嫌われ者の皇族姫

shishamo346

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妖精殺しの初恋

皇族の入学

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 貴族の学校に通う皇族シーアは、余程、皇族の中では弱い立場なのだろう。狂人シーア、なんて呼ばれていた。

 ともかく、成長が遅く、粗相は五歳でも直らなかったという。
 テーブルマナーも最低で、手掴みで食事することもあったという。
 皇帝の姪という立場を利用して、皇族教育を終わらせたとか。
 両親に似ておらず、使用人の子と取り換えられたのではないか、と疑われている。
 皇族失格になるだろう、と言われている。

 こんな話がどんどんと貴族の間に流れていく。もう、貴族の学校でも、皇族シーアを見下す動きが出てきた。
 流石に、生徒会はそうではない。
「とんでもない姫様が来るのかよ!!」
「話が通じるかな?」
「どうして俺たちが世話役なんだ!!」
 気の毒に、皇族シーアの面倒は、新入生の世話役である二年生の丸投げされた。
「あんな噂、話半分は聞き流すものだよ」
 生徒会長が、二年生たちを元気づける。
「半分聞き流しても、悪評ばっかりじゃないですか!!」
「首席合格という話ですが、皇族の権威でそうした、なんて言われてますよ!!」
「学校側が何もしてないけどね」
 皇族の悪評の中には、学校側の名誉を傷つけるものまであるというのに、学校側は沈黙した。
 そんな騒ぎのせいで、入学式は大騒ぎである。狂人と呼ばれる皇族シーアを一目見ようと、新入生の親戚まで押し寄せてきた。
 入学式当日は、皇族が入学するということで、騎士団まで出動するが、とても、手に負えない状態となった。
 生徒会も、教師も、警備員も、騎士まで、皇族シーアのために、振り回された。
 皇族であるため、首席が座る席は空である。さすがに、警備の届かない場所に皇族を座らせるのは危険と学校側が判断したのだろう。
 そして、随分と遅れて、入学式が行われた。来賓の席は、椅子が足りなくて、立ち見どころか、会場の外まで人で溢れていた。
「新入生代表挨拶!!」
 そして、とうとう、皇族シーアが、壇上に登場した。
 皇族だからといって、衣服は学校指定の制服である。どこにでもいそうな女の子が、笑顔で壇上に出てきた。
 可愛い、砂糖菓子みたいな女の子。その印象は変わらない。ニコニコと笑顔で、ざわめく会場を見回した。
「本日は、このような素晴らしい場をありがとうございます」
 そして、ありきたりな挨拶を皇族シーアは、すらすらと述べた。
 しーんと静かになる会場。とても、狂人とは見えない、素晴らしい挨拶であった。
「それでは、ここからは、わたくしの抱負を述べさせていただきます」
 だが、狂人シーアとも呼ばれる彼女は、ありきたりな挨拶では終わらない。
「わたくしは、ここに、長くても三年で貴族の学校を卒業してみせます。ですから、新入生の皆さんとの関わりは、一年もありません。短い間ではありますが、どうか、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
 そして、シーアは笑顔を消して、新入生を見下した。
 腐っても皇族だ。貴族の学校では、散々、悪評が広まっていること、学校を通して、皇族シーアにも伝わっている。学校としては、この噂を黙らせたかったが、それをさせなかったのが、皇族シーアだ。
 そして、入学式当日、集まってきた野次馬どもの記帳をシーアは手に入れた。面白半分で入学式にやってきた、新入生の親戚どもは、これから、帝国に目をつけられるだろう。
 いくら、皇族の中では蔑まれる存在といえども、今は皇族を名乗っているのだ。帝国としては、それを見逃すわけにはいかない。
 こうして、帝国は、皇族を見下す貴族どもを炙り出し、監視を強めた。







