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深夜のドライブ
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帰路が遅くなった。滅多に行かない場所なので、暗くなると、道という道がわからなくなる。
途中、右か左か、という場所になった。ちょっとした家の前だ。そこに、とても綺麗な人がタバコを吸って立っていた。
もう真夜中だ。人通りすらないそこに、タバコを吸っている人がいるのは、危ない感じがする。だけど、目の前にある家の住人であれば、家でタバコ一本、吸うことが出来ない弱者なんだろう。そういう時代だ。
車の通りも全然ないので、ハザードをつけて、車を降りた。そして、その綺麗な人に道を聞いた。
「あっちに行って、突き当りを左だ」
そう行って、左に曲がるように指を指した。
言われた通り、僕は車を左折させる。そうして、しばらく進んでいると、また、右か左か、という場所に到達する。しかも、また、あの綺麗な人がタバコを吸って立っているのだ。随分と時間が経った後なので、足元にはタバコが積もっている。
「すみません、また、戻ってきてしまって。もう一度、教えてください」
「あっちに行って、突き当りを左だ」
聞き間違いではないようだ。言われた通り、同じ道を行く。そして、突き当りを左に曲がろうとして、ふと、気づく。ナビあるじゃん。
僕は何故かナビを使っていなかった。ナビ使えば、帰られるだろう。そのことに気づいて、まわりを見回して、車がきていないことを確認してから、一時停止して、ナビを設定する。
ナビは、あの綺麗な人がいう通りの道順を示す。結局、あの綺麗な人がいう通りに行く。
また、あの綺麗な人が立っている。だけど、ナビはこっちだという。
綺麗な人はタバコを全て吸いきってしまったらしく、足元のタバコの吸い殻を拾っているところだった。
僕は車を端に寄せて停車して、あの綺麗な人に話しかける。
「また、戻ってきてしまいました」
「よくよく考えたけど、ナビを使ったらどうですか」
「使いました! けど、ここに戻ってきてしまいます」
綺麗な人は、わざわざ僕の車を見に行き、ナビをチェックする。
「おかしいですね、突き当りを左に曲がって、まっすぐ行けば、国道に出るというのに、ナビはそうではない」
「まっすぐ行ってますよ!!」
「まっすぐ行ってないでしょう。このナビの通りだと、曲がって、また、ここに来るように指示が出てるじゃないですか」
「そんなバカな!?」
確認してみれば、ナビはまっすぐを示していない。まっすぐのような気がしていたけど、実はそうではない。
「これは、帰らないほうがいい。良かったら、ウチに泊まっていきなさい」
「い、いや、そういうわけには」
ただ、道を訊ねただけ、という間柄である。いきなり、お邪魔するわけにはいかない。それに、この綺麗な人を信用していいかどうか、迷った。
「私はこの家で一人暮らしだ。ちょっとした蓄財で遊んで暮らしているだけだ。悪い人間ではない。心配なら、車の中で一夜、明かしてもいい。駐車場はすぐそこにある」
「だったら、コンビニの駐車場に行きます」
「たぶん、行けないだろう。昔から、こういうことがある時は、帰らないほうがいい、とこの街に古くから住んでいる住人は、知っていることだ」
「お化けでも出るとか?」
「そうならいいが、それだけではないだろう。入りなさい。このままだと、あんたは死ぬことになる。ここで私がタバコを吸っていたのも、運命だ。助けてあげよう」
得体の知れない不安を残して歩いていくあの綺麗な人に、僕はわけもわからず、従うことにした。
言われた通り、駐車場に車を停める。そこからどうしようか、と迷っていると、気を利かせて、あの綺麗な人が缶コーヒーを差し出してきた。
「ほら、そこの自販機のものだ」
指さした先には、確かに、自販機がある。
「ありがとうございます」
「狐の悪戯にあったんだよ、君は。私がここにいるのは、運命なのかもしれないな」
「狐の悪戯なんて、あれですか、化かすというやつですか」
「ここの狐は神様だ。ほら、すぐそこに稲荷神社がある」
「ありますね」
大きな稲荷神社だ。商売繁盛のために、僕もよく行っている。かなり有名な稲荷神社なので、全国から人が訪れる観光地でもある。
自販機は飲み物だけではない。タバコの自販機もある。飲み物はついでで、タバコを買いたかったのだろう。早速、あの綺麗な人は新しいタバコに火をつけて、煙を吐き出した。
