。昨夜はルキエルに随分なことをしたから、体調がいい」
「やはり、ルキエルを囲ったほうが」
「どれほどルキエルが力を尽くしたとしても、私の削られた寿命は戻って来ない。もう、私の寿命は決まっている」
「………」
何事かあると、どうしても、ルキエルを囲う話が出てくるな。私の中では、今更な話だ。
だいたい、ルキエルと出会う前から、私の体は取り返しがつかなくなっていた。今は、ルキエルのお陰で、苦痛から開放されているにすぎない。
「オクトはまだ若いんだ。こんな所に長居するんじゃない。さっさと待機しなさい」
「………無理だけはしないでください」
「相手が妖精憑きであれば、私は負けることはない」
だいたい、並の魔法使いでさえ、私に魔法が届かないのだからな。
香が消えたとしても、しばらく、香の影響は残る。人ではわからない匂いが妖精憑きには脅威なのだ。この匂いだって、ただの人にはよくわからないのだから、いつまで我慢比べをすればいいのやら。
香が消え、煙もすっかりなくなったところで、家臣たちがやってきて、聖域を囲った。
「妖精憑きどもはどうだ」
「あれだけの香なので、まだ、山に入りたがりません」
「さぼってるわけではないだろうな。万が一、さぼっているのなら、後でおしおきだ、と言っておけ」
「わかりました」
妖精憑きは、妙なところでずる賢いからな。このただの人にはわからない匂いを理由にさぼりそうだ。
しかし、厄介なのは、ここからである。なかなか力のある妖精憑きであるため、ただの人を前に出すわけにはいかないのだ。
なのに、私を拒絶するような聖域の奥に引きこもるとは、腹が立つ。
「義父上、少し休みましょう。寝てないじゃないですか」
「さっき仮眠はとった」
「五日も徹夜しておいて、仮眠一回って」
「思ったよりも、香の煙が留まったからな」
かなりの量の香を焚いたため、煙がなかなかなくならなかったのだ。そのため、五日も見張りだ。
ルキエルに随分なことをしたお陰で、体調がいい。ルキエルは酷い状態だったが。
私の脅しが効いたのか、それとも、無理をしてか、子飼いの妖精憑きどもが全速力で走ってやってきた。
しかし、子飼いの妖精憑きども、私からまた距離をとりやがる。
「もう、匂い付けもなくなっただろう!!」
「残ってますよ!!」
「これは、かなりすごいのされたんですね」
「何をすれば、ここまで濃いのが」
顔が赤くなるのをどうにか我慢した。ルキエルと閨事する時は、本当に気を付けよう。今回のは、香ですら打ち消せないほど、すごいものをされてた。
なんとなく察したオクトは、なんともいえない目で私を見てくる。ルキエルと私の閨事の内容は知らないまでも、寝室の惨状は聞いているのだろう。何より、ルキエル、もう一泊することとなった、と報告を受けていた。それで全て、オクトも察したわけである。
「どうにか、中に隠れている妖精憑きを誘き出せないか。外に出れば、私が痛めつけて捕縛する」
最後は暴力だ。
「飲まず食わずですから、もうそろそろ、出てくるでしょう」
「妖精憑きは一か月くらい、飲まず食わずでも生きていける。実際に、そういう妖精憑きをお前たちもよく知っているだろう」
「あ」
「そ、そうですね」
「い、いますね」
家臣ども、意味ありげに私に視線を送りながら頷く。ルキエルだよ、ルキエル!! お前たちも、いやってほど知ってるだろう!!!
