魔法使いの悪友

shishamo346

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堕ちた凶星

凶星

 処刑された場合、遺骨は戻らない話だった。ところが、義父マクルスの遺骨を渡す、という理由で僕は筆頭魔法使いハガルに呼び出された。
 僕一人ではない。家臣数人を連れて来るように、と言われた。行ってみれば、確かに、と納得する。遺骨なので、全て、返されるのだ。人の骨は骨壺一つでは入りきらない。いくつかの骨壺に義父マクルスの遺骨が納められていた。
 それを筆頭魔法使いの屋敷に呼ばれて、受け取ることとなった。和やかに、ハガルが淹れた茶を飲まされてである。
「マクルスの所業については、表沙汰にならないこととなりました。私の新しい皇帝が、許可をくださいましたよ。良かったですね」
「ありがとうございます」
「それもこれも、ルキエルのお陰です。あなたがたは、未来永劫、ルキエルの子々孫々まで、ルキエルに感謝して、従わなければなりません」
「? どういうことですか?」
 ハガルから、おかしなことを言われた。
 聞いていた家臣は怒りで顔を歪める。それはそうだ。ルキエルのせいで、我が家は、帝国の敵として認定されたのだ。
 ルキエル一人が我慢すれば、皆、幸せだった。しかし、ルキエルは復讐心を募らせ、全てを巻き込んで、皇帝ラインハルトを殺そうとしたのだ。
 その所業に、家門全てが怒り狂っている。
「そういえば、知らないのですよね。ルキエルがマクルスにしたこと」
「それは知っています。ルキエルが、義父上の苦痛や悪いものを取り除いていたと」
「マクルスもそうですが、お前たちも、どうして、その所業に疑問を持たなかったのですか?」
「言っている意味が、わかりません」
「マクルスは、妖精の魔法を届かない体です。それは、良い魔法も、悪い魔法も、全て、マクルスの体には届きません。怪我を治癒することすら、魔法では出来ないのですよ。なのに、ルキエルはマクルスの怪我すら治癒した」
「っ!?」
 言われて、やっと気づかされた。ちょっと力の強い妖精憑きなんだろう、なんて勝手に思い込んでいた。
 だけど、義父マクルスは、妖精の万能薬ですら回復出来ないほど、内臓全てが壊れていたのだ。ルキエルに癒される前までは、血反吐も吐いていたという。
 ルキエルが義父マクルスを癒しているのを、普通に受け止めていた。ただ、ルキエルが隠しているので、それを気づいていないふりを必死に演じていた。
 だからだろう。そんな単純なことに僕は気づかなかった。僕よりも、長く義父マクルスに仕えていた家臣たちでさえ、気づかなかったのだ。
「見ますか? ルキエルの隠し事を。これを見たマクルスは、号泣しましたね。それから、ルキエルの治癒も拒絶して、処刑ですよ」
「見せるって、どうやって」
「マクルスには嫌がらせで夢で見せてあげました。ですが、投影機で見せることも出来るのですよ。こんなふうに」
 ハガルはすでに準備していた。魔道具を使って、真っ白な壁に、何かを映し出した。
 それは、幼いルキエルだ。





