嫌われ者の皇族姫

shishamo346

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戦争準備

戦争のための組織作り

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 皇帝の儀式が終わってない、ということで、女帝のお披露目は保留にした。無理だから。わたくしに、筆頭魔法使いナインの嫌がらせのような命令なんて、出来るはずがない。血筋で、弾かれちゃうよ。
 女帝のお披露目の話は、ちょっとした空気作りである。だって、宰相と大臣たちとの密談だもん。もっと、大変なお話よ。
 密談なので、適当なお菓子を持ち寄って、外務大臣が持ってきた密書に目を通した。それは、海を挟んだ王国からのものだ。
「敵国から、開戦要求の書状が来ています」
「いーやー!!」
 戦争しましょう♪ なんて手紙いーらーなーいー!!!
 いつかは敵国と戦争しなきゃいけない。伝統だから。でも、よりによって、わたくしが女帝となったばかりを狙ってくるなんて。やっぱり、皇族か貴族、平民、もしかすると、貧民のどれかが敵国に内通してるんだー。
 だいたい、数十年から二百年前後くらいに一度の頻度で、戦争が起こる。王都にある城より北の果てには、敵国との国境線があるのだ。
 帝国は、まあ、戦争はしたくない。だって、戦争すると、お金はかかるし、人は死ぬし、とうま味がない。戦争って、うま味があるからやるものだ。
 だーけーどー、敵国は、戦争大好き、侵略大好きなの。敵国は、神と妖精、聖域の信仰を捨て、人のみの知恵と力で戦うのだ。敵国にとっては、戦争に勝つことで、うま味があるそうだ。
 こうして、ずっとずっと昔から、敵国とは戦争している。でも、簡単に開戦は出来ないのだ。だって、敵国は敗戦国。負けたから、神と妖精と聖域の名のもとに、王国への不可侵の契約を結んでいる。この契約を破って、どちらかが戦争を仕掛けると、とんでもない神罰を受けるのだ。だから、まず、この不可侵の契約を解除しなければならない。
 帝国としては、戦争したくはないのだけど、弱肉強食で、強者こそが正義なので、開戦要求されると、受けないわけにはいかないのだ。
「敵国、国力に余裕が出てるのですね」
「らしいですね。ほら、さっさと女帝のお披露目しましょう。このままでは、戦場が女帝のお披露目の場になってしまいますよ」
「勿体ない」
「別の皇帝をたてて戦場に立たせるとか、代理を立てるとか、言ってくれないのですか!!」
「心配いりません。女帝陛下の周囲は猛者で揃えますから」
「うわーんー!!」
 まだ未婚の女を戦場に立たせようとしてる!! 誰よ、わたくしのこと宰相や大臣たちは孫みたいに見ている、なんて言った奴。全然、そうじゃない!!!
「あ、でも、帝国で開戦要求の書状がきたということは、王国側にも書状が来てるかも」
 海を挟んだ西の向こう側には、同じ神と妖精、聖域の教えに殉じる王国が存在する。王国もまた、別の敵国から狙われている。
 王国はなかなか面倒臭い国だ。帝国では妖精憑きを集め、その中で優秀な者たちを魔法使いとして重陽し、帝国の生活を豊かにする文化がある。しかし、王国にはそれがない。だから、帝国から魔法使いを無償で派遣しているのだ。
 戦争でもそうだ。帝国は最後、魔法使いを使って、敵を殲滅する。王国ではそれが出来ないので、帝国から特別に力の強い魔法使いを派遣して、最後に敵を殲滅させるのだ。
 結局、帝国も王国も、最後は魔法使い頼みである。敵国は、そういう文化とかを捨ててしまったので、人海戦術だが、所詮、ただの人の集まりだ。ただの人は、魔法使い一人には、絶対に勝てない。
 帝国の敵国と王国の敵国はだいたい、繋がっている。どっちかを侵略すれば、残るは一つなのだ。挟み撃ちに出来るから、共闘するのだ。だから、片方の国が開戦要求の書状を受け取ると、もう片方の国にも開戦要求の書状を受け取っていることは多い。
