魔法使いの悪友

shishamo346

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賢者と悪女

失踪

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 店を一巡して、サツキは憂鬱な顔を見せた。
「本当に見る目がありませんね。表に出された時は本物なのです。ですが、商品を購入すると、偽物に擦り替わっています」
 買ってすぐ、サツキは全て鑑定に出した。そして、全てが偽物だ、と出たのだ。
「店側が品物の返品を求めたのは、抜き打ち査察により、偽物の商品を手渡していることを知られるのを恐れたからです」
「素晴らしい目だな」
「見ればわかります。わたくしの目は普通とは違います。手もそうです。肌の感覚もです。道具は組み立てるだけではありません。材料を集めるところからです。わたくしの体は、道具の材料を集め、それを錬成し、組み立てるために特化しています」
「なるほど、芸術品なわけだ」
「そんな誉め方をされるなんて、変な感じですね」
 こう、普通に見つめあっているが、サツキは違ったものが見えているのだろう。妖精憑きが見る世界とは違うのだ。
 だから、サツキはどこか、浮世離れした感じがした。妖精憑きとは違う、別の次元に立っている時がある。
「その能力は、嫌うものではない。そういうものだと受け入れればいい」
「そうですね」
「真贋ははっきりした。これから、店に査察だな」
「テラスが行くのですか?」
「私だけではない。人を呼んだ。来たな」
「ルイ様!?」
 皇族ルイを呼んだのだ。ルイ、すっかり単独行動が出来るようになるまで、それなりのものを身に着けていた。
「わざわざ、ご足労、ありがとうございます」
「いや、色々と聞いた。まさか、賢者テラスの大事な人だとは、知らなかった。今後は、僕のほうが気を付けないといけない」
「そのようなこと、いいのですよ。所詮、一伯爵令嬢なのですから」
 実際は皇族だがな。価値は、実はサツキのほうが遥かに上だ。
 隠しておいてあれだが、それで良かった、と私は思っている。サツキが皇族であることを表沙汰になっていたら、サツキはどこかの皇族と子作りをしなければならない。それを考えるだけで、嫉妬と怒りで頭が一杯になる。相手を殺したくなる。
 私は一生、サツキが皇族だということを隠し通すだろう。
「これが、全て、偽物か。どういう仕組みかな?」
「簡単です。支払いを済ませた後、包装をするので、と奥に行きます。そこで交換です。偽物と本物の隠し場所は、妖精憑きの力を使えば、簡単に見つかります。こういう時は、妖精憑きのほうが万能ですからね」
「この件は、こちらでやろう。サツキ嬢は、ここで待っていてほしい」
 珍しく、不安そうに私を見るサツキ。その姿が誰にも見せたくないほど可愛らしい。
「妖精を側に置いておきます。偽装も認識阻害もしていますから、不埒な者は近づきもしません」
「すみません」
 この謝罪は、私の妖精を完全につけさせないようにしていることに対してだ。完璧な保護にするなら、サツキに妖精をつけないといけない。しかし、サツキは道具を使って、それを出来ないようにしているのだ。
 私はサツキを力いっぱい、抱きしめる。
「すぐに終わらせよう。君の家族や、あの婚約者の家族の返品も、まかせない。返金も全て、きちんとやらせよう。ついでに、不正の温床を壊してやるだけだ」
「待っています」
 名残惜しいが、皇族ルイ様がもの言いたげに見ているので、離れた。
 サツキから離れて店に向かうと、皇族ルイ様が私にきいてきた。
「随分とサツキ嬢がテラスの前では可愛らしいですね」
「私が育てたんだ。手を出さないように」
「育てたって」
「まさしくそうだ。ここまでするのに、手をかけ、時間をかけたんだ。見ていなさい。あの婚約者の男が悔しがるほど、サツキは綺麗になる。私がそうするんだ」
「………」
 皇族ルイ様は、何か言いかけて、口を閉ざした。何か、余計なことをしたのだろう。
 騎士アルロのことを思い出す。たぶん、ルイ様はアルロにいらぬ知恵を授けたのだ。だが、所詮、アルロは個のない男だ。何も出来ない。

