魔法使いの悪友

shishamo346

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堕ちた凶星

賢者の忠告

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 賢者テラスは、それから、よく、屋敷にやってきた。目的は、ルキエルだ。
 ルキエルは気まぐれだ。もう、私の都合とか、そういうものは無視である。だから、読めない。結果、テラスは定期的に屋敷にやってくるのだ。
 ルキエルはテラスを見ると、笑顔で寄っていく。
「おっさん、今日もいたんだ!!」
 相手は賢者テラスと知らず、ルキエルはとんでもない呼称をつける。だけど、笑顔でやってくるルキエルに、テラスは優しい笑顔を向ける。無邪気に笑うルキエルに、サツキの面影を見ているのかもしれない。
 賢者テラスは、わざわざ、妖精を聖域に待機させてまで、妖精憑きであることを隠した。まあ、帝国の騎士団でも勝てない腕っぷしの男だ。テラスを強襲した相手は、命がないな。
 そんなすごい人だとは知らないルキエルは、笑顔で、壊れた道具が収納された倉庫に一緒に歩いて行く。
「おっさん、道具のこと詳しいよな。物凄く勉強になる」
「詳しいだけで、道具の分解も、修理も出来ませんがね」
「図面の引き方も教えてもらったから、助かる。ほら、これ、音鳴らすだけの役立たずの道具の図面」
 ルキエルは出来たばかりの図面をテラスに見せた。
「道具は見せてもらいました。いい道具ですね」
「そう、役立たずなところがいいよな」
「役立たずだなんて。音楽は、人の心を癒しますよ」
「それは、貴族の考え方。俺みたいな底辺には、役立たず」
「………」
 考え方の違いに、テラスは苦笑する。だから、ルキエルはテラスのことをどこかの貴族と見ていた。
「あなたはもっと、自分の価値を高く見たほうがいいですよ」
「俺、貧民だから」
 あっけらかんと笑って言い切るルキエル。テラスが言いたいことは、そうではないのだ。
 ルキエルは知らない。いや、平民たちだって、下級の貴族だって知らないのだ。魔法具や魔道具は今、壊れる一方なんだということを。
 修理すら出来ない。そんな道具をルキエルは修理できるのだ。もしかしたら、ゼロから作り出すことも出来るかもしれない。
 倉庫にあるのは、珍しいガラクタだった。壊れた道具を私の父が趣味で集めたのだ。利用価値があるものから、ルキエルがいう役立たずまで、全てである。
 このまま、ガラクタとして、放置され、いつかは、捨てられる運命だった道具は、ルキエルによって生きながらえていた。
 今、ルキエルは帝国中から集められる壊れた道具を意味もわからず修理して、手放している。その意味を理解するには、ルキエルは世間知らずだ。だが、それをあえて、誰も教えない。
 私は怪我をしてから、家の仕事一切から手を引いた。お陰で、時間があるので、こうやって、ルキエルとテラスを監視している。テラスが、一体、何を考えているのかわからない。
 ルキエルは、私がいるのに気づくと、わざわざ側に来て、腕を引っ張った。
「ほら、図面、見てみろよ」
「私はもう、老眼が進んで、よく見えないんだ」
「俺のことも、そんなに見えない?」
「ルキエルのことはしっかり見えるから、心配ない」
「そうか」
 安堵するルキエル。そんなルキエルの後ろで、テラスは剣呑な表情を見せる。私は、何か、まずいことを言ったらしい。
 ルキエルとテラスで、道具のことをあーだこーだと話していると、ふと、思い出したように、ルキエルは私に話しかける。
「なあ、義体の部品って、まだ見つからないのか?」
 よりによって、賢者テラスの前で言うんじゃない!!
 私は笑顔のまま、背中がすっと冷たくなった。義体の話題は、帝国では禁忌に等しいのだ。
「そう簡単に、義体の部品なんて、見つけられるわけがないだろう」
 探してないけどな。内心で付け加えた。義体関係は、絶対に手を出してはいけないのだ。
「どうして、義体を手に入れたいのですか?」
 優しい笑顔そのままに、テラスはルキエルに訊ねた。そういえば、その理由を私も知らないな。
「え、欲しいから」
「ですが、義体は壊れていても、帝国が全て回収すると決まっていますよ。危険ですよ」
「それでも欲しいから」
 だから、私は義体を探さないのだ。口では探しているようなこと言っているが、実際は、義体関連は探していない。
 帝国は、壊れた魔道具や魔法具に関して、とやかく言わない。しかし、義体関連は、全て回収するのだ。義体は、妖精憑きさえいれば、死なない戦力になるからだ。どういう仕組みかはわからないが、義体は、妖精憑きの力で動き、壊れても、妖精憑きさえいれば直るという。
 子どもの玩具のように、ルキエルは義体を欲しがったが、絶対に探さない。
 子どもじみた理由に、しかし、テラスは退かない。
「欲しいというからには、理由があるでしょう。こっそり、教えてください」
「えー、どうしよう」
 ちらっと私を見るルキエル。え、私には教えたくない?
 まさか、隠し事されるなんて思ってもいなかった私は、かなり傷ついた。だけど、表面上は、笑顔だ。かなり年上なんだから、大らかに受け止めよう。もしかしたら、後で、テラスが教えてくれるかもしれないし。
「内緒にしますよ」
「絶対に誰にも言うなよ」
 ルキエルは、テラスの耳に小さい声で囁く。くっそ、聞こえないよ!!
 テラスは驚いたように目を見開いた。それから、憐憫をこめてルキエルを見る。それも、ルキエルに気づかれないようにだ。
 ルキエルはというと、私に知られていないか心配そうに私を伺い見る。
「聞こえていないから、心配するな」
「あんたに知られたら、親父に知られるしな」
「私だって、内緒にするぞ!!」
「どうだか」
 疑われた。そうだよ、私はルキエルのことは、全て、アルロに報告しているよ!! 仕方がない。ルキエルは、本当に、何をやらかすか読めないからな。お互い、ルキエルのことは警戒してるんだ。
「おっさんでも、義体の部品って、手に入らない?」
「義体は、さすがに禁忌に入りますからね。情報すら、封印されています」
「俺も、お袋から話で聞いたっきりだからなー。代用となる部品がないか、と色々と試してみたけど、やっぱ、義体は部品一つが特別なんだよな」
「おや、普通の道具の部品と変わらないでしょう」
「義体の素材は、特別製だと聞いた。妖精憑きの骨を混ぜてるって、お袋が言ってた。本当かな?」
「っ!?」
 テラスですら知らない話だ。たぶん、口伝か何かで伝えられているのだろう。
 しかし、ルキエルが、というより、サツキは、魔道具や魔法具について詳しいな。ルキエルの知識の根底は、サツキだ。私の知らない何かが、サツキにはあった。
 そして、テラスはサツキの秘密を知っている。だから、ルキエルが母親から聞いた話をしても、テラスは普通に受け止めている。きっと、ルキエルは、テラスとサツキに何か関係がある、とは感じているだろう。そこまで鈍い子ではない。
「ま、俺もそこまでガキじゃないし、諦めるか」
「そうしたほうがいいですよ。義体は、禁忌です。帝国に目をつけられてしまいますよ」
「あんたに迷惑かけちゃうしな」
 私の首がまた繋がった。本当に、ルキエルと関わってから、生きた心地がしないことばかりだ。





 こうして、ルキエルはやっと義体から離れてくれた。
 しかし、気になるのは、義体が欲しい理由だ。だから、ルキエルがいない所で、私は思い切って、テラスに訊ねた。
「ルキエルは、どうして、義体を欲しがったのですか? ルキエルが指定して欲しがったのは、義体だけです」
