魔法使いの悪友

shishamo346

文字の大きさ
120 / 152
交友関係

生きた心地がしない晩餐

 私は長身の男の腕を力いっぱい握った。そうして、ルキエルの腕から手を離させようとしたのだが、動かない。かなり痛いはずなのに、長身の男は平然としている様子だ。
「すまないが、この子は、私の友人の子だ。離してくれ」
「ああ、そういうことか。それはすまない」
 私の身なりから、貴族であることは伝わったのだろう。私の友人の子、ということで、長身の男はルキエルの腕から手を離してくれた。
「こっちこそ、悪かった。もう、ラインは帰れよ!!」
 ハガルが謝罪して、長身の男を叱った。
 ここまで近くなったから、私はついつい、長身の男を見て、違う意味で、恐怖を抱いた。
 フードを目深に被っているが、ここまで近いと、素顔が見えてしまう。ただの平民や下っ端貴族では、この男の正体は貴族としか思えないだろう。
 しかし、私はこの男をそれなりの距離で見ているし、何より、姿絵を持っている。
 皇帝ラインハルトだ。よりによって、復讐相手が目の前にいた。
 幸い、皇帝ラインハルトの素顔をルキエルはしらない。あえて、教えていない。ラインハルトは、よほどのことがない限り、表に出ることがないが、万が一、お忍びで遭遇してしまうかもしれないので、あえて、教えなかったのだ。
 皇帝ラインハルトは、ルキエルの母サツキを殺した男だ。隠されたハーレムを解体する時、ラインハルトは、ハーレムにいた女たち全てを処刑した。その中に、サツキもいたのだ。サツキの死によって、全ては狂った。その狂いは、ルキエルを娼夫へと堕としたのだ。
 不幸の元凶が目の前にいる。しかし、ルキエルは全く気付いていない。ただ、ハガルと皇帝ラインハルトのやり取りが終わるのを黙って待っているだけである。
「そんなこと言うな。そうだ、私がご馳走しよう」
「いらない!! 俺は、ルキエルと約束したんだよ。あんたとは、いつだって食べられるだろう。さっさと帰れ」
 あっれー? 同じような件をさっき、ルキエルに言われたな。
 立場も育ちも違うが、ハガルとルキエル、妙に似た感じがある。だからだろう。友達のように付き合っているのだ。
 ハガルはその細腕で、皇帝ラインハルトを押した。それをラインハルトは笑って受け止めるが、動く気がないんだな。むしろ、面白がっている。
「ハガル、また今度にしよう。俺も親父の知り合いが来た。口うるさいんだよ、俺の親父」
 結局、ルキエルは苦笑して、諦めた。私を利用してまで、ハガルとの約束を守ろうとしたというのに、気の毒になった。
「わかったわかった。今回は、見逃してやる。父親には、私のほうから、うまく言ってやるから」
「え、けど、ハガルのほうが」
 ルキエルは、身分隠してはいるが、皇帝ラインハルトが、それなりの立場だと勘付いた。たぶん、貴族だと思ってるのだろう。
 魔法使いを貴族が囲うのは珍しくない。見習いの時に、いい感じの妖精憑きに投資するのだ。ハガルも、そういう貴族に囲われているのだろう、とルキエルは勘付いた。
「ラインは帰れ帰れ。ルキエル、気にするな。アラリーラ様に泣きつくから」
「お前、そういうことするの!?」
「アラリーラ様は友達を大事にしなさい、と言ってた。今日は、特別に時間までくれたんだからな。ほら、帰れ」
 大魔法使いアラリーラまで出されて、皇帝ラインハルトはもう、逆らえなくなった。結局、ラインハルトはハガルから離れたのだ。
 これで、私は適当に帰りの挨拶して、ちょっと離れた所で監視すればいいか、なんて考えていたら、皇帝ラインハルトに肩を掴まれた。
「では、こちらはいい歳の大人同士で、話そう」
「………はい」
 逆らっちゃダメだ!!! 笑顔だけど、私の肩を掴む腕には、とんでもない力がこもっているよ。怖い怖い怖い!!!!