 開戦要求の書状には、話し合いのための会談の日時が書かれている。これは、だいたい、王国側のほうが早い。
 理由は簡単。不可侵の契約を解除できるのは帝国にいる筆頭魔法使いのみである。まず、王国側の契約を穏便に帝国に解除させるのだ。
 王国側を上手に使えば、時間稼ぎが出来る。
「シーア、その顔はやめろ」
「え、どんな顔ですか?」
「悪い顔してる」
「………」
 筆頭魔法使いナインに注意されてしまった。わたくしは、顔を軽く叩いて、気合をいれた。顔に出てしまったのは、未熟ゆえです。
「会談は代理をたてましょう。一応、皇族が行かないといけないのですよね。誰がいいかしら」
「本当なら、シオンの弟に頼むんだがなー」
「綺麗なお星さまになりましたから」
「メフノフも使い物にならなくなったからなー」
「失格紋の儀式って、あんな痛いのにしなくてもいいのに」
 有能な人、まあまあ口がいい人は、使えなくなった。
「敵国との会談に同伴する文官たちは有能な方にしましょう。あと、筆頭魔法使いも同伴、と」
「俺様はシーアから離れないからな!!」
「ナイン、いくらわたくしのこと大好きでも、わたくしは、ナインのこと、兄と見てますからね」
「俺様だって、お前のこと、妹と見てるよ!!」
「良かったー。ナインに恋愛感情向けられても、困るだけですからね」
「自意識過剰すぎだ!!」
「知ってます!! それで、貴族の学校では、どれだけ恥ずかしいことになったか」
 思い出しただけで、顔が真っ赤になる。飛び級でさっさと卒業した貴族の学校では、色々とやらかしましたからね。身の程をしっかりと見つめ直そう。
「というわけで、ナインは会談に強制参加、と」
「離れないからな!!」
「承認」
 勝手にわたくしは、筆頭魔法使いナインを北の国境線行きの命令書に隠し持っていた皇帝印をぽんと押してやった。
「こらこらこら!! なんてことするんだ!!!」
 皇帝印を押された書類に、筆頭魔法使いナインは大慌てである。
「これをしたら、訂正がきかないんだぞ!!」
「知ってます」
 皇帝印は契約の魔道具である。これを押した書類は、絶対なのだ。
「まさか、皇帝印の最初の書類が、こんな事に使われるとは」
「さすが、女帝陛下」
「使いどころが、非凡ですね」
「えへへへへ」
「誉めてないよ!!」
 宰相と大臣たちは呆れ、ナインはわたくしの頭をまた、書類で叩いてくれた。
「暫定とはいえ、女帝になったのですから、一度は使ってみたいじゃないですか、皇帝印。どうせ、わたくしがナインに命じても、わたくしの血の濃さが足りないから、ナインに逆らわれちゃうし、こういう時にしか使えないなー」
「もう、取り上げだ!!」
「あーん!!」
 隠し持っていたのが悪かった。筆頭魔法使いナインに皇帝印を取り上げられてしまった。
「それを取り上げられたら、ナインに無理難題の命令が出来なくなるー!!」
「するな!!」
 筆頭魔法使いナインは、皇帝印を懐におさめた。宰相と大臣たちは、皆、重く頷く。
 残ったのは、絶対順守となった書類一枚である。ナインは、嫌そうな顔で、その書類も回収する。変な扱いをすると、天罰が下るのだ。
「お前は、立場わかってるのか。今、お前は危ないんだぞ。皇族には、お前を恨んでる奴らがいっぱいだってのに、俺様が離れたら、誰が守るんだ」
「契約紋で皇族に逆らえないナインがいたって、意味ないじゃない」
「そうだけど!!」
「こういう時こそ、わたくしの運命の人に守ってもらいます。ほら、ナイン、呼んでください!!」
「ダメだ」
「エンジはわたくしのこと、辺境の最果てにいたって守ってくれる、と言ってくれましたから、心配いりません」
「っ!?」
 悔しそうに黙り込むナイン。わたくしのことを運命と呼ぶ辺境の貧民街の支配者エンジをナインはわたくしに関わらせたくないようだ。その理由は謎だけど。
「戦争については、それ用の組織を作りましょう」