 生徒会は、皇族とのご縁は切れない。入学して数日で、生徒会室に、皇族シーアは招待されることとなった。
「実際、シーア様はどうなんだ?」
 新入生のことは二年生の丸投げの生徒会長は、二年生たちに質問する。
「普通の、女の子、ですよ。こちらがいったことをはいはいと笑顔で返事をするだけです。それよりも、次席の子が死にそうな顔で」
「どうしても、シーア様と関わることとなるからな」
 気の毒に、皇族シーアの面倒を一年生次席に丸投げされたのだろう。
「シーア様の側にいる新入生が次席かー」
 気の弱そうな男子である。シーアはニコニコと笑って話しかけているが、一年生次席は死んだような顔をして、息だけして姿をよく見かけた。
「世間話はなかったのか?」
「時間のことを随分と気にしている感じでしたね。最低限の伝言だけで、はいさよなら、といった感じでした」
「今日は、顔合わせだけだから、大丈夫だろう」
「そうですね、我々だけが、損をするだけですよ」
 二年生は半泣きだ。仕方がない、二年生が新入生の世話役なのは、伝統である。
 それからは、世間話だ。どこで聞かれているかわからないので、皇族シーアの話題はあえて避けた。生徒会役員になるほどなんだから、バカなことはしない。
 しばらくして、ノックして、皇族シーアと、一年生次席が生徒会室に入ってきた。
「おいおい、大丈夫か!!」
 役員全員が、真っ青で倒れそうな一年生次席に駆け寄った。
「大丈夫ですよ、先ほど、妖精の万能薬を飲ませましたから。ちょっと、効果が出るのに、時間がかかります」
 笑顔で、とんでもないことをいう皇族シーア。色々と、突っ込みたいが、皆、そこは黙り込んだ。
「一年生の席は、どちらですか?」
「こちらになります」
「椅子に座って休んでください」
 皇族シーアが、一年生次席を指定された席に座らせた。
 本来は、逆なんだが。一年生次席が、皇族シーアの世話をするはずなのに。
 とても、狂人なんて呼ばれる姿ではない。まともだ。それどころか、一貴族のことを気遣っている、聖人である。
 噂は全て、嘘なんじゃないか、なんて思ってしまう。しかし、今はそうでも、過去は、噂通りなんだろう、と僕は予想した。
 あの悪評は全て、過去の皇族シーアなんだろう。皇族全員が、皇族シーアのことを知っているわけではない。皇族シーアに関わるのは、家族と、それに近しい者たち、あとは、シーアの年頃に近い者たちである。皇族全体では、ほんのわずかだ。
 一部の話が、皇族の中で定着したのだろう。家族にまで蔑まれているのだから、火消もされず、皇族全体に広がった。
 家族までがいうのだから、あの噂は真実なんだ。
 そして、貴族の学校にいる皇族シーアは、成長して、立派になったのだ。
「今日は、自己紹介だけだと聞きました。これが終わったら、帰っていいのですよね」
「何か、予定がありますか?」
「生徒会役員として活動していませんので、遅くなると叱られてしまいます」
 心配じゃないんだ。言葉の端々から、皇族シーアの立場が見えてくる。
 皇族シーアがそういうので、生徒会役員全員の自己紹介をさっさと済ませた。
「わたくしは、皆さんもご存知、シーアと申します。皇族と名乗っていますが、まだ、皇族の儀式が終わっていません。もう、噂で知っているでしょうが、わたくしは、両親にも似ていませんから、使用人の取り換え子だと疑われています。皇族失格になるかもしれません。ですが、わたくしには、皇帝の庇護がありますので、言動には気をつけてください。時々、皇帝が筆頭魔法使いを使って、様子見をしています」
 脅しに聞こえた。いくら皇帝といえども、私事で動くことはないだろう。
 何より、シーアが公言するように、血のつながりがないかもしれないのだ。皇帝の姪、と呼ばれているが、その血のつながりは不確かだと家族にまで言われている。
 強がりだな。
 感情も、考えも読めない笑顔で、皇族シーアは、疑惑を持たれる自己紹介を残して、さっさと生徒会室から退室していく。
 生徒会室のドアを開けられると、生徒会役員は、恐怖することとなる。
 なんと、筆頭魔法使いがいるのだ。
「遅いと思ったら、生徒会が始まったのか」
「今日、言われました」
「お前たち、皇族は常に予定が詰まっているんだ。今後は、前もって、予定を伝えろ」
「もう、わたくしのような者には、大した予定はありませんよ。どうせ、皇族教育は終了したのですから、暇です。皆さん、ごきげんよう」
 笑顔で振り返って、手を振る皇族シーアは、口の悪い筆頭魔法使いの腕にしがみついて帰って行った。
「ひぃいいいーーーーーー!!!!」
 そして、遅れて、一年生次席が悲鳴をあげた。
「どうした!!」
「き、来たーーーーー!!!」
「筆頭魔法使いが、来たね」
「こ、皇帝陛下が来ることもあります」
「………」
 そりゃ、一年生次席は、生きた心地がしないだろう。
 噂では、皇族として蔑まれている皇族シーアだ。最初は、大したことはない、と見ていれば、シーアに何事かあると、筆頭魔法使いと皇帝が貴族の学校にやってくるのだ。
 これは、大変なことになったな。僕は、皇族シーアの扱いを気をつけるように心がけた。