 ルキエルは人の大きさの妖精と会話していた。その側には、お腹の大きい母サツキと、ルキエルの弟ロイドが眠っていた。
「もう、やっと寝た」
 ルキエルは幼児のくせに、疲れた顔をしていた。
「ルキエルがそんなに、頑張らなくていいだろう」
「そうそう、お前には、兄と姉がいるんだからな」
 妖精たちは、ルキエルにそういう。確かにそうだ、ルキエルよりも年上の兄と姉がいるのだ。
 妖精に頭を撫でられて喜ぶルキエル。
「けど、マクルスと約束したから。弟の面倒をしっかりみるんだぞ、て言われた」
「マクルスは実の兄から蔑まれていた、とかいう話をしていたな」
「いい兄になれ、と言われた」
「お前がいい兄になったって、お前の兄と姉はいい兄と姉じゃないぞ。ルキエルのこと、これっぽっちも面倒見てないじゃないか」
「確かに」
 言われて気づくルキエル。空回りしていることに、ルキエルは気づいてしまった。
 だけど、ルキエルにべったりとくっついて眠っている弟ロイドを見て、溜息をついた。
「けど、マクルスと約束した。マクルス、次来た時も遊んでくれるって言ってくれた」
「次ねー。あの男、そう長く生きないよ」
「どうして!?」
 心底、驚愕するルキエル。妖精たちがマクルスの寿命が短い事実を口にしたので、今にも泣きそうな顔になる。
 そんなルキエルを見て、妖精たちは慌てた。
「ほら、人なんて、すぐ死ぬもんだよ」
「そうそう、妖精憑きに比べると、ただの人はすぐ死ぬから、仕方ないよ」
「マクルスが死ぬって、どれくらい先? 十年? 二十年?」
「………」
 妖精たちは、何故かルキエルには嘘をつけないようだ。黙り込んだ。
「教えろよ。マクルスはどれくらい生きていられるんだ?」
 途端、ルキエルは恐ろしい形相となる。子どもらしさがなくなった。どこか、支配者のような顔になると、妖精たちは逆らえないようだ。
「たぶん、一年か二年だ。人の運命は、行いで変わる。あの男は、自らの寿命を削ることをしているから、もっと短いかもしれない」
「なあ、俺って、五百年は生きるんだよな」
「ルキエル、それは」
「俺の寿命百年をマクルスにあげれば、どれくらい生きるかな?」
「っ!?」
 とんでもないことをルキエルは言い出した。それには、妖精たちは真っ青になって、ルキエルを囲んだ。
「わかっているのか? お前の百年は、あの男にはせいぜい、十年か二十年だ。あの男は、寿命を縮めることをやめない。お前の百年をあっという間に使い果たしてしまう」
 妖精たちは、マクルスが寿命を削る行為を止めないことを知っていた。ルキエルがやることは無駄なのだ。
「けど、ただの人なんて、せいぜい長く生きても百年なだろう? 俺は、ただの人の五人分も生きるんだ。一人分、無駄にしたっていいだろう。マクルスとは、また、遊んでもらうんだ!!」
 幼児だから、ルキエルは、事の大きさを理解していない。それよりも、マクルスに遊んでもらうことのほうが大事なのだ。
「今度、会ったら、寿命を移し替えよう」
「そうしたら、我々が見えないなるぞ」
 ルキエルがマクルスに寿命を移し替えることで、何か起きるのだ。
「どうして? 悪い事だから?」
「違う。いい事だからだ。ルキエルは、悪い事をして強くなる妖精憑きだ。だから、良い事をしたら、格が下がる。格が下がると、我々が見えなくなる」
 ルキエルは、ぐるりと囲む妖精たちを見上げる。
「そうなんだ。けど、俺から離れるわけじゃないんだろう? 見えなくなるだけじゃん」
「お前が泣いていても、もう、我々は慰めてもやれないんだぞ!!」
「泣かない、強い男になれって、マクルスに言われた。だから、もう泣かない」
 笑顔で言い切るルキエル。これほど、妖精たちに助けられているというのに、ルキエルは、マクルスに夢中だ。
 ルキエルは、笑顔で、天井を見上げた。
「はやくマクルスに会いたいなー。マクルス、俺とロイドを抱っこして歩けるんだぜ。兄貴だって、ロイドがせいぜいだってのに。すごいよな!!」
「そうだな」
「そんな顔しなくても、すぐに会えるようになるよ。ほら、一緒に寝よう」
 ルキエルが両手を伸ばすと、妖精たちはルキエルを抱きしめる。本来ならば触れられないはずなのに、妖精たちは実体化して、ルキエルを抱きしめた。
「マクルスにまた、抱っこしてもらうんだ」
 妖精たちに抱きしめられながら、ルキエルはマクルスを求めた。