 その執着に、私は怖いものを感じた。きっと、ルキエルは、義体で何かしようとしていたのだろう。
 テラスはじっと私を見て、深いため息をついた。
「あなたのためですよ」
「私のため?」
「これ以上は言えません。ルキエルは、一見、大した力のない妖精憑きですが、考え方は、力のある妖精憑きです」
「貧民だから、常識がおかしいからな」
 私は見当違いなことを言ってしまったようだ。賢者テラスは呆れたように私を見て、深いため息をついた。
「ルキエルの隠している所業を知った時、あなたは、後悔するでしょうね。あの子は、本当に可哀想な子だ」
「出来るだけ、大切にする。ルキエルの望みは全て、私が叶える。全てだ」
 私は笑うしかない。ルキエルの望みは復讐だ。母サツキを越える復讐心で、ルキエルは家族も、貧民たちも、帝国全てを滅茶苦茶にしようとしている。
 もう、誰も殺されたサツキの復讐なんて望んでいない。それなりの年月が経てば、冷静になるし、状況も変わってくる。
 騎士という身分すら捨てて、サツキに全てを捧げたアルロだって、本心では、復讐なんて望んでいない。ただ、ルキエルに操られて、動いているにすぎないのだ。
 私も同じだ。もう、サツキの死などどうだっていい。サツキの死の復讐は、家門の滅亡だ。何せ、皇帝ラインハルトの殺害なんてことをしようとしているのだ。正気の沙汰ではない。成功したって、家門は滅ぼされるだろう。
 私の考えていることを賢者テラスはわからないだろう。まさか、皇帝ラインハルトの殺害を考えているなんて、テラスは思ってもいない。皇族の友人貴族だ。そんな物騒なこと考えないだろう、とテラスは信じ切っている。
 テラスは宙を見た。妖精がいるのだろう。私は目を向けても見えないし、声だって聞こえない。テラスは、妖精の話を聞いて、私を見る。
「ルキエルは、本来、もっと力のある妖精憑きです。大したことがない、と皆、思い込んでいますが、そうではありません。私ですら、騙されました」
「い、いや、ルキエルは、大した妖精憑きでは」
「盗ったりしません。帝国にも報告しません。誰にも言いません。あなたの家門が悪事を働いても、きっと、帝国は許すでしょう。それほどのことをあなたは無意識ではありますが、しました。おめでとう、あなたは、帝国を救った隠れた英雄だ」
 どこか、嫌味をこめて、テラスは言う。
 言っている意味が理解出来ない。私は、何もしていない。
「何を言っているのですか!? 帝国を救った英雄は、大魔法使いアラリーラです。私は、何も」
「妖精憑きの執着は、本当に恐ろしく、尊い。まさか、もうすぐ寿命を迎える私が、こんなものを見せられるとは、思ってもいませんでした。ルキエルを見て、思います。私がサツキに逃げられたのは、仕方がない。私は、捨てられて当然だ」
 そう言って、テラスは帰っていった。





 テラスの寿命が迫っている、なんて話を聞いた後、とんでもない事が起こった。
 王都の貧民街では、丁度、勢力が二分されていた。ルキエルが皇帝ラインハルトへの復讐に執着するため、それを反対する勢力が出来上がったのだ。そのため、血を流すこととなったのだ。
 ルキエルは我慢しない。男としての自尊心がバカ高いので、妖精憑きの力で身体強化して、戦うのだ。力がないが、技術を持っているルキエルは、妖精憑きの力使えば無敵だ。
 だから、誰も、ルキエルを心配していない。反動で、三日ほど、動けなくなるが、ルキエルが大人しくさせられるので、むしろ、そのほうがいいのだ。ともかく、動けると、ルキエルは何をするかわからない。
 だが、とうとう、身体強化の反動をルキエルは受けた。ルキエルの心臓が止まったのだ。
 いつもの通り、ルキエルは反動で悶絶していたという。だけど、その時の反動で、ルキエルは動かなくなった。見守っていたのはルキエルが拾って育てた貧民ナナキだ。ナナキはルキエルの異常をすぐ察知して、人を呼んだという。
 ルキエルの心臓が止まってしばらくして、呼ばれたアルロが何かして、ルキエルは再び、息を吹き返した。しかし、無事ではかったのだ。
 そういう話をされて、私はいてもたってもいられず、ルキエルがいる屋敷へと行った。どちらにしても、アルロの使者は、私を連れて来るつもりだった。すでに、馬車まで、用意されていた。
 私は馬車ではなく、馬で行った。そんな遅い足では、逸る気持ちが抑えられない。
 我が家にいる一番、足の速い馬で、私は平民地区を駆け抜け、貧民街に近い屋敷に馬を捨てた。盗まれても気にしない。繋がず、そのまま、屋敷に入り、案内なしで、ルキエルの私室に入った。
 ルキエルはいた。起きて、枕を抱えて、不安そうな顔をしていた。
 無事な姿に、私はベッドの脇に膝をついて、ルキエルを真正面から見た。
「良かった、生きてる」
「………」
「もう、無茶なことはするな。戦いは、アルロに任せておけばいいんだ。お前は、大人しく家にいなさい。暇なら、私の所に来ればいい。暇つぶしくらい、いくらだって付き合ってやる」
「………」
「ルキエル?」
「あんた、誰?」
「っ!?」
 私はルキエルの肩を掴んだ。途端、ルキエルは怯えて、私から離れようとした。
「たく、勝手に入るな」
「アルロ、どういうことだ!?」
「説明する前に」
「来るな!!」
 私とアルロが口論していると、ルキエルが枕をアルロにぶつけた。見れば、ルキエルは心底、アルロに怯えていた。ガタガタと震えて、また、何かを引き寄せて、ルキエルは布団にもぐりこむ。
 どうなっているのかわからない私をアルロは力づくで引っ張って、ルキエルの私室から出した。
 いつもの密談する部屋に私は連れて行かれた。私を落ち着かせるためだろう、酒なんか出された。
「一体、何がどうなってるんだ?」
 私のことを覚えていないし、アルロのことを拒絶している。心臓が止まって、何かあったのだろう。
「心臓が止まった時間が長すぎたんだろう。俺たち家族のことも覚えていない。だが、本能的にわかっているようで、俺のことを嫌っている」
「そうか。じゃあ、私のことも嫌っているな」
 アルロを嫌う理由はただ一つしかない。アルロは毎夜、ルキエルに閨事を強要している。ルキエルはそれがイヤで逃げたのだ。今は受け入れているが、それも、洗脳の上だ。本心では、ルキエルは拒絶している。
 私も同じだ。珍しい道具を提供する代わりに、ルキエルに閨事を強要している。最近は、そうでなくても、私はルキエルを女のように抱いている。私もまた、アルロと同じだ。
「いや、お前はそうじゃないだろう。お前が部屋に入っても、拒絶しなかった。俺は、部屋に入ってすぐ、拒絶された」
「たまたまだろう。次、入ったら、拒絶される。そうに違いない」
「もう一度、行ってみろ」
「………拒絶されたら、立ち直れない」
 アルロに対する拒絶を見ているので、私は恐怖でしかない。
 ルキエルは記憶を失った代わりに、本心が表に出ているのだろう。ここで、拒絶されるということは、それがルキエルの本心なのだ。
 記憶の中にいるルキエルは、私の過去に嫉妬して、懐いて、と私のことを好いているように見える。しかし、それは作っているのかもしれない。
「ルキエルは今、食事も拒絶している。もし、お前でどうにかなるなら、助けてほしい」
 アルロが私に深く頭を下げた。こう言われてしまうと、私も試すしかない。
 再び、ルキエルの私室の前に行けば、睨んでくるルキエルの妹レーリエットと弟ロイドと対峙することとなった。
「お兄ちゃん、ずっと、食べてくれないの。私のことも、拒絶して」
 レーリエットはボロボロと泣き出す。その姿は、母サツキにそっくりだ。ただ、サツキは泣くことなんてない。いつも、笑っている。
