魔法使いの悪友

shishamo346

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嫉妬と衝動

骨休みの前の準備

 後始末をして、十日で終了だった。見張りで半分、時間をとられただけだ。帰ってゆっくりしたい気分だが、その前に、王都の聖域に行った。
 いつもとは違い、馬で直接行けば、ルキエルに驚かれた。
「あんた、一か月は来ないって」
「予定だ。十日で終わったんだ。もう、暇で大変だった」
「暇で大変って、おかしいだろう」
 馬から降りれば、ルキエルは私の体を触ってきた。香を随分と吸い込んだから、ルキエルも何か感じたのだろう。
「アルロは?」
「親父なら、貧民街のほうに行ってる。仕事受けないから、見回りするんだって」
「あいつも豆だな」
 じっとしてられないのだろう。
 本来、貧民街の支配者は、仕事を請け負ったりしない。ただ、貧民を支配するだけだ。
 しかし、アルロは、ただ貧民を支配しているわけではない。貧民を軍隊のように鍛え、後ろ暗い仕事をするのだ。お陰で、随分と風通しがいい貧民街となった。
「また、随分と、あの匂いをさせてきたな」
「五日間くらい、その中にいたからな。風呂にも入ったが、とれてないのか」
「ま、まあ、ちょっと気になるくらい?」
「………そうか」
 一応、子飼いの妖精憑きに、香の匂いの確認までして、王都に戻ってきたのだ。それでもルキエルが気になるということは、私の体内に、何か影響が出ているのだろう。
 移動疲れもあるから、私は適当な所に腰を下ろした。
「そんなところに座らなくても、中に入って休めよ。俺の部屋で横になったほうがいいって」
「わかったわかった」
 こうして会えたことが嬉しくて、私は引っ張られるままにルキエルの私室に連れ込まれた。
「あー、どうしているのよ!!」
「死んでなかったか」
 ルキエルの末の妹レーリエットと、ルキエルが拾って育てた貧民ナナキが、ルキエルのベッドの上でゴロゴロと転がっていた。
 私はそれで現実を見た。そうだよな、そんな簡単に、ルキエルとベタベタできるわけがないよな。
「お前ら、どけ。ほら、ここで横になって寝たほうがいい」
「いや、しかし、寝心地が」
「あんたが使ってるベッドより、いいのだぞ」
「いくらなんでも」
 横になってみれば、確かにそうだった。
 寝心地が全く違う。ルキエルが使っているベッドのほうが、寝心地がはるかにいいのだ。
「こんないいベッドでは、我が家のベッドは、寝辛かったんじゃないか?」
「別に、そういうことは感じたことがない。ただ、まあ、どこで寝ても、一人寝は出来ないだけだ」
「そういうことか」
 ルキエルの私室にレーリエットとナナキがいたのは、添い寝していたわけだ。
 私は本当に邪魔者なんだろうな。レーリエットとナナキは、私を睨んできた。容赦ないな、この二人は。
「ナナキ、親父、呼んできて。レーリエットは出ていけ。何かあったら大変だ」
「何かあるのは、お兄ちゃんでしょう!!」
「そうですよ!! この男が手を出すのは、ルキエル様です!!!」
「疲れてるんだから、そんなこと出来ないって。ほら、出て」
 ルキエルが押し出せば、レーリエットとナナキは大人しく従った。力ではナナキ、勝てるというのに、ルキエルには従順だな。
 二人っきりになると、ルキエルは横になっている私の上に圧し掛かって、上から口づけしてきた。
「俺が手を出すんだけど」
「やめなさい。アルロに見られたら、私が殺される」
「そんなドジはしない」
 ルキエル、妖精使って、見張りをさせているのだろう。平然として、私に深く口づけする。そうして、私の唾液を飲み込み、誤魔化しながら、私の体内に溜まった毒を抜き出しているのだろう。
 この事実、アルロにも言っている。だから、アルロは、伯爵家でのルキエルの外泊を許可するようになったのだ。突然の外泊でも、アルロはもう怒らない。
 しかし、ここはアルロの支配域だ。こんな所に、ルキエルは圧し掛かってくるとは、本当に性悪すぎだ。それでも、私は拒否出来ない。嬉しいから、ルキエルの口づけを受け入れ、もっとと、手をルキエルの頭に回した。
 だが、これからという所で、ルキエルは私から離れた。それと同時に、アルロがルキエルの私室に入ってきた。
「一か月はかかるという話じゃなかったのか」
 私とルキエルの間に流れる微妙な空気に気づかないふりをして、アルロは違う方面で文句を言ってきた。
「思ったよりも、はやく妖精憑きの居場所がわかったんだ。お陰で、周囲を囲って、捕縛だ」
「一か月と、何故言った?」
「兵糧攻めも考えてだ。妖精憑きは、一か月飲まず食わずでも生きていられるが、それ以上はさすがに無理だ。だから、一か月だ」
「そういうことか。それで、今日は帰って早々、仕事の依頼か?」
 一か月暇にしていればいいというのに、アルロは仕事を要求してくるよ。お前が鍛えた貧民たちは、休み欲しがっているって、知ってるか?