 なんだこれは? こんなルキエル、知らない。
 僕が知っているルキエルは、人を振り回す男だ。誰よりも男としての自尊心は高く、物事を冷静に見ている。
 幼児の頃のルキエルだからだろう。想像も付かなかった。
「ルキエルは、こうして、寿命を削り、マクルスを延命しました。もし、ルキエルが延命しなかったら、あなた方の家門は、大変なことになっていたでしょうね。何せ、その頃はまだ、マクルスの兄が生きていましたから」
「っ!?」
 ハガルに言われて、家臣たちは気づいた。
 そう、義父マクルスの兄はとんでもないダメな当主だった。全てを失敗して、その尻ぬぐいを全て、マクルスが行ったという。その記録を僕も見て、うんざりした。
 もし、ルキエルの妖精がいう通り、マクルスが寿命によって死んだ場合、伯爵家は滅茶苦茶だ。
 当時、まだ、マクルスの父は生きていた。しかし、後ろ暗い所業の跡継ぎはマクルスただ一人だ。マクルスの兄は、あまりにも凡才で気位だけ高かったため、表向きの当主として置かれた。
 マクルスが死んで、マクルスの兄が残った場合、妖精殺しの御業は失われた。あれは、一子相伝だ。マクルスが死んで、慌てて跡継ぎを作ろうとしても、マクルスの父には時間がなかった。マクルスの父は、マクルスの兄が死んですぐに亡くなったのだ。
「まさか、こんなに早くマクルス様が死ぬわけがありません。先代だって、もっと生きました」
 しかし、これを家臣たちは冷静になって否定する。確かに、マクルスの父はもっと生きたのだ。短命といえども、それなりに生きていた事実は残っている。
「これは、私の予想ですが、マクルスは、体質があわなかったのでしょう。そのために、はやく寿命が削られたと思われます」
「妖精だって嘘をつく」
「だったら、マクルスの寿命が短いことを内緒にするでしょう。あの妖精たちは、ルキエルを喜ばせようとしていました」
「だったら、嘘を」
「妖精といえども、人と誕生して数年ですよ。経験値が足りません。だから、嘘がつけなかったのですよ。私にも経験があります」
 大人に見える妖精たちだが、経験は一緒に生まれたルキエルと同じ年数だ。嘘をつく、とよく言われるが、それは、それなりに経験を積んだ妖精だ。逆に、幼いルキエルの側にいる妖精たちは、経験が足らず、そのまま、真実を口にしてしまったのだ。
「ルキエルは凶星の申し子です。凶星の申し子は、悪事を働いて格を上げる、厄介な存在です。本来であれば、妖精たちは、ルキエルに悪を教え込み、成長させるはずでした。ところが、ルキエルはマクルスに寿命を与える善行を行い、逆に、格を落としました。そのため、ルキエルを教育する妖精たちから切り離されてしまいました」
「だが、あのガキは、我が家門を危機的状況にまで追い込んでくれた」
「そこは、本能ですね。仕方がありません」
 あっさりというハガル。ルキエルの行為が本能なんて言われて、そのために家門が巻き込まれたなんて、怒りしかないだろう。
 しかし、ハガルの話はまだ終わっていない。ハガルは話し続けた。
「凶星の申し子と、千年に一人誕生する化け物妖精憑きは、表裏の関係にあります。私のような妖精憑きは千年に一人、必ず誕生します。しかし、凶星の申し子は、数千年に一人生まれるかどうかの、神から与えられた試練です」
「なんだ、それは」
「ルキエルは、本来、私の敵です。そうなるべく、運命が動きました。ルキエルの母親の死もそれです。ルキエルが父親の手がついたのも、運命です。凶星の申し子は、そこにいるだけで、人の運命を悪い方向へと捻じ曲げます。生きているだけで、おかしくしていくのです。それをルキエルは、マクルスへの執着によって、自らの運命を良い方向へと捻じ曲げてしまいました」
 映像が変わった。次は、大人になったルキエルだ。





