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稲荷神社の御利益
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こんな話だった。
「祟り神なんて、祀って、御利益ないのは、どうなんだろう」
「神様ってのは、最初はそういうものだ。祟らないように、上手に祀って、おだてて、災いを回避する、それが正しい。そこにご利益を求めてはいけないんだ」
そう言って、タバコの煙をよりにもよって、祠のほうに吐き出す。
「お前、物凄い罰あたりなことするな!?」
「神様だって、タバコを吸いたいと思っているかもしれないじゃないか。これもまた、ご機嫌とりだ」
「いやいや、ダメだろ、それは」
「それで祟られたことはない。ほら、酒、もっと飲め」
「いつも、いい酒を出してくるな」
「その祟り神様に、と勝手に持ってこられるやつだ」
「それ、神様の酒じゃないか!?」
これまで、普通に美味しいな、なんて飲んでいた酒は、とんでもない出所である。
僕は恐る恐ると社を見る。鬱蒼と生い茂った木々の中に埋もれるようにしてある祠は、とても、しっかりと管理されているようには見えない。もうそろそろ、雨風で腐り落ちるんじゃないか、という感じである。
「祀りったって、年に一回だよ。十月に、それなりのお供えを飾って、普通にお祈りするだけだ。本当に、誰でも出来ることだというのに、誰もやりたがらない。結果、我が家がずっと、祟り神の世話をしている。
そういうことを何も知らない奴らは、思い出した時に、お供えだ、と関係ない時期に持ってくるんだよ。その回数だって、どんどんと減っていっている。次の代では、もう、誰もお供えなんて持ってこないだろうな」
他人事のようにいう木野。
僕は注がれた酒を見る。本来ならば、祟り神にお供えしてほしい、といって持ってこられた酒は、かなり良いものだ。正直、僕はこの酒を金を出してまで飲むことはないだろう。
「お前な、祟り神にもっと感謝しろ。こんないい酒が飲めるのも、祟り神のお陰だろう」
「そして、お前も相伴にあずかれるわけだ」
「そういうことだ。有難いことだ」
心から感謝して、一気に飲み干す。どういう経緯で手に入ったといっても、酒は酒である。うまい!
「それで、その話にはもちろん、落ちがあるんだろう?」
前回の時は落ちがあった。きっと、話さないほうがいい、落ちがきっとあるだろう。僕は酒の勢いで聞いてみた。
木野はやはり黙っていたようで、にっと笑う。
「お前も、私のことがよくわかってきたな。あるぞ」
「ほら、もっと飲んで、酔って、口を軽くしろ」
「重くなって、寝てしまうから、そこまでだ」
酌を断り、木野は僕に近くに寄ってくる。距離間が危ないが、落ちが聞きたいので、我慢する。
「木野の一族が、村に戻ってしばらくのこと、説得に来た子どもを探したんだ。小さい子どもが、大人について来たのだから、さぞや大変だっただろう、と誉めてやるつもりでだ。ところが、その場にいた大人たちはいうんだ。
『子どもなんて連れて行ってない』
それを聞いた木野は気づいた。子どもはな、稲荷神社の稲荷が化けた姿だったんだ、と」
「どういうこと?」
「木野の一族に、そういうのが見える者が多い。私もそうだ。村人には見えなかったが、木野の一族に見えた、ということは、その子どもは人ではなかったんだ。人でない何かが、木野の一族を連れ戻しに来たんだ。消去法でいけば、稲荷神社の稲荷だろう、と先祖は気づいたわけだ」
言われてみれば、そうなんだが、納得いかない。
「稲荷神社の稲荷だって、神様だろう。だったら、祟り神なんか、どうってことないだろう」