 私が一か月不在ということで、貧民街のほうが大喜びしていたのを聞いている。こき使い過ぎだ、アルロ。今頃、私が戻ってきたと聞いて、貧民どもは絶望しているだろう。
「そうじゃない。ほら、仕事も無事、終わったことだし、皇族所有の保養所を使わせてもらえることとなった。それの招待だ。子どもたち、王都の外に出たこともないだろう」
「そんな、皇族所有なんて所、貧民が使っていいのか?」
「貸し切りだ、貸し切り。ついでに、我が家の使用人たちや家臣たちも連れて行って、骨休めだ。人がちょっと増えたって、問題ない」
 元々、そういう話だ。使用人たちや家臣たち、ついでに子飼いの妖精憑きどもを休ませるために、皇族所有の保養所を使う許可を貰ったのだ。
「現地では、身の回りは自分たちだがな。食事は、まあ、交代で作ってもらうこととなっている。かかる費用は帝国持ちだ」
 悪い話ではないのだ。むしろ、いい話である。
 ルキエルはアルロの顔色を見た。アルロはずっと、ルキエルをこの家から離さないようにしていた。表向きは、亡きサツキの身代わりだ。実際は、妖精憑きであるルキエルを不埒な者たちに奪われないためである。妖精憑きであるルキエルを支配者の娼夫に貶めることで、そういう悪意から守ったのだ。
 だが、いつまでも守ってばかりではいられないだろう。ルキエルは外に出さないといけない。いつかは、外に出るんだ。
 私が考えていること、言いたいことは、散々、アルロに伝えた。だから、今更、口にしなくても、アルロはわかっている。
「行きたいなら、好きにしろ」
「親父、いいのか? 本当に、いいのか?」
「変な所に行くんじゃないぞ。一人になるな。いいな」
「わかったわかった」
 ルキエルは笑顔でアルロに抱きついた。なんだ、ルキエル、行きたかったんだな。
 喜んでいるルキエルを見て、私も嬉しくなる。体のほうも、ルキエルのお陰で、随分と回復したから、ベッドから起きた。
「あ、もうちょっと休んで行けよ」
「屋敷でやることがあるから、帰る。日付は後で知らせる。アルロ、一か月、きっかり休むんだぞ」
「わかったわかった」
 面倒臭そうに返事をして、アルロは部屋を出て行った。
「なあ、準備する物ってある? 俺、こういうこと、初めてだ!」
 アルロがいなくなると、また、ルキエルは近くなる。私の膝に座って、背中を私の胸に預けて、と甘えてくる。
「必要なものは、金で解決だ。そのままで行けばいい」
「レーリエットとナナキも一緒でいいんだよな?」
「お前の兄弟姉妹、全て連れて行く」
「あんた、すげぇな。貴族って、すげぇな」
「………貴族になるか?」
「面倒臭そうだからいいや」
 ちょっと誘惑してやるが、ルキエルはあっさりと拒絶する。それでも、私から離れない。こうして体をくっつけて、私の体内から悪い物を取り除いているのだ。
 ただ、甘えているように思っていた。妙に懐かれたな、程度だ。だが、実際は、医療行為だ。
 ルキエルは私の胸に顔を埋めてきた。
「俺の匂い、随分と薄くなったな。あんなに中まで匂い付けしたってのに」
「香の中に五日間もいたのに消えていないほうが驚きだ。いつもはすぐに消えていたのだろう」
「いつもは、表面だけだから、すぐ消えた」
「子飼いの妖精憑きどもは近寄ってこなかったぞ」
「あんたの子飼いの妖精憑き、俺より弱いんだな。けど、強い妖精憑きには、これ、効果ないからな」
「妖精憑き同士には決まり事があるという話だ。こうやって匂い付けしている人には手を出してはいけないとか。だから、心配ない」
「そうなんだ」
 まだ、ルキエルの情緒は不安定だ。一体、どうして、こうなったのかわからない。
 これはこれで嬉しいのだ。しかし、突然、元に戻った時、対応に困る。ルキエルは、妖精の影響が強いのか、ともかく気まぐれだ。
 私の体を堪能して、満足したのか、やっとルキエルは離れた。
「今日はさすがに、あんたの屋敷に行けないな」
「今日は馬だからな。それとも、後ろに乗るか?」