 私はレーリエットが持っている粥が入った食器を受け取って、覚悟を決めて、ルキエルの私室に入った。
 ルキエルが何か投げつけてくることを覚悟していたが、何もなかった。ルキエルは、私が入ってくるのを知っているように、側までやってきて、私の腕を引っ張った。
「腹減ってたんだ。手、震えるから、食べさせてよ」
 ベッドに座って、当然のように、私に給仕を要求する。
 手が震えるというのは、本当だ。ルキエルの手は、小刻みに震えている。心臓が止まったんだ。何が起こってもいかしくない。
 私は適当な椅子をベッドの側に引っ張ってきて、座り、ルキエルに粥を食べさせた。
「私は、そんなにうまくないぞ」
「汚れたら、妖精? が綺麗にしてくれるって」
 妖精憑きの力はそのままだ。ルキエルは私の目に見えない妖精を目で追いながら笑う。
 私は汚さないようにしながら、ルキエルに粥を食べさせた。
 食べ終わると、ルキエルは私の手をとって、頬に寄せる。
「あんたは怖くないな。どうしてかな?」
「こう見えても、妖精殺しの伯爵だ」
「何それ?」
 本当に、ルキエルはなにもわからないようで、首を傾げる。私は恐ろしい事を言っているというのに、ルキエルは何もわかっていないのだ。
「なあ、いつまでいる? もう帰るのか?」
 そして、ルキエルは縋るように私を見てきた。
「また、明日、ここに来よう」
「帰っちゃうのか!?」
「………私の屋敷に連れて行ってやりたいが、お前の体は万全ではない。連れて行けない」
 ルキエルの手は震えている。恐怖とかではない。心臓が止まったことで、体の操作がうまく出来ないのだ。
 動かすことは危険だ。だから、私はルキエルの手を離した。
「妖精の力を使えば、大丈夫だから!! さっきだって、歩けた!!!」
「っ!?」
 歩くことすら出来ないほど、ルキエルの体はおかしくなっていた。その事実に、私は離れがたくなった。
「お前の父親と話してくる。待っていなさい」
「うん、待ってる」
 無邪気に笑うルキエル。離れがたいが、まずは、順序を踏まないといけない。
 私はルキエルの私室から出た。そして、様子見で待っていたアルロにつかみかかるなり、殴った。
「ルキエルが危険になることを、二度とさせるな!!」
「………すまない」
「貴様は、サツキだけでなく、ルキエルまで、同じ過ちをするのか。大人しくさせられないから、なんて言い訳だ。大人しくさせるんだ!! いくらだって方法があるだろう。ルキエルには、帝国中にある壊れた道具の修理をさせろ。もう二度と、戦わせるな」
「わかった」
「すぐに馬車を用意しろ。ルキエルは連れて行く」
「そんな!?」
 私の要求に、とうとう、ルキエルの妹レーリエットが口を挟んできた。
 私とアルロとのやり取りで、恐怖で真っ青になりながら、レーリエットは私の前に立った。
「お兄ちゃんを連れて行かせない!!」
「何が出来る?」
「っ!?」
「我が家は、妖精殺しを生業としている。逆に言えば、妖精憑きのことをよく知っているんだ。ルキエルはただの人ではない、妖精憑きだ。そこら辺の医者では、ルキエルを治すことは出来ない」
「う、ううぅ」
 悔し涙を流すレーリエット。ただ、看病したからといって、ルキエルが回復するわけではないのだ。
 アルロは私の要求通り、馬車を呼んだ。それを確認してから、私はルキエルの私室に入った。
 ルキエルは、妖精を使って外の様子を見たのだろう。私に少し怯えた。
「ルキエルにだけは、怖いことはしない」
「………本当に?」
「ああ。ほら、私の屋敷に行こう。医者も呼ぶ。すぐに治る」
「うん」
「妖精の力は使わなくていい。私が運んでやる」
 無理に歩こうとするので、私は無理矢理、ルキエルを抱き上げた。
 ルキエルは、私の腕の中で、嬉しそうに笑い、胸に顔を寄せて、目を閉じた。
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