魔法使いの悪友

shishamo346

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嫉妬と衝動

本能と情熱の行方

 皇帝ラインハルトの襲撃は失敗し、呆気なく捕縛されるも、私の扱いは良かった。貴族ということもある。皇族ルイが、情けをかけてくれたこともある。
「明日には処刑ですし、ルキエルに会わせてあげます」
 平凡な偽装を外した筆頭魔法使いハガルが、とんでもないことを言って、牢の戸を開ける。
「随分と、いい待遇をしてくれるな」
 この待遇は、筆頭魔法使いハガルの気まぐれだ。帝国に敵対したというのに、貴族用の牢に入れられた。普通なら、こんな待遇はないのだけどな。
「あ、その前に、薬の時間ですね」
「どうせ、明日、処刑なんだから、いらないだろう」
「そうなのですが、気分です、気分。異国の文化に、処刑前には、好きな食事を出すという文化もあるそうですよ。何か食べたいものはありますか?」
「甘くないものをお願いします」
「あなたも、甘さ控えめが好きなのですね」
 一体、誰と比較しているのやら。ハガルはご機嫌に、前を歩く。後ろから攻撃されることなんて、これっぽっちも警戒していない。
 しかし、私は絶対にハガルに攻撃はしない。ここで攻撃しようものなら、一瞬で消滅させられるだろう。
 痛みもなく、一瞬で殺されるのにも、魅力を感じる。もう、私の体はどうしようもないほどとなっている。襲撃失敗で捕縛されるまでは、ルキエルのお陰で、苦痛を取り除かれていた。それがなくなったので、血反吐を吐くほどの苦痛に襲われている。
 ハガルが作ったという妖精の万能薬を毎日、飲んでいるが、ちょっと楽になる程度だ。もう、香の吸引もしていないが、今更である。
 ハガルの後ろを大人しくついていくが、ルキエルの反応が心配になった。明日、処刑とは、さすがにハガルは言わないだろう。しかし、私の体の状態が悪いこと、ルキエルは一目で見破ってしまう。だからといって、会いたい気持ちは強い。
 一度、城を出て、そこから、別館に連れて行かれ、地下へと降りることとなった。てっきり、同じ城にある地下牢に入れられていると思っていた。
 地下に降り立って、少し歩けば、随分と豪勢な作りの地下牢の前でハガルは止まった。二つか三つの独房を一つにされた牢には、普通に生活するような家具が全て揃っている。たぶん、風呂もあるのだろう。そういう外から見えない部分もあった。
 私は鉄格子を握りしめて、ルキエルを探した。
 ルキエルはいた。いつも一人寝は出来ない、と私に訴えていたくせに、ここでは、普通にベッドで眠っていた。
「なんだ、一人で眠れるじゃないか。また、私をからかったのか」
 そう思うしかない。また、ルキエルに振り回されていただけだ。
 ところが、ルキエルは、それまで穏やかな顔をして眠っていたというのに、表情を険しくして、私のほうに手を伸ばした。目を覚まさないが、何かを探している様子に、私は手を伸ばすが、鉄格子で、それ以上、近づけられない。
 諦めようと、手を戻した時、目の前にあった鉄格子が全てなくなった。
 一体、何が起こったのかわからないが、私は中に入って、ルキエルの手を握った。それだけで、私の中の苦痛はすっと消えた。
「これは驚きました。あなたは、妖精憑きの特別なのですね」
「それは、まあ、私は、ルキエルの玩具だからな」
「そうではありません。あなたは、妖精憑きの唯一の特別です。だから、あなたの体は常に、ルキエルの癒しを受けていたのでしょう。あなたからは、ルキエルの息吹を感じます」
「そんなの、知らない」
 まず、ハガルが言っている事が理解出来ない。
 同じようなことを賢者テラスにも言われた。しかし、その時も、私は同じような返事をした。ただの人である私と、妖精憑きの感性は交わることがない。だから、言葉で説明されても、私は理解できない。
「あなたの体、私の力であれば、延命可能でしょう。内臓、それなりに回復出来ますよ」
 明日、処刑だというのに、ハガルは、今、この時に、とんでもない誘惑をしてくる。その見た目だけでも、私は魅了されてしまうというのに、その口から吐き出される言葉に、とんでもない誘惑を感じた。