ルキエルに関わってから、私の威信はがた落ちだな。溜息しか出て来ない。
子飼いの妖精憑きどもは、誰が入るか、なんて話し合っている。数人でやられたんだから、全員で特攻すればいいだろうに。
「義父上は、やっぱり、入るのは辛いですか?」
「拒絶感がすごいからな。オクトも無理だろう」
「無理ですね。近づくだけで、物凄い冷や汗ですよ」
オクトは何度か試したのだろう。恐怖を感じている。
私とオクトは、聖域にとっては毒のようなものだ。妖精を狂わせる香を体内に取り込んでいるのだから、そういう扱いなんだ。
私は、もうそれなりに経験を積んでいるから、こういう恐怖には鈍感にはなっている。だから、ちょっと足を踏み入れることは出来るのだ。
しかし、最奥の聖域のご本体は無理だな。
「かといって、一か月、兵糧攻めにして、出てくるのを待つのはなんともな」
こういう可能性を見越しての一か月である。妖精憑きを追い詰め、私の体質で無理矢理、暴力で抑え込んでしまえば、それでおしまいなのだ。簡単なんだ。
「仕方ない。私がもう一度、特攻するか。拘束具を寄越せ」
「義父上、そんな無理をしては」
「正確には、一週間、寝てないんだ。ゆっくりとベッドで寝たい」
妖精封じの拘束具を受け取り、私は聖域の勢力圏内に入った。
ところが、香を焚いていた時には、あれほどの拒絶感があったというのに、今はない。それどころか、何かに包まれているような感じだ。
「これは………」
よく、感じているものだ。いつものこととなってしまったから、すっかり、それは普通だと感じていたんだ。
私はその包まれた感じに、笑ってしまう。
「本当に、勘違いしてしまう」
知らず知らずのうちに、私のほうが囲われていたわけだ。
奥へと進んでいけば、綺麗な男が私を怯えたように見ていた。
「く、来るな!?」
「だったら、大人しく捕縛されろ」
「煩い!! 私は、そこら辺の妖精憑きと一緒にするな。私こそ、筆頭魔法使いになれる妖精憑きだ!!!」
「………その程度でか」
笑ってしまう。この程度の妖精憑きが、筆頭魔法使いになれるわけがないだろう。
「私は賢者テラスと会うこともある。言ってはなんだが、テラスに比べると、貴様はカスだな!!」
笑い飛ばしてやった。本当に、身の程もわかっていないな。
妖精憑きは自尊心がバカみたいに高い。だから、自らこそ頂点と思うのだ。
「妖精憑きでもない貴様に、何がわかるというんだ!?」
「そうだな。見えたり聞こえたり感じたりしない。しかし、命のやり取りをした経験が多い分、危険に対しては敏感だ。テラスは、近づくだけで、命の危険を感じた。しかし、貴様からは、何も感じないな」
「まさか、貴様、その匂い付けはテラス様か!?」
「んわけあるか!!!」
私は怒りに任せて、妖精憑きを殴り飛ばした。
「そんな恐ろしいこと、口にするんじゃない」
あっけなく意識を失った妖精憑きの頭を踏みつけてやる。本当に、口にしていいことじゃないぞ、それだけは!!
意識もなくなったから、私は妖精封じの拘束具をつけてやる。かなり力があるという話なので、両腕両足は必須だな。ついでに、鎖をつけて、引きずってやった。もう、いい年齢で肉体労働はやりたくないな。
捕縛した妖精憑きを引きずって聖域を出れば、全員、呆然としている。
「義父上、大丈夫ですか!?」
心配してくれたのは、養子オクトだけか。まあ、家臣は、私とオクトが感じる聖域からの拒絶感がわからないから、仕方がない。
それよりも、子飼いの妖精憑きどもが、私のことを化け物のように見てくる。私はいつものように、作った体質を利用して、妖精憑きを殴り倒しただけだというのにな!!
「お前たち、黙って見てないで、妖精を盗れ」
『は、はい!!』
言われて、やっと、子飼いの妖精憑きどもは役割を思い出した。妖精封じをしたって、妖精を憑けたままだと、一歩間違えると、暴走させることとなる。そうなる危険を回避するために、わざわざ子飼いの妖精憑きを総動員したのである。
やはり、物量では、捕獲した妖精憑きは勝てなかった。呆気なく、妖精全てを盗られて、捕獲した妖精憑きは無力化されたのだった。
妖精憑きの捕獲の報告をすれば、すぐに回収が来た。
「お久しぶりです、テラス様」
よりによって、話題に出しちゃった賢者テラスだよ!! もっと下っ端でいいと思うよ、こういう回収は。
相変わらずの威圧感だ。テラスにだけは逆らっちゃいけないな。そういうものを再認識して、盗った妖精もテラスが連れてきた魔法使いに譲渡させた。
テラスは私を見て、驚いているが、すぐにニヤニヤと笑って見てきた。気まずい。
「お気に入りの妖精憑きがいるのですね。そこまで囲われるとは。今度、見せてください」
「お断りします」
「そうでしょうね。そこまでする仲なのですから、見せたくないでしょうね。いいですよ、見逃します。妖精憑き同士の約束事ですからね」
「ありがとうございます」
首の皮一枚で繋がった感じだ。もう、怖い怖い!!