「言っただろう。稲荷神社の神通力でさえ紙切れになったって。どうにかしようとして、祟り神に負けたんだ。そのせいで、せっかく盛り立てていた有力者は没落して、どんどんと祀り手がいなくなった。人に祀られて大きくなるような神なんだろうな、稲荷は。そういう神は、祀り手がいないと、力も弱くなって、結果、祟り神に飲み込まれてしまう。祟り神は、祟って大きくなる神だから、祀り手なんていらない。だったら、祟り神の祀り手を呼び戻して、どうにか、祟り神の怒りを鎮めてもらおう、とわざわざ来たわけだ」
そうして、木野の一族は、再び、村に戻って、祟り神のご機嫌を上手にとっているわけだ。
「じゃあ、祟り神のお陰で、お前はやっぱり、楽に生きていけるわけじゃないか」
「祟り神のお陰ではないぞ。祟り神には、そういうものはない」
「だって、不動産とかの資産で、生活してるんだろう。祟り神の神通力が、きっと、良い方向に動いてるんだろう」
「わかっていないな」
木野は僕のからっぽになったコップに酒を注ぐ。ありがたく頂きます。
「だから、菅原道真みたいになってるんだろう?」
「祟り神は祟り神だ。あの神様は、祀り手なんていらないんだ。そんなものなくっても、神通力がどんどんと大きくなっていく。だけど、祀り手が一族でもあると、大人しくなるんだ」
「うん?」
わけがわからない。菅原道真だって、最初は祟り神ではないか。
「この祟り神は祟るだけだ。ずっとそうしている。放置していくと、どんどんと悪いことが起きて、力をつけて、稲荷神社の稲荷を飲み込んでしまう。それを防ぐために、稲荷は木野の一族を呼び寄せた。木野の一族が祀り手となってすぐ、祟り神はおさまったんだろう。それを見て、稲荷はこう考えた。
『木野の一族をどうにか祟り神の祀り手として生かし続けねばならない』
どうすればいいか? 簡単なことだ。木野の一族に、財を与えればいい。そうすれば、働かなくてもよくなるし、祟り神の面倒もみてもらえる。結果、稲荷は木野の一族に財を与えて、今はこうなっているわけだ」
「結局、祟り神のお陰じゃないか!!」
「そうなんだが、祟り神のご利益じゃない。これは、稲荷神社のご利益だ」
そう言って、木野は笑った。
「祟り神なんて、祀って、御利益ないのは、どうなんだろう」
「神様ってのは、最初はそういうものだ。祟らないように、上手に祀って、おだてて、災いを回避する、それが正しい。そこにご利益を求めてはいけないんだ」
そう言って、タバコの煙をよりにもよって、祠のほうに吐き出す。
「お前、物凄い罰あたりなことするな!?」
「神様だって、タバコを吸いたいと思っているかもしれないじゃないか。これもまた、ご機嫌とりだ」
「いやいや、ダメだろ、それは」
「それで祟られたことはない。ほら、酒、もっと飲め」
「いつも、いい酒を出してくるな」
「その祟り神様に、と勝手に持ってこられるやつだ」
「それ、神様の酒じゃないか!?」
これまで、普通に美味しいな、なんて飲んでいた酒は、とんでもない出所である。
僕は恐る恐ると社を見る。鬱蒼と生い茂った木々の中に埋もれるようにしてある祠は、とても、しっかりと管理されているようには見えない。もうそろそろ、雨風で腐り落ちるんじゃないか、という感じである。
「祀りったって、年に一回だよ。十月に、それなりのお供えを飾って、普通にお祈りするだけだ。本当に、誰でも出来ることだというのに、誰もやりたがらない。結果、我が家がずっと、祟り神の世話をしている。
そういうことを何も知らない奴らは、思い出した時に、お供えだ、と関係ない時期に持ってくるんだよ。その回数だって、どんどんと減っていっている。次の代では、もう、誰もお供えなんて持ってこないだろうな」
他人事のようにいう木野。
僕は注がれた酒を見る。本来ならば、祟り神にお供えしてほしい、といって持ってこられた酒は、かなり良いものだ。正直、僕はこの酒を金を出してまで飲むことはないだろう。
「お前な、祟り神にもっと感謝しろ。こんないい酒が飲めるのも、祟り神のお陰だろう」
「そして、お前も相伴にあずかれるわけだ」
「そういうことだ。有難いことだ」
心から感謝して、一気に飲み干す。どういう経緯で手に入ったといっても、酒は酒である。うまい!