 こうして、私はルキエルとハガルを見送りつつ、皇帝ラインハルトに捕縛された。





 そのまま、牢屋にでも放り込まれるのを覚悟していたのだが、皇帝ラインハルトは、ハガルとルキエルの後を距離をとって歩いている。
「あ、あの、私は」
「心配なんだろう。一緒に、監視をしてやろう」
「あー、はい」
 ようは、私を理由に、皇帝ラインハルトはハガルを監視するのだ。私は利用されただけだ。
 ハガルとルキエルは、本当に、ただ、食事の約束をしただけである。てっきり、女遊びの店にでも行くのか、なんて見ていれば、それなりの飲み屋に入って、食事である。
 ただ、そこに、皇族が混ざって来た。ルキエル、お前、どこまで危ない橋渡ってるんだよ!?
 私は皇族のお友達だから、皇族の顔をそれなりに知っている。あの三人の皇族は、あまり評判が良くない。皇族としての成績も悪いし、しょっちゅう、市井に降りては遊び歩いているのだ。そんな三人の皇族と一緒に食事である。
 何も頼まないのはまずいので、と私はメニューを見ていると、何故か、食事が運ばれてきた。
「頼んでいないんだが」
「あちらの席からです」
 ハガルだよ、ハガル!! こちらにちょっと視線を向けてきた。気づかれてたよ、ハガルに!!!
「ちっ、バレてたか」
「大人しく帰りましょう」
 そうしたほうがいい、絶対にそうだ!! ここに皇族四人もいるって、絶対に危ないよ。
「約束が終われば、ハガルを連れて帰る」
 そこは絶対なんだ。一体、ハガルと皇帝、どんな関係なんだ?
 皇帝ラインハルトは、有名な女好きである。女遊びは激しく、手をつけた女はとんでもない数である。あまりに女好きだから、秘密裡にハーレムを作って、昼も夜も女に手をつけたのである。だから、男のハガルを監視する理由がわからない。
「ハガルは心配ないでしょう。平民に育てられた妖精憑きですから、危ない事は起きませんよ」
「嫌がらせだ、嫌がらせ。私よりも、平民の約束を優先するとは、後で思い知らせてやる」
「………」
 何を? 問いただしたいが、私は沈黙する。皇帝ラインハルトはお忍び中である。きっと、私が正体に気づいている、なんてことも知らない。私もあえて、言わない。堂々と貴族していればいいのだ。
 ハガルがわざわざ注文して寄越した料理は、思ったよりもうまかった。普通の飲み屋の料理のくせに、旨いな。味付けがいいのもある。
 一応、まだ、酒が許されない年齢であるため、ハガルとルキエルは水を飲んでいる。それをタチの悪い皇族が酒を勧めるのである。
「一応、見習いとはいえ、魔法使いだからな。堂々と飲むと、色々と言われる」
「俺たちなんて、お前らの頃には飲んでたぞ!!」
「妖精憑き、酒に酔えないし」
「あー、そうなんだー」
 ハガルの言葉に、皇族は酒を勧めるのをやめた。
 ルキエルは無言である。ここでは妖精憑きであることを隠しているのだ。だから、ハガルが上手に説得するのを見ているだけである。
 そんなやり取りの間、ルキエルも私のほうを見てきた。やっぱり、ルキエルにもバレてたか。私は溜息しか出ない。が、その視線を皇帝ラインハルトはこれっぽっちも気づいていない様子である。じっと、ハガルだけ見ている感じだ。
 それなりに飲んで食べてをしていると、お開きとなった。
「この後は、店に行こうぜ」
 きっと、監視とかなければ、この後は、ハガルとルキエル、皇族三人で、いつもの女遊びなんだろう。普通にハガルとルキエルは誘われる。
「いや、俺は帰る。明日もはやいんだよ。俺、大魔法使いの側仕えだし」
「それじゃ、仕方ないな。ルキエルは?」
「今日はそういう話じゃないから、帰る。また、誘ってくれよ」
「固いな!!」
 上手に交わして、ハガルとルキエルは皇族三人とお別れである。