 だけど、私の手を握るルキエルが、それを許さないように力をこめてきた。ルキエルを見るが、相変わらず、眠ったままだ。
「どうせ、明日、処刑だろう。今更だ」
「ルキエルの特別です。処刑、なしにしてあげてもいいですよ。私があなたの体を癒してあげます。ルキエルだって、あなたが側にいたほうが、喜びます」
 さらに、とんでもないことを言うハガル。
 不思議だ。ハガルは、ルキエルのことを随分と気に入っている。それは、牢を見ただけでわかる。
 私は捕縛されるも、他の襲撃に参加した囚人たちを見に行くことがあった。襲撃犯たちであることを確認するためだ。皆、普通の、何もない、狭い牢屋に閉じ込められていた。
 ルキエルだけだ。ここまで、豪勢な地下牢に閉じ込められているのは。いや、普通、牢屋なんて、こんなふうにしない。
 ハガルとルキエルは、互いの正体を隠している時、それなりに仲良くしていた。ハガルは、お気に入りの平民としてルキエルと遊んでいた。ルキエルは、ハガルから帝国の情報を得ようとしていたが、最後のほうは、ハガルを理由に外出していただけだ。
 そういう、歪な関係であったというのに、ハガルは、ルキエルだけ、特別に見ている。妖精憑きだから、そういうものなんだろう。しかも、ハガルは帝国最強の妖精憑きだ。ハガルがしたいこと、誰も止められない。
 随分な誘惑だ。ハガルのあの美貌で言われてしまえば、誰だって、頷いてしまうだろう。
 しかし、ルキエルがそれを許さない。ただ、妖精の万能薬を飲んで、ちょっと回復しただけで、ルキエルは嫉妬した。ここで、ハガルの力を使って回復したら、ルキエルは私を見捨てるだろう。そういう男だ。特別とか、そういうのは、ルキエルには関係ない。裏切ったら、捨てられる。
「いや、明日、処刑でいい。ルキエルのこと、よろしく頼む」
 これまでの苦痛がなくなると、ルキエルの手は緩んだ。私は名残惜しいが、ルキエルから離れ、牢を出た。
 振り返れば、鉄格子が元に戻っていた。なるほど、ハガルの意思で、この鉄格子の操作までされるのか。さすが、化け物妖精憑きだ。
「せっかく、ルキエルが特別を得られたというのに。きっと、悲しみますよ」
「そういう男じゃない。私が処刑されても、泣いたりしない。最後まで、バカだ、と罵るだけだ」
「テラスは、随分と後悔していました。死に際には、私に話したほどです」
「そうなのか。サツキの子を見て、吹っ切れたようなことを言っていたがな」
「そんなの、ただの強がりですよ。そこら辺の人が死ぬのとは、わけが違います。どんなに尽くしても、後悔は残ります」
「ハガルも経験者というわけか。もう、そういう人がいたのか」
「いました。囲いましたが、道連れにしてくれませんでした。道連れにしてくれても良かったのに」
 子どもみたいに拗ねていうが、内容がとんでもないな。ハガルは、心中したかったのか。
「私はルキエルには生きて、もっと、世界を見てほしい」
 ハガルを残した相手の気持ちはわかる。ハガルも、ルキエルも、まだまだ若い。妖精憑きだから、寿命だってバカみたいに長いだろう。
 これから、ただの人でさえ出来ない経験を妖精憑きは出来るのだ。そんな未来を私の衝動で出来なくするのは、何か違う。
「私はこれから、うんと長く、一人で生きていくというのに? 寂しいではありませんか」
「もっと生きてから言いなさい。私の半分も生きていない。それで、寂しいなんて言うんじゃない。もっと長く生きて、置いていかれてから、寂しいと言いなさい」
「置いて行かれるとわかっているのに?」
「私の死は、ルキエルにとって乗り越えなければならない物の一つでしかない。大したものではない。そう、教えた」
 私は最後まで、ルキエルの復讐に付き合った。ルキエルは、何度も、私に手を退くように言ったが、私は最後まで拒絶した。だから、ルキエルも私の死を覚悟している。
 もう、ルキエルの手を握ることは出来ない。ハガルの気まぐれで、一目見れれば、なんて思っていたが、手まで握れた。人の欲は果てしない。一つ得られると、もっと得られるのではないか、と願ってしまう。