頭を上げて見れば、テラスは私を羨ましそうに見た。
「テラス様?」
「そこまで匂い付けした妖精憑きのこと、大事にしてあげてください」
「そうですね」
それについては、私も心底、同意だった。
前線に立つのは私だが、今後のために連れてきたオクトは、側近セコンと並んでついてきている。皆、いい馬だから、早い早い。
現地集合ではあるが、子飼いの妖精憑きどもは、前日から荷馬車で移動させられていた。数時間で移動して到着してみれば、子飼いの妖精憑きどもは好き勝手していた。
それも、私が到着すれば、それなりにきちんと姿勢よくするのだ。
ところが、今日はそうではない。何故か、馬から降りる私をじろじろと見ている。そして、私から距離をとろうとする。
「いくら私が怖いからと、そんなに離れるんじゃない」
いつもの通りに話せば、すぐに姿勢よくする子飼いの妖精憑き。だが、私が近づくと、後ろにゆっくりと下がるのだ。
「貴様ら、逃げるつもりか!?」
「ち、違います!!」
「これ以上、側に寄らないで!!」
「無理無理無理!!」
半泣きして、私から距離をとる子飼いの妖精憑きども。
「一体、どうしたんだ、お前たち」
オクトは普通に近づいても妖精憑きどもは逃げない。だけど、私に対して、何か感じている。
オクトは妖精憑きたちから事情を聞いて、苦笑して、戻ってきた。
「ルキエルのせいですよ」
「………ああ、そういうことか」
昨夜から早朝にかけて、私は随分とルキエルを可愛がった。そこで、私はルキエルに匂い付けされたのだろう。
いつもだったら、香を吸引してから行動するのだが、今日は寝てないし、馬での移動だから、危ないので、香を吸引しなかったのだ。お陰で、随分と体調がいい。
しかし、そのため、昨夜、ルキエルによって散々された匂い付けがそのまま残ったわけである。
「ルキエル、そこまですごい妖精憑きではないと思うんだが」
「そういうのは、妖精憑き同士でしかわからないことでしょう。それ以前に、義父上と僕には、魔法が届きませんからね」
「そうだな」
私とオクトは、妖精憑きの天敵だ。何せ、妖精の魔法が届かないのだ。結果、私とオクトは、そこら辺の妖精憑きは怖くないのだ。
ただ、腑に落ちない部分をルキエルには感じる。魔法が届かない、ということは、私への癒しの魔法は効果がないはずなのだ。
妖精の万能薬でさえ、私のダメになった臓器を癒すことが出来なかった。それほど、妖精の力を阻害するものを私は体内に入れているのだ。それなのに、ルキエルのよくわからない魔法は届いて、私の体内に残る毒や痛みを取り除いているのだ。
そして、今、子飼いの妖精憑きどもを恐れさせている。
「ルキエルのことは、一度、きちんとした魔法使いに見てもらったほうがいいかもしれないな」
「それは、ちょっと、やめたほうが。もし、力のある妖精憑きだと知れたら、帝国に囲われることとなってしまう」
「………そうだな」
内心では、ルキエルを帝国に囲わせるということはいい事だと思っていた。しかし、本能の部分で、私はルキエルを取られたくなかったため、オクトの意見を受け入れた。
「お前たち、私から距離をとるのはいいが、逃げるな。わかったか」
『はい!!』
逃げなければいいんだ。子飼いの妖精憑きに逃げられた時、捕縛が面倒臭い。
私が動くと、子飼いの妖精憑きどもは一定の距離を保って動いた。
家臣たちが集まる場所に行けば、妖精を狂わせる香が山盛りだ。
「これで、古い香は全てか?」
「ありますが、それなりに備蓄は必要ですから」
「せっかく帝国から大金が出るんだ。もっと出せ。香の材料は、いくらだって手に入る。帝国は、広すぎて、人が多すぎるから、いなくなっても困らない人はいっぱいだ」
思ったことをそのまま言っただけなのに、家臣たちは私を恐怖の目で見てくる。やっぱり、ルキエルを連れて来なくて正解だな。絶対にルキエルに怯えられる。
妖精を狂わせる香は古くても効果はある。古いから、と廃棄するには物騒であるため、ここで思い切って使うことにした。