「人選は皆さんにお任せします。もしかしたら、そのまま戦場に行くこととなるかもしれませんので、お手当、はずんであげてください」
「人選は済んでいます。明日にでも、顔合わせをしましょう」
「時間、あるかしら」
 わたくしの予定は筆頭魔法使いナイン次第である。
「女帝のお披露目が保留になったからな。時間なら、たっぷりあるぞ」
「あーん、女帝やめたーいー!!」
 世の中って、思い通りにいかない。







 皇族側の女帝代理は保留として、開戦に向けての話し合いはすぐに始まった。ほら、帝国民側はすでに人選が済んでいるから。女帝代理の皇族なんて、飾りですよ。
 まあまあの人数用の会議室に行けば、すでに集まっていた。すでに、組織の代表は宰相や大臣から軍部へと移動していた。
 わたくしは、一同を見回す。うーん、適齢期っぽい人もいれば、壮年といった感じの人もいるなー、なんて見回してしまう。やっぱり、戦争関係の組織だから、男ばっかり。女の子がいないのは残念だけど、女の文官自体、とっても珍しいから、こんな危ない所に選抜はしないよね。
 女帝なので、わたくしは一番前に座り、わたくしの後ろには、べったりとくっついて離れない筆頭魔法使いナインが立った。
「ナイン、座って」
「お前が座ってる時に、俺様が座ることはない」
「妙なところで、頭固いんだから」
 筆頭魔法使いは、皇帝の盾であり鉾である。いつでも盾となれるように、また、鉾となれるように、筆頭魔法使いは皇帝の側に立っているのだ。暫定の女帝なんだから、そんなことしなくていいのに。
 わたくしが席につけば、まずは顔あわせ、とそれぞれ、自己紹介である。
「もう、皆さんもご存知、暫定ではありますが、女帝となりましたシーアです。きちんとした皇帝が立つまでは、わたくしで我慢してください」
 ちょっと笑いが漏れる。あれです、わたくしを甘く見ている笑いです。女なんか、と見てるのでしょうね。わたくしもそう思う。
 それぞれ、なんともいえない自己紹介が続くかに見えた。最後に、一番、この場では最年少で、かつ、身分が低い男が黙り込んだ。
 何故か、わたくしから顔を背ける男。わたくしとその男は、席も離れすぎているが、わたくし、目がいいから、見えるのよね。
「あーーーーーーーー!!!」
 わたくしは席を立って、黙り込む男の元へと歩いて行く。
「シーア!!」
 慌ててついてくる筆頭魔法使いナイン。わけがわからない、と首を傾げている。
 わたくしは、黙り込む男の後ろから覗き込んだ。
「やっぱり、ナックル先輩、お久しぶりです!!」
「お久しぶりです、女帝陛下!!」
「そんな、女帝陛下なんて他人行儀に呼ばないでください。昔みたいに、シーア嬢、と呼んでくださいよー」
「呼べるかーーーー!!」
 文官ナックルは、わたくしに対して無礼にも怒鳴り返した。でも、わたくしは気にしない。いつもそうだからだ。
「お、おい、ナックル」
「くっそぉー!! もう、お前には関わるものか、と神と妖精、聖域に祈ったというのに!!!」
「わたくしは、ナックル先輩にまた会いたいなー、と神と妖精、聖域にお願いしました」
「布施が足りなかったのか!!」
「気持ちの問題ですよ。わたくし、布施なんかしていません」
「ちくしょーーーーー!!!」
 文官ナックルは、机に頭をごんごんとぶつけて叫んだ。
「おい、シーア、この男とは、どういう関係だ? 貴族の学校での先輩後輩ということはわかるんだが」
 筆頭魔法使いナインは、この組織の人選をしっかりと調べていないから、文官ナックルがどういう人か知らない。
 それは、この組織に人選された人たち全てだ。文官ナックルは、まだ下っ端だから、どういう人なのか、知らないのだ。
「ナックル先輩は、わたくしが最終学年の時の次席です」
「そうだよ!! 次席だよ!!! 年下に負けたよ!!!!」
 叫ぶ文官ナックル。わたくしはぽんぽんと飛び級したので、ナックルの後輩なのだ。わたくしが飛び級するまで、ナックルが首席を取り続けていたのだが、わたくしが同級生となると、その記録を止めることとなった。