 権威を見せれば、あっという間に解決だ。偽物にすり替えた店は、私が表に出れば、呆気なく白状した。そして、これまで被害にあった者たちは多いかに見えた。
 ところが、客全てではない。店側は、騙す相手を選んでいた。
 だいたいは平民で、一度、二度しか来ない客だ。金との取引なので、被害者の情報は残らない。
 本来ならば、被害者の情報が残る後払いが出来る貴族は絶対にしない。だが、サツキの家族と婚約者の家族は、完全に魔がさしたのだ。だいたい、サインがすでに違う。サインが本人ではない。だけど、支払いはされている。この事実に気づいた店側は、途中から、偽物にすり替えた。相手が気づいたら、間違えたというつもりだった。なのに、一度として、相手は苦情を言わないから、調子に乗った。そして、今回の抜き打ち査察により、買い物の記録が残るサツキのサインを危険に感じた店側は回収に走ったのだ。
 これの恐ろしいところは、買った本人たちが返品していれば、表沙汰にならなかったことだ。サツキの目を通さず、さっさと返品し、支払いもサツキの元に返されていれば、このまま店はのうのうと居座っていたのだ。
 この後、帝国中で抜き打ち査察が行われることとなった。これにより、サインの偽造は出来なくなったのだ。





 そのまま、いつもの日常が続くかに見えた。まだ、サツキはあの家に居座るかと見ていたのだ。しかし、動きは私の予想よりもはやく進んだ。
 その日、騎士アルロの馬によって戻ってきたサツキを私は憤りをこめて見ることとなる。屋敷周辺は、アルロでもわかるほど、妖精避けがされている。違和感を感じているだろう。だから、私がサツキが暮らす部屋にいることをアルロは気づいていない。
 サツキはいつもの淑女の礼を返して、小走りで部屋に戻ってきた。私が部屋にいるとわかると、笑顔で抱きついてきた。たったそれだけで、私の憤りはなくなる。
「テラス、テラス、テラス」
「サツキ、サツキ、サツキ」
 互いの声を聞いて、互いの体を感じて、全てを感じあった。それで十分だと思っていた。
 なのに、サツキは私を訴えるように見上げてきた。
「口づけしてください」
「それは、いけない。我慢出来なくなる」
「今、してほしいのです!!」
 何故、こんなことを言い出したのか、わからない。ただ、アルロが原因だ。あの男、大人しく皇族の護衛に専念していればいいのに。ただの人形が、サツキに何か感じるなんて、生意気だ。
 命令ではない。願いだ。私は、常にサツキに口づけをしたかった。もっと先もしたい。だけど、彼女の体は、そういうことに耐えられるほど、まだ、人並になっていない。体力はある。だけど、内側はまだ、人並ではないのだ。
 私は遥かに年上だ。だから、私が耐えればいい。
 本当に触れるような口づけだった。もっと深くしたいが、そうなると、私が耐えられない。
 受けたサツキは、少し、物足りない顔をした。
「口づけって、もっと、こうすごいものだと思っていました」
「手加減したんですよ!! あなたはもっと、自分自身を理解したほうがいい」
「だったら、本気で」
「私の元に囲われるというのなら、してあげますよ」
「………」
 不満そうな顔で黙り込むサツキ。そんな顔しても、やりません。
「ほら、食事をとってください」
「ありがとうございます。そうそう、明日は一日、来ないでください。たまには、朝は家で出されたものを食べて、復讐心を育てます。せっかく学生ですから、たまにはお昼は、食堂を利用します。夜も、視察をかねて、外食です」
「一日ずっと一人!? そんな、私なしで過ごすなんて、心配です」
「本気になれば、道具を使って、色々と出来るのですよ。明日は、テラスと初めて作った道具の試運転です」
 徒歩での通学だ。どうしても危険だから、と護身となる道具を作った。道具の組み立てはサツキだけで出来るが、魔法は私だ。
「一日、たった一人でだなんて」
「魔法でわたくしの近くに飛ぶことも不可能です。道具を使いますから」
「さらに危険ではないですか。許可できません」
「テラスでは、わたくしには勝てませんよ」
「本気になれば、私は強いですよ」
「そう、強い。でも、どうしても、あなたはわたくしには勝てません。どうしてか、すぐにわかりますよ」
 腹が立つので、私はサツキをベッドに押し倒して、その上に圧し掛かり、本気の口づけをしてやった。




 そして、サツキに言われるままに、翌日は一日、私はサツキの元に行かなかった。この時、行っていれば、何かが変わっていただろう。




 一晩明けて、サツキが暮らす屋敷に行ってみれば、何かおかしかった。お祝いみたいになっているのだ。何かがあったのだろう。
 私はいつもの通り、サツキの部屋に行った。部屋にはサツキはいなかった。ベッドすら、使った様子がない。私はサツキを見送ると、部屋を綺麗にしていた。
 いや、綺麗ではない。部屋は荒らされていたのだ。サツキに贈ったものは全てなくなっていった。
 もしかして、ともう一つ、隠された屋敷にも行った。あの屋敷は、私も入れるようにされていた。
 なのに、入れないようになっていた。ただ、外から芸術品のような屋敷の形をした魔法具を眺めるだけだ。
 サツキが本気になれば、見つけ出すのは不可能だといっていた。そんなことはない。私が本気になれば、妖精はどんな隙間だって入って、サツキを見つけ出せるのだ。
 なのに、王都中を妖精で丹念に探したというのに、サツキは影も形も見つからなかった。
 サツキをしつこく探しつつ、私は城に戻った。
「皇族ルイ様を呼んでください」
 変わらず、女を侍らせている皇帝ラインハルト様をベッドから落として願った。
 また、女は私に無体な口を聞く。ラインハルト様が怒りを募らせる前に、私は素っ裸のままの女を妖精を使って部屋から出した。
「何かあったのか?」
「私のサツキがいなくなりました。王都中を妖精を使って探していますが、見つかりません。万が一、殺されたのなら、あのクソども、ただでは済まさん」
「どうして、そうなった?」
「いいから、ルイ様を呼んでください!! やってもらいたいことがあります」
 皇族ルイ様は学生である。ラインハルト様と違って、きちんと早朝に起きて、すでに登校準備が終わった姿で、ラインハルト様の私室にやってきた。
 私の様子がいつもと違うのは、一目でわかったのだろう。ルイ様は大人しく私の前に立った。
「昨日、サツキの身に何がありましたか?」
 何か思い当たることがあるのだろう。ルイ様は言いづらそうに目を反らす。
「サツキがいなくなりました。時間が惜しい。全て話しなさい」
 サツキの身に何かあったということを知り、ルイ様は大人しく、昨日、起こった出来事を話した。
「騎士アルロの馬に乗って、学校から帰っていく姿を随分と目撃されていた。それを見た生徒たちが、サツキの義妹と婚約者に話したんだ。それを聞いた婚約者が、サツキに浮気者と罵った。それから、婚約者交代の話をサツキから言い出したんだ。サツキは、一体、何を考えているのやら。婚約者交代なんてしたら、サツキの身は危ないというのに」
「わかってやったのですよ。よくも、私に知られずに、そんなことをしたものだ。しかも、私は彼女の手の上で踊らされた」
 サツキの計画は、昨日で完了していた。
 アルロの誘いを受けたのは、計画のためだ。アルロ、完全にサツキに利用されたのだ。そして、公然と浮気をしたような噂を発生させ、人前で罵られた。そこで、婚約者交代を囁き、昨夜、本当にそうなったんだろう。
 婚約者が交代してしまえば、伯爵家の跡継ぎは侯爵家の婚約者という後ろ盾があるクラリッサになるだろう。
 そう、誰もが考える。そして、サツキは用なしだ。さっさとサツキを追い出すなり、殺すなりしたのだ。
「ルイ様、やってもらうことがあります」
 サツキは私を置いて逃げていった。だから、私は容赦しない。私は勝手に、あなたの計画を乱してやる。
「僕が出来ることでは、何でもやります」
 ルイ様なりに、サツキのことは思っていたのだろう。サツキがいなくなったということで、ルイ様の中で、何かが吹っ切れていた。もう、皇権を使うのは卑怯、なんて甘っちょろいことは言わないな。完成だ。
「アルロに、昨日のことを話しなさい」
「あの、騎士に? どうして」
「あの男は、物凄く使える男なのですよ。いい意味でも、悪い意味でも。ただ、いつまでも人形のままでいてもらっては困る」
 サツキに接する時のアルロは、騎士アルロではなかった。
 表情が違う。
 話し方が違う。
 何より、サツキを見る時の目に、感情が宿っている。
 アルロがどう動くかは、私もサツキも予想出来ない。あの男は、不確定要素が多すぎる。だからこそ、私にとっても、サツキにとっても、博打のような存在だ。
 昨日は、サツキはアルロを使って博打をうって、見事、私を出し抜いた。だったら、私もアルロを使って、サツキを困らせてやればいい。
 皇族ルイ様は私に言われるままに、元貧民の騎士アルロに、昨日の出来事を全て話した。
 そして、アルロは本当に予想外の動きを見せてくれた。その日の内に、お祝いで頭空っぽになっていたサツキの元婚約者エクルドを殴って、騎士をやめて、出奔したのだ。
 この事に、皇族ルイ様は真っ青になって、私の元にやってきて報告した。
「知っています」
 サツキは、もう学校に戻る気はなかったのか、学校にかけられた妖精避けを解除していた。お陰で、アルロがやってくれたことを私は妖精を通してみていた。私もやりたかったな。アルロが羨ましい。
 私には、アルロのようなことは出来ない。背中にある皇族に絶対服従の契約紋が帝国にしばりつけている。ここから出て、サツキの元に行くことは出来ないのだ。だから、サツキは私に何も言わずに出奔した。
「今日、伯爵家の跡継ぎ変更届けが出されましたが、不受理、と」
 そして、早速、私の権限で、サツキの父親が作った下手くその申請書類は却下にした。それを隣りで見ていたルイ様が叫んだ。
「そんな、横暴な!?」
「横暴ではない。きちんと、帝国の法律に則っているのだよ。サツキが生きていれば、この法律を盾に、第二段階に進むだろう」
 サツキがこの後、何をするのか、私は聞いていない。だが、何をするのか、わかっている。
 私から不受理の手紙を出して入れ替わりに、サツキの親族連中から、異議申し立てがとんでもない勢いで帝国に届いたのだ。もう、ほとんど、同時といっていい。誰が先か、なんてわからないほどだ。それほど、怖いぐらい同時に私の手元に届いた。
 皇族ルイ様は、しばらく、私の元で、サツキの捜索に参加することとなった。たった一人の貴族令嬢に、皇族が動くのは、おかしな話だ。ラインハルト様も、これには、やりすぎだ、と私を批難した。
「あなたがたは、サツキという女をわかっていません。失踪して終わりではありません。これは、失踪してからが始まりなんです」
「失踪して、お前の元に行くのではないのか!?」
 ラインハルト様、随分と夢見がちなことを想像していた。それには、私は呆れたように見てしまう。
 皇族ルイ様も、ラインハルト様の言葉には苦笑した。
「サツキは、そういう感じの女性ではありませんよ。なかなか、一筋縄ではいかない人です。短期間ですが、生徒会で一緒して、思い知らされます。問題解決能力がずば抜けています。あの婚約者も、学校では何度もやらかして、皇族殺害未遂罪にまでされそうになったところをサツキの機転で痴話げんかに落としたんですよ」
「どういう女なの? 私はもっとこう、清楚華憐な令嬢だと思っていたよ。そういう令嬢、好きだろう」
「見苦しくないだけですよ」
 貴族の女とは、どうしても社交の場で話すことがある。そうなると、無難な女を相手にするものだ。そういうのばっかり、ラインハルト様は見たのだろう。
「ラインハルト様、サツキをただの令嬢を見ないように。とんでもない毒を隠し持っていますよ。私も随分と弄ばれたのですから」
「そうです。サツキはとんでもない女性です。ともかく、ものすごく頭がいいです。頭がいいのにも、色々とありますが、サツキは全てに当てはまっています」
「どういうことだ?」
「勉強が出来る頭の良さがあることは、わかっています。そこから、瞬時に問題を解決出来てしまう頭の回転の速さがあります。そして、長い目で見て、先の先を見通し、それに対する忍耐力も持っています。彼女は、彼女を蔑ろにした全てに対して、復讐するつもりです」
 短期間とはいえ、サツキと接した皇族ルイ様も、サツキが何をやろうとしているのか、やっと気づいたのだ。
 失踪して、たった一週間で、サツキの親族たちは、サツキの父親のお家乗っ取りを訴えてきたのだ。ここから、全ては動き出した。
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