家臣たちに指示して、逃亡した妖精憑きが潜伏している山に入って、香を焚かせた。ともかく、たくさんあるのだ。豪勢に使い切ってしまおう。
聖域は山の中腹辺りにあった。
「さすが、聖域だな」
聖域周辺だけ、香が及ばないように、見えない壁があった。ついでに、私とオクトも拒絶されている。
「マクルス様、どうかしましたか?」
「私は中に入れない。一番力の強い妖精憑きを連れて来い。聖域の中を探索させる」
家臣に命じれば、すぐに、右も左もわからなくなった妖精憑き数人が連れて来られた。ここまで濃霧のように香を焚かれたら、妖精憑きもおかしくなるな。
家臣たちと一緒に聖域の勢力内に入れば、妖精憑きはすぐに回復した。家臣たちと聖域の奥へと探索に行った。
「いるんですか?」
疑うように様子を伺うオクト。妖精憑きだからといって、聖域に逃げ込むとは思えなかったのだろう。
「ルキエルが一か月程いなくなった時、聖域で飲まず食わずで過ごしていたそうだ。ただの人では、よくわからない縁があるのかもしれないな」
それなりに体を重ね、仲良くなれば、ルキエルは話してくれた。聖域と妖精憑きは、縁が深いのだ。
しばらくして、家臣たちと妖精憑きたちが戻ってくる。妖精憑きたちは、聖域の勢力圏からは出ない。そこから出れば、妖精憑きたちにとっては拷問だからだ。
家臣たちは普通に出てきた。
「いました。ですが、力が強すぎて、妖精を半数、盗られてしまいました」
「わかった。香の影響がなくなり次第、聖域を妖精憑きで囲ませろ。力が強いといっても、筆頭魔法使いになるほどの実力ではないだろう。物量で押そう。一度、退避しろ。妖精憑きどもも出てこい」
「い、いやです!!」
「ここで、見張りをします!!」
「何をバカなことを言ってる。見張りなんて必要ない。香がここまで焚き込まれているんだ。並の妖精憑きは、まず、ここから出られない。だいたい、妖精を盗られたお前たちは役立たずだ。ここを出て、待機だ、待てだ」
「そ、そんなぁ」
半泣きの子飼いの妖精憑きどもは、私が入れないと思って、距離をとって、聖域の勢力圏に留まろうとする。
「クソガキが」
私は聖域に逆らうようにして、勢力圏に入り、子飼いの妖精憑きどもを殴った。
「後でおしおきだ」
「ごめんなさいいいいー---!!!」
「もうしませんん-------!!!」
「煩い。さっさと出ろ!!」
「はいいいいいー-----!!!」
妙な威圧感を聖域から受けながらも、私は子飼いの妖精憑きどもを聖域から離した。
香の中に行けば、子飼いの妖精憑きは途端、役立たずだ。家臣たちに担がれ、山を下ろされることとなった。
「義父上は休んでください。ここの見張りは、僕がします」
「いや、今回は私が先鋒だから、見張りも私がしよう。昨夜はルキエルに随分なことをしたから、体調がいい」
「やはり、ルキエルを囲ったほうが」
「どれほどルキエルが力を尽くしたとしても、私の削られた寿命は戻って来ない。もう、私の寿命は決まっている」
「………」
何事かあると、どうしても、ルキエルを囲う話が出てくるな。私の中では、今更な話だ。
だいたい、ルキエルと出会う前から、私の体は取り返しがつかなくなっていた。今は、ルキエルのお陰で、苦痛から開放されているにすぎない。
「オクトはまだ若いんだ。こんな所に長居するんじゃない。さっさと待機しなさい」
「………無理だけはしないでください」
「相手が妖精憑きであれば、私は負けることはない」
だいたい、並の魔法使いでさえ、私に魔法が届かないのだからな。
香が消えたとしても、しばらく、香の影響は残る。人ではわからない匂いが妖精憑きには脅威なのだ。この匂いだって、ただの人にはよくわからないのだから、いつまで我慢比べをすればいいのやら。
香が消え、煙もすっかりなくなったところで、家臣たちがやってきて、聖域を囲った。
「妖精憑きどもはどうだ」
「あれだけの香なので、まだ、山に入りたがりません」