 皇族三人とは笑顔でお別れしたハガルとルキエルは、真っすぐ私と皇帝ラインハルトの前にやってくると、蔑むように見てきた。
「あんた、帰れって言っただろう」
「い、いや、この男が、ほら、心配してるから」
「どうせ、この男を無理矢理、付き合わせたんだろう!!」
 うわ、ハガル、どこまで皇帝ラインハルトのこと読んでるんだよ。まさしくそうだから、皇帝ラインハルトは否定できない。
「そんなことを言うんじゃない。君は、大魔法使いアラリーラの側仕えだ。心配される立場なんだ」
 仕方なく、私が間に入った。ちょっと、気の毒になってきた。
 ところが、これがルキエルを不機嫌にさせた。
「どうせ、俺はどうでもいい男だよな。ハガル、こいつが送ってくれるって。俺はどうでもいい男だから、一人で帰れるよ。ほら、どうでもいいから」
「そうじゃない!! 父親が心配してるだろう」
「親父がね」
 私も心配しているが、言えない。ほら、私はルキエルの父親の友人だ。心配する立場じゃないんだよ。
「ハガルのことは、私が送るから心配ない。ここまで、付き合わせて悪かったな」
 そこを上手に皇帝ラインハルトが間を取り持ってくれた。良かった、ルキエルに捨てられる所だったよ。
「俺もルキエルも、一人で帰れる。むしろ、お前らはいい大人なんだから、もっと親睦でも深めてろ」
 しかし、ハガル、容赦ない。どうしても、皇帝ラインハルトと私を剥がしたいのだ。もう、妖精憑きって、どうして、こう、面倒臭いんだよ!?
 だから、私はとうとう、伝家の宝刀を出すしかないのだ。
「いくら私でも、皇帝とサシでは飲めない」
「っ!?」
 途端、ハガルは剣呑な表情を見せる。そうか、そっちが本当の顔なわけか。途端、私は全身を針の筵に放り込まれた、とんでもない恐怖を味わうこととなる。忘れちゃいけない。ハガルはただの妖精憑きではない。
 それを止めてくれたのは、皇帝ラインハルトである。ハガルの頭を軽く撫でた。
「やめなさい。この男は、皇族ルイの友人だ」
 私の正体、皇帝ラインハルトも気づいていた。しかも、私の皇族の友人がルイだということも知っている。それを聞いて、私は違う意味で、背中に冷たいものを感じた。
 私が皇族の友人だと知り、ハガルが怖い何かをおさえてくれた。それでも、まだ、何か恐ろしいものは感じるが。
「そうでしたか。それは、失礼いたしました」
「いや、お忍びの皇帝の正体を暴露する不敬をしたのは、私だ。ここで、殺されても、文句は言えない」
「いえ、見習い魔法使いである私には、その権限はありません。しかし、ルキエルの知り合いに、皇族の友人がいるとは、知らなかったな」
「俺も知らなかった」
「そうなの?」
「そうだよ!!」
 疑うようにハガルはルキエルを見るも、ルキエルは叫ぶように返した。ルキエル、知ってはいるが、頭の片隅にも残ってないんだろうな。
「俺だって、ハガルが皇帝陛下と近い関係だとは、知らなかった」
 もの言いたげに、ルキエルは皇帝ラインハルトを見た。皇帝だとばらされて、ラインハルトは、素顔を簡単に見えないように目深にフードを被りなおした。
「俺は、ほら、大魔法使いの側仕えだから、どうしても接することが多いんだよ。だから、言えないことも多い。隠して、悪い」
「いや、いい。そういうの、訊かないのが、こういうトコでの約束なんだもんな」
 お互い、隠し事が多いから、許しあうしかないのだ。
 目の前に、ルキエルを不幸にした元凶である皇帝ラインハルトがいる。しかし、ルキエルは動かない。我慢しているわけではない。たぶん、そこまで考えが回っていないのだろう。あまりにも衝撃が強すぎるのだ。
「次は、こいつらいないトコで食べよう」
「そうしよう」
 ハガルは皇帝ラインハルトを、ルキエルは私を忌々しい、みたいに見た。心配してるだけなのに!!
 そうして、どうにか生きて、私は皇帝ラインハルトと謎多い妖精憑きハガルから離れられた。
 ルキエルはというと、さっさと家に帰ろうと歩いていく。私に見向きもしない。だから、私はルキエルの肩をつかんで、無理矢理、止めた。
「待ちなさい。きちんと話そう」
「次からは、しっかり親父から許可とってから出てくるから、もう利用なんてしない」
「次も利用しなさい。私が心配だ」
「………わかった」
 やっと、ルキエルは機嫌をよくした。本当に、気難しい子だ。
 私はルキエルを馬車の所まで連れて行く。
「歩いて帰れるって」
「泊まって行きなさい。心配したんだ」
「そんな、大袈裟な」
「皇帝を目の前にした時は、生きた心地がしなかった。さらに、見習い魔法使いハガルだ。皇族の遊び友達がいるなんて、私はお前から聞いていない」
「………」
 私は人前とか、そんなこと構わず、ルキエルを抱きしめる。やっと呼吸出来たような感じだ。
「いくら私でも、ルキエルを守り切れない事がある。心配なんだ。私にとって、ルキエルは特別だ。信じてほしい」
「………俺をお袋の身代わりとして抱いたくせに」
「最初は、そうだな」
 否定すればいい。しかし、最初はそうなのだ。だから、どうしても、私は、こう言ってしまう。
 嘘をつけばいいんだ。だが、ルキエルに対して、どうしても、嘘をつけない。ルキエルは、本当に可哀想なんだ。様々なことを我慢させられていた。私は最低な大人だから、ルキエルが欲しがった道具と引き換えに、ルキエルを娼夫に堕としたのだ。
「ま、お袋は貴族のお嬢様だから、あんなこと、させられないよな」
「今は、ルキエルだけだ。サツキはどうだっていい。どうすれば、信じてくれる? 今度、城に行った時に、皇帝を殺せばいいか?」
「そんな危険なこと、あんたはしなくていい!!」
「だったら!!」
「あんたは、そんなことしなくていいんだ。あんたは、貴族だ。俺みたいな貧民を顎で使う立場だ。だから、俺は身代わりでいいんだ」
 ルキエルは私から距離をとった。今回のことで、私とルキエルが皇帝に顔を覚えられたから、何か、危険を感じたのだろう。
 だから、私はルキエルの腕を力いっぱいつかんで、引き寄せた。
「私は離れない。全て、ルキエルに捧げよう。命だって、そうだ。お前が望むなら、命をかけて、皇帝を殺してやる」
「それは、親父にやらせる。そこは、絶対だ」
 ルキエルの目に憎悪が宿る。毎夜、ルキエルは父アルロに抱かれている。だから、アルロへの憎悪は薄れない。
 アルロは上手に、本心を隠し、さらに、ルキエルのために破滅しようとしている。もう、アルロは全てをルキエルに暴露して、もっといい方向に持って行ってもいいのだがな。それを敢えてしないのは、アルロなりに、何か考えていると思いたい。
 ルキエルは、私が腕を離さないので、仕方なく、馬車に乗った。私の手をかりて乗るルキエルは、女扱いされているとわかっていない。
 私が馬車に乗り込めば、御者は馬車を動かした。
 行く時は、ルキエルはことでもか、と私から距離をとって座っていた。とても不機嫌だったからだ。それなのに、帰る時は、ルキエルは私の膝に座って甘えるように向かい合い、抱きついてきた。
「こういうことをされると、また、したくなるんだが」
「我慢しろ。俺は、ちょっと疲れたんだよ。誰かさんが、散々なことしてくれたからな」
「………どうせ、一泊は決定だな」
 こうなるかもしれない、と私はアルロへと伝言の使者を送っている。我が家の馬車にルキエルが乗った時点で、一泊は決定だ。だから、私はルキエルに口づけする。
「もう、腹も一杯だろう。後は寝るだけだ」
「う、うぅん」
 最初は軽く口づけだったが、ルキエルはさらに欲しいと深く、舌まで差し出してきた。こうなると、ルキエルは止まらない。
「また、馬車を綺麗にしてもらわないとな」
「する、からぁ」
 服の下に手を突っ込んで、ルキエルの蕾を撫でてやれば、ルキエルは腰を揺らした。
 結局、こうなるのだ。私はルキエルを持ち上げると、私の反り立った一物を、ルキエルの蕾に前戯なしで挿入した。ガタンと馬車が揺れ、落とされる衝撃に、ルキエルは呆気なく、絶頂した。
「私の服も、綺麗にしてもらおう」
「もう、そんなこと、いいからぁ」
 口づけを求めるルキエルは、私を黙らせ、腰を揺らした。




 またも約束をしたというのにで、私は仕方なく、利用された。どうせ、アルロには事後報告するし。
 だが、さすがに、報告出来ないこともある。
 その日は、本当についでだった。ルキエルを待ち合わせ場所に連れて行って、そのまま、城に行くつもりだったのだ。
 なのに、待ち合わせ場所に行けば、お忍び中の皇帝ラインハルトとご対面である。
「また、お目付け役がいるのかよ!!」
「こいつは、城に行くって言ってた。なあ」
 お互い様だってのに、ハガルは私に向かって苦情を言ってくる。私はきちんと用事があって来ただけだぞ。これから、皇族ルイと面談だよ。約束も取り付けてきた。
「わざわざ城に行かなくてもいいぞ。たまには、こういう市井で飲み食いしよう」
 なのに、お忍び風の皇族ルイがラインハルトの後ろから出てくる。気まずい、みたいに私から顔を背ける。
 あっれー? 私、ルイに呼び出されたんだよね。私から約束はしていない。ルイからだ。
 私は、集まった面々を見て、悟った。つまり、そういうことである。
 私が絶望を感じている所に、堂々と皇族三人が登場である。
「あっれー、なんで、ここにこう」
「バカ!」
 さすがに察しのいい皇族もいるな。皇帝ラインハルトと皇族ルイがいることを声高に言わないように、止める皇族がいてくれて、助かった。
「心配ない。我々は離れた所で飲み食いしている。若者は若者で飲み食いしていなさい。費用は、こちら持ちだ」
「やったー--!!」
「さっすが!!」
 大喜びの皇族三人。
 ハガルは諦めたように深いため息をついて、ルキエルを引っ張って、予約をいれただろう席に向かって行った。ルキエルは、状況が読めない顔をしながら、ハガルと皇族三人に引きずられて行った。
 そして、私、皇族ルイ、皇帝ラインハルトは、離れた席で、会話もなく、食事である。今回も、ハガルが注文しただろう料理が運ばれてくる。
「すまん、マクルス」
「予定があうから、おかしいと思ったんだ」
 ルキエルに頼まれた後に、皇族ルイからの呼び出しである。偶然にしても、と訝しんだが、偶然でもなかった。
 ようは、私とルイを利用して、皇帝ラインハルトはハガルを監視するのだ。本当に、ハガルって、一体、何者なんだよ!?
 皇族ルイにも、それとなく、見習い魔法使いハガルのことを聞いたが、大した情報ではなかった。隠している、とか、そういうのではない。ハガルの情報って、表に出ているのが全てなのだ。
 しかし、皇帝自らが、ハガルの監視っておかしいだろう。だから、ついつい、聞いてみた。
「その、どうして、ハガルの監視をするのですか?」
「貴様だって、あの若者のことを心配していたいだろう」
「まあ、友人の子ですからね。たまたま見かけたから、心配になっただけです。普通です、普通」
 私がルキエルを心配するのは、問題ないのだ。だって、友人の子だ。親しい友人の子であれば、見かけた時に、声をかけたりするのは、普通なんだ。
 だが、皇帝ラインハルトは、ただの見習い魔法使いを心配する立場ではない。
「友人と聞いたから、心配になっただけだ。これまで、友人というと、同じ見習い魔法使いだ。それが、平民の友人というからな。あれは、私にとって、特別な見習い魔法使いなんだ」
 優しい目でハガルを見ながらいう皇帝ラインハルト。そこに、ハガルへの愛情が見えた。
 あまり、深く考えてはいけないような気がした。皇族ルイでさえ、ラインハルトの話に首を傾げる。誰も知らない何かがあるのだろう。
 私は、出された料理に口をつける。こちらも、美味しい。ものすごく美味しいのだ。
 美味しいから、私は別の日に、この店に来た。見た目は同じ、料理だって同じものだ。なのに、普通の味だった。
 それなのに、今、口にしている料理は、美味しい。その事実に、私は背筋に冷たいものを感じた。ちらっと若者たちが囲むテーブルを見る。ハガルが忌々しい、みたいにラインハルトを睨んでいた。皇帝に、そんな顔するハガルは、絶対に、ただの見習い魔法使いではないよ!!

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