 しかし、ハガルの気まぐれは、そこまでだった。もう、鉄格子が消えることはない。ルキエルも、もう私を求めない。ただ、私の体から苦痛を取り除きたかっただけだ。本当に、最後まで、酷い男だ。
「起こしてあげましょうか。きちんと話したほうが、いい時もあります」
「もう、十分、話した。これ以上は蛇足だ」
 私とルキエルは、十分、別れの言葉も交わした。
 ルキエルは、死ぬつもりだった。こんなふうに、生き残るつもりはなかった。この襲撃、失敗するものと、ルキエルはわかっていた。失敗するとわかっていて、襲撃をアルロを通して強硬させたのは、たくさんの道連れとともに自殺するためだ。
 私は、ルキエルの道連れになるつもりだった。だが、ルキエルはこのまま生きていく。ハガルが、ルキエルを処刑することがないのは、この地下牢を見ればわかる。
 ハガルは、ルキエルのために、私を生かそうとしている。だから、ルキエルを起こして、私と会話させたいのだ。
 しかし、私はハガルの企みに従うつもりはない。さっさと、ルキエルがいる地下牢から離れた。
「ルキエルは、甘いものが好きなんだ。ハチミツが乗ったものも、喜んで食べるほど、好きなんだ」
「それは知りませんでした」
「寝る時は、人肌を恋しがる。抱き枕でもいいから、与えてやってくれ」
「わかりました」
「私が処刑されたことは、ルキエルが聞くまで、話さないでくれ」
「きっと、聞きませんよ。ルキエル、家族のことすら、私に訊ねませんでしたから」
「はははは、本当に、薄情な男だ」
 笑うしかない。私のことも、ルキエルの頭にはない。本当に、本能の部分だけで、私を求めていただけだ。そこに、ルキエルの気持ちはない。
 だから、泣けてきた。完全に、私だけがルキエルを想い、ルキエルに全てを捧げているだけだ。ルキエルはただ、それをよくわからないままに受けているにすぎない。
「ん、誰かいるのか?」
 声を殺して泣いていたから、私がいるなんて、ルキエルは気づいていない。私はルキエルの視界に入らないように、地下牢から離れる。
 ハガルは素知らぬ顔をして、鉄格子を間に、ルキエルの正面に立った。
「なんだ、ハガルか」
「ここに入れるのは、私と使用人くらいですよ」
「そうだよな。おかしいな、あいつがいたような気がしたんだけど。いるはずないよな」
「誰だと思いましたか?」
「俺に付き合って、皇帝襲撃に参加した貴族だよ。ハガル、あいつ、内臓がもういかれてるから、もし、治せるなら、治してやってくれ。俺では出来ないから」
「誰のことですか? 今回は、関係者から、そうでない貴族まで、たくさん、捕縛しましたからね。誰のことか、わかりません」
「マクルスって貴族だよ。俺はやめろって言ったのに、やめなかった。本当に、バカだ」
「私でも、治せないかもしれませんよ」
「治せたらでいいよ。あいつ、俺に付き合って参加しただけだから。軽い刑にしてやってよ。俺が代わりに、全部、受けるから」
「そこは、皇帝判断ですよ。私は、皇帝の犬ですから。口添えはしますけどね」
「ハガル、ありがとう」
 それからは、他愛無い会話をして、ハガルは地下牢から離れた。
 ハガルは、声を殺して泣く私の横で立ち止まる。
「心配いりません。あなたの声も姿も、ルキエルにはわかりません。ここでは、ルキエルは妖精すら使えませんから」
 しかし、私は声を出すことなく泣いた。





 久しぶりに会ったオクトは、どこか、怖い感じがした。養子だけど、やっぱり血縁だな。当主らしい怖さを身にまとっていた。
「これ、どうなってるの?」
「俺もよくわからん」
 俺の部屋のドアが消えたり現れたりするから、オクトは驚いていた。
 たまたま、俺が起きている時に、オクトが部屋の前に来た。俺がオクトに会いたいな、と考えただけで、ドアが現れたのだ。本当に、よくわからないな、これ。
 オクトは、どういう仕組みかな、なんてドアを触って、叩いて、としているが、どうやっても、ただのドアだ。妖精がやることに、仕組みなんてないんだよ。
 一通り、そんなアホなことしてから、オクトは俺のベッドに座った。俺はというと、道具の修理をするため、作業台の椅子に座っていた。
「物凄く久しぶりに感じるんだけど、どれくらいぶり?」
「ルキエルの子どもが随分と大きくなったくらい?」
「その話はやめてぇええー---!!!」
「聞いたよ。寝込み襲われたんだってな」
 そこまでオクトに知られているという事実が痛い!! 男として、情けないことをオクトに知られてしまった。
「義父上も言ってただろう。女買ってでも、経験しておけって」
「仕方がないだろう!! 俺は、男相手の経験値が高すぎて、失敗したら、という恐怖しかないんだよ!!!」
「まあ、僕も、失敗はしたけどね。娼館は厳しかったよ」
「俺は、そういう経験をしたいわけじゃない。こう、自然とだな」
「そういうこと言ってるから、寝込み襲われるんだよ」
「ああああー-----!!!」
 叫ぶしかない。本当に、そうだよ。否定出来ない。
 オクトとそんなアホな話を久しぶりにした。子どもが大きくなってるよ、と言われると、ぞっとする。自覚とかこれっぽっちもないのに、一児の父になってるよ。
 俺が頭を抱えて苦悶していると、オクトは穏やかに笑った。
「こうやって会ったけど、全然、変わってないな。驚いた」
「ほとんど、寝てるからな。成長がないよ」
「見た目は変わったけどな。そんな目隠しして、俺のこと見えるんだな。服も、筆頭魔法使いみたいだな」
「これ全部、妖精封じだよ。俺、本当にバカだから、許容量越えるほどの妖精を盗ったから、大変なんだ。これがないと、俺、寝たきりだよ」
「どうして、そんなことしたわけ」
「なんとなく。成り行き。後、男の甲斐性とか、そんな感じ」
「なーんだ、あの美人のこと、やっぱり好きなんだ」
「そんなんじゃない。そりゃ、まあ、高嶺の花だけどな」
 ヘレンお嬢さんは、俺には勿体ない人だ。そういうものを抱くのも、恐れ多い。
 ヘレンお嬢さんだけではない、目の前にいるオクトだって、俺には過ぎた人だ。本来なら、こんなため口なんて許されないんだ。
 オクトは貴族だ。歴史の長い、しっかりとした貴族である。さらに、裏の稼業は妖精憑き殺しという、とんでもないものだ。歴史が長いだけの貴族ではない。立派な貴族なのだ。
 それに対して、俺は貧民だ。妖精憑きといったって、大した力ではない。なのに、俺は復讐心から、何もかも滅茶苦茶にした。そのせいで、家族は離散だ。俺のせいで、貴族もたくさん処刑されたという。まあ、貴族の処刑は、俺としては、ざまあみろ、という感じだけどな。
 だけど、その処刑の中には、オクトの養父マクルスもいた。
 本来なら、オクトは俺を恨んで、俺を責めるべきだ。マクルスの家臣たちだって、のうのうと生きている俺を殺したいはずだ。
 なのに、再会してみれば、オクトは変わらない。マクルスの家臣たちは、オクトの家臣となったのに、俺のことは変わらず、暖かく見てくる。恨み事すら、抱いていない。
 俺が黙り込んだから、オクトは何も言わず、ただ、優しく見つめてくる。それを見ていると、マクルスのことを思い出す。
 目隠しがあって良かった。オクトには、俺が泣きそうな顔をしているのを知られなくてすむ。
「今日こそは会えるとは思っていなかったけど、持っていて良かった」
 オクトが俺の作業机に封書を置く。随分と太いな。
「義父上の遺書だ」
「用意周到だな」
「そんなもの、襲撃前は用意していなかった。ただ、口頭で言い残しただけだ。これは、ハガルが義父上に書かせたんだ」
「ハガルのやつ、俺には手紙を書かせて、返事一つくれないくせに」
「僕との文通は断ったくせに、ハガル様とは文通してるのかよ!?」
「してない!! ただ、お礼とか、近況とかだ。そこを見てみろ。ハガル、誰かに貢ぐ病気なんだよ」
 俺が部屋の隅に積み上げられる金貨を指していう。それを見たオクトは、ドン引きだ。
「これ、全部、ハガル様から?」
「貧民が一生かけても使いきれない金をぽんぽん送ってきたんだ。これを止めさせるために、何度も手紙で伝えたのに、止めなかったんだよ」
「確かに、病気だ」
 ほら、ハガル、オクトにも言われてるよ!! ハガル、もっと自覚しろ!!!
 オクトにさえ、残る紙での遺書をマクルスは書かなかったのか。てっきり、そういうことをしているかと思っていた。意外だ。
「僕はほら、跡継ぎとして、色々と教えられたからね。学校卒業前からは、当主の仕事、ほとんどやらされてたよ。遺書に残すような思い残し、僕にも、家門にもなかった」
「それにしたって、俺だけってどうなの。俺よりも長い付き合いなのに」
「もう、皆、わかっていたからね。義父上はそう長くないと知っていた。だから、ずっと覚悟していた。むしろ、義父上が心残りがないように、皆、しっかりと働いていたよ。僕も、義父上から合格を貰える当主代理をしていた」
「停滞してるのは、俺だけだな」
「そんなことないだろう。こんな、道具の修理なんて、帝国で出来る奴、ルキエルだけだ」
「そうなんだよな。妖精憑きに教えたのに、誰も出来なかったんだよな。やっぱ、才能か」
 結局、妖精憑きは、道具の管理は出来ても、修理は誰も出来なかったのだ。管理さえ出来れば、道具が壊れることはないのだ。
 道具が壊れるのは、穢れが溜まるからだ。道具は聖域を材料としている。どうしても、穢れが溜まるのだ。その穢れ、自浄作用があるのだが、そこにも限界がある。結局、妖精憑きが穢れを取り除くしかないのだ。
 そういう仕組みを見つけた俺は、そこのところを貧民街の支配者に教えた。ついでに、ハガルにも手紙で教えたのだ。もう、道具が壊れることはないだろう。
 俺はただ、一方的に持ち込まれる道具を目が覚めた時に、こつこつと直すだけである。その内、俺の役割も終わるだろうな。だって、道具、壊れなくなったのだ。
 俺は作業台に置かれた封書を手にする。
「俺も、それなりにマクルスにお別れしたんだけどな」
「義父上なりに、隠していることがあるからね」
「俺さ、ガキの頃、マクルスに遊んでもらったんだぜ」
「そんなこと、義父上がしたのか!?」
「マクルス、容赦ないの。ガキ相手に本気になって、俺、泣かされたんだぜ。泣き止まないから、マクルスは俺を抱き上げたりしてくれた。嬉しかったな」
「………」
「俺さ、真ん中じゃん。物心ついた頃には、色々と我慢させられたんだよ。妖精憑きだったから、妖精が相手してくれたからいいけど、やっぱり、親に抱きあげてもらいたかった。けど、お袋は小さい赤ん坊を抱っこしてたし、親父はそういうのはしてくれないから、寂しかった。だから、抱き上げられた時、もう泣き止んでたんだけど、嘘泣きしてた」
「初めて聞くな、そんな話」
「そんなこと、マクルスは覚えてないだろうな。俺が親父の娼夫となってから会ってみれば、俺のこと、女のように見てた。腹が立ったから、ちょっと誘惑してやった。そうしたら、最後まで俺に付き合うんだからな。本当に、バカだな、あいつ」
 目隠ししたって、涙が零れてしまえば、誤魔化せない。俺の声だって、泣いて、震えていた。
「マクルスがやめろと言ってくれれば、復讐なんてやめたのに」
 俺は、マクルスに手を退けと言いながら、止められるのを待っていた。マクルスが言ってくれれば、我慢したんだ。
「義父上は、ルキエルのために死にたがっていた。だから、これでいいんだ」
 気づいたら、オクトも泣いていた。俺に付き合って、マクルスのことを思い出しちゃったんだな。
「なら、仕方ないか」
 どちらにしても、マクルスはそう長くない。俺が再会した時には、マクルスの内臓は、すでに手の施しようながいほどとなっていた。俺が出来ることは、悪いものを取り除き、痛みをなくしてやることだけだった。
「ルキエル、また、会ってくれ」
 オクトは俺の手を握っていう。
「約束は出来ない。俺の眠り、俺では調整出来ないんだ。次、いつ起きるか、俺もわからない。だから、さよならだ」
「ルキエルっ!!」
 俺は容赦なく、オクトを部屋から排除した。もう二度と、オクトをこの部屋に入れることはない。

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