「さぼってるわけではないだろうな。万が一、さぼっているのなら、後でおしおきだ、と言っておけ」
「わかりました」
妖精憑きは、妙なところでずる賢いからな。このただの人にはわからない匂いを理由にさぼりそうだ。
しかし、厄介なのは、ここからである。なかなか力のある妖精憑きであるため、ただの人を前に出すわけにはいかないのだ。
なのに、私を拒絶するような聖域の奥に引きこもるとは、腹が立つ。
「義父上、少し休みましょう。寝てないじゃないですか」
「さっき仮眠はとった」
「五日も徹夜しておいて、仮眠一回って」
「思ったよりも、香の煙が留まったからな」
かなりの量の香を焚いたため、煙がなかなかなくならなかったのだ。そのため、五日も見張りだ。
ルキエルに随分なことをしたお陰で、体調がいい。ルキエルは酷い状態だったが。
私の脅しが効いたのか、それとも、無理をしてか、子飼いの妖精憑きどもが全速力で走ってやってきた。
しかし、子飼いの妖精憑きども、私からまた距離をとりやがる。
「もう、匂い付けもなくなっただろう!!」
「残ってますよ!!」
「これは、かなりすごいのされたんですね」
「何をすれば、ここまで濃いのが」
顔が赤くなるのをどうにか我慢した。ルキエルと閨事する時は、本当に気を付けよう。今回のは、香ですら打ち消せないほど、すごいものをされてた。
なんとなく察したオクトは、なんともいえない目で私を見てくる。ルキエルと私の閨事の内容は知らないまでも、寝室の惨状は聞いているのだろう。何より、ルキエル、もう一泊することとなった、と報告を受けていた。それで全て、オクトも察したわけである。
「どうにか、中に隠れている妖精憑きを誘き出せないか。外に出れば、私が痛めつけて捕縛する」
最後は暴力だ。
「飲まず食わずですから、もうそろそろ、出てくるでしょう」
「妖精憑きは一か月くらい、飲まず食わずでも生きていける。実際に、そういう妖精憑きをお前たちもよく知っているだろう」
「あ」
「そ、そうですね」
「い、いますね」
家臣ども、意味ありげに私に視線を送りながら頷く。ルキエルだよ、ルキエル!! お前たちも、いやってほど知ってるだろう!!!
ルキエルに関わってから、私の威信はがた落ちだな。溜息しか出て来ない。
子飼いの妖精憑きどもは、誰が入るか、なんて話し合っている。数人でやられたんだから、全員で特攻すればいいだろうに。
「義父上は、やっぱり、入るのは辛いですか?」
「拒絶感がすごいからな。オクトも無理だろう」
「無理ですね。近づくだけで、物凄い冷や汗ですよ」
オクトは何度か試したのだろう。恐怖を感じている。
私とオクトは、聖域にとっては毒のようなものだ。妖精を狂わせる香を体内に取り込んでいるのだから、そういう扱いなんだ。
私は、もうそれなりに経験を積んでいるから、こういう恐怖には鈍感にはなっている。だから、ちょっと足を踏み入れることは出来るのだ。
しかし、最奥の聖域のご本体は無理だな。
「かといって、一か月、兵糧攻めにして、出てくるのを待つのはなんともな」
こういう可能性を見越しての一か月である。妖精憑きを追い詰め、私の体質で無理矢理、暴力で抑え込んでしまえば、それでおしまいなのだ。簡単なんだ。
「仕方ない。私がもう一度、特攻するか。拘束具を寄越せ」
「義父上、そんな無理をしては」
「正確には、一週間、寝てないんだ。ゆっくりとベッドで寝たい」
妖精封じの拘束具を受け取り、私は聖域の勢力圏内に入った。
ところが、香を焚いていた時には、あれほどの拒絶感があったというのに、今はない。それどころか、何かに包まれているような感じだ。
「これは………」
よく、感じているものだ。いつものこととなってしまったから、すっかり、それは普通だと感じていたんだ。
私はその包まれた感じに、笑ってしまう。
「本当に、勘違いしてしまう」
知らず知らずのうちに、私のほうが囲われていたわけだ。
奥へと進んでいけば、綺麗な男が私を怯えたように見ていた。