 皇帝と筆頭魔法使い、生徒会室にまでやってきたんだ。ちょっと、皇族シーアに肩入れしすぎだ。
「もう、学校に来ないでください!!」
 それを叱る皇族シーア。叱られて、皇帝と筆頭魔法使いが落ち込む。
「シーアのことが心配なんだ。城の中であれば、すぐ、助けに行けたというのに」
「聞いたぞ!! 貴族のガキどもが、シーアのことをバカにしてるって」
「そのお陰で、皇族と貴族の繋がりが証明されました。皇族の情報を流す皇族どもをさっさと罰してください。仕事して!!」
「こうして、我々が学校に足を運べば、抑止力になる」
「生意気なことをいった貴族のガキどもの証拠は揃えた。消し炭だ」
「バカなことしないでください!! そんなことするから、わたくし、学校で、遠巻きにされて、お友達一人出来ません」
「そんなもの、必要ない。君は、皇族なんだ。貴族は下僕だ」
「逆らう奴らは、俺様が消し炭にしてやる」
 会話が、どんどんと物騒になってきた。
 皇族シーア、思ったよりもまともなことを言っている。逆に、皇帝と筆頭魔法使いは恐ろしい。シーアに何かしたら、大変なことになるな。
 頭をおさえて呆れるシーア。
「子ども同士のことに、大人が口出すなんて、恥ずかしいことです」
「シーアはまだ、庇護されるべき子どもなんだ!!」
「皇族が貴族のガキどもにバカにされるなんて、許されないことだ!!」
「わたくしのことは、わたくしで解決します。それぐらい出来てこそ、立派な皇族というものでしょう」
「お前は一人なんだ。危ない」
「やっぱり、貴族の学校に通うのは危険だ。もう、やめさせよう」
「もう、そんなこというなんて、嫌い!!」
 とうとう、子どもみたいな攻撃をする皇族シーア。
 だが、この子どもみたいな攻撃、皇帝と筆頭魔法使いには効果が大きかった。物凄く落ち込んで、皇帝と筆頭魔法使いは城へと戻っていったという。
「いつまでも、幼児扱いして。恥ずかしい所をお見せしました」
 皇族だから謝罪しない、上手な言葉選びをする皇族シーア。
 本当に、皇帝と筆頭魔法使いが二人同時に来たから、集まった生徒会役員は驚いた。そりゃ、一年生次席は胃を痛めるよ。一年生次席は、部屋の隅でガクブルと震えていた。
「もう、こんなことがないように、言い聞かせておきますが、保護者が観覧出来るイベントや、一般公開される文化祭は、止められませんので、ご容赦ください」
「う、うん、頑張る」
 もう、生徒会長は、二年生に丸投げ出来ないことを自覚した。これはもう、生徒会全体、気を引き締めて、皇族シーアの対応をしなければならない。
「マッシュ先輩は、妖精の万能薬に興味津々ですね」
「え? 何?」
 僕は、一年生次席に手渡される妖精の万能薬を見過ぎていたようだ。シーアに悟られた。
「身内で、体を壊している人がいるんだ。順番待ちをしているんだが、なかなか、手に入らなくて」
 そこは、嘘を言ってはいけない。真実だけを伝えた。
「妖精の万能薬は、とても高価なものですよ。順番待ちをいつまで続けるのですか?」
「身内が健康になるまでだろうね」
 ちょっと楽になるだけだけど。妖精の万能薬といえども、妖精殺しとなった義兄を健康にすることは不可能だ。
「あら、目の前でわたくしが湯水のごとく妖精の万能薬を使っているというのに、頼んだりしないのですね」