 ベッドに座るルキエルの側に、賢者テラスがやってきた。
「あんた、妖精憑きだったんだな。騙された」
 ルキエルは笑った。賢者テラスは、側に妖精を引き連れてやってきたのだ。
「妖精憑きの体調を診れるのは、同じ、妖精憑きですよ」
「心臓が止まったなんて。今まで、そんなことなかったのにな」
「もう、やめたらどうですか?」
「やめるって、何?」
「私も妖精憑きだとわかったのなら、言いたいこと、わかるでしょう。私は、あの男が子飼いにしている妖精憑きとは違います。節穴ではありませんよ」
「なーんだ、バレたか」
 ルキエルは、途端、妖艶に笑った。とんでもない色香を放ったが、テラスは全く顔色も変えない。
「あの男を生かすために、随分と寿命を削りましたね。私があなたに会った時は、まだ百年はあったというのに、今では、五十年もない。そんなに削ったって、誰も感謝しませんよ」
「仕方ないじゃん。マクルス、いつも死にそうだから」
「だからといって、あなたが寿命をあの男に渡しても、あの男は寿命を削る行為をやめませんよ。もう、言ったらどうですか」
「この香に包まれてるマクルスがいい」
「っ!?」
「俺もやめろって言ったけど、やめれないって。だったら、仕方がない。俺が勝手にやってるんだ。それでいい」
「………もう、身体強化はやってはいけませんよ」
「次は死ぬかもしれないから、やらない。皆にも、迷惑かけたしな。何やったか知らないけど」
 ルキエルなりに反省した。確かに、心臓が止まった、この後から、ルキエルは、戦闘に駆り出されることはなく、屋敷に閉じ込められたのだ。
 ルキエルは、膝を抱えて、宙を見据える。
「あんたもさ、お袋関係だろう」
「そうです」
「また、身代わりか」
 また、サツキの関係者だと知って、ルキエルは膝に顔を埋めた。それを見て、賢者テラスは失言だと気づいた。
「そこまで、サツキの身代わりだと気にしているとは、知りませんでした。私はただ、サツキの子だから、気にかけていただけですよ。出来れば、サツキの子たちには、それなりの身分を与えて、それなりの立場にしてやりたいと思っています。別に、ルキエルだけが特別ではありません」
「けど、俺の側にばっかりいるじゃん」
「一番、接触しやすいからですよ。他の子たちは、ほら、貧民街にいると聞いています。この屋敷に来ないでしょう」
「来ないな、確かに」
「被害妄想が強すぎです。他は知りませんが、私は違います。しかし、あなたの姉は、綺麗ですが、とんでもないほうの血が出ましたね」
「どういうこと?」
「あなたの祖父の血筋が出ました。本当に酷いものだ。かなりの性悪だと聞いています。それは、祖父方の血筋です」
「そうなんだ」
「さすがの私でも、あなたの姉の扱いは困ります」
「俺もそう思う。実は、そんな俺の姉貴をオクトが………」