「く、来るな!?」
「だったら、大人しく捕縛されろ」
「煩い!! 私は、そこら辺の妖精憑きと一緒にするな。私こそ、筆頭魔法使いになれる妖精憑きだ!!!」
「………その程度でか」
笑ってしまう。この程度の妖精憑きが、筆頭魔法使いになれるわけがないだろう。
「私は賢者テラスと会うこともある。言ってはなんだが、テラスに比べると、貴様はカスだな!!」
笑い飛ばしてやった。本当に、身の程もわかっていないな。
妖精憑きは自尊心がバカみたいに高い。だから、自らこそ頂点と思うのだ。
「妖精憑きでもない貴様に、何がわかるというんだ!?」
「そうだな。見えたり聞こえたり感じたりしない。しかし、命のやり取りをした経験が多い分、危険に対しては敏感だ。テラスは、近づくだけで、命の危険を感じた。しかし、貴様からは、何も感じないな」
「まさか、貴様、その匂い付けはテラス様か!?」
「んわけあるか!!!」
私は怒りに任せて、妖精憑きを殴り飛ばした。
「そんな恐ろしいこと、口にするんじゃない」
あっけなく意識を失った妖精憑きの頭を踏みつけてやる。本当に、口にしていいことじゃないぞ、それだけは!!
意識もなくなったから、私は妖精封じの拘束具をつけてやる。かなり力があるという話なので、両腕両足は必須だな。ついでに、鎖をつけて、引きずってやった。もう、いい年齢で肉体労働はやりたくないな。
捕縛した妖精憑きを引きずって聖域を出れば、全員、呆然としている。
「義父上、大丈夫ですか!?」
心配してくれたのは、養子オクトだけか。まあ、家臣は、私とオクトが感じる聖域からの拒絶感がわからないから、仕方がない。
それよりも、子飼いの妖精憑きどもが、私のことを化け物のように見てくる。私はいつものように、作った体質を利用して、妖精憑きを殴り倒しただけだというのにな!!
「お前たち、黙って見てないで、妖精を盗れ」
『は、はい!!』
言われて、やっと、子飼いの妖精憑きどもは役割を思い出した。妖精封じをしたって、妖精を憑けたままだと、一歩間違えると、暴走させることとなる。そうなる危険を回避するために、わざわざ子飼いの妖精憑きを総動員したのである。
やはり、物量では、捕獲した妖精憑きは勝てなかった。呆気なく、妖精全てを盗られて、捕獲した妖精憑きは無力化されたのだった。
妖精憑きの捕獲の報告をすれば、すぐに回収が来た。
「お久しぶりです、テラス様」
よりによって、話題に出しちゃった賢者テラスだよ!! もっと下っ端でいいと思うよ、こういう回収は。
相変わらずの威圧感だ。テラスにだけは逆らっちゃいけないな。そういうものを再認識して、盗った妖精もテラスが連れてきた魔法使いに譲渡させた。
テラスは私を見て、驚いているが、すぐにニヤニヤと笑って見てきた。気まずい。
「お気に入りの妖精憑きがいるのですね。そこまで囲われるとは。今度、見せてください」
「お断りします」
「そうでしょうね。そこまでする仲なのですから、見せたくないでしょうね。いいですよ、見逃します。妖精憑き同士の約束事ですからね」
「ありがとうございます」
首の皮一枚で繋がった感じだ。もう、怖い怖い!!
頭を上げて見れば、テラスは私を羨ましそうに見た。
「テラス様?」
「そこまで匂い付けした妖精憑きのこと、大事にしてあげてください」
「そうですね」
それについては、私も心底、同意だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜
珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。
2匹の怪獣さんの母です。12歳の娘と6歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。
毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる