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懺悔
賢者テラス
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人生の大先輩、と言えば、賢者テラスです。この人には、本当に色々と教わりました。鉄拳制裁もいっぱい受けましたよ。本当に、手が出るので、驚くばかりです。
私は残念ながら、手よりも先に魔法ですね。姿の偽装が日常なので、常に魔法を発動している状態です。だから、手を出すよりも、すでに発動している魔法が動きます。妖精も優秀だから、勝手にやってくれますけどね。
皇帝ラインハルト様は私にとって、逆らえない人です。ですが、賢者テラスは、教えを乞う師のような人ですよ。いざという時は、テラスに相談していました。
なのに、今、テラスから話を聞いています。
「テラスが持っていた、あの骨壺の人が、あの悲劇の令嬢だったとは。あれ、てっきり、皇族ルイ主導での何かかと思っていました」
悲劇の令嬢と呼ばれる伯爵令嬢サツキは、帝国全土で知らぬ者はいないほど有名だ。
世間では悪女と呼ばれた伯爵令嬢サツキは、婚約者交代により、家を追い出されてしまった。よくある話である。ところが、ここからが大変な話である。婚約者交代により、伯爵家の跡取りは母親違いの義妹となったのだ。侯爵家の婚約者を持つことで、後ろ盾となったのだ。
しかし、この義妹、伯爵家の血筋ではなかったのだ。
帝国は、跡取りとして認めるのは血族のみである。万が一、子がいなければ、遠縁から養子養女をとることとなっている。ともかく、血筋だ。なのに、跡継ぎ交代で発表された義妹には、一滴も伯爵家の血が流れていないのだ。そのことに気づいた血族たちが帝国に訴えた。これが、お家乗っ取りの事件となったのだ。
ただのお家乗っ取りだから、これもよくある話だ。内々で処理されるはずだったのだ。ところが、このお家乗っ取り事件を帝国中の新聞社が取り上げた。サツキの元婚約者は義妹と婚約したのだが、婚約前から浮気していた、なんてことまで取り上げられたのだ。さらに、このお家乗っ取りを題材とした小説、戯曲、舞台まで発表された。これにより、文字も読めない平民、貧民まで知れ渡ることとなったのだ。
こんな大騒ぎ、何かあったに違いないのだ。とんでもない後ろ盾がない限り、帝国中を騒がせることなんて出来ない。
このお家乗っ取り事件、帝国も関わっているのは明らかである。今でも毎年、帝国中では年に一度、戯曲や舞台の発表が行われている。そうすることで、悲劇の令嬢である伯爵令嬢サツキは今も忘れられていない。
そんな女性が、まさか、テラスに関わりがあるとは、私は思ってもいませんでした。
「それで、サツキ嬢とテラスは、どのような関係なのですか? 骨まで囲ったんですから、深い仲だったのでしょう」
「私の一生に一人の女性です」
「………」
「どうかしましたか?」
私の反応に、テラスは訝しんだ。きっと、もっと違う反応を予想していたのだろう。
私は、呆然としてしまいました。テラス、もうすぐ寿命です。ベッドで弱っている所で、本音を言ってしまっていいのかどうか、迷いました。何せ、私の人生経験って、テラスに比べれば、まだまだ若いですから。実際、年齢的には若輩者なんですよね。
ですが、どうしても言いたい、と私は顔に出てしまっているのでしょう。テラスは穏やかに笑います。
「言いたいこと、言っていいですよ。私もそう長くはありませんし」
「そうですか。では、質問です。テラスは女性とのお付き合い、どれくらいありますか?」
「サツキ一人です」
「………」
「どうかしましたか?」
言っていいかどうか、迷う。本当のこと言ったら、ショックで、死んじゃうかもしれません。
私は見るからに悩んでいるとわかる仕草をします。だって、悩むしかないでしょう。私とテラスでは、生きた時代とか、色々と違うかもしれませんよ。ですが、テラスのほうが普通だと言われてしまえば、そうなのでしょう。
「ハガル、言いたいことははっきり言いなさい」
「怒ったりませんか?」
「内容によります」
「だったら、黙秘します」
相手は弱っているといっても、テラスだ。しっかり鍛えているから、殴られると、痛いんだもん。
だけど、テラスとしては、気になるのですよね。私だって、テラスとサツキ嬢がどんな関係だったか知りたい!! それを聞き出すためには、まず、私が本音を話さないといけないのですよね。殴られよう。
「テラスは、その、女性経験が、それまでなかったんですね。驚きました」
「そうですか? 筆頭魔法使いは、ほら、表向き、結婚出来ませんから、色恋に最初から興味もありませんでした」
「そうか、テラスは魔法使いに育てられましたからね」
私とテラスの大きな違いに気づきました。
私は今でこそ、生家とは縁遠くなってしまいましたが、筆頭魔法使いとしての立場が表立つ前までは、見習い魔法使いとして、普通に生家を行き来していました。しかも、かなり外で遊んでいましたから、平民の常識や知識が豊富です。
「ただの人はすぐ死んでしまいますから、生存本能が高いのかもしれませんね」
「どういうことですか?」
「色恋ですよ。私くらいの年頃で、それなりに異性とのお付き合いを一度や二度、している者は普通にいます」
「っ!?」
あ、やべ。言ってはいけないことを言ってしまった感じがした。
そう、テラス、経験値が足りないのだ。そこで、過去の女の話である。死の際で話すのだから、完全な懺悔だ。
伯爵令嬢サツキに関して、物凄い後悔があるのだろう。それは、聞かなくてもわかる。
伯爵令嬢サツキの顛末は有名である。小説、戯曲、舞台では幸せになりました、で終わるが、現実は違う。サツキは生家を追い出されて、その後、殺人死体として発見されたのだ。あまりに憐れな最後だから、小説、戯曲、舞台の中だけでも幸せであれ、という締めがされる。
テラスが骨壺でしか手に入れられなかったというのだ。これは、後悔しかないだろう。そこには、経験値のなさが関わってきている。
私はまだ、そこまでは言っていない。しかし、私の話をちょっと聞いて、テラスも気づいたのだ。自らの経験値のなさが、サツキを死なせたのだと。
「私は、テラスと伯爵令嬢サツキの馴れ初めを知りません。物語の上でも、魔法使いが出ませんから、秘密の関係だったのですか?」
「そうです。サツキは、貴族に発現した皇族でした」
「だったら、さっさと城に入れてしまえば良かったではないですか」
貴族に発現した皇族は、基本、保護対象である。それは、通例だ。城での保護でなくても、きちんとした扱いを受けられる立場になる。
しかし、テラスが語るまで、伯爵令嬢サツキが皇族だったなんて、私すら知りませんでした。
「皇族であることを隠すように、私は命じられました。サツキが皇族であることを知る者は、皇帝陛下のみです」
「ラインハルト様は知っていたのですか。でしたら」
「サツキの死後ですよ」
「あー、それは、また。あ、でも、ラインハルト様には話せなかったのですか? ラインハルト様は、今でも皇族最強の血筋ですよ」
「サツキは、それを越えていました」
「それはまた、惜しいことをしましたね。そこまでの血筋であれば、皇族の血筋を健全とする、良い存在となったでしょうに」
貴族の中に発現する皇族は、濃くなり過ぎた皇族の血筋をいい感じに薄める役割を持つ。だから、丁重に扱わなければならないのだ。
「テラスが先手をとられるとは、サツキは男を手玉にとる才能があるのですね」
「たまたまです。二人だけの秘密だ、と言われて、私は喜んでしまいました」
なるほど。伯爵令嬢サツキは、たまたま、命じたにすぎない。血筋の濃さをサツキは知っていたわけではないだろう。本当に偶然である。
「だったら、権力に物を言わせて、連れて来てしまえば良かったではないですか」
「っ!?」
あ、やべ。また余計なこと言っちゃった。
これ、思ってもいなかったんだ。私は普通にやってるよ。今、筆頭魔法使いの屋敷の秘密の部屋には、私が最も執着を持つ女を囲っている。囲うために、権力と金に物を言わせたのだ。
「命令に違反する恐れを感じていました」
「ちょっと痛いだけではないですか」
「っ!?」
あ、また、言っちゃった。もう、遠慮するのはやめよう。どうせ、言ってしまうんだから。
「命令に違反したって、痛い程度です。積み重ねられると、天罰食らいますが、それだって、許してもらえば、どうにかなります」
「お前は天罰まで食らったな」
「えへへへへ」
笑うしかない。私はラインハルト様の命令を随分と無視している。
「仕方ありません。あのどうしようもない父を見捨てろ、なんていうんですから」
「当然だろう!? そのせいで、妖精金貨まで出したんだぞ!!」
私が血の繋がらない父を甘やかしすぎて、とうとう、妖精金貨まで発生させたのだ。その煽りで、父も妖精金貨に呪われてしまい、そのまま、どこかに連れて行かれてしまった。
「後悔はしています。もっと監視を付ければよかった、と」
「そっちか!?」
残念ながら、私はあのどうしようもない父に金を渡すことはやめないのだ。今も後悔していない。
「私は家族といっても、血の繋がりがありません。いつ、切られるかわかりませんから、金で繋がるしかありませんよ」
それを聞いたテラス、ドン引きだ。えー、そんな顔されるなんて。
「そこまで執着する価値、あの男にはないだろう!!」
「うーん、これ、聞いた話なのですが、クズ男に貢ぐ女って、そのクズ男がたまに優しくなる、そういうトコに情が絆されるそうです。それです」
「わからん!!」
「同期にも言われました。それどころか、頭おかしいんじゃないか、と心配されましたよ。仕方ありません。渡す金なんて、私にとっては大した額でありませんから。ほら、筆頭魔法使いの給金て、貴族よりも上ですよ」
金銭感覚がちょっと狂っているのだ。だから、渡しても、そんなに気にならない。ほら、ちょっと減っても誤差だから。
「ハガル、相手は先に死ぬんだぞ。そこまで執着する価値があるのか?」
「テラス、暇つぶしですよ」
また、ドン引きされた。えー、そういうものなのに。
「私は家族でないと知ったから、家族が欲しくなりました。ですが、血の繋がりがないから、家族になれません。だから、家族ごっこで遊ぶことにしたんです。あのどうしようもない父も、遊びの上では、大事な父役ですよ」
「そんな、人を弄ぶような真似を」
「相手はそれで喜んでいます。私は良い兄、良い息子をしています。きちんと家のことも手伝い、兄としての威厳を見せて、だけど、ダメな父親のような所も持っていて、そうやって、家族の一員のような顔をしています。誰も、私のことを拒絶しませんでした。今も、手紙が来ますよ」
両者にとって、いい関係を今も継続している。悪い所なんて何一つないのだ。
「それ、いつまで続けるんだ?」
「楽しいから、ずっとです。まあ、その内、私の家族はどこかに隠されてしまうでしょうね。それまでは、続けます」
私の執着は強い。私の血の繋がらない家族の存在は、帝国の危機となるだろう。ラインハルト様はしないが、次の皇帝は、私から家族を隠すだろう。その時までは、家族ごっこを続けるまでだ。
「まあ、でも、テラスも真面目ですね。天罰を食らいたくなくて、命令に従うなんて」
「考えてもいなかった。皇族の命令は絶対だ、と思い込んでいたからな」
「それで、どうなりましたか?」
伯爵令嬢サツキの命令に従ったのだ。その後も、何かあったはずだ。
「彼女の生家に毎日のように行った。説得もした。だが、彼女は私の元に来てくれなかった」
「どうしてですか? こう言ってはあれですが、テラス、見た目は美男子ですよ。今でも、若い女性はテラスに見惚れます」
「彼女は、その、見た目で惑わされるような、軽い女ではなかった。物凄く、理性的で、頭が良かったんだ」
「そういう人ほど、簡単に口説き落とせそうですが」
「皇帝陛下でさえ、手が出せなくて凹ませた女だぞ!?」
「へー、ラインハルト様、テラスの思い人に手を出そうとしたんだ」
後で尋問だ。いつ頃だ? しっかり聞き出してやる、あの親父。
私の表情が怖くなったのだろう。テラス、気まずい、みたいに顔を背ける。悪いのは、過去の女癖の悪いラインハルト様ですから。
「そこまで芯のしっかりした女性ですか。まさに、テラスの好みですね。テラスは礼儀のしっかりした、芯の強い女性に対しては、随分と丁寧に対応していますからね」
「見苦しくないだけだ。サツキは、本当に素晴らしい女性なんだ。礼儀作法も完璧、話術も巧みだ。ただ、ちょっと口が悪い。それも、後でわかったが、計算ずくのわざとだ。わざと、相手が怒るようなことをいうんだ」
「新聞で出ていましたが、あの最悪な父、義母、義妹は随分とサツキを虐待していたそうですね。証言まで出ていたとか。あれで、一気に悪女から悲劇の令嬢へ転身ですよ」
「サツキはそれを表沙汰にすることを望んでいなかった。だいたい、あの新聞も、血族の煽りも、全て、サツキがやったことだ」
「死んだ人には出来ませんよ」
「生きてたんだ。彼女の死体だと見せられたのは、真っ赤な偽物だ。彼女に頼まれたから、本物と私が証明した」
「そうなのですか!?」
そうなると、サツキという女性の印象はがらりと変わってしまう。
悲劇の令嬢だったのが、何か裏で画策しているような悪女っぽくなる。
「サツキは復讐にとらわれていた。だから、私はその復讐に手を貸したんだ。あの小説、戯曲、舞台を作ったのは私だ」
「どうして、魔法使いをいれなかったのですか?」
小説も戯曲も舞台も、魔法使いは出てこない。出てくるのは、皇族、貴族、騎士だ。しかも、最後は騎士と結ばれる終わり方である。
「表に出ている情報から、そうした」
「そこくらい、魔法使いをいれて、魔法使いと結ばれました、でいいではないですか。サツキにそう頼まれたのですか? というか、サツキと相談して、決めたんですよね?」
「サツキは、生家から追い出されてずっと、行方不明だ。手紙で作ってほしい、と頼まれただけだ」
「そうだったのですか。だったら、猶更、魔法使いと結ばれました、にすれば良かったのに」
「だから、表の情報には、魔法使いが出てなかったんだ!!」
「そんなの、関係ないですよ。テラスが手がけるんですよ。これはきっと、サツキの手紙の返事になりましたよ」
「っ!?」
あー、これは、経験値もそうだけど、娯楽に目を向けなかった弊害ですね。
大衆小説や、そこら辺の平民とかと話していると、こういう話は出てきたりする。平民のほうが、夢見がちなんだ。
「だから、アルロと結婚したのか」
そうか、サツキは騎士と結婚したのか。それはテラスにとって、とんでもない衝撃ですね。小説、戯曲、舞台の話がそのまま、現実になったわけである。
「でも、最後は側に来たんですね。良かったではないですか」
「たまたまだ。本当に偶然、皇帝陛下のハーレムに来たんだ」
「へー、そうなんだー」
後で、もっと詳しく、ラインハルト様に聞こう、ハーレムのこと。
私の様子を見て、テラスは失言だと気づいた。いやいや、ラインハルト様が全部悪いんですよ。女遊びしたくて、秘密裡にハーレムなんか作ったんだ。なのに、私に随分な悪戯してくれたんだからね。ずっと、ハーレムで女遊びしてれば良かったのにね!!
ちょっと苛っとするけど、そこは我慢しよう。今はテラスとお話中だ。
「ラインハルト様、の、ハーレム、に来たとして、そのまま、テラスが囲ったんですよね」
「サツキは、最後までハーレムから出なかった」
「ということは、ラインハルト様のお手付きですか」
あの男、もう二度と私に触らせない。天罰食らってでも、拒否してやる。
「いや、手はついてない。だから、安心しなさい。私のために、怒ることはない」
「でも、囲ってたんですよね、テラスの大事な人を」
「そうなるな」
「あの男、どうせ、隙あらば、と狙ってたんでしょうね。でなければ、力づくでハーレムから追い出せばいいことではないですか!?」
絶対にそうに違いない!! あの男、皇帝だから、思い通りにするためには、あの手この手を使うんだよ。
「ハガル、落ち着きなさい。あのハーレムに入れるのは、皇帝陛下と私のみだ。女は、一度入ったら、二度と出られない。連絡手段すら封じ込められた鳥かごだ」
「ラインハルト様が力づくでやれば良かったではないですか。やらないってことは、そういうことなんですよ、あの男は!?」
「お前はすぐ嫉妬する。お前に出会う前の話だろう」
「嫉妬ではありません。イラっとしただけです」
「わかったわかった。ともかく、不可能だ。皇帝陛下は知らなかったんだ。サツキが皇族で、妖精の契約がされていないことに。あのハーレムに入る女たちは、妖精の契約が施されている。あそこから出るのは不可能なんだ。だから、サツキは死んで出てきたんだ」
「だったら、テラスが力づくでいけば良かったのに。腕っぷしがあります。魔法はなくても、力づくで解決出来ましたよ」
「比べられて負けたら、立ち直れないじゃないか」
「その、アルロ、ですか?」
頷くテラス。サツキの夫に負けるって、何のことだ?
「テラスは、サツキに嫌われていましたか?」
「嫌われて、いない、と、思いたい。夜は一緒に眠っていたしな」
「なんだ、やることやってたんですね」
「お前は、下品なこと言って。いいか、私とサツキは、閨事なんてやってない!!」
「どうして!? すぐそこにいるのに、手を出さなかったのですか!!」
驚きだ。私なんて、買った女全てに手をつけている。ほら、金で買ったんだから、絶対にやることはやるよ。
「お前は、その綺麗な顔で、やってることは下品すぎるぞ!!」
「何を言ってるのですか。手を出さないなんて、女性に失礼ですよ!! いいですか、相手は待ってたはずです。だって、一緒に眠ったんですよね。絶対に待ってましたよ。私だったら、一週間くらいで手を出しますね」
「ハガル!!」
「でなけりゃ、金を払ったわけでもないのに、ずっと側にいてくれませんよ。結婚していた、ということは、経験だってあります。子どもではないのだから、覚悟だってしていますよ」
「………」
顔を真っ青にするテラス。ちょっと、言い過ぎたような気がする。いや、勢いだから。あと、私の意見だ。
「ほら、テラス、横になってください。もう、この話はやめましょう」
「私は、なんて、こと、を」
ボロボロと泣き出すテラス!! どうしよう!!!
これは、最後の最後に残った後悔だ。テラスは、サツキのことをずっと心のどこかで後悔していたのだ。
「命令なんて、逆らえばよかった」
天罰なんて、ちょっと痛いだけだもんね。
「無理矢理、騎士を使って、彼女を保護すればよかった」
そこは勢いだな。権力の乱用って、勢いがないと出来ないよね。
「やはり、魔法使いを出せばよかった」
我慢しちゃったんだ。
「さっさと、抱いてしまえばよかった」
そこも難しい。私は金で買った女ばかりだ。秘密の部屋にいる女には、なかなか手が出せないでいる。
「でも、良かったではないですか。骨だけでも手に入って」
「骨だけだ。後は何も残っていない」
「そんなことありませんよ。テラスとサツキしか知らない事、いっぱいあるでしょう。私が買った女たち、ラインハルト様が随分と殺してくれましたが、覚えていますよ。どれも、私と彼女しか知らないことです」
ラインハルト様は、私が地下で飼い殺しにしている女たちをどんどんと殺していっている。別に、女にはいくらだって代わりはいる。ラインハルト様がそうしたいのなら、仕方がない。
それに、女は死んでも、その女との思い出は私の中で残っている。
「私のサツキと、お前が買った女と一緒にされるのは」
あ、泣き止んだ、テラス。ちょっと怒ってる。
「どうせ、私より先に死ぬんです。ちょっと目を離していれば、死んでいます。女なんて、私にとっては、皆、同じですよ。そこに、それぞれの思い入れがあるだけです。同じではありません。似た感じの女ばかり買っていますが、接してみれば、皆、別物ですよ」
「………」
納得いかない顔をされた。
「もう、だから、テラスは経験値で負けてしまったんですよ!! 私に話したら、後悔ばっかり出てきたではないですか!?」
「お前のは、女遊びの延長だろう!!」
「そうですよ。女遊びです。いけませんか? 私はうんと長く生きます。そのお陰で、色々と経験出来ます。経験は、人生を彩らせますよ」
「お前は筆頭魔法使いだろう!! 帝国第一に生きなさい!!!」
「えー、そんなの当然ですよ。そこに、ちょっと楽しみのような息抜きをしているだけではないですか。女遊びも、賭博も、酒も、息抜きです」
「最低最悪な息抜きだな」
「楽しいのに。テラスも、もっと遊べば良かったのに」
「私は普通だ!! ハガルがおかしいんだ!!!」
「………そうですね。確かに」
過去の筆頭魔法使いの記録を思い浮かべる。確かに、皆、私みたいに遊んでいないな。人弄んでた化け物はいたけど。
「ま、テラスの後悔は聞きましたし、次は、ラインハルト様の尋問ですね」
「やめてあげなさい。ハガルに出会う前の話だ。今はきちんと皇帝している」
「私の皇帝ですから、当然ですよ。ほら、テラス、ゆっくり休んでください。もう、話すこと話して、思い残すことないでしょう」
「あるよ!! ハガル、やめてあげなさい。皇帝陛下だって、話したくないことはあるんだ」
「筆頭魔法使いに話せないことなんて、ありませんよ」
「やめてあげなさい!!」
仕方ない。テラスが亡くなってからにしよう。その場は諦めることにした。
怒ったからか、テラス、随分とすっきりした顔になっていた。
私は残念ながら、手よりも先に魔法ですね。姿の偽装が日常なので、常に魔法を発動している状態です。だから、手を出すよりも、すでに発動している魔法が動きます。妖精も優秀だから、勝手にやってくれますけどね。
皇帝ラインハルト様は私にとって、逆らえない人です。ですが、賢者テラスは、教えを乞う師のような人ですよ。いざという時は、テラスに相談していました。
なのに、今、テラスから話を聞いています。
「テラスが持っていた、あの骨壺の人が、あの悲劇の令嬢だったとは。あれ、てっきり、皇族ルイ主導での何かかと思っていました」
悲劇の令嬢と呼ばれる伯爵令嬢サツキは、帝国全土で知らぬ者はいないほど有名だ。
世間では悪女と呼ばれた伯爵令嬢サツキは、婚約者交代により、家を追い出されてしまった。よくある話である。ところが、ここからが大変な話である。婚約者交代により、伯爵家の跡取りは母親違いの義妹となったのだ。侯爵家の婚約者を持つことで、後ろ盾となったのだ。
しかし、この義妹、伯爵家の血筋ではなかったのだ。
帝国は、跡取りとして認めるのは血族のみである。万が一、子がいなければ、遠縁から養子養女をとることとなっている。ともかく、血筋だ。なのに、跡継ぎ交代で発表された義妹には、一滴も伯爵家の血が流れていないのだ。そのことに気づいた血族たちが帝国に訴えた。これが、お家乗っ取りの事件となったのだ。
ただのお家乗っ取りだから、これもよくある話だ。内々で処理されるはずだったのだ。ところが、このお家乗っ取り事件を帝国中の新聞社が取り上げた。サツキの元婚約者は義妹と婚約したのだが、婚約前から浮気していた、なんてことまで取り上げられたのだ。さらに、このお家乗っ取りを題材とした小説、戯曲、舞台まで発表された。これにより、文字も読めない平民、貧民まで知れ渡ることとなったのだ。
こんな大騒ぎ、何かあったに違いないのだ。とんでもない後ろ盾がない限り、帝国中を騒がせることなんて出来ない。
このお家乗っ取り事件、帝国も関わっているのは明らかである。今でも毎年、帝国中では年に一度、戯曲や舞台の発表が行われている。そうすることで、悲劇の令嬢である伯爵令嬢サツキは今も忘れられていない。
そんな女性が、まさか、テラスに関わりがあるとは、私は思ってもいませんでした。
「それで、サツキ嬢とテラスは、どのような関係なのですか? 骨まで囲ったんですから、深い仲だったのでしょう」
「私の一生に一人の女性です」
「………」
「どうかしましたか?」
私の反応に、テラスは訝しんだ。きっと、もっと違う反応を予想していたのだろう。
私は、呆然としてしまいました。テラス、もうすぐ寿命です。ベッドで弱っている所で、本音を言ってしまっていいのかどうか、迷いました。何せ、私の人生経験って、テラスに比べれば、まだまだ若いですから。実際、年齢的には若輩者なんですよね。
ですが、どうしても言いたい、と私は顔に出てしまっているのでしょう。テラスは穏やかに笑います。
「言いたいこと、言っていいですよ。私もそう長くはありませんし」
「そうですか。では、質問です。テラスは女性とのお付き合い、どれくらいありますか?」
「サツキ一人です」
「………」
「どうかしましたか?」
言っていいかどうか、迷う。本当のこと言ったら、ショックで、死んじゃうかもしれません。
私は見るからに悩んでいるとわかる仕草をします。だって、悩むしかないでしょう。私とテラスでは、生きた時代とか、色々と違うかもしれませんよ。ですが、テラスのほうが普通だと言われてしまえば、そうなのでしょう。
「ハガル、言いたいことははっきり言いなさい」
「怒ったりませんか?」
「内容によります」
「だったら、黙秘します」
相手は弱っているといっても、テラスだ。しっかり鍛えているから、殴られると、痛いんだもん。
だけど、テラスとしては、気になるのですよね。私だって、テラスとサツキ嬢がどんな関係だったか知りたい!! それを聞き出すためには、まず、私が本音を話さないといけないのですよね。殴られよう。
「テラスは、その、女性経験が、それまでなかったんですね。驚きました」
「そうですか? 筆頭魔法使いは、ほら、表向き、結婚出来ませんから、色恋に最初から興味もありませんでした」
「そうか、テラスは魔法使いに育てられましたからね」
私とテラスの大きな違いに気づきました。
私は今でこそ、生家とは縁遠くなってしまいましたが、筆頭魔法使いとしての立場が表立つ前までは、見習い魔法使いとして、普通に生家を行き来していました。しかも、かなり外で遊んでいましたから、平民の常識や知識が豊富です。
「ただの人はすぐ死んでしまいますから、生存本能が高いのかもしれませんね」
「どういうことですか?」
「色恋ですよ。私くらいの年頃で、それなりに異性とのお付き合いを一度や二度、している者は普通にいます」
「っ!?」
あ、やべ。言ってはいけないことを言ってしまった感じがした。
そう、テラス、経験値が足りないのだ。そこで、過去の女の話である。死の際で話すのだから、完全な懺悔だ。
伯爵令嬢サツキに関して、物凄い後悔があるのだろう。それは、聞かなくてもわかる。
伯爵令嬢サツキの顛末は有名である。小説、戯曲、舞台では幸せになりました、で終わるが、現実は違う。サツキは生家を追い出されて、その後、殺人死体として発見されたのだ。あまりに憐れな最後だから、小説、戯曲、舞台の中だけでも幸せであれ、という締めがされる。
テラスが骨壺でしか手に入れられなかったというのだ。これは、後悔しかないだろう。そこには、経験値のなさが関わってきている。
私はまだ、そこまでは言っていない。しかし、私の話をちょっと聞いて、テラスも気づいたのだ。自らの経験値のなさが、サツキを死なせたのだと。
「私は、テラスと伯爵令嬢サツキの馴れ初めを知りません。物語の上でも、魔法使いが出ませんから、秘密の関係だったのですか?」
「そうです。サツキは、貴族に発現した皇族でした」
「だったら、さっさと城に入れてしまえば良かったではないですか」
貴族に発現した皇族は、基本、保護対象である。それは、通例だ。城での保護でなくても、きちんとした扱いを受けられる立場になる。
しかし、テラスが語るまで、伯爵令嬢サツキが皇族だったなんて、私すら知りませんでした。
「皇族であることを隠すように、私は命じられました。サツキが皇族であることを知る者は、皇帝陛下のみです」
「ラインハルト様は知っていたのですか。でしたら」
「サツキの死後ですよ」
「あー、それは、また。あ、でも、ラインハルト様には話せなかったのですか? ラインハルト様は、今でも皇族最強の血筋ですよ」
「サツキは、それを越えていました」
「それはまた、惜しいことをしましたね。そこまでの血筋であれば、皇族の血筋を健全とする、良い存在となったでしょうに」
貴族の中に発現する皇族は、濃くなり過ぎた皇族の血筋をいい感じに薄める役割を持つ。だから、丁重に扱わなければならないのだ。
「テラスが先手をとられるとは、サツキは男を手玉にとる才能があるのですね」
「たまたまです。二人だけの秘密だ、と言われて、私は喜んでしまいました」
なるほど。伯爵令嬢サツキは、たまたま、命じたにすぎない。血筋の濃さをサツキは知っていたわけではないだろう。本当に偶然である。
「だったら、権力に物を言わせて、連れて来てしまえば良かったではないですか」
「っ!?」
あ、やべ。また余計なこと言っちゃった。
これ、思ってもいなかったんだ。私は普通にやってるよ。今、筆頭魔法使いの屋敷の秘密の部屋には、私が最も執着を持つ女を囲っている。囲うために、権力と金に物を言わせたのだ。
「命令に違反する恐れを感じていました」
「ちょっと痛いだけではないですか」
「っ!?」
あ、また、言っちゃった。もう、遠慮するのはやめよう。どうせ、言ってしまうんだから。
「命令に違反したって、痛い程度です。積み重ねられると、天罰食らいますが、それだって、許してもらえば、どうにかなります」
「お前は天罰まで食らったな」
「えへへへへ」
笑うしかない。私はラインハルト様の命令を随分と無視している。
「仕方ありません。あのどうしようもない父を見捨てろ、なんていうんですから」
「当然だろう!? そのせいで、妖精金貨まで出したんだぞ!!」
私が血の繋がらない父を甘やかしすぎて、とうとう、妖精金貨まで発生させたのだ。その煽りで、父も妖精金貨に呪われてしまい、そのまま、どこかに連れて行かれてしまった。
「後悔はしています。もっと監視を付ければよかった、と」
「そっちか!?」
残念ながら、私はあのどうしようもない父に金を渡すことはやめないのだ。今も後悔していない。
「私は家族といっても、血の繋がりがありません。いつ、切られるかわかりませんから、金で繋がるしかありませんよ」
それを聞いたテラス、ドン引きだ。えー、そんな顔されるなんて。
「そこまで執着する価値、あの男にはないだろう!!」
「うーん、これ、聞いた話なのですが、クズ男に貢ぐ女って、そのクズ男がたまに優しくなる、そういうトコに情が絆されるそうです。それです」
「わからん!!」
「同期にも言われました。それどころか、頭おかしいんじゃないか、と心配されましたよ。仕方ありません。渡す金なんて、私にとっては大した額でありませんから。ほら、筆頭魔法使いの給金て、貴族よりも上ですよ」
金銭感覚がちょっと狂っているのだ。だから、渡しても、そんなに気にならない。ほら、ちょっと減っても誤差だから。
「ハガル、相手は先に死ぬんだぞ。そこまで執着する価値があるのか?」
「テラス、暇つぶしですよ」
また、ドン引きされた。えー、そういうものなのに。
「私は家族でないと知ったから、家族が欲しくなりました。ですが、血の繋がりがないから、家族になれません。だから、家族ごっこで遊ぶことにしたんです。あのどうしようもない父も、遊びの上では、大事な父役ですよ」
「そんな、人を弄ぶような真似を」
「相手はそれで喜んでいます。私は良い兄、良い息子をしています。きちんと家のことも手伝い、兄としての威厳を見せて、だけど、ダメな父親のような所も持っていて、そうやって、家族の一員のような顔をしています。誰も、私のことを拒絶しませんでした。今も、手紙が来ますよ」
両者にとって、いい関係を今も継続している。悪い所なんて何一つないのだ。
「それ、いつまで続けるんだ?」
「楽しいから、ずっとです。まあ、その内、私の家族はどこかに隠されてしまうでしょうね。それまでは、続けます」
私の執着は強い。私の血の繋がらない家族の存在は、帝国の危機となるだろう。ラインハルト様はしないが、次の皇帝は、私から家族を隠すだろう。その時までは、家族ごっこを続けるまでだ。
「まあ、でも、テラスも真面目ですね。天罰を食らいたくなくて、命令に従うなんて」
「考えてもいなかった。皇族の命令は絶対だ、と思い込んでいたからな」
「それで、どうなりましたか?」
伯爵令嬢サツキの命令に従ったのだ。その後も、何かあったはずだ。
「彼女の生家に毎日のように行った。説得もした。だが、彼女は私の元に来てくれなかった」
「どうしてですか? こう言ってはあれですが、テラス、見た目は美男子ですよ。今でも、若い女性はテラスに見惚れます」
「彼女は、その、見た目で惑わされるような、軽い女ではなかった。物凄く、理性的で、頭が良かったんだ」
「そういう人ほど、簡単に口説き落とせそうですが」
「皇帝陛下でさえ、手が出せなくて凹ませた女だぞ!?」
「へー、ラインハルト様、テラスの思い人に手を出そうとしたんだ」
後で尋問だ。いつ頃だ? しっかり聞き出してやる、あの親父。
私の表情が怖くなったのだろう。テラス、気まずい、みたいに顔を背ける。悪いのは、過去の女癖の悪いラインハルト様ですから。
「そこまで芯のしっかりした女性ですか。まさに、テラスの好みですね。テラスは礼儀のしっかりした、芯の強い女性に対しては、随分と丁寧に対応していますからね」
「見苦しくないだけだ。サツキは、本当に素晴らしい女性なんだ。礼儀作法も完璧、話術も巧みだ。ただ、ちょっと口が悪い。それも、後でわかったが、計算ずくのわざとだ。わざと、相手が怒るようなことをいうんだ」
「新聞で出ていましたが、あの最悪な父、義母、義妹は随分とサツキを虐待していたそうですね。証言まで出ていたとか。あれで、一気に悪女から悲劇の令嬢へ転身ですよ」
「サツキはそれを表沙汰にすることを望んでいなかった。だいたい、あの新聞も、血族の煽りも、全て、サツキがやったことだ」
「死んだ人には出来ませんよ」
「生きてたんだ。彼女の死体だと見せられたのは、真っ赤な偽物だ。彼女に頼まれたから、本物と私が証明した」
「そうなのですか!?」
そうなると、サツキという女性の印象はがらりと変わってしまう。
悲劇の令嬢だったのが、何か裏で画策しているような悪女っぽくなる。
「サツキは復讐にとらわれていた。だから、私はその復讐に手を貸したんだ。あの小説、戯曲、舞台を作ったのは私だ」
「どうして、魔法使いをいれなかったのですか?」
小説も戯曲も舞台も、魔法使いは出てこない。出てくるのは、皇族、貴族、騎士だ。しかも、最後は騎士と結ばれる終わり方である。
「表に出ている情報から、そうした」
「そこくらい、魔法使いをいれて、魔法使いと結ばれました、でいいではないですか。サツキにそう頼まれたのですか? というか、サツキと相談して、決めたんですよね?」
「サツキは、生家から追い出されてずっと、行方不明だ。手紙で作ってほしい、と頼まれただけだ」
「そうだったのですか。だったら、猶更、魔法使いと結ばれました、にすれば良かったのに」
「だから、表の情報には、魔法使いが出てなかったんだ!!」
「そんなの、関係ないですよ。テラスが手がけるんですよ。これはきっと、サツキの手紙の返事になりましたよ」
「っ!?」
あー、これは、経験値もそうだけど、娯楽に目を向けなかった弊害ですね。
大衆小説や、そこら辺の平民とかと話していると、こういう話は出てきたりする。平民のほうが、夢見がちなんだ。
「だから、アルロと結婚したのか」
そうか、サツキは騎士と結婚したのか。それはテラスにとって、とんでもない衝撃ですね。小説、戯曲、舞台の話がそのまま、現実になったわけである。
「でも、最後は側に来たんですね。良かったではないですか」
「たまたまだ。本当に偶然、皇帝陛下のハーレムに来たんだ」
「へー、そうなんだー」
後で、もっと詳しく、ラインハルト様に聞こう、ハーレムのこと。
私の様子を見て、テラスは失言だと気づいた。いやいや、ラインハルト様が全部悪いんですよ。女遊びしたくて、秘密裡にハーレムなんか作ったんだ。なのに、私に随分な悪戯してくれたんだからね。ずっと、ハーレムで女遊びしてれば良かったのにね!!
ちょっと苛っとするけど、そこは我慢しよう。今はテラスとお話中だ。
「ラインハルト様、の、ハーレム、に来たとして、そのまま、テラスが囲ったんですよね」
「サツキは、最後までハーレムから出なかった」
「ということは、ラインハルト様のお手付きですか」
あの男、もう二度と私に触らせない。天罰食らってでも、拒否してやる。
「いや、手はついてない。だから、安心しなさい。私のために、怒ることはない」
「でも、囲ってたんですよね、テラスの大事な人を」
「そうなるな」
「あの男、どうせ、隙あらば、と狙ってたんでしょうね。でなければ、力づくでハーレムから追い出せばいいことではないですか!?」
絶対にそうに違いない!! あの男、皇帝だから、思い通りにするためには、あの手この手を使うんだよ。
「ハガル、落ち着きなさい。あのハーレムに入れるのは、皇帝陛下と私のみだ。女は、一度入ったら、二度と出られない。連絡手段すら封じ込められた鳥かごだ」
「ラインハルト様が力づくでやれば良かったではないですか。やらないってことは、そういうことなんですよ、あの男は!?」
「お前はすぐ嫉妬する。お前に出会う前の話だろう」
「嫉妬ではありません。イラっとしただけです」
「わかったわかった。ともかく、不可能だ。皇帝陛下は知らなかったんだ。サツキが皇族で、妖精の契約がされていないことに。あのハーレムに入る女たちは、妖精の契約が施されている。あそこから出るのは不可能なんだ。だから、サツキは死んで出てきたんだ」
「だったら、テラスが力づくでいけば良かったのに。腕っぷしがあります。魔法はなくても、力づくで解決出来ましたよ」
「比べられて負けたら、立ち直れないじゃないか」
「その、アルロ、ですか?」
頷くテラス。サツキの夫に負けるって、何のことだ?
「テラスは、サツキに嫌われていましたか?」
「嫌われて、いない、と、思いたい。夜は一緒に眠っていたしな」
「なんだ、やることやってたんですね」
「お前は、下品なこと言って。いいか、私とサツキは、閨事なんてやってない!!」
「どうして!? すぐそこにいるのに、手を出さなかったのですか!!」
驚きだ。私なんて、買った女全てに手をつけている。ほら、金で買ったんだから、絶対にやることはやるよ。
「お前は、その綺麗な顔で、やってることは下品すぎるぞ!!」
「何を言ってるのですか。手を出さないなんて、女性に失礼ですよ!! いいですか、相手は待ってたはずです。だって、一緒に眠ったんですよね。絶対に待ってましたよ。私だったら、一週間くらいで手を出しますね」
「ハガル!!」
「でなけりゃ、金を払ったわけでもないのに、ずっと側にいてくれませんよ。結婚していた、ということは、経験だってあります。子どもではないのだから、覚悟だってしていますよ」
「………」
顔を真っ青にするテラス。ちょっと、言い過ぎたような気がする。いや、勢いだから。あと、私の意見だ。
「ほら、テラス、横になってください。もう、この話はやめましょう」
「私は、なんて、こと、を」
ボロボロと泣き出すテラス!! どうしよう!!!
これは、最後の最後に残った後悔だ。テラスは、サツキのことをずっと心のどこかで後悔していたのだ。
「命令なんて、逆らえばよかった」
天罰なんて、ちょっと痛いだけだもんね。
「無理矢理、騎士を使って、彼女を保護すればよかった」
そこは勢いだな。権力の乱用って、勢いがないと出来ないよね。
「やはり、魔法使いを出せばよかった」
我慢しちゃったんだ。
「さっさと、抱いてしまえばよかった」
そこも難しい。私は金で買った女ばかりだ。秘密の部屋にいる女には、なかなか手が出せないでいる。
「でも、良かったではないですか。骨だけでも手に入って」
「骨だけだ。後は何も残っていない」
「そんなことありませんよ。テラスとサツキしか知らない事、いっぱいあるでしょう。私が買った女たち、ラインハルト様が随分と殺してくれましたが、覚えていますよ。どれも、私と彼女しか知らないことです」
ラインハルト様は、私が地下で飼い殺しにしている女たちをどんどんと殺していっている。別に、女にはいくらだって代わりはいる。ラインハルト様がそうしたいのなら、仕方がない。
それに、女は死んでも、その女との思い出は私の中で残っている。
「私のサツキと、お前が買った女と一緒にされるのは」
あ、泣き止んだ、テラス。ちょっと怒ってる。
「どうせ、私より先に死ぬんです。ちょっと目を離していれば、死んでいます。女なんて、私にとっては、皆、同じですよ。そこに、それぞれの思い入れがあるだけです。同じではありません。似た感じの女ばかり買っていますが、接してみれば、皆、別物ですよ」
「………」
納得いかない顔をされた。
「もう、だから、テラスは経験値で負けてしまったんですよ!! 私に話したら、後悔ばっかり出てきたではないですか!?」
「お前のは、女遊びの延長だろう!!」
「そうですよ。女遊びです。いけませんか? 私はうんと長く生きます。そのお陰で、色々と経験出来ます。経験は、人生を彩らせますよ」
「お前は筆頭魔法使いだろう!! 帝国第一に生きなさい!!!」
「えー、そんなの当然ですよ。そこに、ちょっと楽しみのような息抜きをしているだけではないですか。女遊びも、賭博も、酒も、息抜きです」
「最低最悪な息抜きだな」
「楽しいのに。テラスも、もっと遊べば良かったのに」
「私は普通だ!! ハガルがおかしいんだ!!!」
「………そうですね。確かに」
過去の筆頭魔法使いの記録を思い浮かべる。確かに、皆、私みたいに遊んでいないな。人弄んでた化け物はいたけど。
「ま、テラスの後悔は聞きましたし、次は、ラインハルト様の尋問ですね」
「やめてあげなさい。ハガルに出会う前の話だ。今はきちんと皇帝している」
「私の皇帝ですから、当然ですよ。ほら、テラス、ゆっくり休んでください。もう、話すこと話して、思い残すことないでしょう」
「あるよ!! ハガル、やめてあげなさい。皇帝陛下だって、話したくないことはあるんだ」
「筆頭魔法使いに話せないことなんて、ありませんよ」
「やめてあげなさい!!」
仕方ない。テラスが亡くなってからにしよう。その場は諦めることにした。
怒ったからか、テラス、随分とすっきりした顔になっていた。
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