「目立つだろう。ほら、香の匂いもとれた。顔色もいいな。手も暖かい」
 一つ一つルキエルは嬉しそうに笑って確認する。そこに、特別なものを感じた。
「ルキエル」
「何?」
「………最後まで、付き合ってやる」
「?」
 私はルキエルの手を強く握って言ってやるが、ルキエルは意味を理解していない。
 通じなくていいんだ。私はただ、言いたかった。ルキエルが間違ったことをしても、最後まで、私だけはルキエルに付き合ってやる。これは、私自身の決意だ。




 行くと決まっても、そう簡単には準備は終わらない。何せ、大人数が動くのだ。移動手段も必要となってくる。さすがに、徒歩というわけにはいかないのだ。
 そういう準備をさせている間に、皇族ルイに一度、会うこととなった。
 もう、恒例となっている妖精の万能薬をルイは私の前に置いた。
「聞いたよ。香の中に五日もいたって。そんな無茶なことするから………顔色いいな」
 ルイは叱ってやろうとしたのだが、私の顔色がいいので、首を傾げた。
「もう、薬を飲むのはやめる」
「また、甘いからって、我儘いわないの。これは、マクルスのためなんだから。テラスから聞いたよ。内臓はもう無茶苦茶になってるって」
「今更だ。私はルイに出会う前から、ずっと香の吸引をしていた。妖精の万能薬を飲んでも無駄なんだ。それに、これのせいで、最近は、色々と面倒だ」
 ルキエルに、別の妖精憑きから体の回復をされている、と疑われている。そう思うと、妖精の万能薬を飲むのは、絶対はまずい。
 この後、皇族の保養所に移動である。妖精の万能薬を飲んでルキエルに会えば、読めない行動を起こされる。
 ただでさえ、普段から、ルキエルは行動が読めない。妖精の影響が強いとか、そういうのじゃない。ルキエルは人を振り回す才能があるのだ。それを私にだけ発揮するだけならいいが、今回は人が多いから、とんでもないこととなる。
 だから、私は妖精の万能薬を押し返した。
「ともかく、今回は飲まない。体調もいいし、しばらくはいらない」
「テラスから聞いた。マクルスを特別視している妖精憑きがいるんだって」
「っ!?」
 やはり、テラス、ルイに話したのか!? ルイ相手には、私は表情を繕えない。もう、互いのことを晒しあっているから、隠し事一つ出来ないのだ。
 私は顔が紅潮するのを自覚する。それを見て、ルイはニヤニヤと笑った。
「どんな女性だ? ぜひ、紹介してくれ」
「………」
 そして、すぐに落ち着いた。そうだよな、普通は相手、女だと思うよな。ルイの反応は普通なんだ。
 私の過去は、女遊びで悪評を振り撒いた。普通なら、私の相手は女だと思う。まさか、相手が男だなんて、誰も想像すらしないよな。
 私が途端、冷静になるから、ルイは訝しむ。
「もしかして、かなり子どもとか!?」
「違う!!」
「そ、そうだよな。マクルスがこれまで浮名を流した相手は、まあまあの年齢だからな。歳の差があるといっても、それなりの年齢だろうな。いや、しかし、妖精憑きが相手だから、そういうのは、意味がないな」
「紹介はしない。だいたい、万が一にも、実力があると知れたら、取り上げられてしまうではないか」
「相思相愛というわけか」
「違う」
 また、顔が紅潮するが、否定はしておく。そういうわけではないからな。
 私はルキエルのことを特別と見ている。何もかも捧げたい。だが、ルキエルはそうではない。
 思い出すのは、今は亡き伯爵令嬢サツキだ。復讐のために全てを捧げたサツキ。後から知れば、自らの命すら捧げるほどの執念である。たまたま、貧民となったアルロが保護したから、サツキは五人もの子を持てるほど生きた。しかし、アルロが保護しなかったら、サツキは復讐にどこまで身を捧げたか、想像するだけでぞっとする。
 ルキエルは今、自らの復讐のために、周りを魅了し、その体躯を使って、アルロを動かしている。その復讐心は、無意識とはいえ、私をも動かしている。
 ルイは私の気持ちを甘酸っぱいものと見ている。ルイは皇族であるゆえに、婚姻は絶対だ。その血筋を残すことこそ、皇族の役目なのだ。皇族の血筋は、最強の妖精憑きを縛るための契約紋を支配している。その血筋を残すので、えり好みなんて出来ない。
 私はルイの伴侶を紹介されたことはない。それ以前に、いつの間にか、婚姻して、子までいるという報告を後から聞いた。それも、私が「最近はどうだ?」という世間話で、聞いての報告である。だから、私が養子を迎えた時も、世間話だ。
 だから、気になった。
「ルイは、サツキのこと、本当はどう思っていた?」
 私は思い切って聞いてみた。この質問、何度もしたのだが、ルイは上手にはぐらかしてくれた。
「そんな質問、今更だろう」
 やっぱり、答えてもらえない。
 しかし、今回はそれを許すつもりはない。私は妖精の万能薬を一本、手にする。
「これを飲むから、正直に答えてほしい。私は、自覚がなかったが、サツキのことは、特別に見ていたし、死んだ後も引きずった」
「ああっ!?」
 一方的な条件である。ルイは叫ぶが、私はさっさと一本、飲み干した。飲んだ後で、意味もなく、体がかっと熱くなる。まるで、ルキエルの唾液を飲んでいるようだ。もう、私はどうしようもないな。
 私が一方的に言った条件である。しかし、私がサツキへの想いを認めたので、ルイは呆れた。
「そんなこと、言われなくたって知ってるよ!! 皇族相手に、命令みたいなお願いまでしてきたからね」
「サツキのこと、何も感じなかったのか? あんなにサツキに協力して」
「そういう気持ちを持つ前に諦めた。僕は、色々と知り過ぎてしまった。サツキに出会ってしばらくして、サツキの背景を知ってしまったんだ。サツキは、本当に恐ろしい女だ。復讐のために情念を燃やし、関わる者全てを不幸にする、天災だ。利用できる、と接してみれば、逆に利用された。今も、サツキに利用されているようなものだ」
 全てを諦めたように笑うルイ。
「サツキは死んだんだ。もう、ルイは手を引いたっていいんだ。もう、サツキを傷つけた者たちは不幸になり、死よりも恐ろしい目にあった。もう、十分だ」
 皇族の協力があったから、サツキの復讐は帝国中を巻き込むほどとなった。私がちょっと横やりをしたからといって、ここまでサツキの名が広がるようなことはなかった。
 もう、十分、サツキの復讐は成功したようなものだ。サツキを苦しめた者たちは、それ以上の苦痛を受けた。もう、終わったといっていい。
「サツキが夢に出る」
「もう、サツキ関係から手を引け」
 思ったよりも、ルイは重症だ。だから、私はルイに正直に話した。
「私が想いを募らせている妖精憑きは、男だ」
「お、おと、おとこぉおおおー----!!!!」
 いくら防音をしっかりとされている部屋とはいえ、ルイ、大声で叫びすぎだ。しかも、私につかみかかってきた。
「マクルス、人妻とも噂あったよね」
「ああ。夫に決闘申し込まれて、返り討ちにしてやった。だいたい、あの人妻は、夫に嫉妬してもらいたくて、私にわざわざ声をかけてきたんだ」
「成人前の女の子にも手を出したね」
「出したな。相手から言い寄ってきたし、ちょうど良かったから、手を出した。今は彼女も三児の母だ。言っておくが、私の子ではない。私はそんな失敗はしない」
「娼館では、貴族から平民落ちした娼婦に随分と嵌ってたね」
「当時は、サツキは死んでいると思い込んでいたからな。サツキがもしかしたら、と思っていた。そのお陰で、サツキの義妹クラリッサを手に入れたわけだ」
「こわっ」
 今度は私が暗く笑う番だ。本当に、女遊び、ただ、評判を落とすためにやっていたことだが、無駄ではなかったな。
 私もまた、サツキに関わって、どんどんと人が悪くなってきたが、そのお陰で今がある。
 そして、女遊びをした過去が、今、私自身の首を絞めているわけだ。ルキエルは生涯、私のことを信じないだろう。
 私は諦めて、妖精の万能薬をもう一本、飲み干した。

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