 わたくしが首席となったのだ。
「すみません、飛び級でさっさと卒業することを目指していたので、手抜きが出来ませんでした」
「うわあああーーーーーーーー!!!」
 叫ぶナックル。わたくし、申し訳ないとは思っているのですが、うまくいかないですね。
「お、おい、もう、やめてやれ」
 筆頭魔法使いナインがわたくしを文官ナックルから離した。
「せっかくの再会なんですから、ナックル先輩には、ぜひぜひ、聞かなければいけないことがあります!!」
「もう、話しかけるな!!」
「ほら、わたくしからの交際申し込みを断って、お付き合いしていた幼馴染みの婚約者さんとは、どうなっているのか、気になって。ナックル先輩、結婚しましたか?」
「おい、どういうことだ?」
 何故か、筆頭魔法使いナインが、文官ナックルの胸倉を掴み上げた。
「シーアとはどういう仲だ? 交際申し込みって、どういうことだ?」
「僕と彼女は、ただの同級生だ!!」
「シーア、こんな奴のどこがいいんだ?」
 ガクガクと震える文官ナックルを床に叩き落すナイン。
「ナイン、ナックル先輩に酷いことしないでください!!」
「質問に答えろ。こいつとは、どういう関係だ?」
「えーと、お世話になったかな? ナックル先輩との一年間は、なかなか、楽しかったですよ」
「俺様に内緒で、付き合ってたのか!! それで、こいつに捨てられたのか!!!」
「付き合ってませんよ。ナックル先輩には、幼馴染みの婚約者がいましたから」
「じゃあ、どうして、お前がこの男に交際申し込みしたんだ!?」
「わたくしが皇族失格となった時の保険ですよ」
「………」
 筆頭魔法使いナインだけでなく、わたくしと文官ナックルの関係を気にしていた他の文官たちまで、鎮痛な面持ちとなった。
 わたくしは、万が一、皇族失格となった時の逃げ道を作ろうと、貴族の学校で悪あがきしていたのだ。その最後の手段として、文官ナックルと交際して婚約して、皇族失格した時は、降嫁先にしよう、なんて企んだのである。断られたけど。
 ナインは、ガクガクと震える文官ナックルを助け起こし、椅子に座らせた。
「お前は悪くなかった」
「そうですよ、ナックル先輩は悪くありませんよ。暴力はいけません」
「シーアが全部悪い」
「そんなー」
「気のない男を利用しようとするなんて、最低なことするんじゃない」
「わかってます。反省してます。それで、ナックル先輩、結婚は、どうなりましたか? 結婚式には呼んでください、とお願いしましたよね」
 わたくしなりに、文官ナックルの祝いの席の招待を楽しみにしていたのだ。
「いや、招待しない、と言ったけど」
「冗談だと思っていました。じゃあ、結婚したんですね」
「………」
 黙り込むナックル。こーれーはー、結婚していないなー。
「もしかして、破局しましたか?」
「してない!! ただ、ちょっと、僕側の事情で、結婚を延期してもらっているんだ」
「じゃあ、招待してください!! 綺麗で、幸せな花嫁をぜひぜひ、見たいです!!!」
「式は、しないかもな」
「どうしてですか? まさか、戦争に行くかもしれないから、なんて理由で、簡素にやっちゃうのですか。いけませんよ、結婚は、女の夢なんですから。それなりにしてあげないと」
「………」
「後で、詳しく教えてくださいね」
 海よりも深い事情があるようだ。わたくしは、久しぶりの再会を後回しにして、席に戻った。
「顔見せも終わりましたし、次にいきましょう。王国側からは使者が来ていませんか? 万が一、来た時は、通例通り、非公式での対談となります。ここで話す内容は、外部に漏らしてはいけません。そのため、妖精の契約を行うこととなっています。ナイン、始めてください」
 すぐに、わたくしは、最初、絶対にやらなければならないことを筆頭魔法使いナインに命じた。
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