なんともならないことはない

ココロボ何某

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あれは・・・

◯代最後の夏の事だった。



当時、コンビニの夜勤(二十三時~翌朝八時まで)のバイトをしていた。
時間帯問わず人手不足のせいで月一回の休日と週に二回夕勤+夜勤(十七時~翌朝八時)の鬼のようなシフトも数月目に突入していた。

環境というものは怖いもので、ここまで来ると辞めたいという気持ちすら失ってしまうものなのだ。

もちろん、異常なシフトのおかげで跳ね上がったお金に目が眩んでいたせいは多分にある。



そんな◯代の夏のある日。

「中途半端に時間余っちゃったから、バイトまで公園でタバコでも吸うか・・・」

正方形のテーブル。それを囲む様に四つの木の長椅子。
正方形で言うと底辺の席に座ってタバコを吹かした。


「最近あついな~、ここ座って良い?」

中年太りした五十代後半くらいの男性が急に声をかけてきた。

「どうぞ、どうぞ。ホントあついですね!」

接客業はこういう時に助かる。仕事スイッチを入れてしまえば人見知りも多少緩和され緊張せずに話せる。

(ちなみに今の自分が一番取り戻したいものでもある・・・)


中年太りの男性は左辺の椅子に座った。
ちょうど自分と男性との間には灰皿がある。

「この公園は昔どんなんだったか知ってるか?」
男性が話した。

生まれてからこの地域に住んで居るが、そういえばこの公園の事など何も知らなかったので興味が湧いた。

「全然知らないです、どんな感じだったんですか?」


「昔はな、男同士の盛り場でな。この時期はよくヤってるやつらが居たんだ。」


予想外の公園事情に接客慣れしていた自分も固まってしまった。
男性の話はまだ続く。

「俺もな、小さい頃兄貴にされてな。もちろん女子の方が良いけど、そういう時代だったんだ。」


この男性は何を話しているんだろうか。初対面の若人に・・・
絶対にカミングアウトするべき相手を間違えている。


「ちょっと触っても良いか?年とったら若いエキス欲しくなるんだよ」

「えっ・・・いや。勘弁してください・・・」
男性の言葉はとうにアタマに入ってこなくなっていたが、自分の本能が瞬時に返事をしていた。

「じゃあ、俺の触ってくれないか?」

「・・・もう仕事にいかなきゃならないんですいません!」


走った・・・

走って逃げた・・・

休みのないバイト生活、同性に狙われたこの状況、半年前に別れた彼女との思い出など、なぜかいろいろこみ上げて悲しくなった・・・。


今日はもう仕事で気を紛らわすしかない・・・。
このショックは落ちついてからでなければ言葉で説明出来ない。

とりあえず仕事だ・・・仕事をしよう・・・




「ふう~・・・あと三十分であがりだ~」



集中しだせば、時間なんてあっという間だ。
やらなくて良い事なんて、もちろん今日は無駄にやった。




「いらっしゃいませー。◯◯◯新聞ですね、はい、百三十円です。」

新聞を持ったお客さんが、お金を受け取る手に触れるように渡してきた。


「ありがとうござ・・・・いま・・」



あっ・・・昨日の夜の・・・中年太りの男性だ・・
てか、なんで忘れてたんだろう・・・・・・・あの人常連さんじゃん・・・?



真っ青になった顔と鳥肌を立てたまま、残り三十分をこなしたのは言うまでも無く・・・

お金も大事だが、まともな環境のバイトがしたい!と転職できたのはこの男性のおかげである。

感謝はしていない。



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