「それで、その話にはもちろん、落ちがあるんだろう?」
前回の時は落ちがあった。きっと、話さないほうがいい、落ちがきっとあるだろう。僕は酒の勢いで聞いてみた。
木野はやはり黙っていたようで、にっと笑う。
「お前も、私のことがよくわかってきたな。あるぞ」
「ほら、もっと飲んで、酔って、口を軽くしろ」
「重くなって、寝てしまうから、そこまでだ」
酌を断り、木野は僕に近くに寄ってくる。距離間が危ないが、落ちが聞きたいので、我慢する。
「木野の一族が、村に戻ってしばらくのこと、説得に来た子どもを探したんだ。小さい子どもが、大人について来たのだから、さぞや大変だっただろう、と誉めてやるつもりでだ。ところが、その場にいた大人たちはいうんだ。
『子どもなんて連れて行ってない』
それを聞いた木野は気づいた。子どもはな、稲荷神社の稲荷が化けた姿だったんだ、と」
「どういうこと?」
「木野の一族に、そういうのが見える者が多い。私もそうだ。村人には見えなかったが、木野の一族に見えた、ということは、その子どもは人ではなかったんだ。人でない何かが、木野の一族を連れ戻しに来たんだ。消去法でいけば、稲荷神社の稲荷だろう、と先祖は気づいたわけだ」
言われてみれば、そうなんだが、納得いかない。
「稲荷神社の稲荷だって、神様だろう。だったら、祟り神なんか、どうってことないだろう」
「言っただろう。稲荷神社の神通力でさえ紙切れになったって。どうにかしようとして、祟り神に負けたんだ。そのせいで、せっかく盛り立てていた有力者は没落して、どんどんと祀り手がいなくなった。人に祀られて大きくなるような神なんだろうな、稲荷は。そういう神は、祀り手がいないと、力も弱くなって、結果、祟り神に飲み込まれてしまう。祟り神は、祟って大きくなる神だから、祀り手なんていらない。だったら、祟り神の祀り手を呼び戻して、どうにか、祟り神の怒りを鎮めてもらおう、とわざわざ来たわけだ」
そうして、木野の一族は、再び、村に戻って、祟り神のご機嫌を上手にとっているわけだ。
「じゃあ、祟り神のお陰で、お前はやっぱり、楽に生きていけるわけじゃないか」
「祟り神のお陰ではないぞ。祟り神には、そういうものはない」
「だって、不動産とかの資産で、生活してるんだろう。祟り神の神通力が、きっと、良い方向に動いてるんだろう」
「わかっていないな」
木野は僕のからっぽになったコップに酒を注ぐ。ありがたく頂きます。
「だから、菅原道真みたいになってるんだろう?」
「祟り神は祟り神だ。あの神様は、祀り手なんていらないんだ。そんなものなくっても、神通力がどんどんと大きくなっていく。だけど、祀り手が一族でもあると、大人しくなるんだ」
「うん?」
わけがわからない。菅原道真だって、最初は祟り神ではないか。
「この祟り神は祟るだけだ。ずっとそうしている。放置していくと、どんどんと悪いことが起きて、力をつけて、稲荷神社の稲荷を飲み込んでしまう。それを防ぐために、稲荷は木野の一族を呼び寄せた。木野の一族が祀り手となってすぐ、祟り神はおさまったんだろう。それを見て、稲荷はこう考えた。
『木野の一族をどうにか祟り神の祀り手として生かし続けねばならない』
どうすればいいか? 簡単なことだ。木野の一族に、財を与えればいい。そうすれば、働かなくてもよくなるし、祟り神の面倒もみてもらえる。結果、稲荷は木野の一族に財を与えて、今はこうなっているわけだ」
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「そうなんだが、祟り神のご利益じゃない。これは、稲荷神社のご利益だ」
そう言って、木野は笑った。
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