 僕は即、映像の道具をどうにか止めた。とんでもない話に発展してったよ。
 ハガル、わざとだ。もっと違う所でぶった切ればいいというのに、わざと、僕に都合の悪くなる所まで、映像を流そうとしたのだ。家臣たちを見れば、僕のことを呆れたように見ていた。
 さすが妖精憑き。空気を微妙にさせるのはお得意だ。いい話のはずなのに、最後は滅茶苦茶にしてくれる。そういう所、ルキエルと同じだよ!!
 ハガルは僕の手から映像の道具を取り上げる。
「こういうことです。マクルスの怪我が治癒されたのも、全て、ルキエルがマルクスに寿命を捧げたからです。本来であれば、ルキエルは、私を越える長寿です。私は五百年も生きません。だから、私は早くルキエルを制圧しなければなりません。ですが、ルキエルは、幼い頃に持ったマクルスへの執着に縛られ、どんどんと寿命捧げ、結果、人並の寿命しか残っていません」
「ルキエルは、もう、死んでしまう?」
 どれほどの寿命をルキエルが義父マクルスに捧げたのかはわからない。しかし、あの映像から数年間、ルキエルはマクルスに寿命を捧げ続けている。人並、とハガルは言っているが、それは誤魔化しだ。
 あの映像の頃、ハガルは筆頭魔法使いとして台頭することとなる。その頃にルキエルの残された寿命は五十年だという。それから数年、ルキエルはマクルスに寿命を捧げ続けたのだから、残った年数も十年か二十年程度だろう。
 そこまでのものを捧げてまで、ルキエルはマクルスを生かした。
「ルキエルは、何を貰ったんだ? だって、ルキエルは、義父上の娼夫に成り下がる代わりに、道具を手に入れていた。何か見返りがあったはずだ」
 ルキエルの行為には矛盾がある。幼い頃の出来事は、幼児だからで終わる。しかし、それなりに大きくなったルキエルが、義父マクルスに対して、寿命を捧げることは、矛盾している。
「そこは、妖精憑きゆえですね。私もそうです。幼い頃に受けたラインハルト様の愛情欲しさに、随分なことをしましたし、今も執着しています。ルキエルも同じです。幼い頃に受けたマクルスの行為に、執着しただけです。力のある妖精憑きは、ともかく、何でも出来ます。逆に言えば、手がかかりません。私も幼い頃から手のかかりませんでした。だから、親の愛情が受けられません。だから、愛情をくれるラインハルト様に執着しました。ルキエルも、親の愛情が受けられなかったので、マクルスの行為に執着しただけです。残念ながら、マクルスの行為には愛情なんて欠片ほどもありませんでしたけどね」
「………え?」
「今でこそ、マクルスはルキエルに傾倒していますが、幼い頃のルキエルにはこれっぽっちも愛情を持っていませんでした。ルキエルを利用して、サツキにいい所を見せていたにすぎません。ルキエルは、その事実を知っていたから、頑なにマクルスを信じなかったのですよ」
 ルキエルは、何事かあると、義父マクルスを信じなかった。誰が見ても、マクルスはルキエルに特別なものを持っていた。ルキエルのために、復讐まで付き合ったのだ。そこまで、ルキエルに狂っていた。
 だけど、幼い頃にされた仕打ちをルキエルは引きずっていた。百年という寿命を捧げたのに、マクルスの愛情は母サツキに向かっていたのだ。その事実に傷ついたのだろう。
 だから、最後まで、ルキエルはマクルスの愛情を信じなかった。
 ハガルは、マクルスの代が従う家臣たちを睨んだ。
「お前たちは、ルキエルにも、ルキエルの子々孫々にも、感謝し、従わなければなりません。マクルスは処刑で死んだのではありません。寿命が尽きたから死んだのです」
「っ!?」
「本来であれば、とっくの昔に寿命が尽きていました。それを延命し続けたのはルキエルです。最後は、苦しまない死でしたよ。眠るようにマクルスは死んでいました」
「処刑って、随分前に執行する話でしたよね」
「あまりにもルキエルのことがわかっていなかったので、わからせるために、処刑を伸ばしました。散々、伸ばして、ルキエルが隠していた真実を教えて、絶望させてやりました」
 ニコニコと笑って、とんでもないことをいうハガル。むしろ、ハガルこそ悪だろう。
 凶星の申し子は、生まれ持っての悪だ。あらゆる悪事を働くように成長するという。過去に凶星の申し子が誕生した時は、帝国が滅びそうになったほどの凶事を起こしたと言われている。
 しかし、ルキエルは凶星の申し子としては、やったことは可愛らしい。皇帝を襲撃するなんて、とても、小さい事だ。しかも、悪事とは言い難い。だって、皇帝ラインハルトは自らの欲望のために、手をつけた女全てを処刑したのだ。見方によっては、皇帝ラインハルトこそ悪だろう。
 これで、ルキエルが隠していた真実は全てだろう。義父マクルスは死んだが、ルキエルはまだ生きている。
 わざわざ、こうやって、僕たちを呼び出したということは、ルキエルは処刑されることなく、放逐されるということだ。少し考えれば、ハガルの考えはわかる。
「あなたがたは運がいい。皇帝の襲撃を失敗しましたが、凶星の申し子の寿命を削るという偉業をマクルスが果たしましたので、全て、帳消しです」
 嘲笑うハガル。それを聞いて、僕は怒りに震える。
「ルキエルの行為を穢すな!!」
「そうです、ルキエルの行為は、崇高です。妖精憑きであれば、ルキエルは崇高な人だとわかります。ですが、あなたがたは、ルキエルを低く見ました。ルキエルを蔑みました。そのことに、私は怒っています」
 ハガルのいう通りだ。僕たちは、ルキエルを便利な道具と見ていた。ルキエルがいれば、義父マクルスは平穏な余生を過ごせる、と。ルキエルを、その道具にしようとした。
 ルキエルが貧民だから、そう見たのだ。どうしても、貧民という立場は、そういうものと見てしまうのだ。
「ルキエルは、生涯、貧民に縛られるでしょう。そうすることで、あなたがたの心の負担を減らしたにすぎません。自らを低くして、酷い扱いをされても、それを許されるようにする。あなたがたもまた、ルキエルにとって、特別なのですよ」
 知らないうちに、ルキエルの特別は広がっていった。
 ルキエルはいつも僕に言っていた。貧民だから使え、と。そういうことなんだ。
 ハガルに言われて、やっと気づかされた。ルキエルはずっと、そうやって、僕たちを許していた。
「忘れてはいけませんよ。語り継ぎなさい。ルキエルは、あなた方家門を救ったんです。寿命を削り、なんと、凶星の申し子という運命まで捻じ曲げたんです」
「………はい」
 泣くしかない。だって、ルキエルは、全てをかけて、義父マクルスが守ろうとした家門を守ったのだ。

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