「大昔から、狐は人を迷わすんだ。悪戯だろう、というけど、それだけじゃない。そこは、生きるか死ぬか、という悪戯なんだ」
こんな話だった。
途中、右か左か、という場所になった。ちょっとした家の前だ。そこに、とても綺麗な人がタバコを吸って立っていた。
もう真夜中だ。人通りすらないそこに、タバコを吸っている人がいるのは、危ない感じがする。だけど、目の前にある家の住人であれば、家でタバコ一本、吸うことが出来ない弱者なんだろう。そういう時代だ。
車の通りも全然ないので、ハザードをつけて、車を降りた。そして、その綺麗な人に道を聞いた。
「あっちに行って、突き当りを左だ」
そう行って、左に曲がるように指を指した。
言われた通り、僕は車を左折させる。そうして、しばらく進んでいると、また、右か左か、という場所に到達する。しかも、また、あの綺麗な人がタバコを吸って立っているのだ。随分と時間が経った後なので、足元にはタバコが積もっている。
「すみません、また、戻ってきてしまって。もう一度、教えてください」
「あっちに行って、突き当りを左だ」
聞き間違いではないようだ。言われた通り、同じ道を行く。そして、突き当りを左に曲がろうとして、ふと、気づく。ナビあるじゃん。
僕は何故かナビを使っていなかった。ナビ使えば、帰られるだろう。そのことに気づいて、まわりを見回して、車がきていないことを確認してから、一時停止して、ナビを設定する。
ナビは、あの綺麗な人がいう通りの道順を示す。結局、あの綺麗な人がいう通りに行く。
また、あの綺麗な人が立っている。だけど、ナビはこっちだという。
綺麗な人はタバコを全て吸いきってしまったらしく、足元のタバコの吸い殻を拾っているところだった。
僕は車を端に寄せて停車して、あの綺麗な人に話しかける。
「また、戻ってきてしまいました」
「よくよく考えたけど、ナビを使ったらどうですか」
「使いました! けど、ここに戻ってきてしまいます」
綺麗な人は、わざわざ僕の車を見に行き、ナビをチェックする。
「おかしいですね、突き当りを左に曲がって、まっすぐ行けば、国道に出るというのに、ナビはそうではない」
「まっすぐ行ってますよ!!」
「まっすぐ行ってないでしょう。このナビの通りだと、曲がって、また、ここに来るように指示が出てるじゃないですか」
「そんなバカな!?」
確認してみれば、ナビはまっすぐを示していない。まっすぐのような気がしていたけど、実はそうではない。
「これは、帰らないほうがいい。良かったら、ウチに泊まっていきなさい」
「い、いや、そういうわけには」
ただ、道を訊ねただけ、という間柄である。いきなり、お邪魔するわけにはいかない。それに、この綺麗な人を信用していいかどうか、迷った。
「私はこの家で一人暮らしだ。ちょっとした蓄財で遊んで暮らしているだけだ。悪い人間ではない。心配なら、車の中で一夜、明かしてもいい。駐車場はすぐそこにある」
「だったら、コンビニの駐車場に行きます」
「たぶん、行けないだろう。昔から、こういうことがある時は、帰らないほうがいい、とこの街に古くから住んでいる住人は、知っていることだ」
「お化けでも出るとか?」
「そうならいいが、それだけではないだろう。入りなさい。このままだと、あんたは死ぬことになる。ここで私がタバコを吸っていたのも、運命だ。助けてあげよう」
得体の知れない不安を残して歩いていくあの綺麗な人に、僕はわけもわからず、従うことにした。
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「ほら、そこの自販機のものだ」
指さした先には、確かに、自販機がある。
「ありがとうございます」
「狐の悪戯にあったんだよ、君は。私がここにいるのは、運命なのかもしれないな」
「狐の悪戯なんて、あれですか、化かすというやつですか」
「ここの狐は神様だ。ほら、すぐそこに稲荷神社がある」
「ありますね」
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自販機は飲み物だけではない。タバコの自販機もある。飲み物はついでで、タバコを買いたかったのだろう。早速、あの綺麗な人は新しいタバコに火をつけて、煙を吐き出した。
「大昔から、狐は人を迷わすんだ。悪戯だろう、というけど、それだけじゃない。そこは、生きるか死ぬか、という悪戯なんだ」
こんな話だった。
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