「羨ましい、とは思うけど………」
 皇族シーアのこととなると、皇帝と筆頭魔法使いが出てくるのだ。さすがに僕だって、空気を読む。
 義母には、役立たず、なんて言われているけど。生徒会役員となったのに、皇族から妖精の万能薬を融通してもらえないなんて、と義母に責められている。
 そんな危ない橋を渡って、一族が目をつけられたら、大変なことになる。僕は、皇帝と筆頭魔法使いが出てきた時点で、皇族シーアに頼むことを諦めた。
 なのに、シーアは悪戯っ子みたいに、僕の側にやってくる。
「あまり近づかないでほしい。また、皇帝陛下と筆頭魔法使いが来たら、僕が大変だ」
「もう、来ません。そう、約束しましたから」
「その確証は」
「わたくし、ぜひ、貴族のお友達を作りたいんです。そのための賄賂です」
「っ!!」
 ぽんと、僕の手に、妖精の万能薬が五本も手渡された。
「い、いや、これは、さすがに」
「妖精の万能薬って、実は、余っているのですよ。ですが、湯水のごとく使うと、価値が下がってしまいますから、廃棄したり、こうやって、賄賂に使ったりするのですよ。これは、すでに廃棄されたものです」
「し、しかし」
「わたくし、この通り、世間知らずなんです。もしかしたら、皇族失格となって、城を追い出されてしまうかもしれません。そうなった時、小娘一人、簡単に騙されてしまいます。そうなった時のために、ぜひ、助けてくださいね」
 皇族シーアは、こうやって、相手の欲しいものを与えて、万が一の味方を増やしていた。
 僕は、感極まって、シーアの前に膝を折り、シーアの手を握った。
「僕は、シーア嬢の下僕となろう。いついかなる時も、あなたの味方だ」
 シーアの下僕第一号は、僕だ。
 皇族シーア、まさか、下僕の誓いなんて、初めてのことだから、驚いた。
「あ、あの、これ、普通なのですか?」
 世間知らずの皇族だから、僕がした誓いに戸惑った。その姿が、とても可愛らしいと僕は感じた。
「そうですよ。知らなかったのですか?」
「えー、わたくし、お友達が欲しいのに」
「シーア嬢は、皇族なんだ。皇族と貴族は友達になれない。貴族は、皇族の下僕だと、皇帝陛下が言ってたじゃないか」
「そ、そうですね」
 僕の嘘を呆気なく信じる皇族シーア。そんな姿に、僕は心惹かれた。
 僕は、いつか、シーアが皇族失格となった時、必ず、シーアを手に入れよう、と心に決めた。





 思わぬことで、妖精の万能薬をシーアから融通してもらうこととなり、義兄もどんどんと体調を良くしていった。だが、妖精殺しの体質がなくなるわけではない。
「もう、お前が当主代理をしなくていいのよ」
 そして、それなりに動けるようになった義兄が、僕に任された当主代理をすることとなった。義母が勝手にしたことだ。
「学校に通っている間は、私に任せなさい」
 義兄は、そう言って、僕の当主代理の仕事をこなした。貴族の学校に通っていないが、それなりの教育を受けている義兄は、屋敷の中ではあるが、当主代理の仕事をさばいた。
 そして、義母は、義兄の結婚を勝手に進めてしまった。
「くっ、一方的にされるなんて」
「女って怖いね」
 なんと、寝ている義兄を妻となった女が襲ったという。
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